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第十二話「The Flying Stones」(2)
  D1の身体を地面へ降ろした無代が、翠嶺に向かってまた頭を下げた。
 この無代という青年、こうしていちいち頭が低くて丁寧なのだが、不思議な事に決して卑屈な印象は与えない。翠嶺の大嫌いな人種、ぺこぺこと頭ばかり下げ、敬うというより媚びる言葉を使う連中とは明らかに違っていた。
 (かなりの人物に仕えた経験がある……だが盲目的に仕えていたわけではないな)
 翠嶺はそう見る。
 確かに無代、形だけでない礼儀と丁寧さを身につけてはいるが、同時に明確な自分の意志もまた持ち続けている。動作や行動の一つ一つに、揺るぎない自我が感じられるのだ。彼が仕えていたのが何者であれ、その主人に対して無自覚に隷属していただけなら、このような人格が身に付くはずがなかった。
 命令される立場であっても、最後に彼の行動を決めるのは『彼自身』。そして行動の責任を取るのも『彼自身』。
 自分で自分をそう律し、貫いて来たとでも言うのか。
 ともあれ、長い寿命の中で多くの人間を見て来た翠嶺にとっても、ほとんど見た事の無いタイプの人間であることは確かだった。
 だが考えてみれば、それも当然かもしれない。
 (あの姫君の想い人が、そもそも凡庸な者であるはずもない)
 翠嶺の脳裏に、底知れぬ深さをたたえた闇色の瞳が蘇る。
 一条香。
 太古から伝えられた鬼道の血を受け継ぐ『霊威伝承種』。見えざる者と語り、また人の心を読み、その運命を見通す彼女には、そもそもどんな嘘もお追従も通じないだろう。まして薄っぺらい外ヅラを繕っただけの人間など、いくら言い寄ったところで最初から歯牙にもかけまい。
 (……面白い)
 この世の知と智の粋を集めたと言わしめる希有の戦前種が、ついさっき出会ったばかりの青年に、明らかに興味をひかれていた。
 「よかろう。任せろというなら、やってみるがよかろう」
 「先生のご助力をお願いしましても?」
 「必要なら言うがいい」
 許可を出した。
 異能の姫君の思い人、その本性を見てやろう、という好奇心もある。とはいえさすがの翠嶺も、まさか香の方から無代に言い寄ったとは、この時は想像もしなかったものだが。
 「ありがとう存じます、翠嶺先生」
 翠嶺の返事に、無代が真っ白な歯を見せた。この戦前種から一定の信頼を得た事を敏感に感じたらしく、見るからに嬉しそうだ。
 「では早速で申し訳ございませんが、先生の外套をお貸し頂けせんでしょうか?」
 旅のマントを貸せ、それぐらいはお安い御用である。
    後日新品にして返す、という無代の言葉も一笑に付し、翠嶺が肩からマントを外す。その下は緑と青色を基調とした独特の教授服。見事な曲線で形作られたむき出しの肩が露になるが、陽射しは柔らかく風も無いので寒くはない。
 「返却無用。好きに使うがいい」
 そう言ってぽい、と放られたマントを、無代は両手と胸に抱き込むようにして受け取ると、ひとつ押し頂いておいてひらり、と広げ、
    「よっ、と 」
    また軽妙な掛け声ひとつ、地面に降ろしたD1の身体がくるり、と包まれる。これまたどこをどうやったのか、横たわるD1の身体をほとんど一息で包み込んでしまう。
 「ありがとう。大丈夫だから……」
 弱々しいながらも気丈に礼を言うD1に、無代は笑いながら首を振ると、その耳元で何やらささやいた。D1がそれに素直にうなずくのを確認し、その肩を力づけるようにぽんぽん、と軽く叩いて立ち上がる。
 「さて先生。お食事をご用意致したいと存じますが、あいにく食材を切らしておりまして。よろしければもう少々、ご助力を頂けますでしょうか」
