10
--
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
--
>>
<<
--
RECOMMEND
RECENT COMMENT
MOBILE
qrcode
OTHERS
(c)
このページ内における「ラグナロクオンライン」から転載された全てのコンテンツの著作権につきましては、運営元であるガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社と開発元である株式会社Gravity並びに原作者であるリー・ミョンジン氏に帰属します。 © Gravity Co., Ltd. & LeeMyoungJin(studio DTDS) All rights reserved. © 2010 GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved. なお、当ページに掲載しているコンテンツの再利用(再転載・配布など)は、禁止しています。 当ページは、「ラグナロクオンライン」公式サイトhttp://www.ragnarokonline.jp/(または、ガンホーゲームズhttp://www.gungho.jp/)の画像(またはテキスト)を利用しております。
ro
ブログランキング
にほんブログ村 ゲームブログ ラグナロクオンラインへ にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
ブログランキング
LATEST ENTRY
CATEGORY
ARCHIVE
LINKS
PROFILE
SEARCH
<< 第十三話 「Exodus Joker」 (3) | top | 第十三話 「Exodus Joker」 (5) >>
第十三話 「Exodus Joker」 (4)
  「改めて紹介しよう、タートルリーダー。こちらの御方こそ誰あろう、千年の時を生きる戦前種にしてセージキャッスル至高の称号・『放浪の賢者』保持者でいらっしゃる、翠嶺殿だ」
 まるで自分がそうであるかのように得意げなプロイス。
 が、流と翠嶺はお互いに視線を交わしたまま、それを無視。代わりに、比類なき観察眼を持つ2人の天才が、お互いを存分に値踏みする。
 そのまましばし、口を開いたのは流。。
 「これ、本当に『翠嶺師』本人か?」
 いきなりとんでもない事を訊かれ、さすがのプロイスがキレた。
 「間違いなく御本人だ! 貴様、無礼にもほどがあるぞ!」
 「ふーん」
 流がまた馬鹿にしたように腕を組み、鼻を鳴らした。上半身は相変わらず裸、下半身は簡易着の短パンという、およそドレスコードの欠片もない格好。だがそうやって腕を組むと、上腕や胸部を中心とした重厚な肉体がさらに強調され、これまたなかなかの見物である。
 「ご本人でございます、と言われても、にわかには信じがたいな。あの程度の偽装にまんまと引っかかるわ、手もなく取っ捕まってこの有様だわ、伝説の賢者様の振る舞いにしては、どうにも間が抜けすぎている」
 辛口の分析を披露しながら、拘束されたままの翠嶺の姿を上から下まで、思い切り醒めた目でゆっくりと眺める。
 そこは若様、相手を見下す表情と姿がこれほど似合う男も世に稀だ。その辺のゴミか虫ケラを見る目の方が、まだ敬意がこもっているだろう。
 (こいつ……!)
 プロイスの侮辱にはびくともしなかった翠嶺でさえ、この視線の前では思わずカッとなってしまう。流の指摘は確かに正しく、翠嶺にしても反駁の余地はないのだが、こんなどこの馬の骨とも知れない初対面の若造に、ここまで見下される覚えはなかった。
 翠嶺先生、まだまだお若いのである。
 「ふん。貴様のような下賎の輩と違い、私はこちらの賢者殿とは近しくお付き合いをさせていただいていたからな。この方は間違いなく放浪の賢者・翠嶺殿だ」
 プロイスが何とか主導権を取り戻そうと熱弁を振るうが、取り合う流でもない。
 「もしそうなら失望の至りだ。いやしくも賢者を名乗るなら、もっと慎重に行動を……」
 辛口の批評がなおも続く、と見えたその時である。
 流の口がふ、と止まった。分厚い胸の前に組んだ太い腕がゆっくりと解かれ、その強い視線がじっと一点に据えられる。
 「?」
 流に見つめられた翠嶺の頭の上に疑問符が浮かぶのと、流が動くのが同時だった。
 アマツ人には珍しいほど長く、そして鍛え抜かれた太い脚を、翠嶺の方へ大股に運ぶ。ただ普通に歩いただけなのに、まるで超大型の熊か何かが動き出したような迫力、そして凄まじい圧迫感。室内の空気が激しくかき混ぜられた余波で、翠嶺の髪や教授服の振り袖までがふわり、と揺れる。
 「お、おい!」
 プロイスが抗議の声をぶつけるが、流、当然のごとく意に介さない。余りの迫力に、翠嶺でさえ思わずその巨体を見上げてしまう。が、こうして拘束椅子に座らされた状態では、よほど頭を仰け反らせなければ、流の顔はおろか分厚くせり出した胸の先ぐらいしか見えない。
 だが翠嶺がその努力をする必要はなかった。
 すう、と流が片足を退き、膝を床に着いてひざまずいたのだ。
 貴人の御前に控える武士の礼。流のケタ外れの巨躯が一塊となり、まるで巨大な自然の岩を、目の前にごろり、と置かれたような存在感を醸し出す。
 「御免」
 流が一言、断りを入れると、巨大な腕を翠嶺の方へ伸ばし、その大きな手で何かをつまみ上げる。
 「……『羽根に星入りの蝶』とは懐かしい」
 流の大きな手の上に、翠嶺の振り袖の先に結われた一羽の蝶が揺れる。
 『クリーミー』と呼ばれる蝶の姿のモンスターに似せ、紐を複雑に結い合わせた袖飾り。その羽根にはどうやったものか、一対の星が結い込まれている。
 それは翠嶺が『マグフォード』を降りる直前、教授服のあちこちに結わせたものだが、『タネガシマ』での騒動であらかた解けてしまっている。結い方が特殊すぎて、翠嶺の身だしなみを整えたレジスタンスの女性隊員にもさっぱり直すことができなかったため、右袖にたった一つだけ残った紐の蝶。
 「それがしも一羽、故郷のアマツ・瑞波の国で見たことがあります」 
 先ほどまでの鋭さが消え、むしろ柔らかな響きさえ帯びた流の言葉が、翠嶺の耳に木霊する。
 (『アマツ』? 『瑞波の国』?)
 思い出せ。
 『マグフォード』の甲板でその蝶を結ってくれた、あの男はどこの誰で、名を何と言ったか。

