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第十三話 「Exodus Joker」 (6)
  飛行船『マグフォード』。

 それは賢者の塔こと『セージキャッスル』が、持てる知識と技術の総てを注ぎ込んで完成させた最新鋭の飛行機械である。
 サイズを絞り込んだ軽量の船体、珍しい双胴型の気嚢。これに独立して稼働する4つのエンジンを与えることにより、並の飛行船を遥かに上回る速度と機動性を発揮する。
 もちろん戦前機械(オリジマルマシン)である『セロ』と比較すれば、それこそお話にもならないような旧式の飛行機械であることは否定できない。
 だが、シュバルツバルドの空を知り尽くした『提督』アーレィ・バークの指揮と、それに完璧に応えたクルー達の奮闘により、その『セロ』を紙一重で出し抜いてジュノーを脱出してみせたことは、読者も既にご承知の通りであろう。
 そして今、その『マグフォード』の姿をジュノーの西方約10キロ、シュバルツバルドの山岳地帯に見ることができる。
 もうお馴染みとなった『マグフォード』の艦橋に、これまたお馴染みの紅茶の香り。それが船の危機をとりあえずも脱した安堵感、それそのものであるようにクルー達を包み込んでいる。
 「さあどうぞ、D1」
 テーブルに座ったD1の前に、バークが手ずから注いでくれた紅茶のカップが置かれた。
 「ありがとうございます、バーク船長」
 礼を言って手にしたカップ、その琥珀色の表面が、しかし微かに震えている。
 艦橋にしつらえられたテーブルと椅子、それは彼女が最初に翠嶺、無代と供にこの船で食事をし、架綯の部屋ではカプラシステムへの再アクセスを行ったあのテーブルだ。だからこうして座っていると、今はこの場にいない人々との短くも懐かしい思い出が蘇り、胸が詰まりそうになる。
 もう泣かない、と決めた目に涙が滲みそうになってしまう。
 (だめだ。私が泣いてどうする)
 湧き上る感情をぐっ、とこらえ、香り高い紅茶と共に飲み下す。
 ところで、そのテーブルで紅茶のカップを手にしているのはD1だけではなかった。
 『マグフォード』のエンジンや気嚢など、船を支える各部署の幹部達が集合し、それぞれに船長の淹れた紅茶を手にしている。
 だがD1と同様、どの顔にも笑顔はない。
 「……諸君、辛い気持ちは私も同じだ。しかしまずは現実を直視しよう」
 紅茶を注ぎ終えたバークもまた、厳しい表情で話し始める。
 「何とか危機は脱したが、それは敵がこちらを侮っていたからだ。逃がしたところで取るに足らない相手、そう思われていた」
 言葉の調子は淡々としたものだが、そこはさすが『提督』アーレィ・バーク、『セロ』と『マグフォード』の戦力差を見誤るような愚は犯していない。
 バークの言葉通り、敵の油断に上手くつけ込むことが出来たのは、確かに幸運が味方した面が大きい。もし敵が本気だったならば、すべては無駄な足掻きに終わった可能性が高いのだ。
 『セロ』がその本来の性能を十全に発揮したならば、『タネガシマ』を両断したあのエネルギーウィングの一閃どころか、『セロ』が高速で船の側をすれ違った爆風、それだけで『マグフォード』はバラバラになって轟沈したはずだ。
 その圧倒的な戦力差を、まさに身を以て体験したクルー達の苦悩は深い。
 「だが諸君」
 バークの声が変わる。
 「『マグフォード』はまだ沈んだわけではない。こうして今も、シュバルツバルドの空を飛んでいる」
 それはいかにもバークらしく、単なる事実を述べただけだ。だがそれゆえに、口先だけの美辞麗句を超えた説得力を持つ。
 そう、彼らの母なる船は健在だ。そして船が沈まぬ限り、船乗り達の明日は必ず来る。
 「これも諸君があの危機にもひるまず、各々の仕事を完璧に実行してくれたお陰だ。良くやってくれた」
 バークが船長帽を取り、白髪混じりの頭を下げた。
 艦橋の中に、何とも言えない感情の波のようなものが流れる。涙をこらえ切れず、嗚咽を漏らす者もいる。
 「航海を続けよう、諸君。……異存はないな?」
 シンプルな言葉。だからこそ力強い言葉。
 航海は終わらない。まだ何も終わってはいない。
 これに異論を唱える者など、どう考えたって一人もいるはずがないのだが、そこはアーレィ・バーク、念入りに一人一人の顔を見回した上で、
 「よろしい」
 大きく一つ頷いた。。そして自分の紅茶を一口、喫しておいて、改めてD1の方を向き直る。
 「怖い思いをされたでしょう、D1。申し訳ありませんでした」
 「いえ……あの、こちらこそみっともない所をお見せして……」
 D1の少しバツの悪そうな顔に、艦橋のクルー達の間になぜか小さな笑いが流れる。
 「無理もありません」
 バークが優しく微笑む。
 「落差2000メートル近い緊急降下(クラッシュダイブ)でしたからね。若い新入りの船乗りなど、気絶することだってある」
 恐怖のあまりね、と、バークの笑みに悪戯っぽさが混じり、つられてD1も笑ってしまう。が、その話が決して大げさでないことを、D1は身を持って体験していた。
 母港『タネガシマ』で『セロ』の攻撃を受けたあの時。
 バークのとっさの機転で爆発と火災を偽装し、さらに沈没したように見せかけることで、首尾よく雲の中へ逃げ込んだ『マグフォード』だが、危機がそれで去ったわけではない。
 『離れ技』はまだ続いていた。
 伝声管を通じて全艦に響いたバークの指示が、D1の耳に今も残っている。
 「これより緊急降下(クラッシュダイブ)を行う! 総員着席の上、ベルト着用!」
 この指示を受けて、艦橋にいたD1も、あのハンサムな若い副長の案内で空き席に案内され、肩と腰をゴツいベルトでがっちりと固定してもらう。
 「これから船を急降下させます。思い切り大声を出して叫んでいいですよ。いっそその方が楽ですから」
 若くハンサムな副長の言葉はしかし、『ディフォルテーNo1』たる彼女のプライドを少々刺激した。
 「ありがとう。大丈夫です」
 笑顔でそう返しながらも内心では、 
 (誰が叫んだりするもんですか!)