 「いいとも?」
 うなずいた翠嶺に、こちらへと無代が誘い出したのは、湖の岸辺だった。
 先ほど翠嶺が作った氷の橋はもうあらかた融けていて、湖面は静かに薙いでいる。シュバルツバルド山脈の蒼い山々を映した湖水は澄み、岸辺の辺りは水底の岩が透けて見えるほどだが、少し岸を離れると急に深くなっているらしく、そこから先の水は暗い。
 無代はその湖面の、浅くなっている一角を指差し、
 「レベルの低いもので結構ですので、雷のボルトを一つ、落として頂けますれば。あの芦の茂った辺りがよろしゅうございましょう」
 「ふむ、『電気漁』か」
 翠嶺が指摘する。
 『電気漁』とはその名の通り、水中に向かって『ライトニングボルト』などの電撃系の魔法を撃ち込み、、感電して麻痺したり死んだ魚介類を獲る漁法だ。これは非常に効率が良い反面、下手をすると漁場そのものを根こそぎに破壊しかねないため、多くの漁業ギルドが禁止している違反漁法でもある。
 とはいえ、この湖はシュバルツバルドでもかなりの僻地であり、たまに釣り人ぐらいはいるものの、違反を咎める漁民や、まして漁業ギルドなどあるはずもない。何より、根こそぎだの破壊するだの言うほど魚が棲んでいるわけもなかった。 
 翠嶺が指と唇を微かに動かすと同時に、無代が指差した辺りの水中を泳ぐ小さな影を、鮮やかな魔法陣が取り囲む。
 雷撃魔法『ライトニングボルト』。
 ばちぃっ!!
 澄み切った湖水が一瞬、青白い閃光に包まれた。岩だらけの水底に幾匹かの魚影が、まるで日光写真のように映し出される。
 待つこと数秒、その魚影がぷかり、またぷかり、と水面に浮かんで動かなくなった。低レベルとはいえそこは翠嶺、電撃の効果は確かだ。
 「さすがは翠嶺先生、お見事にございます。……では失礼致しまして」
 無代が翠嶺に断りを入れ、ボロボロになったタキシードの上着、その下のシャツまで脱ぎ捨てて半裸となる。ついでにズボンも膝から下を引きちぎり、靴も脱いで素足。さらに何のつもりか、近くに生えていた葦を数本引き抜くと、その長い茎を口にくわえる。
 「ほっ……と」
 そのままじゃぶ、と水中に身を投じ、そのまますいすいと泳ぎ始めた。
 (……泳ぎも達者か)
 翠嶺が見守る中、無代はあっという間に魚の浮かぶ水域にたどり着くと、危なげない立ち泳ぎで魚どもを捕らえては、先ほどの葦の茎に次々に数珠つなぎに刺していく。なるほど、このための葦だったらしい。慣れているのか何なのか、無代が一通り魚を集めて岸に戻ってくるまで、ものの数分とかからなかった。
 「おかげさまで大漁にございます。先生」
 笑顔の無代が掲げて見せた葦にはずらり、7〜8匹の魚がぶら下がっている。体長は大人の手のひらより少し大きい程度で、種類としては鱒の一種だろうか。こんな痩せた岩山の湖にしては悪くない漁獲なのは、翠嶺の電撃の威力もさることながら、無代の選んだ漁場も良かったものと見える。
 脱いだタキシードを絞ってざっと身体を拭いた無代が、靴を履いて歩き出す。着ている物は膝から下を引きちぎった半ズボンだけ、という何とも珍妙な格好だが、後ろからついていく翠嶺はしかし、服装よりも別な物に目を奪われていた。
 「お前……どうしたのだその身体は?」
 千年を生きたこの戦前種さえ、思わずそう訊いてしまう。無代の身体を見た者が等しく抱く感想を、彼女もまた感じたのだ。
 よく鍛えられ引き締まった無代の身体、そこはまさに傷跡だらけだった。
 両手と両足、それに首には『一度千切れたのをつないだ』かのような傷跡。その他にも切り傷、刺し傷、噛み傷に火傷。一番新しいのは『もげた腕を治癒魔法でつないだ跡』だ。これはついさいっき、空から落ちた時の物である。