 (『羽根に星入りの蝶』は……)

 そう。あの男は。

 (……手前のオリジナルでございます)

 『瑞波の無代』。
 彼は確かに、自分にそう言った。

 「てっきり我が故郷、瑞波の国にしか棲まぬものと思っておりましたが、聞くところでは最近、こちらの大陸にも渡って来ているとか」
 指で摘んだ蝶を、流がその広い掌に乗せる。
 「ひょっとして今は、このジュノーにも棲んでおりましょうか? 翠嶺先生?」
 翠嶺の目を真っすぐに見つめ、流が尋ねる。
 太く濃い眉の下の、何か磁力を帯びたような黒い瞳。知性と剣呑さが見事に同居した、その希有の輝きの前に、翠嶺でさえぞくり、と背筋を震わせる。
 この巨漢が今、自分に何を問うているのかは明白だった。この蝶を結えるのはこの世に『瑞波の無代』ただ一人、それを承知の上で、彼の所在を自分に語らせようとしている。
 『無代は今、ジュノーにいるのか?』、そう訊いている。
 『セロ』に囚われる翠嶺を助けようと『マグフォード』を飛び降りた無代は、少年水夫・草鹿を救出した後、そのまま空中都市ジュノーへ入ったはずだ。
 途中で『セロ』に襲われ、プロイスからはその死を告げられてはいるが、彼女は無代の死を信じていなかった。あのしぶとさの塊のような男が、やすやすと死ぬとは思えない。
 言い方は変だが、『たかが戦前機械に襲われた程度』でくたばる、無代が本当にその程度の男ならば、そもそもここまで生きて翠嶺に出会うこともなかったろう。
 無代は今も生きてジュノーにいる、それは翠嶺の中ではほとんど確信に近かった。
 (……だが、それは教えられぬ)
 翠嶺の脳裏で警報が鳴る。
 なぜなら目の前の巨漢が何者で、何の意図を持って無代の所在を訊くのか、自分たちにとって敵なのか味方なのか、何一つとして分からないからだ。
 そんな状態で下手に情報を明かせば、自分はもちろん無代までを危険にさらしてしまう。いや、自分はもういまさらどうなろうが覚悟の上だが、そこに無代を巻き込むのだけは断固として避けなければならない。
 そもそも『伝説の賢者ならば慎重に行動しろ』、そう翠嶺を非難したのは他でもない、目の前のこの男ではないか。
 「……」
 答えの代わりに翠嶺の目が、流のそれを強く射返した。
 その無言の視線こそ巨漢への試し、翠嶺先生からの抜き打ちテストである。
 戦前種とて神ではないから、以心だの伝心だのできるはずもない。だが、お前が『瑞波の無代』を知る者であるならば、言葉を使わぬ視線だけのメッセージとて受け取ってみせろ。
 その意思を込め、エメラルドの瞳を光らせる。
 「……ごもっともです」
 流が即座に、深々と頭を下げた。さすが一条流、翠嶺の意図を苦もなく受け取ったようだ。
「申し遅れもはなはだしく、まことに失礼を致しました、翠嶺先生」
 紐の蝶から手を離し、居住まいを正す。両手を腰の前に置き、背筋を伸ばして胸を張れば、椅子に座った翠嶺よりも遥かに目線が高い。
 「それがしはアマツ・瑞波の士にて、名を『一条流』と申します」
 威風堂々。
 その言葉がこれほどふさわしい名乗りはまたとないだろう。
 翠嶺は瞬間、自分が表情や顔色を変えなかったか、それを隣にいるプロイスに悟られなかったか、その事だけに総ての感覚を動員した。そして幸いにして、プロイスが不審以外の何も悟っていないと分かり、胸を撫で下ろす。
 『一条流』。
 名乗られたその名は。
 そう、その名前こそは。
 
