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第十三話 「Exodus Joker」 (5)
 
 「?!」
 アクトらタートルコアの面々が、思わずぽかんと口を開ける。
 「わははははは!!! あっははははは!!!!!」
 流の笑いが止まらない。巨大な身体を仰け反らせ、あるいは二つに折り、時々苦しそうにさえしながら笑い続ける。
 普段はどんな非常時にも沈着冷静な態度を崩さない流だが、では全く笑わないのか、と聞かれれば決してそんなことはない。部下が冗談を言えば笑うことも珍しくないし、酒を酌んでも明るい酒を飲む方だ。
 だが、さすがにこの様子は明らかな異常。
 流と共に厳しい訓練と実戦をくぐり抜けてきたタートルコアの面々も、こんなリーダーの姿は今まで見たことがない。ただ困惑し、お互いの顔を見合わせるばかり。
 「……」
 その全員の視線が最後に、アクトの方に集まる。何となく予想はついていたが、どうやら貧乏くじはやっぱり彼の役目のようだ。
 はー、とひとつ、ため息をつくと覚悟を決め、
 「あのー、リーダー?」
 恐る恐る声をかけたアクトの方へ、いきなり流ががばっ、と振り向いた。
 「?!」
 面食らうアクトに向かい、流の目が炯と光る。
 
「……来た!!!」
 
 流が叫んだ。突然の大声に、アクトが目を丸くして飛び上がる。
 「来たぞ! あいつが……あの野郎が! ついにここまで来やがった!!」
 何かに憑かれたように、流が叫び続ける。
 「しかも何だと?! 『マグフォード』だと!?『戦前種』だと!?  『放浪の賢者』だと?!   相変わらずにも程度ってものがあるだろう!?  どうしていつもいつもこうなんだ、あいつときたら!!」
  くっくっくっ、とまだ笑いの発作が収まらない。
 「首都でショボくれているっていうから心配していれば……いや、オレもいい加減、学習すべきだったな! あいつに心配なんぞ無用、いや全くの無駄だってことを!」
 ひたすらゲラゲラ笑いながら、周囲の人間にはまるで意味不明の言葉を並べ立てる流に、さすがに心配になったアクトが顔をしかめる。
 「リーダー!? 一体何が始まるんです?! 非常事態ですか!?」
 「『何が始まるか』、だと?!」
 問いただすアクトの腕を、流の巨大な腕ががっちりと掴んだ。
 「『もう始まっている』! そんな吞気してる場合か、アクト=ウィンドよ! もう始まっているぞ!」
 完全に面食っているアクトに、流が言葉を浴びせかける。
 「 のんびりしているヒマはない!  何もかも台無しにされる! 将棋盤はひっくり返され、サイコロは目を回す! ついでにジョーカーがクイーンを寝取って駆け落ちだ!」
 ひとしきり笑いを振りまいた流がいきなり真顔になり、部屋の端に寄せられたベッドにつかつかと歩み寄った。
 そこにはタートルコアの中で一人だけ、未だにひっくり返って寝ている人間が一人。
 「起きろ、キョウ!!」
 流の巨腕が力任せにずるぅっ!と、ベッドの中からその一人を引きずり出した。 
 「……んがぁ!?」
 足首を掴まれた『逆さ吊り』になったのは、意外なことに女性である。とは言っても痩せぎすの身体に女らしいラインは見当たらず、せっかく伸ばした黒髪もあまり手入れされていないようで、バサバサの髪が逆さ吊りにだらん、と床へ垂れている。
 例えは悪いが幽霊屋敷のアトラクションに飾られる、出来の悪い死体のオブジェのようだ。
 「なんすか〜、リーダー?」
 しかも逆さ吊りに叩き起こされてさえ、まだ半分以上寝ているらしい。
 「非常事態だ、キョウ。今から少なくとも48時間、睡眠は禁止。周囲の警戒に当たれ」
 「うい〜っす」
 なんと流、キョウを釣り上げたまま命令を下し、キョウはキョウで飄々とそれに答える。しかし痩せているとはいえ、かなりの長身のキョウを片手一本で悠々と吊り上げる、この腕力はさすがとしか言いようがない。
 「オレたちの武器と装備はどこにある?」
 「わっちの刀なら、向いの部屋から動かされてないっすよ」
 即答。が、しかしこのキョウ、先ほどの盗聴の有無といいなぜそんなことが分かるのか。
 「みんなの装備も、おおかた一緒にそこっすね」
 「間違いないな?」
 「間違いないっす」
 キョウが逆さ吊りのまま、器用に胸を張る。
 「わっちの刀、『大水蛇村正(オオミヅチムラマサ)』は『真物』っすから。世界中どこにあったって、わっちにゃ気配だけで丸わかりっす」


