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外伝『Box Puzzle』(1)
   「畜生! 探せ! あのどサンピン野郎、逃がすんじゃねえぞ!」
 いかにもガラの悪いドラ声、そしてバラバラの足音が、薄い板塀の向こうを通り過ぎて行く。
 (……これはどうも、まずかったな)
 一条銀(いちじょう しろがね)は、塀の向こうの物騒な気配に五感を澄ませながら、小さく溜め息をついた。
 (まったく、私としたことが……)
 今は無人らしい古びた家の、猫の額ほどの庭。その植え込みの影にうずくまるようにして隠れている姿は、およそこの国の『殿様』がする格好ではない。
 が、今は致し方なかった。
  銀を追う人数は5人。いずれも船乗りくずれらしい、いかにも喧嘩慣れした感じの逞しく日焼けした男どもである。対してこちらは、自慢ではないが腕に憶えな どまったくない半病人が1人。これが実弟の鉄ならば5人が100人でも平気の平左、いやむしろ大喜びするだろう。が、銀では5人が1人でも怪しい。いやそ れどころかしばらくぶりの全力疾走で、また身体の調子がおかしくなっている。全身にイヤな汗が吹き出る一方、身体が異様に冷たいのは良くない兆候だ。下手 に捕まってリンチでも受けようものなら、今の銀では命も落としかねない。
 塀の向こうに、また足音が戻って来る。
 「まだ遠くには行ってねえ! その辺に隠れてやがるぞ!」
 正解だ。
 さて『銀1人』、と書いたがこのお殿様、本当に1人である。こんな時に限って供を連れていない。というより『連れる事ができない』というのが正しいだろう。
 一国の主が供を連れられない、その不思議の理由はこの『場所』にある。
 今、銀がみっともなくうずくまっているのは瑞波国の首都・瑞花の西端にある、通称『桜町』と呼ばれる一角だ。瑞花の町を潤す大河『剣竜川』の河岸にある周囲2キロほどの丘を、すっぽりと覆うように建設された、いわゆる『遊郭』である。
 そして瑞波で唯一、国主である一条家の権力が及ばない『自由都市』でもあるのだった。
 少し由来を語っておくと、元来この丘は『城』だったという。もう百年以上も昔の事だ。
 銀が当主として君臨する一条家が、その源である北方からこの瑞花の地へ侵攻し、大名として根を降ろした時代。その一条家に抵抗した土着の豪族達が、最後まで立て篭ったのがこの丘であった。
 この時、この地で戦った豪族達は、その抵抗のあまりのしぶとさから『泥竜(どりゅう)』と称され、さしも勇猛で鳴る一条家もこれに手を焼いたという。そして長い戦いの末、最終的に両者の間に以下のような和平が結ばれる事になった。

