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第十二話「The Flying Stones」(5)
  「おっと、これは申し訳ございません。湿っぽくなってしまいまして」
 無代が、その無骨な両手をごしごしとこすり合わせながら苦笑した。
 「ここからは暗い話はございませんので、どうぞご安心を」
 わはは、と笑う声は、言うまでもなく照れ隠しだろう。
 さて前述の通りこの桜町の人情は、金さえ絡まなければ篤い。無代の母の死を知るや、近所の大人達がわーっと集まり、僧侶を呼び、炊き出しをし、あっという間に葬式が出た。無代はただ着物を着替え、神妙に座っているだけでよかった。
 父からの仕送りがあるため、決して金持ちではないが貧しいわけでもなかったので、こんな時のためにと貯めておいた金を、近所のリーダー格のおばさんに渡そうとしたのだが、
 「坊さんへのお礼だけでいいんだよ。坊主丸儲け、ご近所お互い様。そういうものなのさ」
 と、笑って突き返されてしまった。
 さて葬式から一夜明けた朝、近所の長屋に住む宮大工の棟梁が、まだ寝ていた無代を尋ねて来た。ほかにも同じ長屋の鍛冶屋の親方、畳屋、仕立て屋、指物師など、職人達がずらりと顔を揃えている。
 何事か、と目を丸くする無代へ、
 「昨日の金で、一等良い酒を買って来い」
 何が何やらわからないまま、近所の酒屋を叩き起こして『銀月』の特級酒をあつらえて戻って来ると今度は、
 「それ持ってついて来い」
 言われるまま連れて行かれた先は、町外れに建つ一軒家だった。構えは小さいがしっかりとした作りで、ちょっと贅沢な隠居所、といった雰囲気だ。その玄関へ向かって大工の棟梁が声をかけると、中から聞き覚えのある声で返事があり、趣のある格子の引き戸が内側から開かれる。
 「よくおいで下さいました、無代さん」
 別人のように丁寧な言葉遣いで、にっこりと微笑みながら無代を出迎えてくれたのは果たして、無代にカツギを教えてくれたあの老人だった。
 遠慮する間も与えられず家に招き入れられ、座敷に座らされる。
 「このたびはまことに……」
 と、一通りの悔やみの言葉を受け取り、代わりに持参した酒を渡すと、
 「これは嬉しい。いや、ありがたく頂戴します、無代さん」
 変な遠慮をせず、本当に嬉しそうに気持ちよく受け取ってくれた。
 そしてその時、無代は改めて老人の正体(というほど大げさなものではないが)を知ったのである。
 「それで何者だったのだ、そのご老体は?」
 「はい先生、それが大変な方だったのでございますよ」
 翠嶺の問いに、ここが聞かせどころとばかりに無代が声を弾ませる。
 「アマツ最大の霊峰・四貢(しぐ)山のカツギ衆を束ねる大(おお)棟梁。それを実に20年に渡って勤め上げ、生涯に拝登すること2000回、恐れ多くも今上様(天皇のこと)を御カツギ申し上げたこともある、という名人でいらっしゃいましたので」
 無代の声に懐かしさがにじむ。またこの長い台詞をすらすらと言えるところから察するに、この話を人に語り聞かせたこと、一度や二度ではないのだろう。
 「手前が知り合った頃はもう、持っていた棟梁株をお弟子さんに譲って引退なさり、現役時代の蓄えとお弟子さんからの仕送りを糧に、瑞花の街で余生を過ごしてらっしゃいました」
 無代の言う『四貢山のカツギ衆』といえば『魔法御法度』、つまり人力のみでしか登ることを許されない神域の中で、4000メートル近い山頂まで人やモノを担ぎ上げる職人集団である。ほんの短い夏の間だけ、それでも変わりやすい天候により、猛烈な風雨にさらされることもザラ、という厳しい自然と戦いながらのカツギ仕事は、実に10人に1人も五十路を迎えられない、というほど過酷で危険なものだ。しかしそれ故に、貴賎を問わず幅広い人々から尊敬を集め、特に瑞波、いやアマツじゅうの職人達が憧れる花形の職業。それが『四貢のカツギ』という存在だった。