 『村正』


 ここでキョウの言う『村正』という刀は、いわゆる『妖刀』として知られている。持ち手に強力な力を与えるのと引き換えに、厄介な呪いをかけるためだ。
 『村正』という名前はもちろん、刀を鍛えた刀鍛冶の名に由来するが、実は刀鍛冶・村正本人が鍛えた刀、いわゆる『真物』の数はそれほど多くない。
 現在、世に出回っている『村正』は、そのほとんどが後世に作られたレプリカ、すなわち『真物』の刀を砕いて分割し、少しずつ練り込んで作られた、いわば『劣化コピー』である。
 だが現在でも稀に完全な『真物』、つまり村正本人が自ら鍛えた刀が発見されるケースがあった。
 人間型のモンスターを倒した時、モンスターがまだ人間だった頃に入手し愛刀としていた村正が、遺留品として手に入る事があるのだ。『村正遣い』として名高いアマツ・瑞波の元町奉行、泉屋桐十郎の『無反り村正』(外伝『祈夏』参照)がそうだし、このキョウの言う『大水蛇村正』もまた、魔物の巣窟と化したグラストヘイム廃城で発見された、村正史上最長の刃渡りを誇る細身の長刀である。
 そして『真物』ゆえに、その呪いも本物。
 「わっちがアレの気配を読み間違うとか、死んでもあり得ねえっすわ」
 「よし。『マグダレーナ』は?」
 「隣の部屋。こっちもずっと気配が動いてないっすから、落ちたまんまっすね多分」
 『ウロボロス4』を統括する女傑・マグダレーナ・フォン・ラウム。
 しかし『セロ』と戦って敗れた隙を突かれ、流の麻痺武器で心臓を刺された挙げ句、敵に寝返る手みやげとして捕縛されている。その後は流たちと同様、取り巻きの『月影魔女』達と共に『セロ』に連れ込まれているのだが、どうやらそのまま意識が戻っていないらしい。
 「よし。さっきの間抜けな賢者殿の気配は憶えたな?」
 翠嶺に対して敬意は表しても、やっぱり『間抜け』の評価は変わっていない。その辺はいかにも若様だ。
 「バッチリっすよ。世にも珍しい『戦前種』の気配っすからね、忘れっこねえっす」
 「よし」
 流がうなずき、腕に掴んでいたキョウをぽい、と無造作にベッドの上へ放り出した。この扱いの適当さから、規律に厳しい流がこのキョウのダラっぷりを許している、その理由が分かる気がする。
 どうやら流、キョウを部下と思っていない。
 部隊の『備品』か、よくて『軍用犬』か何かと認識しているらしい。
 投げられた当のキョウは長身をくるりと回転させ、両手両足でベッドにすとん、と着地。ネコ並み、もしくはそれ以上の体術。しかも流との会話から、壁越しの離れた場所にいる人、あるいは物の気配を感じ取る異能の持ち主でもあるらしい。そういえば流の許嫁である静にも同じような力があるが、キョウも同じ剣士、どうやら同類と見えた。
 「あのべっぴんのセンセーは今、プロイスの大将と一緒に船の後方へ向かってるっすね」
 「後方か……そこに何がある?」
 「今はわかんねーっす。ずーっと妙な気配をビンビン感じてるっすけど……」
 ベッドの上に胡座をかき、ポキポキと首を鳴らしながらキョウが顔をしかめる。
 「村正を握らしてもらえりゃ、もーちょいハッキリするっすけど。アレ握ってねーと、どうも調子出ねえっすわ」
 わきわき、と両手の指を閉じたり開けたりするのは、どうにも手が寂しいという意味か。『村正を握ればわかる』というのも意味不明だが、言われた流は表情一つ変えない。
 「わかった。引き続き警戒。部屋の盗聴が始まったら即、報告しろ。武器やマグダレーナに動きがあってもだ」
 「了解っすー」
 胡座のままでぴっ、と返した敬礼は、掌を相手に向けて自分の額を叩くという最低の礼。
 だが、例によって流はスルー。
 「よし、全員聞け」
 流の号令が飛び、室内のタートルコア全員がぴり、と緊張する。
 「これから48時間以内、早ければ24時間以内にも、何らかの異常事態が発生『する』。その状況次第で我々はこの船を奪取、つまり『乗っ取る』」
 「キタコレ!」
 ぽん、と手を打って笑ったのはキョウ一人。他のメンバーはさすがに驚きを隠せない様子だが、流は構わず続ける。
 「この船を手に入れれば、もはや『ウロボロス4』もルーンミッドガッツ王国も、何もかもが無意味だ。……キョウ」
