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第二話「The Sting」(6)
 善鬼が天臨館に連れて来た一隊は、城に常駐する最精鋭の兵ばかりである。
 それが、いっそ見事なぐらいに圧倒されていた。
 凛とした流の口上に。
 艶やかな綾の花武者ぶりに。
 鮮やかな静の勝ちどきに。
 堂々たる巨大な旗に。
 そして、若者たちの熱狂に。
 それらは所詮演出でしかなく、精鋭たる彼らがその気になれば、それこそ一瞬で制圧できるたぐいの物にすぎない。
 綾でさえ、彼らが総力を挙げてかかれば押さえ込むことは可能だろう。
 それでも、彼らはその目を奪われた。耳も奪われた。
 内心で、「ガキの遊び」と馬鹿にしていたものに、完全に圧倒されていた。
 経験を積んだ実戦部隊でさえそれである。
 戦場をほとんど経験せず、書類と格闘してきた官僚武士たちときたらもう、魂まで吹っ飛んだような顔だ。
 「…」
 微動だにしないのは善鬼一人。…いや、彼とてよくよく見れば、変化はある。
 その口元の、ほんのわずかな笑みに気づいた者はいなかったが。
 (…やるものだ)
 いざとなれば、若君に助け舟の一つも出さねばと用意してきたものが、一切無駄になった。が、それすら頼もしい。
 この男が、もう完全に成り行きを見守るつもりになっている。お手並み拝見、という姿勢である。
 (…お、『次』が来たな…)
 香だ。流が気づく。
 す、と流の右手が上がった。
 それを合図に、すう、と勝ちどきが止まる。
 善鬼も歩き出した。供の連中ものろのろと動き出す。
 流の前まで来ると、膝をついて畏まる。
 「若様、善鬼めがまかりこしました。このたびの勝ち戦、まことにめでたく存じ上げまする。また綾姫様、静姫様にあらせられましてもご無事なお姿を配し奉り、善鬼、胸を撫で下ろしましてございます」
 「うむ、大義である」
 流が代表して応える。
 「また若様。不測の事態に対する万全の備え。さらには犠牲を一人とて出さぬお見事なる御采配。この善鬼、感服いたしましてございます。若様のおられる限り一条家、ひいては瑞波の国は未来永劫大安泰にござりまする」
 いささか大仰に聞こえるが、武家の跡取りが初陣を飾ったとあれば、これでも大人しいぐらいである。
 もっとも、流の方に初陣の感慨などない。
 (俺の初陣、初勝利は『天井裏』だからな〜)
 内心は白け気味である。
 「うむ。善鬼、面を上げるがよい」
 流と善鬼、二人の視線がぱちん、と火花を散らし、すぐに凪いだ。
 先ほどの、門を挟んだ問答によって、既に話の方向性は決まっている。もう火花を散らす必要は皆無だ。
 『観客』として連れて来られた官僚武士たちには、もう天臨館への処罰意識はない。逆に、どんな褒美で酬いるのがよいか、というレベルまで話が逆転しているはずだ。
 口上の終わった所へ、香が来た。
 「これは…香姫様にあらせられましても、ご無事で何よりに存じまする」
 「ありがとう善鬼。…館内の器が割れてしまって、ねぎらいの茶の一つも出せませんが…気持ちだけでも汲んで下さい」
 供のジャスミンが差し出す盆の上から、香が手ずから器を受け取り、流と善鬼に手渡す。
 流は悠々と、善鬼は畏まって受け取り…判で押したようにその視線を止めた。
 「天臨館の竹林の竹で器を作り、井戸の水を汲みました」
 香がしれっと解説するが、嘘である。
 器の中身は空だ。
 その代わり、香が自分で書いた文字がびっしり。
 『舞台の上の役者』にしか見えない、『舞台裏』からの伝聞。
 「…これは風流だな」
 「…もったいのう存じまする」
 流と善鬼が飲んだ振りをし、礼を言って器を返す。
 「どうだ善鬼。天臨館の水の味は」
 「結構至極。染み入りましてございまする」
 つまり、伝聞を承諾したということだ。
 あとは演じ切るのみ。
 「どうだ善鬼? 余の申した通り、天臨館に守備兵など不要であろう? ここで学ぶ者全てが兵であり、石垣であり、堀であるのだ」
 「御意にございます。以後は学徒による守備に重点を」
 つまり、一定の自治を認めるということだ。
 学徒による防衛が完璧であったとなれば、不在の教職員の責任も軽減されてよい。
 「となれば善鬼。学徒全員の帯刀を許すのがスジであるな?」
 「ごもっともに存じます。ただし私闘は厳禁」
 「無論。許可なく抜刀すれば厳罰」
 全員帯刀。それは館内での身分差の消滅を意味する。
 武士と平民、その垣根が一時的にとはいえ消滅することは、この時代に会って衝撃的な出来事である。
 が、まさにこの制度により、この後の時代、多くの人材を生み出す母体の礎が出来上がるのである。
 自治と特権。
 それは国の中に作られたもう一つの国だ。
 そこは若き才能の揺りかごであり、また時には国と対立する頭脳の避難所ともなっていく。
 後に『世界最強の実践教育機関』と謳われたその場所の、それはもう一つの原点。
 流と無代、そしてその仲間たちが夢として描いてきたものが、今こそ形になろうとしていた。
 初陣を大勝利で飾った世継ぎが提案し、筆頭御側役がうんと言えば、それは実現する。
 ただし、流の誉れが『熱いうち』でなければならない。事務方の頭が冷えてからでは遅いのだ。
 『勝ったんだから、それぐらいいいだろう』という、いわば『ノリ』でOKを出してしまう。そのタイミングこそが重要である。
 『舞台裏』が狙ったのは、まさにそのタイミングだった。
 
