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第十二話「The Flying Stones」(4)
 無代がその生を受け、そして子供時代を過ごした場所はアマツ・瑞波の国の首都『瑞花(みずはな)』の街、その北西に広がる『桜町(さくらまち)』と呼ばれる下町だ。
 瑞波という国は古来から、いくつかの土着豪族達によって分割統治されていた国である。それが近世、北方から進出してきた一条家によって征服・平定され、現在の姿となった。
 無代の故郷である桜町はその歴史の中にあって、侵略者である一条家の支配に抵抗した土着豪族達が最後まで立てこもり、ついには武装解除と引き換えに町の自治権を認めさせた、そういう複雑な背景を持つ土地だ。
 だがそれもあってか、お世辞にも上品とも裕福とも言いがたい反面、自主独立と自由の機運に満ちた活気ある場所でもあった。
 無代はその町で、ある有力な商人の『妾の子』として生まれている。
 父親は元々、無代の祖父が開いていた店で働いて力を付け、そこから腕一本で独立した商人だった。当時からやり手として知られていたそうである。
 それがある時、無代の祖父が商売に失敗(所有していた船が立て続けに嵐で沈んだ)し、その立て直しの最中に倒れて亡くなった際、店を救済するのと引き換えにその娘、つまり無代の母親を『囲いもの』としたのである。
 かつての奉公人が主人の娘を、それも妻ではなく妾にする。人としてあまり誉められた所行とは言えないが、しかし良く言えば自主独立、悪く言えば弱肉強食の桜町においては、まるっきりナシというわけでもない。
 また無代の父親にとって好都合なことに、無代の母親という女は典型的な『箱入り娘』だった。自力で店を建て直すなど到底不可能で、といって他に助けを求めようにも祖父が被った損失が巨額すぎ、損を覚悟で手を差し伸べてくれる者などいるはずもない。このままでは店は消滅、下手をすれば自分も野垂れ死に、という退っ引きならない状況では、そこに差し出された男の手に、一も二もなくすがりつくしかなかった。
 だから結局、無代の父親の所行もさほど悪評を呼ぶ事はなく、無代の母は小さな妾宅と仕送りを得、やがて生まれた一人息子と2人、町の片隅で暮らす事になったのである。
 無代にとっての母は優しく、またそれなりの礼儀作法や教養も身につけた女性だったので、その幼少期はむしろ幸せなものだった。
 「ですが何が気に入らなかったのか、親父は手前が生まれて以降、だんだんと妾宅に近づかなくなりまして」
 そんな父親の心境はよく分からないが、まあ元々がお互いに好き合った相手というわけでもない。かつての雇い主の娘を妾にし、さらに子どもまで産ませた事で、男としての支配欲を満たし切った、とでも解釈すべきだろうか。
 もっとも訪れる頻度が減っただけで、妾宅や仕送りはそのまま継続されていたので、父親が嫌いだった無代むしろせいせいしたという。
 が、無代の母親の方は、そうはいかなかった。
 筋金入りの箱入り娘で、誰かに頼らねば生きて行く事すらできなかった母親は、父に見捨てられる不安が原因で心を病んでしまう。
 まず外へ出かけることができなくなり、家事ができなくなり、やがて食べるものもろくに口にできず、しまいには寝床から起き上がることさえできなくなった。今で言えば、重度の鬱症状といった所だろう。
 そして同時に、母親の介護という重すぎる使命が、幼い無代にのしかかる。
 父親からの仕送りはそれなりの額だったから、とりあえず金はあった。だから最初は医者を妾宅まで呼び、診察を受けて薬をもらった。
 だが良くならない。
 我々の世界においては、既に鬱病は治る病気となっているが、それでも的確、かつ長く根気のいる治療が必要だ。一方、無代達の世界には治癒魔法が存在することから、身体の疾患を治す事は簡単でも、残念ながら精神や脳にかかわる病となればそうはいかない。最後は気の持ちよう、という明らかに間違った結論に医者が達するのも、やむを得ない事だった。