 この向こうっ気こそ、彼女をカプラのトップ嬢にまで登らせた根幹の一つ。それにD1だって無代と共に、あの浮遊岩塊『イトカワ』から身体一つで飛び下りた経験がある。だから軽々に彼女の覚悟を笑ったり、嘲ったりするのは間違いだ。
 ただやはり、というか何と言うか、向こうっ気だけでは太刀打ちできないものも、世の中にはあるものだ。
 「左右気嚢、全気室排気用意!」
 バークの指示が続く。
 「カウント5! ……5……4……3……!」
 そしてバークが数える数字が、ついにゼロになった瞬間。

 『マグフォード』が墜ちた。

 「ひ……!? ……ひゃあああああああああ!?!?!!!!!」
 突然、足下の床が抜けたかのような落下感に、D1の精神があっさり切れ、その喉から絶叫が吹き上がっていた。
 「あああああああああああ?!?!?!?」
 恐怖のあまり頭の中は真っ白。カプラのプライドも何もかも、どこかへすっ飛んでしまっている。
 『マグフォード』を空に浮かせる二つの気嚢、それが内部の浮遊ガスを一気に放出し、気嚢を含めた船体が急降下を開始したのだ。
 もちろん一気とは言っても、気嚢のガスがいきなりゼロになるわけではない。だから実はその落下速度も、重力任せの自由落下に比べれば緩やかなものである。
 しかし椅子に身体を固定されたまま、いきなりの落下感に囚われたD1にとっては、夢中だったイトカワからの落下の何倍も速く、そして恐ろしく感じられてしまう。
 「きゃあああ!!!!!ぎゃあああああ!!!」
 D1の絶叫。と同時に、
 「高度1800……1500……1200……」
 『マグフォード』の艦橋には、冷静に高度を読み上げるクルーの声が響く。
 落下の恐怖、それは永遠に続くかと思われたが、 
 「左右気嚢、全気室閉鎖! 再充填用意!」
 ガスを再充填し、気嚢の浮力を回復すべく、バークの指示が伝声管に投げ込まれる。
 さて、ここでお気づきの方もいらっしゃるだろう。
 この世界の『飛行船』と我々の世界の『飛行船』には一つ、決定的な違いがある。
 確かに『気嚢に浮遊ガスを入れ、その浮力で空中に浮く乗り物』、というところまでは同じだ。しかし、この世界には存在し、我々の世界には存在しない『あるもの』の有無が、二つの飛行船の性能と運用に天と地ほどの差を生んでいる。
 ではその『あるもの』とは何か?
 実は『アルケミスト』という職業の存在である。
 薬品のみならず、この世の物質ならば自在に反応・生成が行える物質操作のスペシャリスト。その最上位の職は『クリエイター(創成師)』と称され、材料と術式さえ明らかならば、およそこの世のものではない新物質すら創り出せるという。
 この世界の飛行船には、そのアルケミストが必ず乗り組んでいる。では、飛行船に乗り組んでいるアルケミストは一体、何をするのだろうか?
 正解を先に言うならば、それこそが『浮遊ガスの再充填』なのだ。
 もし我々の世界の飛行船ならば、今の『マグフォード』のように気嚢の中のガスが大量に抜けてしまった場合、飛行したままガスを再充填することは非常に難しい。巨大な気嚢を満たす予備ガスを持ち運ぶためには、重く巨大なガスボンベを船内に大量に備えておく必要があり、結果としてそれだけで相当の重量となってしまうため、人や荷物を載せるどころではなくなってしまうのだ。
 だがアルケミストが乗り組んだ、こちらの世界の飛行船ならば事情は違ってくる。
 浮遊ガスの再充填を命じる、バークのカウントが響く。
 「……3……2……1! 充填!」
 ぐっん!