 「よーするに、お武家なんてのは戦に勝ってさえいりゃいいのさ」
 無代が述懐するところである。
 「向こうはご褒美のお小遣いやる気になってんだから、そこで予定より多くもらうのガキの基本スキル」
 …だそうである。

 「…ところで若様。こたびのテロの下手人を捜索せねばなりません。生徒の詮議、よろしゅうございますか?」
 善鬼の言葉に、生徒がざわめく。詮議、つまり取り調べを行うということだ。
 「…む」
 流が躊躇してみせる。そこに、
 「その必要はございません。既に下手人は捕らえてございます」
 流の後ろに控えていた香が声を上げた。
 そこにいる全員がえっ、と驚く。当然だ。
 「下手人をこれへ!」
 周囲の驚きを尻目に、香の指示。偵察、伝令の両班長、ロルーカと劉に両脇を抱えられ、一人の男子生徒が引き出されて来た。
 抵抗したらしく、顔は無惨に晴れ上がっている。
 男は流と善鬼の前に押さえ込まれ、洗いざらい吐かされる。
 好きだった女に振られてカッとなり、モンスター召還のアイテムである『枝』を使った。
 『枝』は海外渡航の土産に買って来たもので、こんなことになるとは思わず、まことに申し訳ない。
 この男の処分も、その場で決まった。
 男は流の手から、館長以下で構成される懲罰委に渡される。詳細は館内で調査の後、後日善鬼に報告される、ということになった。
 …つまり、何もしないということだ。
 そして最後の場面。
 「この大馬鹿者が!」
 流の豪腕が男に炸裂し、その身体が遥かに宙を飛んで、中庭の池に落下する。
 その水柱をもって、幕引き。
 無代、十七歳の初夏。
 『天臨館史上初の退学者』。
 その伝説がここに誕生した

 後日談を記そう。
 当たり前のことだが、善鬼はテロの背景を徹底的に洗わせた。
 無論内密にだ。
 そして翌日には真犯人を見つけ出した。というより、最初からある程度の目星はついていたらしい。
 それは、天臨館の前身である寺の僧侶で、寺が廃絶されたことを恨みに思い、敷地の中に密かに封印されていた河童を解き放った、というのが真相であった。
 寺の廃絶の原因が、他国との麻薬取引だったことを思えば逆恨みもいいところである。
 僧侶と、その真相は闇に葬られ、結果として誰も重い責任を負わされずにすんだ。
 が、町奉行笠垣桐十郎は、自ら職を辞したという。笠垣桐十郎。その名は記憶しておいていただいてよい。

 さて、全ての罪をひっ被って退学させられた無代は、めでたく実家からも勘当された。
  とはいえ無代、もともと妾の子であり、実家の姉弟や義母からは目の敵であったから、いっそ清々したというのが本音である。
 実母も既に亡く、実家に依存する理 由はもうなかった。もしも実家の面々が、無代と一条家の特別な関係を知っていたなら、間違っても勘当などしなかったろうけれど。
 家を出た無代は、城下のボロ長屋に安い家賃で転がり込むと、さっそく屋台を一つ引っ張って来て『肉まん屋』を始めた。
 それも天臨館の正門前で。
 で、これが大当たりした。
 最初こそ、『騒動の張本人』という事情しか知らぬ者から石が飛んでくる事もあった。が、何せ一条流とその取り巻き、つまり天臨館をシメている連中がことごとく屋台の常連になったので、すぐにそれも治まり、昼時には行列ができるまでになった。
  これまた余談だが、無代は同時に『人生最大のモテ期』に突入。相当数の告白を受けたものの、なぜかいずれも断っている。唯一の例外はあのジャスミンで、こ の女性だけは押しの一手で付き合うことに成功したものの、やはり長続きはしなかった。彼女は傷心のまま故郷のモロクに帰ってしまったが、その後、モロクの崩壊時に瑞波から、天臨館の仲間を中心とした相当数の義勇隊が派遣されたのに感じ入り、再び瑞波の旗下に戻ることになる。
 あとロルーカからも、男同士の熱い告白を受けたが、余談に過ぎるので割愛する。
 もっともロルーカの『狙い』はあくまで『一条流その人』なので、こちらは大した問題にはならなかったようだ。

 香は、無代が退学になると同時に、とっとと天臨館から姿を消した。
 ただその前に、無代に謝罪することは忘れなかった。例の、無代が流にボコられた直後のこと、さすがに力尽きて医務室に担ぎ込まれた無代の枕元。
 「…睨んだり…キスしたり…色々ごめんなさい。許してくれとは…言えないけど…」
 「…いいって。結局命の恩人だしな。…河童倒したの、凄かったぜー」
 「…あ、あれは…夢中で…」
 「カッコよかったって」
 「う…」
 ここは喜んでいい所なのかどうなのか。
 「…じ、じゃあ、私行きます。…もう迷惑かけないから…。その…忘れて下さい。…さよなら」
 「…」
 無代は無言。
 何か言ってほしかったけれど、要求できる立場でもないので、無理矢理背中を向ける。
 (!!!!馬鹿馬鹿馬鹿何でよもったいないカッコつけんな今だ今しかない行け押せ一気に落とせ大丈夫落ちるから諦めるなやってみろ!!!!)
 さっきから『子宮』が猛抗議の雨を振らせているが、全て無視。
 (抗議抗議抗議! 幸せになりたくないのか!)
 (…なりたい)
 (疑問疑問疑問! 論理的説明を要求!)
 (…でも、あの人に幸せになってほしい。同意要求)
 (同意)
 あっさり折れた。思考が統合される。
 いずれこの身は呪われているのだ。母と同じ運命をたどるなら短命も確定的。子供ができれば高確率でその子も呪われる。
 誰かの側で生きることは、それ自体が加害行為。
 この身は毒。
 ほんの一時間前までは、それも含めてどうでもいいことだった。
 でも今は。
 叶う事なら幸せになりたいと、今は願う。
 だがそれをかき消すほどに、あの人に幸せになってほしいと、今は祈る事ができる。
 そのためなら、自分などどうなっても構わない。
 (そのためなら、魔でも神でも…即座に排除する。全器官同意?)
 (同意)
 香は歩き出す。

 「おう。無代、生きてるか?」
 香と入れ替わるように、流が来た。善鬼は帰ったらしい。
 「死んでるよ…流…お前が手加減してくれたことは知ってるが…」
 「いや? 別に手加減してないぞ?」
 「出てけ」
 何だ元気そうじゃないか、と枕元にどっかりと座り込む。
 「ご苦労だったな、無代。ところで、そこで香とすれ違ったが…何か…親でも殺しそうな顔してたぞ?」
 「…」
 「…無代?」
 「…毒だ…」
 「ん? 何だって?」
 「毒が回っちまったらしい…。『忘れてください』、だと…?」
 流の反対側へ寝返りを打つと、枕元の流にさえ聞こえない声で、
 「…遅えよ。馬鹿」

 無代の肉まん屋台が繁盛したことは既に書いたが、ものの二ヶ月ほどで屋台から店を持つまでになったことは周囲も驚いた。
 無論、開店資金が即金なワケはなく借金なのだが、有力な出資者が『あちこち』にいたことは書いておいてよかろう。
 で、香はというと。
 (…これで、だいぶ顔変わる?)
 (問題ない。これなら私とはまず分からない)
 (あとは衣服が問題。裏返して使える物が少ない)
 (夏だし難しい。水中で呼吸できないか)
 (無理だってば)
 (では今日はこれでいく。乾物屋の小僧がお使いに出ている、という設定)
 (履物注意。ボロい草履を用意しないと)
 (足袋も脱ぐべき)
 (水と食料よし)
 (出発)
 要するに、『ストーカー技術』にさらなる磨きがかかっていた。
 この調子で、無代の店に日参している。といっても客ではない。『気づかれないように見守る』だけである。
 何と言うか…やっぱり素っ頓狂の血は争えないということか。
 いつものように、朝の開店準備中の店の前を通り過ぎる。訳あってつぶれた店を中古で購入したその店の名は『泉屋』といい、以前の店の看板をそのまま使っている。面倒だかららしい。今は肉まんだけでなく、食事も酒も出すいわゆる『茶屋』に昇格していた。
 店の中で働く無代の姿がギリギリ見える木陰に座り込んで…。
 「…おい」
 「!」
 その木陰に無代がいた。待ち伏せを食らうとは不覚である。
 「な、何でございましょう、旦那様?」
 何とか変装通り、『乾物屋の小僧』を演じるが…。
 「…」
 「…う…」
 無代に至近距離でじっと見つめられると、もういけない。表情筋の細工がボロボロと崩れ、元の顔に戻ってしまう。
 「…ご、ごめん…なさい…」
 「…毎日毎日よくもまあ…」
 無代が呆れ声。食い物屋の主人らしく、前掛けに襷がけ。頭に結んだ頭巾が舶来の派手なバンダナなのが今風、とでも言おうか。
 「…あ、あの! め、迷惑かけるつもりじゃ…」
 「いやまあ、別に迷惑じゃないけどな…もう慣れたし」
 「…」
 とっくにバレていたと知っては、もう立つ瀬が無い。消え入りたいような気分でうつむいて立ち尽くす香に、
 「…来なよ」
 うつむいた顔の前に、無代の手が差し出された。
 「…え…?」
 香が、差し出された手と無代の顔を交互に見比べる。
 「そんだけヒマならさ、店、手伝ってくれよ。忙しいんだ」
 差し出された手は微動だにしない。
 「瑞波のお姫様を茶屋で働かした、なんて分かったらえらいことだから、顔は変えてくれよ? そんならさ…毎日…来ていいから。給料も払う…ってのも変だけど」
 (…かあさま)
 香の中の、全ての思考がしん、と沈黙する。
 「…い、いいの…?」
 「いい。つーかもう…降参? アンタに刺されて…頭イカれたんだろ、多分」
 無代が苦笑する。
 (…かあさま)
 心の中で、亡き母を呼ぶ。
 (…かあさま、香を…誉めて下さいませ…)
 (…香は…)
 (…恋を…しました…)
 母への告白。
 そして自分への、偽らざる告白。
 (…どうか…)
 (…どうか…誉めて下さい見守って下さい祝福して下さい)
 (…許して…下さい)
 無代の手を取る。大きく、熱い手。
 ぎゅっ、と握る。ぎゅっ、と握り返される。
 (…この人を…私が…幸せにしてみせますから!)
 「…ちょ、香? 目…怖い…?」
 「…参りましょう、旦那様! 香はもう、肉まんが作れます! 毎日見てますから!」
 「…いやいやいやいや…えええええ? まじで?」
 「おまかせ下さい! さあさあ! 今日も忙しいですから!」
 若干退き気味になった無代の背中を押す。
 その真っ白な背中。
 見通せない未来。
 しかし、香はもうそれに混乱する事も、恐れる事もない。
 (…幸せに…なる!)
 今度こそ、香は歩き出す。
 未来へ。

 …五年後。
 香の姿は、アルベルタ行きの船の中にある。
 『半公認の家出』の後、首尾よくルーンミッドガッツへの移民船を見つけて潜り込んだ。無論、子供としてだ。
 船賃がタダに近い最下層の移民船だけあって、環境はひどい。窓も無い船底はカビ臭く不衛生で、食べ物も水も、お世辞にも健康に良いとはいえない。
 が、香は全く気にしなかった。
 体内器官を完全に掌握できる彼女にとって、栄養摂取は別にちゃんとした食べ物でなくても問題ない。『泉屋の無愛想な女中』として過ごした日々で、無駄に舌が肥えてしまったのが悔やまれるぐらいである。
 ちなみに店はその一年後、ある人物に結構な値段で売り渡され、彼女の女中生活も終わりを告げた。店はその後、いわゆるチェーン展開を始め、今は天津の石田城下にも支店がある。それらを統括する主の名は『泉屋桐十郎』というのだが…余談に過ぎる。
 無代は再び、今度は自分の金で海外渡航の日々に戻った。香もついていこうとしたが、さすがにこれは親に止められてしまった。
 そして、半年前のルーンミッドガッツ行き。
 (…やっぱり、無代を一人で行かせるんじゃなかった…)
 強烈な後悔が身体を蝕む。
 (…待っていろ…って言うから…待ってたのに…)
 ぐつぐつと腹が立つ。
 (しかも…静の…家来とか…)
 ごおっ! と何かが燃え上がる。
 (…一人で行かせるんじゃなかった…)
 (…私がついていくべきだった!)
 ごごごごごご、と何かが脈動する。
 (待ってて無代…)
 (今、香が参ります…)
 (きっと…貴方を幸せにしますから…!)
 (全器官同意!)