 「ういっす?」
 「マグダレーナが邪魔になった場合は、お前が斬れ。やれるな?」
 とんでもない事まで言い出す。が、言われたキョウは、
 「わっちの村正さえありゃあ、ドコの誰様とだって相打ちまでは保証するっすよ」
 闇夜に血の筆で描いた、不吉な三日月のごとき笑みを浮かべるのみ。
 「たとえ相打ちでも、必ず蘇生させてやれるとは限らん。先に別れは言っておく。さらばだ」
 「……コレだよ、まったく!」
 言われたキョウの笑顔が、ぶっ壊れたレベルまで拡大する。快楽は一周回れば苦痛になり、もう一周回れば狂気に至る。
 「マジで言ってんだもんなこの人、たまんねえよもう」
 くっくっくっ、とキョウの肩が震え、その肩を自分で抱きしめるようにベッドに突っ伏す。
 「いいっすよ、オッケーっす。死んでやろうじゃないっすか。『完全再現種(パーフェクトリプロダクション)』が相手なら絶賛、何の不足もないっす。でも一つだけ」
 ぴょこん、と頭だけ上げて流の目を見上げ、
 「わっちが死んでも、村正だきゃあ死体の側に置いといてやって下さい。何ならわっちの身体にぶっ刺しといてくれてもいいっす」
 身体を起こして座り直したその表情、狂気がもう一周して正気に戻ったらしい、清々しいにもほどがある笑顔。
 「アイツと離れちゃ、死にきれねえっすから」
 「よかろう、約束する」
 とても正常な人間が交わす言葉とは思えない契約が、どうやら円満に締結されたらしい。
 「ちょっ、ちょっと、リーダー。何が何だか分かりませんよそれじゃ!」
 当然の抗議の声。もちろん副官役のアクトだ。
 「異常事態が起きる、って一体何なんですか?! その『勇者様』とやらが何かするんですか?!  大体、何者なんですかそいつ?! リーダーのお知り合いですか!?」
 「ん? ああ、まあ知り合いかな。いわゆる幼なじみという奴だ」
 流がやっと真っ当な答えを返す。
 「その人が何をするんです?」
 「わからん。だが、『必ず』何か『やる』」
 確信に満ちた答えだったが、アクトは見るからに不満顔。
 「お言葉を返すようですが、リーダー」
 そう前置きしておいて、真正面から貧乏くじを引きに行く。
 「自分は傭兵上がりですから、人一倍ジンクスってヤツを気にします。戦の前にゃ、縁起も担ぐし願掛けもする。……でもね、それをアテにはしませんよ。『気休め』ってことを承知の上でやってる」
 「言いたい事は分かる、アクト」
 流は自分に異を唱えようとするアクトの態度に、むしろ満足そうだ。
 「オレだって別に迷信深い方じゃない。ツキやジンクスをアテにするほど落ちぶれてもおらん。それとも、そんな風に見えるか?」
 「見えるわきゃありません」
 アクトが肩をすくめ、
 「だからこそ、『らしくない』」
 ずばり、と指摘する。
 アクトのような傭兵に限らず、戦場で戦う者は皆、縁起を担ぐものだ。なぜならそこで勝って生き残るためには、何よりも『運』が必要だからである。
 それこそ神話の世界の英雄でもなければ、敵味方が入り乱れる戦場で必ず勝利し、命を長らえる保証などない。どれほど武芸に優れていようが、戦場経験を積んだ強兵であろうが、流れ弾一つ、流れ矢一本でも人は死ぬ。極端な話をすれば、行軍中につまずいて転んだって死ぬことはある。
 そこで生死を分けるのは、もう『運』としか言いようがないのだ。
 だが同時に、どれほど念入りに縁起を担いだところで必ず悪運を避けられる、などと本気で信じる者もまた、いない。ましてジンクスを守りさえすれば戦に勝てる、などと信じる人間がいるとすれば、それは間違いなくただの馬鹿、もしくは狂人だ。
 だからこそ、
 「リーダーの幼なじみさんとやらが、どれほど『持ってる人』かは存じません。でも言っちゃ悪いが、この『セロ』までどうにかなっちまうような状況を、それもたった一人で作れるとは、自分には到底思えませんね」
 アクトの指摘はあまりにも正しい。だがそれに対する流の答えは、彼には珍しく『斜め上』。
 「いや? アイツは持ってないぞ? アイツ自身はどっちかといえば、いたってツイてない男だ」
 「はあ……?」