 その中でもこの老人は、もはや『生きた伝説』として語られるほどの大物。道理で無代をここまで連れて来た親方衆が大人しいはずだ。彼らにとってはいわば、子供時代のヒーローが目の前にいるようなものなのである。
 その老人が無代を前に、ゆっくりと話し始める。
 「そちらの皆様にお願いをされましてねえ。おっ母さまを毎日医者に運んでいる無代さんに、カツギを教えてやってほしい、と」
 そう言ってくしゃっと目を細めると、もう目だか皺だか分からない。
 「そう言われてもアタシのカツギは、十やそこらの子供にゃあちと難しい。ホントのトコ、見るだけ見て帰ろうと思っておったのですが……無代さん、アンタなかなかおやりんなる」
 ニカっ、と老人の顔が悪ガキのそれになる。
 「初歩の初歩たあ言っても、普通は憶えるのに半年、要領の悪りぃ野郎なら一年かかってもおかしくねえ話なんですがね。それを一発たあ、うん、なかなかのもんだ」
 かかかかっ、と笑うと、口の中のすり減った歯が剥き出しになる。過酷なカツギの仕事で、歯を食いしばりすぎてこうなったのだ。
 「だが、いい気になっちゃあいけませんよ、無代さん」
 その顔が急に真面目になる。
 「アンタが上手くできたのは、ひとえに背中のおっ母さまのお陰なんだ。大事な人が、大事な人にカツがれていたからですよ。あれが他所様だったら決して、ああは行きませんでした」
 妙な言い方だが、効果的なお説教というものがあるとすればこういうのを言うのだろう。ただ怒鳴られ、殴られるよりも、よほど骨身に堪える話だった。
 「しかし、あの気持ちを忘れずに精進すれば、無代さん、間違いなくアンタ一人前のカツギになれる。お気の毒におっ母さまが亡くなられて、もしこの先行く所がないようなら、いつでも四貢の御山に紹介してあげる」
 お世辞ではない、本気で太鼓判を捺そうとする老人に、しかし慌てたのは無代の後ろに並んで座っていた大人達だった。
 「そ、そいつはいけねえ大棟梁! そりゃあ『抜け駆け』ってものですよ!」
 宮大工の棟梁、鍛冶屋の親方ら、桜町でもいっぱしの名を持つ職人達が、一斉に抗議の声を上げる。
 「その小僧、無代って奴は、昔っからここの皆が狙っておりますので。いくら大棟梁でも、横から攫われちゃあ敵わねえ!」
 そういうことだった。
 下町のガキ大将として育ち、あちこちの店や工房に出入りしては仕事を手伝い、誰とでもバカ話をして帰って行くこの少年を知らぬ者はいない。そして、
 「ありゃあ磨けばモノになるぜ、なあ?」
 口を揃えてそう言い合いながら、その成長を見守って来たのである。
 「おっとっと、そうだったのかい。……いや、そうだろうなあ。そうでしょうとも。うんうん、そうでなくちゃいけねえや」
 かかかっ、と笑う老人の目が、優しく無代に注がれる。
 「いいかい、無代さん。ワシら職人ってのはねえ、自分が命がけで磨いた技が、自分が死んだ後もなお世の中に残って、それが人様のお役に立ち続ける、それを一番に望むものなんですよ。そしてアンタにゃあ、それができる」
 しみじみと言うその表情には、一生の仕事をやり遂げてなお、己の技に誇りを持ち続ける者だけが持つ風格が滲む。
 彼をヒーローと慕う大人達が、それに魅せられぬわけはなく。そして子供時代を終え、大人へと向かう階段に脚を乗せた無代もまた、まだ未熟なその言葉では言い表せないものが、その身体を貫くのを感じた。
 俗にいう『痺れた』というやつだ。。