 (念願の男の子を授かりました。名は『流』。私達の夢の器です)


 翠嶺の脳裏を一つの記憶が、まるで昨日の出来事のように思い出される
 遠い異国の王に嫁いだ、誇り高く美しい女弟子。その元からはるばる届いたその手紙は、封を開けると微かな香の匂いがした。そして艶やかな花の透かし入りの便箋の上、懐かしい文字が喜びに踊るのを、何とも言えない嬉しい気持ちで読んだものだ。
 『一条巴』、旧姓『冬待巴』から届いたその手紙は今も、ジュノーにある翠嶺の研究室の文箱に大切に仕舞われているはずだ。
 一度は会いに行かなければと、アマツに足を伸ばそうとしたまさにその旅路で、二人の幼い弟子を敵に奪われてしまったことは、正しく不幸な巡り合わせだった。
 では今この場所で、その弟子が生んだ『夢の器』と出会えたことを何と呼べばいいのか。あまりと言えばあまりな巡り合わせに、戦前種たる翠嶺の心さえも驚きで満ちる。
 しかしまあ、これが『器』というなら、それを満たす夢とは一体どれほどのものだろう。あの金の髪の女弟子は確かに野心家だったけれど、産み落とした息子までがこの調子とはさすがに想像しなかった。
 (世界でも征服しようというのかしら、あの子ったら)
 表情に出さないように、苦労して笑いをかみ殺す。もっともその女弟子が本気でそのつもりだと、この時は想像もしていない。
 「失礼を承知で今一度、お尋ね致します、翠嶺先生。星の蝶は今、ジュノーの空を飛んでおりますか?」
 翠嶺の目を見つめたまま、流が質問を繰り返す。その漆黒の瞳にも、黒々と豊かな髪にも、『男』を凝り固めたような貌にも、あの女弟子の眉目麗しい面影を探すのは難しい。しかし、
 (ああ、間違いなくあの子の息子だ)
 流の顔を見つめながら、翠嶺はそう確信する。
 その顔に面影はなくとも、まっすぐに翠嶺を見る表情、この表情にこそ覚えがある。いや覚えがあるどころではない、何度も見すぎて脳裏に焼き付いてしまっている。
 己の意思を貫き通さずにはおかぬ、その揺るぎない表情。計り知れぬ自負と誇りに満ちたこの表情こそ、紙に書かれたどんな書類よりも確かな出生証明書だ。
 その才気を慈しみ、誇り高さを愛し、時に頑固さに手を焼いた、あの忘れ得ぬ愛弟子が産み落とした息子が今、自分に答えを問うているのだ。
 なんと不思議な、しかし奇妙な力強さを感じる巡り合わせだろう。
 (だが、どうする!?)
 翠嶺は自分に問いかける。
 この男があの女弟子の息子ならば『星入りの蝶』も、『一条家の小者』を名乗った無代を知っているのも当然だろう。
 ならば自分たちの味方なのか? その保証はあるのか?
 (……ない)
 この男が味方であるという保証はない。
 無代が今ジュノーにいる、それを教えるのは危険だ。翠嶺の理性はそう告げる。
 だが、
 「……」
 翠嶺の顎が、肯定を示して微かに引かれていた。
 翠嶺は流に、答えを与えたのだ。
 (これが運命というものならば……)
 翠嶺の中の想いが、理性の忠告を覆す。
 その千年を超える長い寿命の中で、『偶然』というものがどれほどアテにならない、不確かなものであるかを痛いほど知っている彼女だ。
 だが同時に、そこに何者かの意思が働いたしか思えない『偶然』が存在することもまた、経験として知っている。まるっきり無関係のランダムな出来事のようでいて、振り返ってみれば緻密な計算の上に織り上げられた、見事なタペストリーでもあるかのような景色が広がっている、そういうことが確かにあるのだ。
 だから、この場で流と出会ったこと。