 「出来るだけ外に連れ出して気晴らしをさせよ。せめて自分の診療所まで毎日来させろ、と医者は申すのですが」
 無代がいくら言っても、母は寝床を動こうとしない。いや動きたい、動かなければという意思はあっても、それを実行することができないのだ。肉体を駆動するために必要な気力が、根こそぎ奪われたまま回復しないのである。こうなっては、まだ子供の無代にはどうすることもできない。
 「で、まあガキなりに考えた結果、手前で背負って行く事にしましたので」
 当時の事をどう思い出すのか、無代は笑いながら言う。
 が、まだ十にもならない少年にとって、それがどれほどの覚悟だったか。あるいはこのように笑って話せるようになるまで、どんな歳月を越えて来たか。それを慮れない翠嶺でも、D1でもない。
 おそらくは、想像を超えるような過酷な日々だったはずだ。
 まず寝間着の母を着物に着替えさせる、それだけでも大仕事である。髪の毛だってざんばらのまま連れ出すわけにはいかないから、それなりに梳かして整えてやらねばならない。下手をすればそれだけで半日仕事だろう。
 そして背中に背負う。
 まともに食事をしていない母の身体は、子どもの無代さえぞっとするほど痩せている。とはいえ成人の身体に違いは無く、子どもが背負うにはやはり重い。
 それでも無代は歩いた。医者の診療所までおよそ2キロほどだろうか、文字通り歯を食いしばって歩いた。
 桜町に暮らす人々の人情は、金さえ絡まなければ篤い。途中、声をかけてくれる人も、助けようとしてくれる人も、結構な数に上った。が、無代は丁寧にそれを断った。
 「その頃の手前と来たら、もう意地だけ。世間様より何より、自分らを見捨てた親父に対する意地、それでございましたねえ」
 無代がまた笑う。
 「親孝行? いえいえ先生、それは少々違うのでございます。母がこうなったのは『自業自得』。いえ、本当に手前はそう思っておりました」
 少し照れながら昔話を綴っていた無代の表情から、ふっと笑いが消える。
 「そこは手前も桜町の人間でございます。母のように人に甘え、その結果で身を壊した人間を哀れむ気持ちは、たとえ肉親でもございませんでした」
 この青年がどこまで本気で言っているのか、翠嶺もD1にも分からない。
 「ただ、病人や子どもといった本当の弱者には優しくする、それが決まりでございましたから、そうしておりましただけのことで」
 平坦な調子でそう振り返る無代の、その本当の気持ちが分かるとしたら。
 (それはこの世でただ一人、彼の異能の想い人だけだろうな)
 無代の語りを背中に聞く翠嶺の脳裏に、あの闇色の髪と瞳を持つ姫君の精緻な美貌が浮かぶ。
 さて、そうして無代母子の医者通いが始まって数日が経った頃、いつものように家を出た所で、無代に声をかける者がいた。
 「……なっちゃいねえな坊主。それじゃおっ母さまが苦しいばかりだぜ?」
 しわがれた、しかしよく通る老人の声に振り向くと、果たして想像通りの老人がそこにいた。
 小柄だががっちりとした体躯。日焼けの色が完全に染み付いた肌は、皺だらけではあるが艶は良い。厳しい仕事に長年携わって来た人間に特有の、鋭い眼光と一徹な表情は、気の弱い子どもならそれだけで泣き出してしまいそうだ。
 だが無代、少年といえども土性骨は既に一人前である。母親を背負ったまま、きっ、とばかりに老人を睨み返し、
 「俺らに言ったのかい? 爺さん?」
 「他にいねえだろうが」
 「手助けなら無用だぜ。気持ちだけもらっとく」
 無代が紋切り型にそう言い放ったその時だった。
 「ガキが一丁前な口を叩いてんじゃねえ!」
 カミナリ、と言うのにこれほどふさわしい怒声を無代はこの時、生涯で初めて聞いた。
 「そういう生意気は、せめて半人前のカツギが出来るようになってから叩きゃあがれ!」