 「いいかい、無代さん。納得いくまで選んで、そして良い師匠に奉公なさい。したら、きっと良い仕事をして、良い弟子を育てて、世の中のお役に立って下さい。それが私やそちらの親方衆への、何よりの礼ですよ」
 そう言われて白髪の頭を下げられても、
 「ガキの頃の手前には、どう答えようもございませんで。何かもごもご、しまらない事を言ってお暇した、そんな記憶しかございません」
 今や青年となった無代にとっては、もう苦笑いするしかない『やってしまった記憶』のようだった。

 ところで、この時の無代は語らなかったが(というか無代自身は知らない話なので無理もないのだが)、この話にはちょっとした後日談がある。

 母の死後、無代は結局、下町の誰に奉公することもなく、実の父親であるあの商人の元へ行き、
 「あんたの貿易船に乗せてくれ。掃除でも荷役でも何でもする。メシさえ喰わせてくれれば、給金も寝床もいらない」
 そう言い放って、その通りになった。無代を欲する人々の元を離れ、逆に彼を捨てた父親の道を歩き始めたのである。
 「親父への意地返しか。まあそれもアイツらしい」
 カツギの老人をはじめ、無代を知る大人達は残念がりながらも、無代の後ろ姿を見送ったものだ。
 だがその数年後、彼らの間に不穏な噂が立った。
 「無代の奴が侍と付き合っている。だが、そいつがちょっと怪しい」
 というのだ。
 その『怪しい侍』だが、どうも身体が弱いらしく身体は痩せ、まだそれほどの歳でもないのに総白髪。ただ金があるのは間違いなく、身につけた着物も履物も上等で、何より瑞花・桜町で最も格式の高い遊郭『汲月楼』の常連だという。
 しかもあろうことか、汲月楼において別格に『お高い』遊姫である『佐里』の客だというではないか。
 これはただ事ではない。
 佐里、本名を『サリポーン』というこの遊姫は、元々アユタヤの王族に連なる貴姫だったが、同国で起きたクーデターのあおりで命を狙われ国を脱出、この瑞波にやってきて遊姫に身を落とした、という曰く付きも曰く付きの女性である。
 よって佐里、遊姫であって遊姫ではない。何せ桁違いの美貌はもちろん、行儀作法に学識芸道歌舞音曲何でもござれ、という本物のお姫様なのだ。となれば、もう店にとっても『売り物ではございません』の扱いで、客がいくらの金を積み上げようとも、佐里が『嫌』と言ったら最後、その顔を見る事すらできない。
 だからこそ『佐里の客』というからには、それこそ桜町の理をねじ曲げるほどの金か、もしくは権力の持ち主でないとおかしい。だが下町の職人ならではの情報網を持つ大人衆をしても、その正体がさっぱり分からない。まして高級遊郭である汲月楼が、まさか客の素性を明かすはずもない。
 「何でもえらい『色男』だそうだが、佐里をたらし込んだ、ってことは……ないよなあ?」
 大人達は雁首を並べ、その首をひねり、
 「無代の奴、ヤバい話に巻き込まれたんでなきゃあいいが」」
 と、少年の身の上を本気で心配したものだった。
 『怪しい侍』の、その正体。
 無代という少年の人生を、この街からそっくり連れ去って行った、その侍が何者であったのか。
 そしてその行き先が、どこであったのか。
 彼ら大人達がそれを知り、比喩でなく腰を抜かして仰天するのは、さらにもう少し後のことになる。
 それを知った彼らは悔しさと、寂しさと、そして溢れんばかりの嬉しさを杯に乗せ、酒を酌み交わしながら、
 ああ畜生、やられた。
 ああ悔しい、だが仕方ねえ。
 ああ、仕方ねえ。
 そういうことなら仕方ねえ。
 
 「無代の野郎、天下へ奉公に上がりやがった!」

 口々にそう語り合いながら、夜が更けるまで杯を重ねたのである。