 ジュノーの山中で、空から落ちて来た無代、D1と出会ったこと。
 一条香、ヤスイチ号、クローバー。
 そして遠くは、冬待巴という弟子を持ったこと。
 それらの出来事が、まるで一つの物語のように結実する様を目の当たりにして、翠嶺は思ってしまったのだ。
 (ならば、その先を見てみたい)
 その思い、その好奇心こそが、普段の翠嶺にはあり得ない行動を取らせた。目の前を過ぎてゆく大河の如き運命の流れに、自分と世界の運命を委ねたのだ。
 「左様ですか……良いお話を承りました。ありがとう存じます、翠嶺先生」
 流が少しだけ目を閉じると、
 「聞けば『星入りの蝶』が留まった者には、必ずや幸運が訪れるとか」
 何とも『らしからぬ』言葉と共に、流の太い唇が偽りのない微笑みを浮かべた。
 抗いがたい魅力に満ちた頼もしい笑み。実父の銀が、義父の鉄が、一条家の血を引く男達が等しく天から授かるその笑みを、この若者も確かに受け継いでいるのだ。
 「翠嶺先生におかれましても、どうか希望を失われませぬよう」
 これまた『らしからぬ』力づけの言葉を贈り、深々と頭を下げると、つ、とその手を翠嶺の方へ伸ばす。
 翠嶺の優美なそれと比べると、まるでグローブのように巨大な流の手と指。それが意外なほど器用に動き、そして一つの成果を造り上げる。
 翠嶺の左袖、無代の結った『星入りの蝶』が揺れる右袖と反対の袖に、もう一つの蝶が舞っていた。
 それは左袖と比べればずいぶんと歪で、当然ながら羽根に星も入らない。しかしそれでも、この目の前の巨漢が結ったとは到底信じられない繊細さを持って、翠嶺の振袖の先を飾る。
 「残念かな、それがしには星を入れる技がありません。どうかこれにてご容赦を」
 そして今度こそ完璧な礼儀に則り、ひざまずいた姿勢のまま一歩退がってから立ち上がる。
 「もういいぞプロイス。翠嶺先生に失礼のないようにな」
 ついさっきまで偽物扱いしておきながらどの口が言うか。だが一条流、そんなことは奇麗さっぱり忘れたように、プロイスを顎で追いやる。
 翠嶺への礼儀とは正反対の、人を人とも思わない仕草に、プロイスの貌がもうどす黒く染まる。
 「……憶えていろよ貴様。そのうち自分の立場を思い知らせてやるぞ」
 絵に描いたような捨て台詞だが、もちろん流は歯牙にもかけない。
 「好きにしろ。だがプロイス。貴様、もし万が一にも翠嶺先生に非道を働いてみろ」
 ぎらり、とその瞳を鋭く光らせ、巨大な身体に凄まじい鬼気を漲らせる。
 「思い知るのは貴様の方になるぞ……!」
 余人が凄んだのではない。
 これまた一条家の男が血と共に受け継ぐ、剣呑な上に剣呑を重ねた極めつけの恫喝だ。その前ではプロイスはもちろん、感情のない『BOT』の女性兵士までがびりり、とその身体を震わせてしまう。といって恥じることはない、この恫喝をまともに食らってビビらない人間など、この世にほんの一握りだ。
 それも一条の血族を除けば、瑞波の君主を支える護国の鬼ともう一人、『星入りの蝶』を結った幼なじみぐらいだろう。
 「では翠嶺先生、またいずれ」
 お目にかかります、と、両手を太腿の上に置き、丁寧に別れの礼。それに対して翠嶺もこくり、とうなずいて見せたのは、半分は一条流という男を認めた証拠であり、もう半分はプロイスに対する当てつけである。
 その効果こそてきめん、ふんっ! とプロイスが鼻を鳴らすと、『BOT』に翠嶺の拘束椅子を押させて部屋を出て行く。横開きの自動ドアが開き、また閉まった。
 それを確認したアクトが、ふ〜、とため息をつく。