 真顔で妙なことを言い出す流に、アクトが今度こそ思い切り眉間に皺を寄せた。まったく今日という日は驚いたり困惑したり、アクトの顔も百面相を極めそうな勢いだ。が、そうさせている流の方は、もちろん一向に気にした様子もない。
 「『持っている』のはアイツじゃない。『持っている』のはな……いいか? アイツと出会う人間の方なのだ」
 にやり、と、ひと笑い。
 「逆に言えば『持っている』者の元に、アイツは現れる。アイツに出会った人間は、少なからず『持っている』ということさ。いや『持たされる』と言った方がいいか」
 「……はあ?」 
 「さらに言うなら、アイツに出会った人間には必ず、何かやらねばならぬことがあるのだ」
 流の目が一瞬、遠くを見る。故郷・瑞波で過ごした少年、そして青年期の思い出が蘇る。
 「アイツに出会った、ということは何かのために、あるいは誰かのために、それこそ命がけでやらねばならぬことが、その人間にはある、ということだ。アイツという男は、そういう『もの』なのだ」
 「……申し訳ありませんが、さっぱりわかりません」
 アクトが両手を万歳。もっとも理解できないのは別に彼のせいではない、この説明で何か分かる人間がいたらお目にかかりたいレベルの、ほとんど妄言である。
 「ま、要するにだな」
 流がぐるり、と、誰よりも高い目線からチーム全員を見渡す。
 「このオレは間違いなく『持っている』ということさ」
 言っている内容は既に、余すところなく破綻している。
 だが流の目はあくまで真剣。
 「だからツキだのジンクスだの、そんなケチ臭い話はとっとと捨てて、このオレに賭けろ」
 これでもか、というドヤ顔。 
 「未だかつて誰も見たこともないものを、死ぬほど見せてやる。これは見ないと損だぞ?」
 恐らくはこれ、歴史に残るような感動的な台詞なのだが、言われたアクト以下、タートルチームの面々は揃って、はあ〜、とため息。
 顔には『縦線』。
ただベッドの上のキョウだけが、ゲラゲラ笑いながら、
 「ひっどいぃ! この人マジひっでぇよ!!」
 と胡座のまんまゴロゴロ転げ回っている。
 「……あーもう、わかりました。いや、おっしゃってる事はさっぱりわかんねえけど、わかりましたよ!」
 アクトが観念した表情で、全員の気持ちを代弁した。
 「どの道、アンタにくっ付いてこんな戦前機械の腹の中まで来ちまったんだ。こうなったらもう、とことん付き合いますよ。ええ、付き合わせてもらいますとも!」
 『納得した』、というよりは『開き直った』。
 いや、いっそ『諦めた』と言った方がふさわしいかもしれない。
 だが、そんな非合理的な決断を下した割に、アクト達の心の中は意外と清々しいから不思議だ。
 (俺達はまだこの人のことを、何も分かっちゃいなかったんだなぁ……)
 しみじみとそう思ってしまう。
 戦闘において流のような立場の指揮官に求められるのは、何よりも徹底したリアリズムだ。そこにファンタジーの介在する余地など微塵もあってはならない。運を天に任せ、サイコロを振って攻め退きを決めるぐらいなら、いっそ犬か猫にでも指揮させる方がまだマシというものだ。
 だが、そんなリアリズムの積み重ねから導き出される結果は、それもまたリアルの範疇に留まる。一手もミスなく最善手を打ち合った将棋の棋符は結局、誰かが過去に打ったか、あるいは未来に誰かが打つ棋符のコピーに過ぎない。
 リアルのその先、誰も見たことのない本当の未知を見ようとするならば、その積み上がったリアルの梯子を蹴っとばすしかない。
 そしてこの一条流こそ、まぎれもなく『蹴っ飛ばす者』。
 積み重ねたリアルの先、天上遥かな星の輝きを、その手につかみ取らんとする者だ。
 「よし、決まりだな。大丈夫、損はさせん」
 浮べた笑みはどう見ても悪役、いやむしろラスボス的。
 そう、この男は『戦闘指揮官』などというお行儀の良いものでは全くない。
 ただのペテン師だ。
 山師で、博打打ちで、ヤクザで、賊徒で、鉄火者で、無法者で、無頼漢で、勝負師で、山賊で、海賊で、ガキ大将で、夢想家で。
 そして、そのすべての頂点に駆け上ろうとする者。
 神も仏もアテにせず、ただ自分を、自分の運命というものを一片の疑いもなく生きる者。