 『無代の天下奉公』。
 後に様々な形で語られることになる、その伝説の一幕はこうであった。

 「……なんだか申し訳ないな。そんな凄い技で背負ってもらってるなんて」
 無代の背中で揺られるD1が、本当に申し訳なさそうに呟く。が、無代は笑いながら、
 「馬鹿言っちゃいけねえよ。俺のカツギなんざ技のうちにも入らねえ。半人前の半人前さ」
 10年早い、とはこの事だよ、と自嘲しておいて、
 「遠慮なく背負われてっておくれよ。半人前の分、お代はいらないからさ」
 軽口で締めて、またわっはっは、と笑う。
 それにしても良く笑う男だが、決して軽薄には見えない。と言って無理に明るく振る舞っている、という風でもない。人に対しても何に対しても、自然とそのように相対するように、自分を磨き鍛えたものだろう。
 「蛇足ではございますが、手前とそのカツギの大棟梁とは、実はその後にもう一度だけご縁がございましてね」
 無代が、その老カツギや桜町の大人達の話をする時の声がとても優しい事に、翠嶺もD1もとっくに気づいている。
 「ご紹介を頂いて、一夏の間だけのカツギ衆として、四貢の御山へ登らせて頂いたのでございます。大棟梁も『ついでの登り納めだ』と一緒に御山まで来て下さいまして……有り難い話でございました」
 本格的なカツギの技と山の作法、山の暮らし方はその一夏の間に叩き込まれたのだという。
 さて、無代ら一行が歩く道は、いつの間にかだらだらと長い登りになっており、山というほどではないが峠越え、といった様相を呈している。相変わらずろくな道もない山中だが、先導する翠嶺の脳裏には取るべきルートが鮮明に刻まれている様子で、その軽快な足取りに迷いはない。こうなれば無代も、全幅の信頼を置いて追随するだけでいい。
 そんな中でも無代、休息の度に、
 「少々失礼を」
 と言ってどこかへ消えたと思うと、また両手に山芋だの果物だの茸だの、驚くほどの量の食材を下げて帰って来るのだ。『シュバルツバルト』の国名にもなっている名物の『黒い森』だが、この辺りになると既に森林限界高度を超えており、だから大して木も生えておらず、痩せて浸食の進んだ岩がちの山肌がむき出しになっているだけ。とても食材などあるようには見えないのだが。
 「どこででも暮らせそうだな、無代」
 翠嶺がからかうと、
 「いえいえ、そう簡単には参りません、先生」
 しかし無代は意外に真面目な顔で、
 「この一帯でこれだけの食材を獲りますと、次に同じだけ獲れるのは半年、下手をすると一年後でございますよ」
 気候の厳しく地味も痩せた山が、その力を振り絞るようにしてわずかに与えてくれた食材。だからこそ『山の御宝』なのだ、と、また手を合わせるのである。
 やがて日も傾いてきたが、まあこんな男が世話をするのだから、たとえ十分な装備がなくても野営の一泊ぐらいは楽なものだ。
 山の夜は冷え込みが厳しいけれど、無代は荒風を避けられる岩陰を選んで地面に大穴を堀り、そこに翠嶺の魔法で溶岩化する寸前まで熱した大岩を落とし込んで、上から厚く土をかけた。それだけで簡易の地熱暖房となり、岩陰の小さな空間が朝まで暖められ、火を使わなくても凍えることなく過ごせるのだ。
 水を得るのは逆に、魔法で超冷却した岩を風に晒しておき、表面に凝結した水分を集める。
 「岩の表面を一度、炎の魔法で焼いて頂きますと殺菌になりますので」
 岩の表面を奇麗に磨き、さらに水を集めやすいよう細い溝をいく筋も彫り込んだのも無代だ。
 翠嶺とて、戦前種としての長い寿命の中で、魔法を多方面に役立てる方法を知らないわけではない。だがその翠嶺でさえ無代が駆使する知識、というか知恵は、翠嶺のそれよりも遥かに豊かで血の通ったものだ、と認めざるをえない。