 「…と、いう連絡が先ほど国元から参りました、静お嬢様」
 「…」
 「…お嬢様…?」
 「…な、何?」
 「…お顔の色が優れません」
 「だっ、だだだだ大丈夫よっ!」
 早朝、プロンテラ。例のお宿の静の部屋。現在、『お姫様のお部屋』らしく改装中だ。
 近いうちに完成すれば、その一角に専用の風呂まで備えたなかなかの設備になる予定である。ちなみにこの三階まで湯を運ぶために、窓の外には滑車も作られている。綱を引っ張るのは無代だが。
 今日の冒険に備えて朝食を済ませ(まだウルフ森通いである)、食後のお茶を味わいながらのひと時…のはずが、国元からの『香、家出』の知らせで崩壊した。
 知らせて来たのは、天津は石田城下の『泉屋』からのワープポータル。泉屋チェーン店同士をつなぐホットラインとしてポタ持ちを常駐させるシステムに、強引に割り込む形で昨夜のうちに作られた高速連絡網である。
 香もこれを使えば即座にここに到着できたのだが、この存在は現時点では無代以下わずかな人間しか知らない。
 「…かっ、香姉様が…来る…」
 「はい」
 「…怒ってる…よね…?」
 「多分。しかしまあ、それは覚悟の上でございましょう?」
 「う…うん! と、当然よっ! む、無代はもうアタシの家来なんだからね! 流義兄様を見つけるため…なんだから!」
 「はい」
 「香姉様に文句言われる筋合いなんかないもん!」
 「はい…お嬢様、涙目です。ハンカチ」
 「あ、ありがとっ!」
 口でどう強がっても、静の顔色は最悪だ。
 二人の姉のうち、そりゃあ『強い』のは天下無敵の綾姉だが、どちらが『怖い』かといえば…。
 「ね、ねえ無代?」
 「はい、お嬢様?」
 「香姉様…こっちについたら…どうすると思う…?」
 「…まあ…いきなり殺しはしないと存じますよ?」
 無代がしれっと言う。
 「こ、殺す!? 殺すって誰を? アタシ? アタシなの!?」
 「だから殺しませんって…まず半殺しにしてからじわじわと」
 「いやあああああ!!!半殺しいやああ!! でっ、でもっ! 無代…こっちで付き合ってた娘いるじゃん! 中央カプラのモーラ! 知ってんだからね! …宿に連れ込んだりしたって!」
 「…う…女将め…意外と口の軽い…」
 「香姉様が知ったら…ヤバいんじゃない? 彼女だって」
 「…」
 無代がきな臭い顔になる。あり得ない話ではない。
 「ま、まあ香ももう、そこまで馬鹿な事はしないと…思いますが…」
 「うわ…歯切れが悪すぎる…」
 静が頭を抱える。何にしても、香の行動を予測することなど、彼女らには不可能だ。
 「…イヤな予感しかしないよ〜無代〜」
 「いけませんお嬢様。そういうこと言ってると本当に悪い事が…? 外が騒がしゅうございますね?」
 「だね。何だろ?」
 「あれは…カプラの辺り? ん? はい、開いておりますよ、どうぞお入りくださいまし?」
 静の部屋がノックされ、無代が入室を許すのと同時に女将が入って来る。
 「おはよう存じます、口の軽い女将さん」
 「大変ですよお嬢様、無代さん」
 無代の嫌味をスルーして、女将が血相を変える。
 「何かあったの? 外の騒ぎのこと?」
 「左様でございますとも。大変でございますよ。…カプラ嬢が一人、殺されたんだそうで…」
 「!」
 「!」
 がちゃん、静がティーカップを落とす。
 がばっ、と無代が女将の胸ぐらを掴む。
 「誰が…誰が殺された! 誰が殺した! 女将っ!」
 嵐は、来た。
中の人 | 第二話「The Sting」 | 21:24 | comments(1) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment
シファン「なんとぃぅ胸キュソ展開・・・゚+。:.゚ヽ(*´∀`)ノ゚.:。+゚
香さん、ちょー かわ.゚+.(´∀`*).+゚.ぃぃ」

↑なんかの暗号かなぁ?

あっちゃんです!今回もおもしろかったーーw
香さんのヤンデレっぷりが、共感もてていいですね・・・(持つな! 笑

>私はそのどちらにもなれずこの身をひたすら削って針のように細くするだけ
ドラクエの”どくばり”ですね、わかります!
無代さんは、まんまとその毒針に即死させられたってことですね、わかります^^*

僕もその宿屋の住人になりたいなぁ、とかおもっちゃった(笑
なんだかにぎやかになってきた!

香さんのRO内実装キボンヌ!(もはや古

posted by 速水 厚志 ,2009/07/19 4:49 PM










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