 「お見苦しい物をお見せ致しまして、まことに申し訳ございません……いえ『どうした』と申されましても皆、手前のつまらない不始末でございまして。先生にお聞かせするほどのことでは」
 無代は苦笑いで答える。だが『つまらない不始末』でこれだけの傷をこしらえるなら、逆にどうして今ピンピンして生きていられるのか、そっちを訊きたいところだ。しかも一緒に空から落ちて来たD1よりも、無代の方が肉体的なダメージはむしろ大きいはずなのだが、こうして平気な顔で歩いたり泳いだり。
 この無代という男、筋力や反射・運動神経といった肉体の性能はともかくとして、とにかく丈夫にできている事だけは確かなようだ。
 しかも、実に良く働く。
 岸辺から空き地へと戻る最中にも、その辺の草むらで赤い草、黄色い草を見つけてはその葉をちぎり、実を採ってはポケットに入れていく。それらは皆、薬草の原料となるハーブなのだ。さらには、
 「少々失礼を」
 と、手近な薮の中にごそごそ這入って行ったと思うと、ほどなく出て来て、
 「また大漁でございますよ、先生」
 と、大人の握りこぶしほどもある『蜂の巣』を掲げて見せたものだ。本当か嘘か、飛んでいる蜂の動きから巣の場所を割り出したという。そんなものだから元の空き地へ戻る頃には、獲った魚に加えて山芋だのキノコだの、その両手に結構な量の食材をぶら下げている。
 (……なんとまあ)
 さすがの翠嶺もこれには感心半分、呆れ半分といったところだ。
 空き地に戻ると、D1が座ったまま迎えてくれた。翠嶺から借りたマントをしっかりと巻き付けた身体の側に、脱いだ服が濡れたまま畳んである。どうやら先刻、無代がD1に指示したのはこの事らしい。しかしこの様子だとD1、そのマントの下はほとんど全裸に近いはずで、さすがに心細そうに肩をすくめている。
 「ちょっとの辛抱だからな、D1。なに、天気が良いから、すぐ乾くさ」
 無代が明るく声をかけると、濡れたD1の服を丁寧に絞り、周囲の木の枝やら岩肌やらに干していく。
 D1といえどもそこは女性、異性である無代に見られたり、まして触れられたくない物もあるだろうが、今はそう言ってもいられない。無代もそれを気遣ってか、ことさらにテキパキと作業を進める。
    余談だが、干されたD1の服を見るに、ボロボロになった無代のそれより遥かにダメージが少ない。どうやら落下の際に無代が守った成果らしかった。
 一通り干し終わると、次は料理。だが、その前に無代がしたことに翠嶺は注目する。
 獲って来た食材を大きめの岩の上にすべて並べると、その前に両膝をついて二礼。
 ぽん、ぽん。
 柏手の音が二度響き、もう一度、礼。
 翠嶺がほとんど無意識に、その脳裏に蓄えられた知識を動員して分析する。
 (アマツの『山人(ヤマビト)』の祭礼だな)
 アマツの山中には、山の木を伐り獣を狩り、鉱石を掘って暮らす『山の人々』が存在する。いわゆる『里人(サトビト)』と違って定住をせず、一生を漂泊のうちに過ごす彼らは、これら自然の恵みを『御山の御宝』と呼び、それに対する感謝と祭礼を忘れない。どうやら無代、そういう場所で暮らした経験もあるようだ。
 調理が始まった。
 はらわたを出した魚の腹に、草むらで摘んで来た赤い草の葉、通称『赤ハーブ』を詰め、次いで魚全体を黄色い草の葉、『黄ハーブ』でくるくると包む。ついでに、採って来た芋や野菜も同じようにハーブ包みにする。
 次に地面の砂に穴を掘り、そこに大きめの石を組んで『石釜』をこしらえる。石釜、つまり石でできた『オーブン』が形になると、無代は顔を上げ、
 「先生、ファイアーウォールをお願い致します」
 「うむ」
 轟!!
 翠嶺の返事と、無代の目の前に魔法の猛火が立ち上がるのが同時だった。
 人の背丈を越える高さまで真っすぐ立ち上る魔法の炎は、襲い来る敵の侵入を防ぎつつ同時に焼き尽す、まさに攻防一体の効果を発揮する。魔法を使う者にとって基本中の基本であり、また生涯に渡って愛用する事になる馴染みの術である。
 だが今回ばかりはその目的、モンスター狩りでも戦闘でもない。
 「これでいいか? 無代」
 「ありがとう存じます……っとぉ! さすが先生、大変結構でございます」
 魔法の火に炙られ、猛烈な熱を持った石釜の中に手を突っ込んだ無代が、即座にその手を避難させる。調理には十分すぎるほどの熱量が与えられたらしい。炎が収まった後も、石釜どころかその周囲の小石や砂までがチリチリと音を立てている。内部にしみ込んだ水分が蒸発する力で、石が内側から割れる時の破砕音だ。この高熱、無代でなくともさすが翠嶺、というべきだろう。
 火傷しないように気をつけながら、石釜の中に総ての食材を入れ、その上から大きめの石で蓋をすれば、あとは待つだけ。……なのだが無代という男、その間も忙しい。
 巨斧ドゥームスレイヤーで近くの若木を伐り倒し、その木を割ったり削ったりして即席の皿や箸、お椀のようなものまで人数分を自作する。斧の刃先だけを木の切り株に打ち込んで固定し、手に持った木片の方をごりごりと刃に当てながら様々に加工していくのだが、その手つきがまた実に手慣れていて、いっぱしの木地職人と言われたらうっかり信じそうだ。
 「若木ですし根を残しておりますから、また芽吹くことでございましょう」
 大地に顔を出したままの切り株に、またぽんぽん、と手を合わせる。
 翠嶺の魔法で焼けた石の中から、ちょうど拳ほどのものを選ぶと、元はタキシードだったボロ布で厚く包んでD1に渡してやることも忘れない。これをマントの下に抱き込めば、身体を暖める即席の温石になる。
 「行き届いたことだな」
 翠嶺が茶化すと無代、また恐れ入りますと笑う。
 ほどなく、石釜の中から良い匂いが立ち上って来た。無代やD1はもちろん、そういえば翠嶺もかなりの時間、まともなものは食べていない。
 無代が何度か石釜の上で匂いを確認した後、とうとう最後にえいやっ、とばかりに石の蓋を開けると、魚の肉と油がはぜるじゅう、という音と、実に上手そうな匂いがいっぺんに湧き上った。
 「よい具合にできましてございます」
 今日一番の笑顔を見せた無代が、手作りの木の器に手際よく魚や野菜を盛る。最後に、さっき採ってきた黄ハーブの実を清潔な布に包み、器の上でぎゅっ、と絞って仕上げとなる。少量だが、にじみ出した黄ハーブの油が魚の身に降り掛かり、また微かな音を立てた。
 「さ、とんだお口汚しではございますが、精一杯にございます。どうぞお召し上がり下さいませ」
 「いただこう」
 無代が両手で差し出す木の皿を受け取ると、奇麗に火の通った魚の匂いに加え、黄ハーブ油の少しクセのある香りが、翠嶺の形の良い鼻腔をくすぐる。
 これまた無代手作りの箸で身をほぐし、一口、口に入れてみる。
 「ほう……美味い」
 思わず声が出た。
 魚は旬にはほど遠く、身も脂が乗っているとは言いがたいが、澄んだ湖水で苔などを食べて育つせいだろう、淡水魚にしては泥臭さがまったくない。それを石釜の遠赤外線でじっくりと、しかも包み焼きにしているから、柔らかさは折り紙付きだ。味はというと、オリーブ油に似た風味を持つ黄色ハーブ油と、唐辛子のような赤ハーブの刺激が加わって、まさに野趣溢れる、という表現がぴったり。
 「身に余るお言葉に存じます」
 無代が深々と頭を下げた。その顔が本当に嬉しそうなのが可笑しい。
 「白ワインが欲しいところだな。辛口の、よく冷えたのを」
 「天津の酒も負けておりません。『銀月(しろつき)』という辛口の酒がございまして、これが良く合うかと」
 「ほう、では一つもらおうか」
 「まことに申し訳もございません。あいにく今、切らしておりまして」