 「とんでもございません」
 だが無代は真顔でそれを否定する。
 「これを手前が考えた、というならお褒めに預かるのも結構でございますが、どれも人様から教えて頂いた知恵ばかりでございます」
 褒めるなら、自分にこれらを教えてくれた先達の皆様を、と言うのは決して謙遜ではなく、本当にそう思っているようだ。
 水と食べ物と暖かい住処、これに翠嶺が近くで獲った『ゴート』という、こちらで言う山羊に似たモンスターの毛皮を敷けば、いっそ快適と言って良いぐらいの住み心地である。
 「一刻を争うとは申しましても、休息も大事でございますから」
 という無代の言を入れ、一行はこれまで以上にゆっくりと食事をし、山を渡る風の音を子守唄に一晩たっぷりと睡眠を取る。
 結果として、これが大正解だった。翌朝、まだ暗いうちから目を覚ましたD1が、心身ともに驚くほどの回復を果たしたのだ。
 ぎゅっ、ぎゅっ、と鈍った身体に活を入れるようにストレッチをするD1の姿に、
 「俺をボコった時の勢いが戻ったな、D1」
 からかい半分で声をかける無代へ、D1は神妙な顔を向け、
 「色々迷惑をかけた。ありがとう、無代」
 虚勢でも、また力が入りすぎてもいない自然体。元々、カプラ嬢の頂点に立つ極めつけの女性だけに、そうすると逆に凄みすら感じる。短い時間ではあるが、無代と翠嶺という絶妙のサポーターを得た幸運が、彼女に本来の輝きを取り戻させつつあった。
 「よかった。じゃあ、こっからは自分で歩けるな」
 「もちろん」
 返す笑顔にも余裕がある。
 「準備ができたら出発するぞ」
 翠嶺は既に槍を手にし、無代も一晩がかりで貯めた水を水筒に詰め、夜具にしていたゴートの毛皮をマントのように羽織って(お陰でただでも珍妙な格好が、余計に変になっていたが)準備を済ませている。
 「いつでも結構です、賢者様」
 D1の言葉に頷いた翠嶺が、再び一行を先導して歩き出した。道はかなり険しい登りで、しかも昨日よりさらに速いペースだが、荷物が大幅に減った無代はもちろん、回復したばかりのD1もちゃんと追随してくる。
 ひときわ高い尾根に上り詰める頃、朝日が一行に追いついた。
 陽の光をはらんだ尾根の風が、D1のルビーブロンドを眩くなびかせる。
 その時だった。
 「……先生!?」
 その風の中に異常を感じた無代が、先を行く翠嶺の背中に鋭い声を投げる。 
 翠嶺の足が止まる。
 「大丈夫、慌てるな。最後の最後で、ツキが回って来たようだ」
 優美な手のひらを額にかざして朝日を避けながら、遥かに空を透かし見る翠嶺の表情が、満足そうに緩んだ。
 その視線の先に何があるのか、無代とD1がその目に映すそれより早く、二人の耳に届いたのは『音』だった。
 
 ぶぅぅぅぉぉおおおんんん!!!

 遥か高空に漂う朝の空気を、底知れぬ力強さで震わせる、それはプロペラの音だ。澄み切った朝の風に乗り、白く尾を引く雲を越え、一行の元に届いてくる。
 「あれは……飛行船?!」
 朝の光の中に巨大なシルエットが見えて来る。無代はもちろん、D1さえ初めて見る、左右二つの気嚢を備えた双胴の飛行船。
 「賢者の塔が建造した新型飛行船『マグフォード』。ここで遭遇できるかは賭けだったが……これはお前達の運かも知れんな」
 遠く空を行く双胴の巨鯨を見据えながら、翠嶺が笑顔を見せた。
中の人 | 第十二話「The Flying Stones」 | 00:18 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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