 つまり、漢(おとこ)だった。
 
「ま、安心しろ。一から十まで丸っきりの神頼み、というわけでもない。アイツは今、オレの義妹……許嫁と一緒のはずだ。下手をするとその姉、もう1人の義妹もだ」
 流の許嫁、一条静が無代の元を訪れていることは、流がマグダレーナから得た情報でも明らかだ。となれば、無代の許嫁でもある香が黙っているはずがない。『マグフォード』の騒動の際、義妹達が目撃されていないことからみて、今は別行動を取っている可能性もあるが、むしろバラバラの方が脅威度が大きいのが彼らという存在だ。
 そしてもし、彼らに何かあったとなれば……。
 「例えるなら、今のアイツは火のついた導火線を引きずって歩く……そう、『ジョーカー』だ。そしてその導火線はオレの故郷、瑞波の国という超特大の爆弾に繋がっている」
 導火線の先にいるのは瑞波の君主・一条鉄。
 そしてあの殿様が『征くぞ』と一言、そのたった一言でいい。
 次の瞬間、この世界がかつて経験したことのない未曾有の大爆発が、およそ考えうる最大かつ最高速の規模をもって、この世界の何割かを確実に喰い尽くすだろう。
 そしてその爆発は敵を滅ぼすか、おのれが滅ぶか、あるいはその両方か、いずれかを持ってしか終息させる方法はないのだ。
 「もう一つ、別の理屈もありはするが、コイツはオレにも理解できんから、言っても仕方あるまい」
 流の脳裏に闇色の瞳と闇色の目、そして人の運命を見通す極めつけの異能を受け継いだ、人形のように美しい義妹の姿が映る。
 『運命特異点』
 流の義妹・一条香は、自分の想い男をそう評した。
 あらゆる運命が一緒くたに、それもあまりにも集まりすぎて真っ白に見えるほど集約された、特大の分岐点。関わった者の運命を必ず、予想もしなかった方向に変えてしまう万能の触媒。
 『霊威伝承種(セイクレッドレジェンド)』の力をその血に宿す、あの義妹の目をもってさえ一寸先も見通せない、まさに予測不能の世界を創り出す者。
 迷子の魔王も、独りぼっちの鬼も、引きこもりの姫君も、そして流自身を含めた数え切れぬ人々が、彼に出会ってその運命を変えた。
 その有様を目の当たりにし、そのワケの分からない力を骨身に沁みて知っている流だ。あの男が今、この状況でジュノーに乗り込んでおいて何も起こさない、などと考える方が無理というものだった。
 (今頃どこの誰に出会って、飯の一つも喰わして、服の一つも繕ってやって、気づけば一緒になって何をしでかしているやら、到底知れたものじゃない)
 こみ上げる苦笑いをかみ殺し、流は指揮官の顔に戻る。
 「全員これから48時間、準戦闘待機。そこからは後は交代だ」
 「イエス、リーダー」
 もう『通常業務』に戻ったアクトが敬礼。
 「ですがリーダー、一つだけよろしいですか」
 「何だ?」
 「そのお知り合いとやらの、お名前をお聞かせ下さい」
 そう言えば、言っていなかった。

 「『瑞波の無代』」

 「みずはの……むだい」
 全員がその名を頭に刻む。
 「そう、無代。オレの幼なじみで、義妹の婚約者。そして……」
 響きは誇らしく。

 「『天井裏の魔王の弟子』さ」
 
中の人 | 第十三話 「Exodus Joker」 | 12:20 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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