 冗談も笑いも、すっかり打ち解けたものになった。美味いものは万能、という言葉に嘘はないらしい。
 ところで、無代の皿に盛られた魚の数が少し少ない。それをを翠嶺が指摘すると、
 「手前は別のものを頂きますので、どうぞご心配なく。いえ、ご婦人には嫌われる方もおられますから」
 言いながら、魚の包みとは別の黄ハーブ包みを手にする。
 「ははあ……」
 察した翠嶺がうなずいた。おそらくその中身は『蜂の子』、つまりさっきの蜂の巣の中にいた蜂の幼虫だろう。古来、野山で生きる人々にとって蜂の子はご馳走の一つだが、まあ虫は虫である。翠嶺やD1の前でそれをガツガツ食べるのは憚られる、ということらしい。
 食事の最後には茶まで出た。
 石釜の高熱で焦がした赤ハーブの実を熱湯で煮出し、そこに蜂の巣から絞った蜂蜜を垂らしたものだ。香ばしくてほんのりと甘い、例えるなら酸味のある麦茶といった味わいで、これもなかなかに野趣がある。
 暖かい食事と飲み物、それも治癒効果のあるハーブをふんだんに使った献立のおかげだろう、座り込んだままだったD1の目にも、生命の光が強くなる。
 マントに包まったの身体だが、それでも精一杯背筋を伸ばして姿勢をただすと、改めて翠嶺に礼を言った。
 「ご助力に感謝します、『放浪の賢者(グラン・ローヴァ)』様。このような有様で申し訳ありません」
 「気にする事はない、D1。また礼にも及ばん」
 D1が口にした『放浪の賢者』とは、賢者の塔における翠嶺の称号のようなものだ。それは遥か昔、塔の設立に大きな役割を果たしたこの戦前種のみが、その命尽きるまで有することを許された唯一にして最高の称号である。
 「ひと心地ついたなら、いよいよ事情を聞かせてもらう所だが……その前に、無代よ」
 「はい、先生?」
 「これを」
 翠嶺が、持っていた二振りの槍をひょい、と無代に差し出した。
 「お預かり致します」
 翠嶺の行動は出し抜けのものだったが、無代は慌てることもなく、両手で捧げ持つように槍を受け取る。
 「これも」
 ふわっ、と自慢の帽子も差し出す。無代は受け取った二槍を片手にまとめてくるり、と背中に回しておいて、残った片手で帽子を受け取った。
 翠嶺が槍を預けたということは、無代を信用した、という証である。
 そして同時に、槍を手から離した翠嶺の雰囲気が、冬から春に交代した。 
 「では、お話を伺いましょうか?」
 打って変わった優しい声で、翠嶺は無代に微笑んだ。これにはさすがの無代とD1も一瞬あっけに取られたが、
 「ごめんなさいね。槍を持つとつい気が張ってしまって」
 そう言って微笑まれては、いつまでも変な顔をするわけにもいかない。
 「D1、説明はあんたに任せるよ」
 無代がそう言うや、預かった槍と帽子を持って座を退き、てきぱきと食事の後片付けを始めた。
 「え……?」
 そんな無代にD1、最初は少し不安そうな表情だったが、すぐに唇をぎゅっと引き結ぶ。
 考えてみれば、いくらこの事件に深く関わっているとはいえ、無代は本来、カプラ社とは無関係な人間だ。今、カプラ社とカプラ嬢について最も責任を負っているのは、デフォルテーのNo1たる自分なのである。
 無代があえて自分に説明役を譲ったのは、むしろ彼なりの激励だ。心身ともに弱ったD1に対して誠実に接してはくれるけれど、決して甘やかしてはくれない。
 ここは自分が腹をくくる場面だ。
 「……賢者様。これから申し上げる事は、カプラ社のみならずシュバルツバルドの、いえ世界の命運さえ変えかねない大事件です。どうかお力をお貸し下さいますよう」
 そう前置きして、D1は語り始めた。 
中の人 | 第十二話「The Flying Stones」 | 00:04 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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