 ちょうど降下していたエレベーターが減速するように、『マグフォード』の落下速度が緩んだ。艦橋のあちこちがみしり、ときしみを上げ、椅子に固定されたD1の形良く引き締まった腰が、ずん、と椅子に沈み込む。
 浮遊ガスが抜けて浮力を失っていた二つの気嚢に、アルケミスト達によって再び命のガスが吹き込まれたのだ。
 「……は……あ」
 D1の悲鳴もやっと止まる。
 これこそが飛行船に不可欠と言われるアルケミストの技。手持ちのわずかな液体、わずかな触媒だけで、我々の常識では考えられないような量の浮遊ガスを自前で発生させることを可能とする。
 しかも『マグフォード』にはそのアルケミストが実に7人、さらに上位職であるクリエイターが4人も乗り組んでいる。これは通常の飛行船と比べ、実に3倍の人員規模だ。加えてそのリーダーであるクリエイターは賢者の塔の教授職、他の10人も全員が博士号持ちという豪華さ。
 その彼らが、気嚢内部の区切られた気室一つ一つを担当し、浮遊ガスの排気と再充填を行うことで、『マグフォード』は通常の飛行船ではあり得ない機動を可能とする。
 飛行船には本来不可能な、この『緊急降下(クラッシュダイブ)』もその一つなのだ。
 そしてもう一つ、彼ら錬金術の徒には『マグフォード』ならではの重要な役目があるのだが、それを紹介するのは少し後回しにさせていただきたい。
 「高度200……180……」
 気嚢ガスの再充填により落下速度こそ緩やかになったものの、『マグフォード』の降下はまだ続いている。
 真下を見ればぐんぐんと近づく地面が見えるはずだが、D1の座っている位置からは、窓の外を上方に流れて行く山肌しか見えない。だが艦橋の両側すれすれに迫る岩の様子から、『マグフォード』が今、狭い峡谷の間を直下へ下降中と分かる。
 「エンジン始動用意。エナーシャ回せ。高度50で半速20秒」
 気嚢の次はエンジン、そしてプロペラの出番である。ただしエンジン音を『セロ』に悟られないよう、最小限の駆動で船体を操らねばならず、そしてこの狭い峡谷の中でそれを行うことは極めて困難な作業だ。
 ただしアーレィ・バーク、その人を除いては。
 「高度……50。エンジン始動、 半速20秒!」
 ぶぼぼぼおおおおおぉぉんんん!!!!
 四機のエンジンが唸りを上げ、巨大なプロペラが高山の風を切り裂く。四機のエンジンを同時に、しかも一度のやり直しもなく始動するのはかなり奇跡的な作業だが、D1の知る限り『マグフォード』がこれに失敗したことは一度もない。気嚢を司る錬金術師と同じく、賢者の塔の教授位を持ったホワイトスミスを頭とする機関部の腕もまた、相当に確かなものらしい。
 エンジンの唸りと同時に『マグフォード』の巨体がぐん、と向きを変え、窓の外を上に流れていた岩肌が、その流れを後方へと変える。船の両側に迫る狭い峡谷の真っただ中、双胴の巨鯨は再び游泳を開始した。
 相変わらずの神業。
 きっちり20秒。エンジンが止まり、峡谷にしん、と静けさが戻る。
 だが不思議なことに『マグフォード』の船足は止まらない。D1の目に、両側に迫る岩肌が一定の速度で後方へ流れていくのが映る。
 「……風?」
 「正解です。さすがD1」
 若くハンサムな副長が、彼女のベルトを外すついでに説明してくれた。
 「この辺りの谷底を、常に一定の速度で流れている風なんです。我々飛行船乗りは『巨人の息吹』って呼んでる。これに乗るとエンジン無しでもかなりの距離が稼げるんですよ。しかも谷の間だから敵にも見つかりにくい」
 副長の言葉を裏付けるように、伝声管から監視の報告が入る。目下最大の脅威である『セロ』はジュノー上空に留まったまま、追って来る様子はないという。
 こんな深い谷の底を潜航していても、わずかな峡谷の切れ目を通り過ぎる際に一瞬だけ開ける視界から、宿敵『セロ』の位置をちゃんと確認してみせる。そこはさすが『マグフォード』、監視チームの腕、いや『目』も超一流だ。聞けばこれも賢者の塔の教授職を持つ、元シュバルツバルト正規軍の退役スナイパーが率いているという。
 最大の脅威から逃げ切った安心感に、さしも鍛え抜かれた艦橋クルーの間にも、ほっとした空気が流れた。
 「もう大丈夫。この船にとってはいつもの散歩道ですよ」
 若くハンサムな副長がちょっと気取った笑顔を見せる。
 「なら、散歩の手綱はお前に頼もうか。副長」
 いきなり後ろからバークの指示を受け、副長の身体がぴょこん、と跳ね上がった。
 「いっ!? イエス、キャプテン!」
 「『イトカワ』を視認するまで舵は任せる。D1、どうぞこちらへ。お茶を差し上げましょう」
 そしてテーブルが用意され、冒頭の茶席が始まったのである。
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