 『泥竜の者は剣を捨てるか、一条家に仕えよ。代わりに一条家の名において、この桜町に自治と無税の特権を認める』

 以来、この小さな丘の町は、泥竜の末裔である『顔役』達の下、自由貿易と遊郭の経営を軸に独自の道を歩むことになる。
  天津有数の暴れ大名・一条家にさえ逆らった気骨と、その後に与えられた自由の風という両輪が、この町に独特の混沌と活力を吹き込み、町は隆盛を極めてい る。。一方の一条家も、天津の各地にその勢力拡大する一方で、この桜町には一切の介入をせず、その独立性を尊重し続けていた。
 この一定の緊張に立脚した友好関係、それが今の一条家と桜町である。
  それだからこそ、瑞波の国主たる一条銀もこの地では『ただの人』として振る舞うのが習わしだ。一条家の家紋『透かし三つ巴』を身につける事も、ましてや 『殿様』として供を連れて練り歩くような真似はしない。当然、危機に遭遇しようが怪我をしようが、最悪死んだとしても自己責任という、考えてみれば剣呑な 場所なのだ。
 だったら来なけりゃよさそうなものだが、銀に言わせれば、
 『まあ、そこはそれ』
 と、きたものだ。
 なにせこの桜町、今や瑞波で、いや天津でも最大級の歓楽街だ。特に、自由貿易を背景に世界中から集められる美姫の数と質では、既に帝都の柳町を凌ぐとまで言われる。『柳では足りぬ、桜を見てから女を語れ』は、天津の数寄者達の合い言葉にもなっているという勢いなのだ。
 で、銀もご多分に漏れず、独身時代から通う馴染みの店・馴染みの美姫が少なくない。なにせこの殿様、身分を隠していてもモテるときている。
 だから、異国から冬待巴を正妻に迎え、世嗣である一子・流を授かった後も、この町にたびたび足を向けていた。
 ただ誤解のないように書いておくが、今の銀にはもう男性としての機能は失われている。好きだった酒もあまり飲めないし、食べられるものも限られていた。瑞波の医師団や妻の巴の努力により、確実に余命は伸びているものの、それでも銀の身体を根本的に治癒する術はない。
 与えられた時間は恐らくあと数年。その余命を数えながら生きている、それが今の銀なのだ。だからこそ妻の巴も、銀が一時の息抜きを求めてこの町に来ることを、決して本気で咎めることはない。
 『……ほどほどになされませ、殿様』
 やんわりと、そう釘を刺すだけである。むしろこの町が夫に、わずかでも生きる力を与えるならばそれでよし、というスタンスだ。
 さて、それほどに馴染んだ町だけに、ここでの振る舞いには慣れているはずの銀だったのだが、しかし今日はドジを踏んだ。
 馴染みの店で、これまた馴染みの美姫に添い寝させての一夜を過ごし、朝も早いうちに店を出たのだが(桜町では、日が高くなるまで店に居続けるのは『野暮、無粋』とされる)、そこで酔った男どもに絡まれている女を1人、助けたのだ。
 いや、助けてしまった、と書いた方が正しいだろう。
 美姫ではない、どこぞの店の下女らしいその女は、あまり美人でも利発そうでもない。桜町の女なら自然と身に付けるはずの、この手の客のあしらい方がまるで身に付いておらず、ただただ、
 『おろおろ』
 とするばかり。
 さて本来なら桜町には、こういう女を助ける者はいない。
  そもそもこの桜町で、女が酔った男をあしらえないというのは、海女が海で泳げない、というのに等しい。自由と混沌が支配するこの町は、同時に徹底した『自 己責任』の町でもある。子供や病人、老人といった本当の意味の弱者には優しくとも、五体満足で働ける力のある者に対しては容赦がない。『能無し』がのうの うと生きられる場所ではないのだ。
 だから銀が彼女を助けたのも、ただの『おせっかい』である。繰り返すが、本来ならば放っておくのがこの町の流儀なのだ。
 だが、この日の銀はなぜか、その女を放っておけなかった。何度思い出しても理由が分からないが、とにかくこの時、銀は彼女に声をかけた。
 『来なさい』
 そして女の手を引き、一緒に逃げてやったのだ。薬が効いている間は、銀も人並みに走る事ぐらいはできた。それが1時間ほど前の事だ。
 今は、その助けた女もいない。銀が男達を引きつけている間に、礼も言わずにどこかへ消えてしまった。結果、銀だけが男どもから逃げている、というわけだ。
 (いらないおせっかいを焼くからこういう事になる)
 反省しきりの銀だが、この先どうするかとなると、どうにも手詰まりである。ここに隠れ続けるのも限界があるし、連中を振り切るのも無理そうだ。といって助けを求めるあてもありはしない。
 (参ったな……)
 身体の変調も危険水域に達しつつある。朝、店で用意させた水筒を出し、印籠の中の薬を飲み下した。これでしばらくはしのげるが、しかし薬の性質から、あまり連続で飲むのは危険である。
 銀が本気で困り果てた、その時だった。
 「おい、お武家さん」
 「?!」
 いきなり背後から声をかけられた。銀は別に武術の達人ではないが、それでも鈍感というわけではない。気配もなく後ろを取られる憶えなどなかった。
 驚いて振り向くと、背後の板塀から一本の腕がにょっきりと生え、銀を手招きしている。さしもの銀が一瞬、新手のモンスターか何かかと疑ったほどだ。
 「助けてやる。ついてきな」
 張りのある、そして迷いのない声。腕は子供のそれだが、日焼けして逞しい。これはどうも、モンスターではなさそうだ。
 (……町の子供か?)
  困惑する銀に、その腕はもう一度だけ力強くて招きをすると、すぽん、と板塀の中に消えた。見れば板塀の一角がぱかん、と割れていて、人が通れそうな隙間が 出来ている。突然の事態だけに、銀といえども一瞬迷った。が、すぐに立ち上がると空の水筒を放り捨て、その隙間に身を踊らせる。戦場を駆ける剛勇こそ持た ないが、そこは銀も『武将』だ。この手の決断は早い。
 隙間を抜けると、路地とも言えないような暗く、細い空間に出た。
 (まるでいつぞやの抜け穴だな……)
 確かに、妻の巴との馴れ初めにもなったあのプロンテラ城の抜け道を思い出すような場所だ。
 「この家を建てた時に、隣の家主と土地の境界でモメてさ」
 薄暗い路地の中で、小声の解説が響く。銀に見えるのは、大柄な少年のシルエット。
 「結局、町の顔役が間に入って、喧嘩するなら双方がちょっとずつ下がれ、ってことになってね」
 諍いを起こした双方が少しずつ損する、という妙な『大岡裁き』の挙げ句にできたこの空間を、子供らが抜け道兼遊び場として使っているらしい。
 「ここを行けば、大剣竜の川まで出られるよ」
 言い捨てて、少年はずんずんと歩き出した。全く後ろを見ない。銀がついて来ているかどうか、確認すらしない。ついて来られないなら、来られない方が悪い、という態度は、子供といえども実に『桜町の者』らしい。
  とはいえ道は一本道、迷う気遣いはなかった。こうなると銀にも少し、少年を観察する余裕ができる。少年、歳の頃は十代の初め。銀の息子、流と同じぐらいと 見た。もっとも流は、その年齢で既に成人男性に引けを取らない体格だ。しかもまだ成長を続けているだけに、見かけだけならかなり歳上に見えるのだが。
 足は速い。躍動する手足は、銀を追うあの男達と同じ様に日焼けし、子供といえどもなかなか逞しい。
 (どこかの貿易船の下働きか……? しかしそれにしては身なりがいい)
 少年の健脚についていきながら、銀が持ち前の観察力を発揮する。確かに少年の着物は決して安物ではなく、しかもまだ新しい。
 抜け道が尽き、少し広い通りに出た。だがその時、背後の闇から声が響く。
 「野郎ここだ! こっから逃げたぞ!」
 抜け道を見つけられたらしい。
 「こっち!」
  少年が、銀を振り向きもせずに告げると、すぐに近くの別の路地に飛び込んだ。この町で働く者達が暮らすこのエリアは、町の外からの客が来る場所ではない。 銀も入り込むのは初めてだ。桜町の中でも特に入り組んだ一角だけに、追っ手の連中もまだ、逃げる2人の姿を捕捉してはいない。
 路地はやはり狭く、暗い。
 人がすれ違うのがやっとの路地を挟んで、低い屋根の粗末な建物が密集している。すべて木造で、屋根は良くて板葺き。瓦葺きの屋根すら珍しい。
  やがて、2人が走る路地まで『が板張り』になった。板の下は水、剣竜川の川面だ。桜町の土台となっている丘が、大河に向って突き出した川下側。地形によっ て川の流れが遮られ、ゆったりとした遊水池のようになった場所に、無数の杭を打ち込んで土台とし、家を建て、町を作っているのだ。
 丘の上の遊郭群が桜町の『光』なら、ここはまさにその『影』の部分。その影の町に、少年と銀が板を蹴ってゆく二つの足音だけが響く。
 「……追って来るぞ」
 背後からの気配を探った銀が、少年の背中に告げた。まだ距離があるが、確かに銀を追う連中の声が聞こえる。やはり完全に撒くことはできなかったようだ。
 「わかってる。もう少しだ」
 だが少年は慌てない。振り向きもしない。
 (なかなか胆が据わっている)
 銀は内心で感心する。子供と言えども、やるべき事が分かっていて迷いがない。
 (……『泥竜の裔』か)
 一条家の猛攻にすら耐え抜いた、古の桜の丘の強者達。頑迷で保守的で、しかし義理に厚く情が深い。数々の新兵器や新戦法を駆使する剽悍な一条武士の前に、戦では連戦連敗。しかし決して降参も服従もせず、石にかじりつき、泥をすすりながら戦い続けた気骨の者ども。
 遥か時を隔てて、この町に生を受けた者に、今度は一条家の当主である自分が助けられる。これを皮肉と言うべきか、運命と言うべきか。
 「ここ」
 一軒の家の前で、少年がぴたりと足を止めた。その玄関の障子をからり、と開け、身体を滑り込ませる。銀も続いた。
 ぴた、と障子が閉じられる。
 中はまたしても暗い。狭い板張りの土間と、小さな畳の部屋。見た所、荒れてもいないし清潔だが、湿った空気にかび臭さが混じるのは、床下を川が流れる水上家屋の宿命か。
 「喜助の親方、起きてらっしゃるかい?」
 少年が、土間から畳の部屋に向けて声をかけた。畳の部屋には布団が敷かれていて、そこに人が1人、寝ているのが見て取れる。
 「……小僧か?」
 もぞ、と布団が動く気配がして、年老いた男の声で応えがあった。力のこもらない掠れた響きに、肺を病んでいる、と銀は見る。
 「うん、おはよう親方。またちょっと通らせてもらうよ。……具合はどうだい?」
 少年の声は殊更に明るい。相手の気持ちを少しでも上向かせようとする気持ちが入っているのを、銀も感じる。
 「……ああ……今日はだいぶ楽だ。お前がくれた薬が効いた」
 「また持って来るさ。だから元気んなって、また仕事頼むよ」
 「おお……任せておけや」
 「煙草と酒は控えんだぜ?」
 「うるせえやい」
 少年のからかいに、老人は笑いまじりの悪態で応える。声に少し気力が戻っているのを感じたか、少年はうん、と笑顔でうなずくと、
 「また来る。裏口借りるよ」
 銀を促して裏口へ抜ける。表の戸よりよほど頑丈な板戸を開くと、そこは『剣竜川そのもの』だった。
 遮るものは何も無い、見渡す限りの滔々たる大河の流れ。もう河口に近いこの場所では、その川幅は1kmに迫る。大型の帆船、それも異国の物も数多く混じる船団が悠々と行き来する様は、ちょっとした海峡と言ってもいい。
 風が強い。
 銀の、太く三つ編みにした銀髪がゆら、と揺れる。川に面した裏口の方が玄関よりも頑丈なのは、川面を渡るこの風を避けるためである。
 「……どうする?」
 銀が少年に尋ねた。目の前は川で、そこから先は道もない。泳げと言われれば泳げない銀ではないが、身体のことを考えるとちとしんどい。
 だが、少年はその銀の問いににっ、と笑顔で答えた。思えば、少年の顔をはっきり見るのはこれが初めてだ。
 緑がかった黒髪、逞しい顎の輪郭。いわゆる女性的な美少年とは縁遠いが、輝きのある強い瞳といい、意志の強そうな口元といい、別の意味でなかなか魅力的な容貌である。いや、表現としては『なかなか見所のある面構え』とでも言うべきか。
 その面構えに、さらに不適な表情を浮かべて少年は言った。
 「船で逃げる。あそこ」
 指差す先に、縄でつながれた小舟が1艘、川の流れの上に浮かんでいた。大人が4人も乗ればいっぱいになってしまう川舟だが、作りはしっかりしたもので、しかも見た所、まだ新しい。
 「『俺の船』なんだ」
 少年の笑みが深くなる。ちょっと自慢そうな響きが混じるが、そこは少年らしくて微笑ましい。
 「お前の船?」
 銀が聞き返すのへ、少年はもやい綱を引っ張りながら、
 「うん。買ったばっかりなんだぜ。お武家さんが最初のお客さ」
 「それは、ちと悪いな」
 「いいさ」
 大人、それも明らかに身分が上の銀に対し、鷹揚な態度さえ見せる。その態度はもう太々しいとさえ言えた。
 「よし、乗んなよ」
 「すまん」
 少年が軽々と舟に飛び乗ると、船尾で櫂を握る。銀が座るのは舟の中央。
 「出すよ」
 一声かけて、少年が櫂を漕ぎ出すと、すい、と舟が走り始めた。その軽い動きを感じただけで、銀には漕ぎ手の腕が分かる。
 「……ほう、上手いものだな」
 「桜っ子なら当然さ」
 少年が軽く返すが、しかし桜町生まれの者だからといって、誰でもこう上手く舟を操れるものではない、と銀も知っている。
 あっという間に、町が遠くなる。無数の杭の上に、みっしりと並んだ家屋。その下の真っ暗な水。その向こうには、小高く盛り上がった桜町の遊郭群。朝日はもうそこそこ高く昇り、町を明るく照らしている。
 追っ手の姿がどこにもない所を見ると、どうやら撒いたらしい。どっちにしても、船で水上に出れば簡単には追ってこられない。
 「ここまで来ればもう大丈夫だぜ。お武家さん」
 「ありがたい」
 子供には重労働のはずの舟漕ぎだが、少年は息も切らさない。よくよく鍛えている、というか生まれつき丈夫なのだろう。正反対の虚弱な身体に生まれついた銀には羨ましい限りだ。
 「さて、命の恩人に対してまだ名乗っていなかったな。私は『金良(かねよし)』という」
 『金』と『良』で『銀』、とは当て字にしてもいい加減だろうが、まさかここで本名を言うわけにもいかない。
 「世話になった。ありがとう」
 丁寧に頭を下げる。
 「恩人なんて大げさだよ……あ、名乗られたら名乗り返すのが礼儀だっけ」
 少年は櫓を漕ぐ手を少し休めて、銀の顔をまっすぐに見た。

 「俺は『無代(むだい)』」

 堂々、としか言い様のない態度で、その少年は名乗った。
 滔々たる大河の流れと、今も誇り高くそびえる古城の丘。偶然にもその二つを背負ったその姿は、『俺がここの主だ』とでも言わんばかり。
 (……ほ……お……)
 それは天津の賢公と謳われた一条銀をして、一瞬その目を奪われる情景だった。
 「『無代』か。……良い名だ」
 思わず呟いた。お世辞ではない。
 『無代』とは、そのまま読めば単に『無料』という意味になってしまうが、この場合は違う。
 例えば世の中には由緒ある銘刀や、滅多に生まれない強力な騎鳥といった、いくら金を積まれても売れない、金には換えられない文物が存在する。こういった『余りにも貴重過ぎて値段の付けようがないもの』を称して、
 『無代』
 というのである。
 だから、銀にはその名を聞いただけで、この少年にその名を与えた者がどれほど彼を愛し、また期待していたか、十分に感じ取れた。
 だが、その銀でさえ、まだ知らない。
 この少年が未来に、どれほどの冒険に挑むのかを。
 そしていつの日か本当にその名の通り、多くの人々にとってかけがえのない人間となることを。

 『天津の無代に代えは無し』

 後にそう称えられることになる、この希代の男の運命が今、まさに大きく変わった事を。
 そしてもう一つ、銀の知らない事がある。
 これまた希代の男、一条銀その人の残り少ない人生もまた今、大きく変わった事。
 彼がこの世に残す、最後の物語の『寄せ太鼓』が今、鳴り響いた事。
 その短くも濃密な物語。

 『天井裏の魔王』の物語。
中の人 | 外伝『Box Puzzle』 | 09:01 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
外伝『Box Puzzle』(2)
   「……ところで『金良』さん、だっけ? 言っちゃ悪いが、名前も金良だけど、人も良いんだね」
 「ん?」
 「お道を助けてくれたんだろう?」
 「『お道』? ……ああ。あの下女か」
 銀が助けた、酔客に絡まれていたあの下女、名をお道というらしい。
 「『どじ』な女なんだ。放っておけばいいのに」
 無代、まだ子供のくせに、歳上の女を捕まえて容赦がない。
 「ああいうの、いちいち助けてたらキリないぜ?」
 このバッサリっぷりである。
 「いつもならそうしてるが、今日はたまたまな。気まぐれさ」
 「気まぐれねえ。でも、それで連中に追っかけられてんだから、金良さんだって十分『どじ』だ」
 「違いない」
 本来なら無礼極まりない無代の辛口に、しかし銀も苦笑するしかない。武術でも人脈でも何でもいい、自分の才覚であの連中を処理できないのなら、そもそも手を出すべきではなかったのだ。
 「だが、そういうなら無代よ、お前だってお人好しだろう? その『どじ』をこうして助けている」
 「頼まれたからね」
 「頼まれた?」
 「うん。お道に」
 聞けば、男達から逃げる途中に銀の前から姿を消したお道は、その足で無代の所へ行って事情を話し、銀を助けてくれと頼んだのだそうだ。
 「お道や金良さんみたいな『どじ』は、ホントは放っておくのがこの町の流儀なんだけどさ。お道には昔世話になったし、あんまり必死に頼むんで断れなくて」
 無代、いちいち言う事が『いっぱし』である。それにしてもあのお道、自分は逃げておいて、こんな子供に助っ人を頼むというのもどうなのか。よくよく大人としては駄目らしい。
 「一昨年に母が亡くなった時、お道には良くしてもらったからさ。まあ恩返し」
 無代が肩をすくめた。
 「母はいないのか」
 「親父だっていないも同然さ。俺は妾の子だからね」
 妾の子。その言葉に、無代は余人には真似の出来ない響きを乗せた。
 「『火の顔』。それが俺の親父」
 「『火の顔』? 去年、桜町の『顔役』に出世した?」
 「うん」
 無代が複雑な顔でうなずく。
 この桜町を事実上支配する『顔役』は、町の有力者8人で構成される。年齢、実力、財力、権力、いずれも抜群と認められた8人。これを易の八卦『天地山沢風水雷火』のそれぞれに当てはめる習わしだ。
 無代の実父であるという『火の顔』は、その顔役に50代の若さで加わったという異例の実力者、と、国主である銀にさえ聞こえている。
 「大物だな」
 「ふん」
 無代が鼻を鳴らした。どうやら父親の事は嫌いらしい。
 「アイツ、元は俺の爺ちゃんの店の番頭だったんだ」
  この無代の祖父という人も、桜町でそれなりに名を成した商人であったそうだが、無代が生まれる前、不運にも所有する貿易船が立て続けに沈む、という災難に 見舞われた。そのため財産の大半を失い、必死に建て直しを計る中で身体を壊した祖父は、そのまま無念のうちに帰らぬ人となる。
 その結果残されたのが一人娘、つまり無代の母親だったのだが、これが生まれながらの箱入り娘で、自分では何一つできない女。桜町の常識で言えば、この町では生きられない『どじ』そのものだ。父に代わって店を切り盛りするなど到底不可能である。
 そんな女に手を差し伸べたのが、既に祖父の店から独立し、自分の店と妻子を持っていた『火の顔』だった。
  育ててもらった恩のある店を助ける、という名目で事実上、無代の祖父の店を丸々乗っ取り、そしてその一人娘までも自分の物にした。かつて『お嬢さん』と呼 んだ高嶺の花を、金と力でモノにしたのである。一方、女は女でこれに反抗するだけの力をまるで持っていなかった。元の使用人の妾であっても、ただ男にす がって生きるしかなかった。
 そして生まれたのがこの『無代』というわけだ。
 その名は祖父が生前、いつか男の孫が生まれたら、と用意した名前だったという。
  一方、実父である『火の顔』は無代を愛さず、彼の誕生を機に妾宅に近づく事もなくなり、無代は母と、そして桜町の人々の間で成長する。なに、この町では片 親の子供などさして珍しくもない。現代とは比べ物にならない濃密な近隣関係の中で、子供達は『街の子』として育つ。そんな子供達の中でも、とりわけ頑健で 利発で人懐っこく、目端も利いた無代は、近郷のガキ大将として逞しく成長した。
 後に彼の代名詞ともなる、少々の事ではびくともしないその胆力はまさにこの時代、この場所で鍛えられたものだ。
 やがて母が死に(男に捨てられてから、もう生きる気力を失っていた)、独りぼっちになった無代が最初にしたことは、父である『火の顔』の店に父を訪ねる事だった。
 といっても無代、彼の母とは違い、父の情けにすがりに来たわけではない。店先で父の顔を傲然と睨みつけながら、
 『アンタの船に乗せてくれ。給金はいらない。メシさえ喰わせてくれれば何でもする』
 そう言い放つ息子に、『火の顔』が何を思ったかは知らない。ただ、彼は無言でそれを許可した。
 人間性はともかくとして、商売人としての『火の顔』の経営手腕は群を抜いている。既に40代で桜町でも有数の船主にのし上がり、世界各地へ貿易船を走らせて、それこそ倍々ゲームで財産を殖やす馬力に偽りはない。
 その船の一隻に、無代は望み通り放り込まれた。掃除、洗濯、料理、船客(主に美姫達だ)の遊び相手、何でもやった。子供ながら頑丈で気の効く無代は、すぐに船で重宝されるようになり、既に2度、ルーンミッドガッツ王国とモスコビアへの航海をこなしている。
 「その歳で大したものだ」
 銀が本気で感心した。ルーンミッドガッツ王国はともかく、遥か遠い島国であるモスコビアへは、銀でさえまだ行ったことがない。ワープポータルを使っての訪問さえしたことがなかった。
 「そんだけじゃないぜ。ちゃんと金も稼いできたんだ。それでこの船、買った。この着物だって。どっちも町の職人が、俺のために作ってくれたんだ」
 無代の言葉に力がこもる。
 妾の子から出発して、小舟とはいえ一船の主になったこと。成し遂げたこと。それがこの少年の、背伸びした雰囲気の軸となっているのだ。
 「立派なものだ。しかし、どうやって稼いだ?」
 銀はもうすっかり、この無代という少年に興味津々である。彼の操る船に揺られながら、少年の身の上話と自慢話を聞くこの時間が、昨夜馴染みの店で過ごした時間よりも楽しく、有意義にさえ思える。
 「コレさ」
 無代が懐から小さな塊を出し、ぽん、と銀に放った。受け止めてみると、それは子供の拳ほどの立方体である。木製。
 「寄せ木の……これは『細工箱』か」
 「うん。……開けられるかい、金良さん?」
  無代の顔には、ちょっとからかうような笑みが浮かんだ。というのも、『細工箱』とは一種の立体パズルなのだ。見た目はただの木の箱なのだが、そのままでは 蓋が開かない。箱自体が細かい木のパーツをいくつも組み合わせた複雑な構造となっていて、その一つ一つを押したり、引いたりしながら、最終的に蓋を開ける 方法を見つけてゆくのが醍醐味である。
 「これは……見事な物だな」
 銀が唸った。いや細工箱そのものは珍しいものではない。天津の伝統工芸の一つであり、銀も見慣れている。しかし今、銀が無代から放られたものは、並の物とはちょっとケタが違った。
  まず鍵となるパーツの数が半端ではない。普通の細工箱は、ものの2つか3つのパーツを動かせば開いてしまう。多くても5つか6つだ。だが、この細工箱は ざっと見ただけでも10以上のパーツが使われている。これほど精密かつ複雑な構造を持つ細工箱は、銀でもかつて見た事がない。
 「……」
 何かに吸い込まれるように、銀の手が動いた。まずは大きめの部品を引っ張り出し、何度か出し入れしてみる。その時の手応えから、内部の見えないパーツの組み合わせを類推するのだが……。
 (滑らか過ぎる……)
 どんな職人が削り出し、組み合わせたものか。その部品は他の部品と吸い付くように密着しながら、間に油を注したように滑らかに稼働する。一筋縄では行きそうもない。
 10本の指を総動員した。感覚だけでなく、銀が過去に蓄積した経験や知識からの情報も片っ端から引き出して、内部の構造を頭の中に再構築していく。かつてあのプロンテラ城の複雑な構造を、内部を散歩しただけで絵図面に書き起こして見せた、あの能力だ。
 (これが……こう……いや、こうか……)
 滑らかな立方体だった細工箱のあちこちから、細かい部品が飛び出し、あるいは引っ込み、まるで爆発でもしたかのような有様だ。
 「これで……よし、開いた!」
 「すげえ!」
 今度は無代が目を丸くする番だった。
 「こんなにあっさり開けた人、アンタが初めてだよ金良さん!」
 「あっさりじゃないさ。こんな細工箱こそ初めてだ」
 銀が笑いながら蓋を取ると、箱の中には小さな、豆粒ほどの水晶玉。決して貴重な物ではないが、謎解きのご褒美としては悪くない。高々こんな事なのに、自分がひどく高揚していることに銀は少し驚く。
 「天晴な代物だ。これを売ったのか。いくらで?」
 「10万。モスコビアでね。こっそり荷物に入れて行ったんだ」
 成る程このサイズの物なら、下働きの小僧の荷物でも多少は積めるだろう。10万は安い値段ではないが、売り方次第では十分に売れる値段だ。
 「でかした」
 心から誉める。
 「うん!」
 無代の笑顔が輝くのへ、銀が少々意地悪で、
 「その商才は、父親から継いだらしいな」
 とイジってやると、
 「もらえる物なら何でももらってやるさ」
 と返したものだった。銀が吹き出す。
 「喜助の親方、さっきの家で寝てたあの爺さんが作るんだ。俺の専売なんだぜ」
  あの水辺の家で床に伏していた喜助という老職人は、かつては石田の城下で名を馳せた名人だったそうだ。が、酒癖の悪さがたたって家族にも弟子にも去られ、 独りぼっちで最後に流れ着いたのがこの町であったという。無代とはなぜか気が合い、彼のためにその腕を振るってくれる代わりに、無代が稼いだ金で高価な薬 を融通しているらしい。
 なるほどこの無代という少年は、この町の濃密で複雑な生態系の中で、思うままに根を広げる能力を持っているらしかった。
 「来月、また船に乗るんだ。今度は前より数を揃えられた。親方の身体の調子がよくてね」
 希望と野心、さらに上へと昇ろうとする少年を、銀は見守る。
 「どこへ行く? またモスコビアか?」
 「いや、今度はアユタヤ」
 「アユタヤか」
 天津の遥か南に位置する『アユタヤ』は、豊かな雨と太陽が支配する熱帯雨林の国だ。銀は、手の中の箱を奇麗に元に戻すと、少し考えてからそれを無代に返し、
 「アユタヤなら、それをもっと高く売る方法がある」
 「?」
 無代が怪訝そうな顔で銀を見た。言葉の意味は分かっているだろうが、すぐには食いついて来ないで銀の意図を計っている。ばっさり言えば『いい加減な話には騙されないぞ』ということだ。
 「信じる信じないは自由だ。ただ聞け」
 銀は静かな笑みを浮かべ、その脳に蓄えられた膨大な情報の中から、有益な物を引っ張り出す。
 「アユタヤは我が天津と同じ仏の国、『仏教国』だ。しかも遥かに篤い信仰を集めている」
 「……」
 無代は無言、だがじっと銀を見ている。
  「だから無代よ。この箱の中に、水晶玉の代わりに仏像を入れるのだ。どこの寺の門前町でも売っている、真鍮の小さな豆仏、あれでいい。それ自体は安いもの だが、『この箱の中に仏がいる。上手く蓋を開けて外に出して差し上げれば、きっとご利益がある』とでも言ってみろ。必ず客はつく」
 「……うん」
 無代が初めてうなずいた。どうやら銀の話が『腑に落ちた』らしい。
 「もう一つ。かの国は、富める者とそうでない者の差が激しい。貧しい者は今日を暮らすのが精一杯だが、一方で貴族王族、富める者は本当に果てしなく金を持っている。だからそこを狙う」
 「無理だ」
 無代が即座に反論した。
 「あそこのお貴族様は、向こうじゃちょっとした神様みたいな扱いだって。船長でさえ、直接は話せないって言ってた。まして何のつてもない、俺は小僧だぜ?」
 「いきなり直接は無理だが、小僧でも手はある。いや小僧だからこそ、だ」
 銀がにやりと笑う。
 「いいか。アユタヤの市場に行ったらまず、周りより格段に身なりのいい若い女を捜せ。そしてそれに狙い撃ちで売りけるのだ。そいつらは貴族ではないが、貴族の『侍女』だ。大抵な」
 「……うん」
 「そういう女達は、主人に気に入られ、取り立ててもらうためなら何でもする。だから面白いもの、奇麗なもの、珍しいものでも何でも、主人の関心を買えそうなものがあったら即座に買って帰って、主人に献上する習慣がある」
 「!」
 「そうなればこっちのものだ。『だけどコレは簡単には開かない。もし自分で開けられないなら、この俺を呼んでくれれば俺が開けて見せよう』とでも吹き込んでおけ。何なら、『あまり長い間仏様を外に出せないと、逆に罰が当たる』とでも」
 無代の目が輝いた。 
 「そしたら、俺でもお貴族様の前に出られるかな」
 「ちっとは奇麗な着物も用意しておくのだ。多少奇矯な柄でもいい。その方が目立つ」
 「うん。でも金良さん、よくそんなの知ってるね。行った事あるのかい、アユタヤ」
 「ない」
 あっさり、と銀は言った。
 「だが、聞いて知っている。『佐里(さり)』からな」
 「え? 佐里って、汲月楼(きゅうげつろう)の?! まさか金良さん、佐里の客なのか?!」
 無代が目を丸くするのも当然だった。
  『汲月楼の佐里』といえば、桜町でも有数の格式を持つ店の、これまた最高級の美姫として名高い。このレベルの女性になると、美姫といえども単なる『買われ る女』ではなくなる。実際いくら大金を積んでも、美姫本人が気に入らない客だと宴席にも出ず、まして床を共にすることはない。中でもこの佐里は、宴席に出 る客だけでも5人とおらず、床に侍るのはせいぜいその半分。さらに、そのまま共に朝を迎える人間となると、この世に2人いるかいないか、と言われる。元は アユタヤの王族の娘、つまり本物の姫君とも噂されるが、当然その素性は明かされていない。
 だから、この佐里の本名が『サリポーン』といい、正真正銘アユタヤの王弟の娘、つまり姫君であること。そして、実父がクーデターに失敗した連座で処刑されるのを逃れ、独りぼっちでこの町にやってきたと知るのは、汲月楼の店主で顔役の1人でもある『沢の顔』とあと2人。
 この男・一条銀と、もう1人だけだ。
  佐里と銀とは、銀の妻となった巴が出産を迎えた当時、汲月楼で知り合った。その時、既に銀は男としての機能を失っており、佐里を床に侍らせることはあって も、ただ朝まで添い寝させるだけで、いわゆる男女の関係は結んでいない。だが、この気位が高く教養豊かな異国の姫君は、そんな銀にこそよく懐いた。
  まさに昨夜も、共に夜を過ごしたばかり。銀と佐里、2人で月を眺めて他愛のない話をし、佐里の故郷の茶を楽しみ、そして歳の離れた兄妹のように寄り添って 眠った。朝は彼女がしつらえる朝餉を食べて(美姫手作りの朝餉こそ、桜町の客の最大のステータスだ)、そして店を後にしたのだ。
 「ああ、客だよ」
 「……嘘だろ」
 無代の驚きは収まらない。明らかに銀を見る目が変わっていた。だが、それでも金良が何者かを問いたださないのは、それがこの町のしきたりだからだ。客の素性は聞かない、という不文律を叩き込まれている。
 「まあ信じなくてもいいさ。だがアユタヤで商売するなら、憶えておいて損はない」
 「……うん」
 まだ半信半疑、という顔だが、無代はうなずいた。銀がさらにいくつかアユタヤの情報を伝えてやると、それにも熱心にうなずく。
 「わかった。ありがとう、金良さん」
 「礼を言うのはこちらだ」
 一通りの話を終えた、その時だ。
 ちくり、と銀の胸を痛みが刺した。
 「……む」
 身体の異常。これに敏感でなければ、今の銀は命に関わる。
 (走りすぎたか……)
 先ほど薬を飲んだばかりだ。立て続けに服用するのは危険だと、医師団や妻からキツく言われている。が、このままではヤバい、と銀の直感が告げていた。
 「どうした、金良さん」
 「大丈夫だ。ちと身体がな」
 無代にそう告げると、また薬包を取り出して中身をあおり、船縁から河の水を直接すくって飲み下す。生水を飲む事になるが、贅沢を言っている場合ではない。それに剣竜川は大河ゆえに、今で言う水質汚染は少ない。
 「どっか悪いのかい?」
 「どこもかしこもさ」
 本気で心配そうに聞いて来る無代に、銀は自嘲気味に答える。どうもかなり深刻にいけないらしい。身体の異常は収まるが、全身を一気にだるさが遅い、目を開けているのも辛い。
 「もうすぐ俺の家だ。そしたら横になれるから」
 「重ね重ね、迷惑をかける」
 「病気なら仕方ねえよ」
 子供と老人、そして病人。本当の意味の弱者には優しいのが桜町の人間だ。この少年は本当に、骨の髄までこの町の子供だった。
 (だがそれにしても……)
 銀は、重くなる身体を必死で支えながら考える。
 (ドジな女を助けた事から始まって、この少年とここまで深い縁を結ぶ……)
 これは全て偶然なのだろうか。それとも、残り少ない自分の人生に、まだ何か役目が残っているとでも言うのだろうか。
 「おい……おい! 金良さん! しっかりしな!」
 無代の声を遠くに聞きながら、銀は大河の流れに沈むように、意識を失った。
中の人 | 外伝『Box Puzzle』 | 09:02 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
外伝『Box Puzzle』(3)
   目を覚ました銀が最初に感じたのは、まだ新しい畳の匂いだった。
 目を開けると、少し染みのある板張りの天井。その広さから見て6畳ほどの部屋を、畳の匂いが埋めている。天井の具合から見て新築ではない。畳だけが最近、張り替えられたらしい。その部屋の真ん中に布団を敷いて、銀は寝かされていた。
 そしてなぜか、水の匂いがする。
 「起きたかい、金良さん」
 枕元で、無代の声がした。
 寝たままで首を巡らすと、向こう向きに座った無代が背中越しに、こちらを見ている。部屋に置かれた小さな文机に座り、何かしていたらしい。
 「ああ、大丈夫だ。何から何まで世話をかけたな」
 「いいって」
  言いながら、無代が畳に両手を付き、くるりと膝をこちらに向けた。銀も寝床から半身を起こし、部屋の中を見回す。やはり六畳ほどの部屋。加えて意外な事に 『床の間』がある。ということは場末の安い長屋などではない、それなりに立派な『家』だ。その証拠に、開け放した障子の向こうに小さいながらも庭があり、 そのさらに向こうには剣竜川の流れが見える。
 町から少し外れた高台、裕福な商家の別宅や隠居所が並ぶ『桜新町』と呼ばれる一角だろう。
 「お前の家か? 無代」
 「うん……まあ『妾宅』ってやつさ。アイツが母さんのために買った」
 無代が肩をすくめながら言った。
 「俺はここで生まれて、母と2人でここで育った。今は1人」
 自分の事を話しているはずなのに、無代の言葉には今ひとつ熱意というか、力がこもっていない。家に愛着がある反面、疎ましくもある。自分の家だが、自分の家ではない。
 父ではあるが、父ではない。
 『複雑』と一括りに言ってしまえば簡単だが、そんな短い言葉では伝えきれない、決して解きほぐせないものがこの少年の中にはあるのだろう。
 「まだ横になってていいよ、金良さん。汲月楼には使いをやったから、そのうち迎えがくるはずさ」
  銀が寝ている間に、近所の『子分』に小銭を渡し、汲月楼に言伝を頼んだらしい。銀が並の客であるならば相手にもされまいが、『佐里の客』となれば話は別 だ。『金良』の正体が何者であれ、店にとっては上客中の上客のはずである。この有様を知れば、必ず何か手を打ってくる、と無代は読んだのだ。
 事実、汲月楼では佐里のほか、店主である『沢の顔』も銀の正体を知っている。言伝が伝わったなら今頃、店は大騒ぎだろう。
 「ありがたい」
 「礼はもういいよ」
 くるり、とまた背を向けながら、無代がそっけなく言う。
 「そうだな。言葉など重ねても無意味だ」
 「だからって、金とかいらないからな」
 「言うと思ったよ」
 銀は苦笑。誇り高さも『泥竜』の血だ。とはいえ銀の方もこのまま引き下がったのでは気が済まない。
 「……ところで無代、何をしている?」
 「日課」
 向こう向きのまま短く応える無代の手に、筆があることに銀は気づいた。
 「『手習い』か。感心な事だ」
 手習い、つまり習字である。それも、高価な墨の代わりにただの水を筆にふくませ、紙の代わりに渇いた木の板を置いて文字を書く。先ほど銀が感じた水の匂いはこれだ。
 「墨も紙も、もったいないからね」
 筆を動かしながら、無代が言う。
 銀の息子、流には及ばないにしても、子供にしては逞しい背中。そして無代の身体から立ち上る、よく陽を浴びた匂い。不潔な匂いではなく、むしろ着物の下の生命力に溢れた肉体を生々しく感じさせる、それは匂いだ。
 (羨ましいことだ)
 銀は自嘲気味に、自分の身体を顧みる。昨夜、汲月楼の床で佐里が『しろがねの身体、薬の匂い』と眉を寄せた。そして祖国から取り寄せた高価な香を強く焚いてくれた。『身体も傷だらけ』と、飽きることなく撫でてくれた。
 佐里が撫でたこの身体の傷は、妻の巴による新たな治療の結果である。
 銀の身体は、複数の内臓が立て続けに機能不全を起こす先天性の障害に冒されている。現代であれば、他者からの臓器移植が必要になる身体だが、銀の生きる世界では『免疫』という概念がまだないために『移植医療』は全く進んでいない。
 その代わりに、銀の命を支えて来たのが『再生医療』だ。
 あえて毒となるような薬を服用し、機能不全を起こした臓器を破壊しておいてから、治癒薬を使って内臓そのものを再生する。破壊された肉体を一瞬で再生する薬や魔法が存在する世界ならではの治療法だ。
 が、それにも限界がある。再生された内臓も一定の時間が経てばまた機能不全を起こしてしまうし、その間隔もどんどん短くなっている。薬を使った再生医療を行おうにも、銀の身体がそれに耐えられなくなっていた。
 そこで立ち上がったのが、妻の巴である。
 『私がやります』
 決然とそう言った彼女が行ったのが魔法の矢、いわゆるボルトを使った外科治療だ。巴は元々、威力を極小に絞り込んだボルトの超精密射撃を得意とする。これを使って外科手術を行おうと言うのだ。
 巴は研究の末にダメージ1以下、数値で言えばミクロン級に絞り込んだ炎のボルトを、1秒間に数千発という密度で撃ち出す技術を確立した。現代で言えば、ちょうど『レーザーメス』に近い。
  これを使い、傷口を超高温で灼き切ることで出血を抑え、目標の内臓を素早く除去した後、周囲に控えさせたプリースト系術者の治癒呪文を使い、内臓ごと一気 に再生する。当の銀にとっては、薬品を使う場合のあの激しい苦痛がなく、それどころか麻酔で眠っている間に全てが終わってしまうため、心身の負担は最小限 で済む。
 (……嫁のお陰で生きているようなものだ)
 実際、こんな驚異的な治療が可能な人間はこの世に巴ただ一人、と思えば、あのプロンテラ城での出会いは本当に天恵としか言いようがなかった。
 だがその巴の技術を持ってしても、銀の内臓そのものの寿命の縮小は止めようがない。半年ごとの治療で十分だったものが3ヶ月、1ヶ月、さらに1週間と短くなる。最終的には数日置きに外科治療が必要、という状態になるのもそう遠い事ではあるまい。
 (いよいよだな……)
 そういう銀だけに、その前途に無限の未来を抱える少年の心身を、心から羨ましいと思う。
 そして同時に、彼らに対して『託せる物はすべて託したい』という気持ちが強くわき起こるのだ。
  銀という人間がこの世界で得たにも関わらず、未来へ持って行く事ができない知識、技術、ビジョン。それらを一つでも多く彼らに託し、自分の代わりに未来へ 持って行って欲しい、という思い。それは、肉体的にはもう子供を作れない男が抱く、変質した『自己保存本能』なのかもしれなかった。
 むくり、と銀は身体を起こすと、
 「どれ」
 と無代の手元を覗き込む。
 文机の上には紙の代わりの板。文机の下には、予備の板も数枚。茶碗に汲まれた水が墨の代わり。そしてもう一つ、意外な物があった。
 「それは……『高札』か?」
 「うん。使い終わったヤツをね、お手本にもらってくんのさ」
 『高札』とは、国主である一条家が国内の民にお触れを出す際に使う、いわゆる立て札の事だ。木製であり、法律や税金、犯罪捜査と内容は多岐に渡るが、大抵は一度で使い捨てにされる。この少年はそれをもらってきて、その文字をお手本にしているらしい。
 「『お手本』も高いからね。それに、よく使われる字がいっぱい出て来るし、読みやすい字だから」
  通常、武士や商人の富裕層が習字をする場合、お手本として過去の有名な書家の文字を習う。もちろん書家本人が書いた『真筆』となれば凄まじい値段になるか ら、使うのは『写本』だ。が、それでも相当の値段であり、そうそう庶民の手に入る物ではなかった。例えばどこかの寺子屋が共同で買った物を、何代にも渡っ て皆で回し読みし、ボロボロになるまで使うものだ。
 それをこの少年は、高札をお手本にすることでタダにしている。確かに高札の文字は民の誰でも読めるよう、難解な文字を使わず、遠くから見ても読みやすいように工夫した書体で書かれている。商人として生きて行くなら、この文字を習うのは悪くない。
 「考えたな」
 「へへ」
 嬉しそうに笑いながら、なおも筆を走らせる無代。
 (……スジは悪くない)
 無代の文字を一目見て、銀はそう判じる。そして次の瞬間、その脳裏にある考えが閃いた。
 「……無代、ちょっとそこをどいてご覧」
 「ん? 何だよ、金良さん?」
 無代が眉を上げて、銀を振り向く。
 「お前への礼を思いついた。言葉でも、金でもない」
 言いながら、懐から愛用の矢立て(墨壷付きの筆入れ)を取り出す。この殿様の『メモ魔』は相変わらずで、思いついたらすぐに書き物が出来るよう、この矢立てと紙を手放さない。だが、今回は紙は出さず、矢立てだけだ。
 「ふぅん?」
 無代も何かを感じたのだろう。何も言わずに文机を譲ると、その前に今度は銀が座った。背筋がぴんと伸びた正座。
 まず机の上にあった物をすべて、丁寧に片付け、側の畳の上に降ろす。そしてす、と自分の筆を出して墨壷にひたすと、
 「……よく見ておれ、無代」
 言うなり、文机の上に直接とん、と筆を落とした。
 「な……!」
 無代が驚くのを尻目に、す、とその筆が動く。
 よく磨かれた木製の文机、その天板の右上端に書かれた最初の文字は『無』。
 そこから、『一』「二」「三」……『百』『千』と、数字が続いた。『億』『兆』『京』まで来た所で数字は終わり、続いて『家』『父』『母』……銀の筆が文字を書き出してゆく。その凄まじい筆速は相変わらずである。
 だが一方で、その筆から生み出される文字は、まさに見事の一言だった。
 その一文字一文字がくっきりと読みやすく、かつ美しい。しかも、『一』に『|』を足せば『十』になる、といった単純な偽造が決して不可能な、絶妙のバランスを持っている。
 だが、本当に驚異的な事はそれではない。。
 今、銀が書いているこの『書体』。それは今、まさにこの場で生み出された『全く新しい書体』なのだ。
 書きやすく、読みやすく、美しく、偽造できない。その新しい文字は、我々の世界に存在する書体で言えば『教科書体』に最も近いだろう。人々が生活し、商売をし、情報をやりとりする、いわば使われる為の文字群。
 それを今、銀はこの場で『創造』しているのだ。
 「……」
  無代は息を呑んだまま、その銀を魅せられたように見つめていた。当たり前だが、この少年は今までそんな文字を見た事が無かったし、そんな文字を書く人間を 見た事も無かった。例えるなら、粗末な玩具の車で遊んでいた子供の前に突然、本物の超高性能のスポーツカーが出現し、少年を乗せたまま猛スピードで疾走し ている、といったところかもしれない。速度も、目に入る様々なメカニックも、耳を貫くエンジンの音やシートの感触、匂いに至るまで、あらゆるものが驚異的 だ。
 そんな無代を、銀は文字を書きながら逆に観察していたが、
 (……こいつ、筆を見ておらぬ……!)
 その事に気づいて、またしても腹の中で唸った。
 普通、文字を教わると言えば、書く人が操る筆の先を注視するのが人間というものだ。だが、この少年は違う。
 (私の身体、姿勢、息づかい、その全体を見ている)
  筆を見ず、人を見る。それは単に文字だけではなく、文字を生み出す方法そのものを習い、盗もうとする者の目だ。その目を持つ者は、単なる結果の模倣ではな く、その過程までを自分の物にする。無代がそれだとするなら、彼を生徒に選んだ銀の目に狂いは無かったと言えるだろう。
 銀の筆に力がこもる。
 書き出される文字は、天と地、花と木、魚に獣、怒りに喜び、凶事に祝事。この世界の森羅万象を網羅してゆく。
 そして最後。
 文机の左下端に『銀』の文字を入れ、筆は止まった。
 人々が生き、商い、戦い、生み、育て、そして死んでゆく上で、必要と思われる文字を厳選したその数、2500。現代日本の『常用漢字』より少し多い。
 この『無』で始まり『銀』で終わる文字群こそ、一条銀という去り行く男が、無代という未来へ向かう少年に送った礼だった。
 「……すげえ……」
 「よく見て、習うがいい。きっと役に立つ」
 無代の膝の上で、握った拳が震えているのを見て、銀の胸までも熱くなる。
 銀は知らぬ事だが、後にこの文字は無代自身の手で瑞波、そして天津の隅々にまで広がる事になる。そして無代の死後も消えることなく、遥か後の世に、

 『無銀体』

 として確立され、書体として見事に一派を成した。『美術書道』から一歩離れた、しかし人々の生活に密着した『実用書道』というジャンルがスタートした、ある意味書道史に残る歴史的瞬間でもあったのだ。
 ところで銀が文字を書いたこの文机を、無代は生涯手放さず大切に愛用した。
 『文字の形に穴が開くほど見て、習った」
  と、無代自身が述懐するほどだったという。そしてそれが、彼が平民出ながら瑞波の国立学問所である『天臨館』に入学し(御存知の通り退学したが)、そして 長じては一条家の重要人物として活躍するための、あらゆる根幹となっていった。形の無い、しかし何よりも貴重な贈り物を、無代は銀から受け取ったのであ る。
 余談だが、この文机は遥か後の時代、瑞波の『国宝』に指定されることになる。
 『銀公筆手本文机』。
 それは単に一つの文字・書体が生まれた証拠、というだけではない。瑞波の国の運命を大きく変える2人の男が出会い、その運命を結び合った、まさにその瞬間を記録した遺物、その価値を認められたからに他ならない。
 その生まれたばかりの文机を今、無代が宝物を見るように目を輝かせながら、
 「ありがとう、金良さん!」
 「礼を言われては困るぞ。これは私の礼なのだからな」
 銀が笑いながら、文机の前を無代に譲った、その時だった。
 「おい! 野郎出て来い!」
 家の外から銅鑼声が響いた。
 「!」
 無代と銀がはっ、と身構える。聞き間違えようはない、昼間、銀を追っていたあの連中だ。
 「畜生、なんでここが……!」
 無代が歯噛みしながら立ち上がる。
 「金良さん、俺が食い止めるから、裏口から逃げてくれ!」
 「いや無駄だな。そっちにも待ち伏せがあるだろう」
 銀も立ち上がりながら、冷静に分析する。外から銅鑼声を張り上げられるまで、家の周囲には気配がなかった。彼らなりに隠密に、十分の準備をした上での行動だろう。裏口も固められていると見るべきだ。
 「じゃあ俺が引きつけるから……」
 「早く出て来やがれ! でないと家に火ぃ着けて炙り出すぜ!」
 「!」
 外からの挑発に、無代がきっ、と顔を上げる。
 「うるせえ! 今出て行くから待ってやがれ!」
 少年ながら、なかなか腹の据わった声で怒鳴り返すと、
 「隠れてて、隙を見て逃げるんだ、金良さん」
 そう言い捨てると玄関に走り、がらっ! と勢い良く戸を開けた。
 外はもう薄暗いが、視界に不自由はない。無代の家の玄関前、広い道に集まった男達は10人以上。昼間よりも多いところをみると、加勢を呼んだらしい。とてもではないが、少年の無代1人、銀と2人でどうにかなる人数ではない。
 「汚ねえガン首揃えやがって、何の用だ!」
 それでも傲然とそう怒鳴るのが、この無代という少年だ。
 「ここは俺の家だ。妙な真似しやがったら承知しねえぞ!」
 そう叫ぶ気迫は並ではない。10人以上の屈強な男どもが一瞬、おっとなる。が、こちらも船乗りくずれ、喧嘩荒事には慣れている。
 「黙りやがれ糞ガキが! そこに昼間の銀髪野郎がいるのは分かってんだ!」
 「銀髪野郎なんざ知らねえ! この家には俺ひとりだ!」
 「嘘こきやがれ! もう分かってんだよ。あの女、『お道』が何もかも喋ったんだ。無代ってガキに頼んだってな!」
 「!」
 はっ、と無代の顔が強ばる。
 「お前が無代ってガキだな? 隠してる野郎を出しな。そうすりゃお前は助けてやるぜ」
 男どもの代表だろう、一番身体の大きな男が、ニヤニヤと笑いながら持ちかけて来る。
 「……」
 銀は無代の言葉に従って家の中にいながら、表のやりとりを聞いていた。
 無代は無言。だが、内心は内臓が焼けるような思いだろう。あのお道という女、銀を助けてくれと無代に頼んでおきながら、自分が脅迫されると一転、全部白状してしまったらしい。
 (……女の我が身可愛さはやむを得ぬ……とはいえ、子供にはキツいだろうな)
 そりゃあ、子供の中にも裏切り、裏切られるのが平気な者もいる。だがお道の言葉を受けて、縁もゆかりもない銀を助けてくれた無代という少年は、明らかにそれとは違う。世慣れているのとは別の意味で、人を信じ、信じられることを基準に生きている。
 (だが、だからこそ大人の裏切りには酷いダメージを受けるはずだ)
 銀は目を閉じる。
 (あの子に害を加えさせるわけにはいかぬ。私の命に代えても)
中の人 | 外伝『Box Puzzle』 | 09:03 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
外伝『Box Puzzle』(4)
   あっさりと腹をくくった。
 天津有数の武門・一条家の当主に生まれた自分だが、ここでつまらぬ喧嘩の末に死ぬなら、それが一条銀という男の運命なのだ。最後に面白い少年と出会い、小気味良い思いができた、それで十分ではないか。
 銀が外へ足を踏み出そうとした、その時だった。
 「黙りゃがれ! あの人はこの俺の、『桜新町の無代』の客人だ! 手前らみたいなゴロツキにゃ、指一本触れさせねえからそう思いな!」
 天を突くような気合いと共に、無代がそう啖呵を切ると、ばっ、と両手を広げて玄関を塞ぐ。
 「お客人を狙って俺の家ん中に押し入ろうてんなら手前ら……この俺を殺してからにしやがれ!」
 天晴、としか言いようのない口上だった。そして自らのテリトリーである家と、自分の客を何よりも大事にする、桜の丘に生まれ育った者の誇りを体現するような姿だった。
 銀の足が止まる。無代のあの口上を聞いてしまっては、下手な助け舟はただ彼の誇りを穢すだけである。
 (……よかろう、無代)
 そう腹をくくり直す。あの啖呵を切った以上、もはや無代は子供でも少年でもない。
 銀と同じ『男』であり。
 そして『戦友』である。
 ならば銀が今、しなければならないのは彼を助ける事ではない。

 共に戦い、共に死ぬ事だ。

 腰の帯から扇子を抜く。このお殿様、相変わらず脇差し一本帯びていない。武器とも言えないような扇子一本、それを持ったままでひょい、と玄関を出た。
 しかしこれは天下の智将・一条銀をして、遅参も甚だしい。そこはもう既に戦場である。
 男が2人、地面にうずくまっている。1人はうんうんと呻き、1人は痛え!痛え!と叫び続けていた。2人ともその足の、膝の裏からおびただしい出血がある。
 言うまでもない、無代の仕業だった。敵の足にタックルし、その膝の裏に噛み付いて靭帯を噛み切る。後に『伝承種(レジェンド)』の代表格である『鬼』に対してさえ一矢を酬いた無代の喧嘩殺法、その変わらぬ必殺技だ。
 当の無代は既に3人目の男に組み付き、その丈夫な歯を必死に突き立てている。ぐちん! というイヤな音と同時に、男が仰向けにひっくり返り、痛みに喚きながら転げ回る。
 「このガキゃあ!」
  残りの男達が無代に殺到するが、それを上手くすり抜け、また1人の男に組み付いた。無代には武道の心得などあるまいが、こと喧嘩となれば技や才能よりも、 胆力や思い切りの方が上回ることだってある。この少年にあの『泥竜』の血がどれほど継がれているか知らぬが、しぶとい事この上ない。
 が、しかしその喧嘩殺法も万能ではない。
 「『バッシュ』!」
 ごきん!
 「ぎ……っ!」
 男の足に今にも噛み付こうとしていた無代の身体が、一撃で地面に叩き付けられた。男は剣士くずれらしく、その攻撃スキルを喰らったのだ。低級なモンスターなら一撃で屠るスキルとなれば、さすが頑丈な無代でも耐えられない。
 「調子に乗んな!」
 男がその足で、倒れた無代の顔面を思い切り蹴り付けようとする。
 「!」
 少年の危機、だがそれに合わせるように銀が動いた。
 無代に注意が向いている隙を突き、するりと男に近づくと手にした扇子でひょい、と男の右目を突く。
 「ぎゃ……っ!」
 別に武道の技でも何でもないのだが、えらくタイミングがよかったためか、見事に男の眼球が潰れた。たまらず目を押さえて後退する間隙を縫って、銀は無代の側に膝をつき、その身体を助け起こす。
 「大丈夫か、無代」
 「……馬鹿、何してんだ金良さん、逃げるんだよこの『どじ』!」
 「ああ『どじ』だな」
 銀は苦笑する。現状は最悪、まさにどうしようもない。無代はさっきのバッシュの一撃で盛大に鼻血を噴いている。首の骨でなくて幸いだったが、代わりに鼻を骨折したようで血が止まる様子はない。
 「あんた、喧嘩なんか出来ないだろう! 逃げてよ! 早く! 逃げろって!」
 無代が必死に銀の胸を押す。だが銀は動かず、それどころか静かな笑みを浮かべてす、と立った。
 「確かに、私は喧嘩はしない。親子喧嘩も兄弟喧嘩も、夫婦喧嘩もしたことがない」
 何とも呑気な銀の台詞に、無代の顔に怒りすら浮かぶ。
 「金良さん!」
 「だがな、無代」
 ぱっ、と銀の手の扇子が開く。襲いかかろうとしていた男どもの動きが一瞬、止まる。
 「喧嘩はしないが、『戦』はする。……見せてやろう」
 すう、と銀の扇子が天を指し、ぱちん、と閉じられた。
 瞬間。
  どん! と耳をつんざく衝撃音と共に、無代の目の前の男が『真横』に吹っ飛んだ。ずざあ! とその身体が地面に削り痕を残し、数メートルも先に叩き付けられる。どう見ても即死。その手足の関節が、壊れた人形のようにバラバラに折れ曲がった中に、ぴんと一筋だけ真っすぐ突っ立っているのは『矢』だ。
 弓手のスキル攻撃。巨大なモンスターの土手っ腹にさえ風穴を開けるその威力の前には、非武装の人間など木偶も同然だった。
 「う……わ……あっ!?」
 残りの男どもが一斉に浮き足立つ。そこへ、新たな攻撃が襲いかかった。
 空気を引き裂くような音は矢。
 血の花を咲かせた後から響く轟音は銃声。
 銀と無代の2人だけを器用に避けて、雨のように降り注ぐ攻撃。なるほどそれは喧嘩の域を超え、確かに『戦』だった。
 わけも分からず逃げようとする男達の動きが、さらに凍り付いたように止まる。顔を真っ赤にして何とかもがこうとするが、一歩たりとも動けぬどころか瞬きすらできない。
 すう、と周囲の気温がなぜか急速に低下し、無代の吐く息までが白く色づく。
 氷。
 極低温の魔法の矢が、彼らの周囲に無数に降り注いでいる、などと無代に分かるはずもない。ほとんどダメージのないその矢に撃ちまくられ、男どもが動けないのだと知る由もない。
 どん!
 動けない男を矢が縫う。
 ぱん!
 動けない男を銃が弾く。
 実に淡々と、あっという間に10人の屈強な男どもが討たれ、動かなくなった。まさに一方的な蹂躙だ。
 戦場に静けさが落ちる。
 その静けさを、ざあ、という水音が破った。無代が顔を上げると、彼の家の向こう、剣竜川の川面を巨大な物がこちらへ向って来るのが見える。
 「……船!?」
 「『私の船』だよ」
 無代の『俺の船』に対抗したわけでもあるまいが、銀はちょっと自慢そうに言った。『銀の船』、それは天を突く2本の巨大なマストを持つ、大型の帆船だ。戦艦。

 瑞波中央水軍一番艦・『本丸霜鯨(ホンマルシモクジラ)』。

 遥か北の、氷の海を支配するという純白の魔鯨、その名を冠した一条瑞波水軍の旗艦。それは銀の死後『殉船』として瑞波沖の海に沈められるまで、天津中にその武名を轟かせた一条家当主の御座船である。
  また余談になるが既にこの時代、次の当主となるべき一条鉄のための新一番艦『本丸蝦蟇鯨(ホンマルガマクジラ)』、そして銀の息子・流のための二番艦『二 ノ丸飛鯨(ニノマルトビクジラ)』の建造は始まっている。若き日の野望に沿い、七つの海の制海権を狙う一条銀その人の指示だ。
 この先の銀の運命を思えば、この霜鯨もまた主である銀と共に、残り少ない命を生きるものだった。
 ざん、と霜鯨が着岸する。
  徹底的に訓練された水夫達が、素早い動きで甲板から梯子を下ろすそれより速く、優美な人影が一つ、甲板からひらりと地面に飛び降りた。魔術師のマントがひ らめき、艶やかな太腿が一瞬だけ露になる。変わらぬ愛靴であるヒール付きの軍靴。城ではちゃんと着物を着ているが、ここぞとばかりに戦闘服で装って来たら しい。
 余計な飾りなどない、夕暮れの薄闇すら照らす豪奢な金髪だけで十分。異国に嫁いで人妻となり、一子を成して母となっても、その容色は衰えるどころかますます磨きがかかったようだ。
 「心配をかけたね、巴」
 「……いいえ、心配などしておりません。殿様」
 一条家の正妃、一条巴(いちじょう ともえ)は、素っ気ない言葉とは裏腹に優しい笑みで答えた。
 「私よりも殿様、『佐里』によく謝っておいて下さいませ?」
 夕暮れの空気を颯爽と切って、銀の側に歩いて来た巴が、懐から一枚の手紙を出した。銀の鼻先に突きつける。
 「あの子が店から私に寄越した手紙。見て、このめちゃくちゃな字……よほどあわてたのね。これじゃ私の名前がヘビです。今頃きっと、真っ青な顔して仏様にお祈りしてるはずですよ」
 「うん、謝っておこう」
 銀も苦笑する。
 汲月楼の佐里。一条銀ご贔屓のその美姫の正体を知り、共に朝を迎えるまでに心を許したもう1人の人物。それが銀の正妻である巴、というのも妙な話ではある。
  だがあの孤独な異国の姫君は、この賢明で美しく、そして圧倒的に強い巴という女性を実の姉のように慕っていた。時には女2人酒を酌みながら、『お殿様』の 悪口で盛り上がることもあるほどだ。そのお殿様が桜町で危機に陥っていると知れば、即座に巴の所へ使いを出すのも当然である。
 「その方が『無代さん』? お怪我をなさっていますね」
  ある程度の話は伝わっていたのだろう。銀の側で尻餅をついたままの無代に、巴は優しく微笑むと側に膝をつき、自分のハンカチでその鼻血を拭ってやる。そし て懐から『ヒール』の呪文を封じた一巻きの巻物を出し、自ら唱えた。口の動きが見えないほどの高速詠唱は、魔法の心得などない無代にはチュン、チチチ、と いう小型鳥の囀りにしか聞こえない。だがその効き目は確かで、砕かれた無代の鼻から一瞬で痛みが消え、血も止まった。巴の手の中で、役目を終えた巻物が消 滅する。
 「はい、これでもう大丈夫。……夫がお世話になりました。本当にありがとう、無代さん」
 地面に両膝をついたまま、両手の指先を揃えて地面に触れさせ、深々と頭を下げる。無代の目と鼻の先を、この世で最も豪奢な金色の滝が、光を伴って流れ落ちた。
 「あ……いえ……あの……」
 気の効いた受け答えどころか、ろくに声も出せない。少年の無代にとって、あらゆることが予想外であり、規格外過ぎた。
 「では『桜新町の無代』、また会おう」
 銀が差し出す手を、呆然と握るしかできなかった。痩せて細い、しかし熱い手。
 くるりと背を向け、もう後も見ないで霜鯨へ向けて歩み去る銀。その背中を、もう一度改めて無代に深々と頭を下げた巴が追いかける。
 霜鯨が主とその妻を乗せ、再び帆に風を受けて大河の水を切った。天津にその名を轟かせる名艦の船足はさすがに速い。見る見る速度を上げ、無代の視界から消えて行く。
 だがその甲板に、銀色の髪と金色の髪が並んで揺れる光だけは、いつまでも無代の目に残った。
  気づけば、討ち倒された男達の死体はおろか、血痕さえも奇麗さっぱり消されている。彼らがどこの誰であれ『いた事すら無かった事になる』に違いない。この 町がいかに自己責任の町とはいえ、喧嘩を売った相手がお殿様で、水軍の旗艦が出て来てなぎ倒されるというのは少々、運が悪過ぎた。
 道の上で、ただ呆然と座り込んでいた無代がはっ、とようやく色々な事に気づき、船の去った後に向って土下座の姿勢を取った。が、ちと遅い。
 手の中の鼻血だらけのハンカチ。部屋の文机に記された文字。
 そして、握られた手の熱さだけが、この日の証として残された。

 一条銀と無代。
 瑞波の運命を大きく変える、2人の男の出会いはこのようであった。

 さて、夢のようで夢でない、そんな1日を過ごした無代だが、結局その事は誰にも告げないままで、また父の船に乗って次の航海に出た。
 商売品の寄せ木の細工箱、そこに銀のアドバイスを容れた事は言うまでもない。そして目的地のアユタヤで、無代は見事に王族の1人に謁見する幸運をたぐり寄せ、とてつもない大金を稼ぎ出す事に成功した。
  さらに無代、その王族の屋敷にしばらく居候し、厨房に入り浸ってアユタヤ料理のレシピをいくつか身につけたのだが、これが正解だった。異国の文物を買い付 けて帰るには知識も経験も不足している無代だが、『舌』となれば話は別だ。美味い、不味いに国境はない。だから、稼いだ金の一部でアユタヤ独特の調味料を 買い付け、瑞波へ持ち帰ったのだ。
 そして屋台を出した。
 『元祖・あゆたや焼き』という、目を覆いたくなるようなベタな商品名で売り出した料理だったが、折から瑞波が『アユタヤブーム』だったことも手伝って飛ぶように売れ、無代は一躍成功者として名を挙げることになる。そしてもう一つ。
 父の『火の顔』から声がかかった。
 「家に入って、店で働け」
 「断る」
 即座に断った。今まで放っておかれた親に才覚を認められたことはともかく、自分の未来まで搾取されるなどまっぴら御免だった。
 「だけど『抱え商人』なら入ってやってもいい」
 父の前で腕を組み、そう言い返した。
  無代の言う抱え商人とは、つまりは契約バイヤーのようなものだ。儲けの一部を店に上納する代わりに、店に住居や生活の面倒を見させ、店の船や隊商に便乗し て貿易する権利も持つ。当然、上納金以上の稼ぎが必要だし、赤字の補填もない厳しい契約関係である。大抵は店から独立した直後の若い商人が、自分の店を持 つ資金を貯めるために、元の店と契約するのが通常だ。間違っても、まだ十代前半の少年が言い出す事ではない。しかし、
 「上納は1割。あご・あし・まくらはそっち持ち。あごは店の賄いでいいし、まくらはこの店の長屋でいい。嫌なら他所へいく」
 無代、堂々と宣言したのである。蛇足だが『あご』は食費、『あし』は交通費、『まくら』は宿泊費だ。儲けの1割がこれに届かなければ店側の赤字だから、即座に解約となる。
  そんな無代に『火の顔』が何を思ったのか、それは分からない。だが結局、彼はまた無言でこれを許した。以来、天臨館を退学になり家を勘当されるまで、無代 はこの店のお抱えとして働くことになる。今度は船に乗っても雑用はない。その時間に、ひたすら勉強できたことは、これまた無代の地力の一つになっていく。
 契約が決まると同時に、生まれ育ったあの妾宅も出て(もちろん文机は持って行った)、店の人間が住む長屋に移った。自分の力と才覚で勝ち取った、自分の住処だ。
 さて、その住処で初めて過ごす夜の事。
 一人前に外で酒など飲み(青年無代は酒に強いが、この時はまだ少年だ)1人、自分の家に帰って水をがぶ飲みし、すり切れた畳の上にひっくり返った時だった。
 とん、とん。
 長屋の戸を叩く者がある。
 「……? 誰だい? 開いてるよ?」
 店の顔見知りでも来たか、と思って声をかけた無代に、しかし返事はない。代わりに、玄関の木戸が無言のままからり、と開いた。
 「?!」
 最初、幽霊でも出たのかと思った。無代の酔いが一気に醒める。
 ゆらり、と戸を潜って入って来たのは、布ですっぽりと顔を隠した若い女。性別と年齢は、僅かに除く黒い瞳で判別した。ふわふわと揺れる布と着物は、無代があの異国で見慣れたアユタヤ風。
 「誰だ?!」
 「……『桜新町の無代』様ですね?」
 少し異国訛りのある、しかしはっきりとした艶のある声。これが桜町でも指折りの美姫、あの『汲月楼の佐里』だと、無代が知るのは少し先の事になる。
 「無代は俺だ。何の用だよ」
 気合い負けしてなるものか、と無代はぐっと抑えた声を出す。
 「……我が主より、伝言をお伝えに参りました」
 女が、すっ、と無代の前に一枚の手紙を差し出した。何とも半信半疑ながら、無代がそっと手に取って開く。
 文面を折ったその目が、いきなり見開かれた。

 むだいよ

 おまえのたからものをあずかった

 かえしてほしくば

 しろへこい

 わたしをたおすことができたなら

 たからものはかえしてやろう

 「……!」
 無代が慌てて部屋を見渡すと、確かに彼の宝物が無くなっている。『文机』、それがどこにも見当たらない。
 「畜生……っ!」
 もう一度、手紙を睨みつける。短い文面の最後に、署名。

 てんじょううらのまおう

 「ふっ……ざけんなあああ!」
  無代が真っ赤になって吼えた。どこの誰かは知らないが、悪ふざけにもほどがある。いや、どこの誰かは分かっている。わざと漢字を使わず、ひらがなだらけの 手紙だが、無代はそれに見覚えがある。いや文字に見覚えがあるのではない。それを書いた人間の姿をくっきりと思い浮かべる事ができるのだ。
 字を見ず、人を見て憶えた、あの夕暮れの時間が無代の脳裏に蘇る。
 ただ、それがなぜこんな事をするのか、その事となるとまるっきり理解不能だった。
 「なんだよこれ! どういうつもりだよ!」
 「多分、主の悪戯でしょう。ここのところ退屈していらっしゃいますので」
 しれっ、と答えた女の目が笑っている。それを見て、無代の意地に火が付いた。
 「……馬鹿にしやがって……この無代様をナメんじゃねーぞ!!」
 どれだけ受け継いだのかもわからない『泥竜』の血が滾る。気合いと根性だけで練り上げ、桜の丘生まれの土生骨が軋む。
 「お受けになりますか? お城までお送りしますよ?」
 無代のキレっぷりが面白いらしく、女がちょっとからかうように言う。
 舐められている、と思うと無代、本当に血が沸騰しそうになる。いいとも、やってやろうじゃないか。たとえ相手がどこの誰でも、たとえ『瑞波のお殿様』でも知った事か。

 「よっしゃあ! 俺をお城とやらへ連れて行きやがれ! その『天井裏の魔王』とかって野郎、きっちりぶっ飛ばしてやらあ!」

 無代、十四歳。
 ついに開かれた冒険の幕の、その向こうへ。

 そして一条銀、四十四歳。
 人生最後の物語の、その向こうへ。

 おわり
中の人 | 外伝『Box Puzzle』 | 09:04 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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