 老人はそう怒鳴りながら、持っていた杖の先で無代のあごをぐい、と小突いた。母親を背負っている無代に、これを避けるすべはない。
 「な、何しやがるこの爺ぃ!」
 無代、目を吊り上げてキンキン声を張り上げるが、老人の杖は容赦なく無代を小突き回す。
 「いいから家に戻りゃあがれ! おっ母さまが青い顔してらっしゃるのが分かんねえのか、このド阿呆が!」
 ぐいぐい、と押されるままに、とうとう家の中に押し戻されてしまった。
 「座れ」
 ぐい、とへそ下を小突かれ、へっぴり腰のまま家の土間に座らされる。
 「いいか小僧、てめえのカツギじゃあな、てめえの背中がおっ母さまの腹を押し上げちまって、おっ母さまの息ができねえんだ。おっ母さまの手が冷てえだろうが、触ってみやがれ」
 老人の炯々とした眼光に押され、言われるままに母の手を触った無代の目が、驚きに見開かれる。
 「あ……」
 「ほれ見ろ、な?」
 あわてて母を背中から降ろす。母の虚ろな目が、それでも申し訳なさそうに瞬くのを、無代は胸の痛みとともに見た。健常であれば『苦しい』と訴えることもできたろうが、今の母親には我が子にさえ、それを伝えることができなかったのだ。
 「てめえの着物の帯を持って来い、小僧。背中のおっ母さまが苦しくねえ、真っ当なカツギってやつを教えてやる」
 老人の声からは激しさこそ消えていたが、幼い無代に有無を言わせぬ底力は健在だった。
 言われるままに、急いで替えの帯を持って来る。
 老人はそれを受け取ると無代を立たせ、
 「まずはこの帯をこう結ぶ。そしたらこことここを肩にかけて……そうだ。したら次は両側に余ったやつをこう……違う、そうじゃねえ、こうだ。……よし、これが『背負い帯』だぜ。さ、もっぺんやってみな、今度は自分でだ」
 手順の一つ一つを丁寧に教え、最後は無代自身にやらせてみる。
 無代、一発でできた。
 「……よし。じゃあ次はおっ母さまを背負ってみろ。いいか、まず脚を開いて腰を落とせ。便所で大きいのをやる格好だよ。そうだ。そんでおっ母さまの身体の下に手を入れて、自分のケツの重さで重心を取って……」
 母親に負担をかけず、しかし一息で背中に背負う要領を、老人は杖と言葉で丁寧に教えてくれる。
 これまた一発でできた。
 器用であることも事実なのだが、何といってもこの無代という男、『観察眼』が優れている。小手先だけでなく、教えてくれる人物の心の中までそっくり観察し、そのまま自分の心に写し取るような、まっさらで素直な目を持っているのだ。
 それが後に、ある人物から『文字』を習い、彼自身の運命を変えてゆくことにつながってゆく。
 「よし、そうやっておっ母さまが背中に乗ったら、帯のここんとこにおっ母さまを乗っけるようにする。ただし、頭を下げるな。腰を落として、背中を伸ばせ」
 老人の言う通りにやってみる。が、今度は立ち上がれない。
 「まだ力が足りねえな。だがそこが要領だ。大丈夫、ガキでもちゃんと背負わせてやる」
 老人の杖が無代の脚やら腰やらをとんとん、と小突き、身体の使い方のポイントを叩き込んで行く。
 「立ち上がったらいっぺんだけ前にぐっと倒れて……そうだ。そうやっておっ母さまを背中に乗っけといてから、ぐっとケツを落として、腰から上を真っすぐにする。倒れる時間をできるだけ短くしねえと、おっ母さまが苦しいからな」
 ここが一番肝心な所なのだろう、老人の言葉にも力がこもる。だが、まだ子どもの身体しか持たない無代にとっても、さすがにこれは簡単ではない。
 「……っ!」
 がくがくと膝が笑い、一瞬でも気を抜けば後ろざまに尻餅をつきそうになる。
 「辛抱しろ! 背中に乗ってんのはてめぇのおっ母さまだ! 何があろうが落とすんじゃねえ! お天道様に顔向けができねえぞ!」
 老人の鋭い声が響く。
(……ちきしょう、分かってらぁ! ……こんちきしょう!)
 限界を超えた負荷を受けてぶるぶると震える身体で、しかし無代は気力を振り絞り、何とか姿勢を維持する。
 しかし立っているだけでこの疲労だ。診療所までは2キロ。
 (あ、歩けるのかよこれ!?)
 無代でさえ頭に疑問符が浮かぶ。だが、老人の声に揺らぎはなかった。
 「大丈夫だ。背負ったおっ母さまの重さを先に出す、そういう気持ちで脚を出してみな」
 子どもの無代には、そんな老人の言葉がよく理解できなかったが、逆に理屈抜きでその通りにやってみたのが良かったらしい。
 ぐっ、と一歩を踏み出すと、意外にもちゃんと歩けた。いや、むしろじっと立っているよりも、そうして歩いていた方が楽な事に気づく。
 「分かるか小僧。お前は今、おっ母さまの重さに引っ張ってもらってるんだ」
 運動力学的には、重心の移動を体幹でコントロールしながら筋肉の負荷を減らす、とでも言うのだろう。が、その時の無代にそんなことは分からない。ただ老人の言葉が、まさに実感として身体に刻み込まれるのがわかる。
 「いいか小僧、てめえが背負って行くんじゃねえ。背負われたおっ母さまに、てめえが引いてもらうのだ。いいな、それを忘れるんじゃねえぞ?」
 そこから先、医者の診療所まで歩く無代に、老人はただ無言でついてきてくれた。そして診療所に到着し、母親を降ろした無代が、まさに精も根も尽き果てて崩れ落ちるのをひょい、と杖で支え、診療所の板の間にごろん、とひっくり返しておいて、そのままぷい、と姿を消してしまう。
 名乗ることもなく、どこの何者かも分からないまま、それきり老人の顔を見ることはなかった。
 が、無代は彼の教えを守り、診療所通いを続けた。元々成長期で、かつ人一倍丈夫な身体だ。どれほど疲労していても、喰うモノを喰って寝るだけ寝ればちゃんと回復するし、必要な筋肉や骨もずんずんと追いついて来る。
 半月もすれば、2キロの道のりすら鼻歌まじりになった。
 「気晴らしに散歩でもさせておやり」
 医者にそう言われ、母を背負ったままあちこちに出かけるようにもなった。
 港を出入りする船を眺め、寺の門前でにぎわう露天を巡り、緑色の風をはらむ田んぼを歩き抜けた。
 背中の母に、一方的に色んな話をした。同じ下町の、子分のような子ども達から仕入れたバカ話を、面白おかしく、何度も何度も繰り返すのだ。
 しかしそれでも、背中に背負った母の心が蘇る事は、ついになかった。
 夏が過ぎ、秋が来る頃、母は高熱を出して寝込んだ。こうなっては気晴らしどころではなく、無代は妾宅に医者を呼ぶしかない。
 母の熱は3日続き、そしてとうとう4日目、その命が燃え尽きる時が来た。
 丸一年、息子と言葉を交わす事も無いままだった母がその時、最後にそっと目で何かを訴えるようにしたので、無代はもう一度、母を背中に背負ってやった。
 実のところ無代には、母が本当は何を言いたかったのか分からなかった。だから子供なりに、自分が母にしてやれる精一杯の事を、もう一度繰り返したのだ。
 美談として語るほどのこともない、本当にただ、それしかできなかったのである。
 空が嫌みなほど青い、静かな秋の午後の事だった。
 
 無代の『子供時代』はこうして、終わりを告げたのである。

 
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