 「勘弁して下さいリーダー。あんまプロイスの大将からかっちゃあ、黙って船から落っことされかねませんぜ」
 ドアに向かってまだ頭を下げたままの流に苦情を訴える。いや、アクトだってこの若様に意見などしたいわけではないが、これも役目だ。
 階級上、タートルチームにおける流の副官はユークレーズ少年だが、彼にリーダーへ意見する力量などまるで無いことは、当のユーク自身さえ百も承知。実際にその役を務めているのは実戦経験の豊富なこのアクトや、サリサを始めとするユニットリーダー達である。
 「ま、あの大将プライドだけは百人前ですから、こんなトコでこっそり殺ったりはしないと思いますがね。でもあんま無茶にイジると分かりませんぜ。まんま餓鬼ですし、中身」
 「アクト」
 流がアクトの言葉を問答無用で遮った。その視線は翠嶺が連れ出されたドアの方向に置かれたまま。
 アクトにしてみれば、流が自分の忠告をまるで聞いていないことは想定内だが、直後に流から発せられた質問は明らかに想定外。
 「さっきの戦闘で『マグフォード』から飛び下りたという、『勇者様』の特徴を報告しろ」
 「……は?」
 「何でもいい。そいつについて憶えていることを全部言え!」
 流の語気が強まる剣呑な気配に、アクトは慌てて記憶を探る。アクトの目には戦場の情報を集めるため、視野の拡大や望遠の効果を持つ魔法陣が仕込まれており、常人より遥かに多くの視覚情報を得ることができる。が、ユークレーズのような卓抜した記憶力があるわけではないので、細かく思い出せと言われると人並みの苦労はある。
 「成人男子、髪と目の色は黒、身体はかなり鍛えた長身……」
 記憶を絞り出しながら、できるだけスラスラと答えていく。でないとこのリーダー、機嫌が悪くなるのだ。
 「人種はアマツ系と思われます。身体の動きはちょっと不思議で、素人ではないですが、正式な訓練を受けたものでもない。鷹を指笛で操ってましたが、鷹師でもないようで……」
 「『指笛』だと!?」
 「え、ええ。この船は防音なんで音は聞こえませんでしたが、明らかに指笛を……」
 「他には!」
 「あ、あとは……そうだ、身体にえらい傷跡が」
 「『傷跡』?!」
 「は、はい。ケガ人助けるのに服を脱いだ時、全身に傷があるのが見えまして。えーと特にデカいのが……」
 アクトが記憶を探る。
 「両手と両足首、それに首にも見えました。よくまあ生きてますねコイツ」
 「……」 
 「リーダー?」
 返事はない。その視線は宙を睨み、じっと何かを考えている。
 異常事態。
 部屋の中でバラバラだったタートルコアの面々に、さっと緊張が走る。だが緊張と言ってもそれは精神面だけ。身体の方はむしろリラックスして見えるのは、彼らが本当の意味で修羅場慣れしたプロフェッショナルぞろいであることを示す。
 これから何が起きようとも即座に対応し、状況を打破できる強者たち。だがその彼らでさえ、その後に起きた事態に対応することは不可能だった。
 それほどまでに予測不可能で、そして理解不可能なことが起きる。
 宙を睨んだままの流の巨体が一瞬、びくっ、っと震えたと見るや、

 「ぶっ……わはははははは!!!!!!!!!!」

 流の大きな口から何と、紛れもない爆笑が噴き出したのだった。
中の人 | 第十三話 「Exodus Joker」 | 12:19 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment









Trackback
URL: