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第三話「mild or intense」(1)
 プロンテラ下町の朝。
 宿屋の3階に、無代の怒鳴り声が響いた。
 「誰だ! カプラの…誰が殺された! 女将っ!」
 無代の取り乱し方がちょっと異様に見えたのだろう。一瞬ひるんだ女将だったが、すぐにいつもの威勢を取り戻し、
 「ちょっと落ち着きなよ! モーラじゃない! アンタの元彼女じゃないから!」
 「…!」
 怒鳴り返した女将の言葉を聞き、無代の身体からどっと力が抜けた。
 「モーラじゃない…?」
 「そーだよ。確かS2チームの、ノーナンバーの娘だってさ」
 冒険者たちの活動を支えるカプラ社と、その従業員であるカプラ嬢。
 『ディフォルテー』
 『ビニット』
 『ソリン』
 『グラリス』
 『テーリング』
 『W』
 6つの名前と姿を受け継ぐ女性たちが24時間365日、冒険者たちの荷物の預かりや、他の都市への有料転送を行っていることは既に書いた。
 当然、彼女たちの活動もきちんと組織化されている。
 6つの名前を襲名した『ナンバーズ』の下に、複数の見習いを配したチームを組み、24時間をローテーションするのだ。
 女将の言う『S2チームのノーナンバー』を例に取ろう。
 『S』は名前の頭文字、つまりソリン。『2』は順列を示している。
 『ソリン』は現在5人のナンバーズで構成されており、『S2』はその二番目。
 『S2チームのノーナンバー』とはつまり、ソリンの上から二番目の女性の部下、ということになる。
 ちなみに、無代の元恋人であるモーラは『D4』。
 『デフォルテー』の4人の『ナンバーズ』、そのうちの一番新人だ。 
 ナンバーズはその配下に4〜5人の部下を持ち、それを統括する形でプロンテラ、ピラミッド前、アインブロックの3カ所をローテーションしている。
 今はプロンテラ中央がD4チーム、つまりモーラをリーダーとするチームの担当である。
 「しかし、ノーナンバーとはいえSチームのレギュラーだろ? それが殺されるとか尋常じゃないぞ?」
 彼女らの並々ならぬ実力は、無代も骨身に沁みて知っている。
 「『レギュラー』って言っても新人さんだったらしいよ…それを一撃だってさ。痕跡から見てバッシュでね。心臓を吹っ飛ばされて…おっと、申し訳ございませんお嬢様、お茶の時間に…」
 「いいわ。別に平気。…バッシュなら、香姉様じゃないよ…ねえ?」
 最後の方は小声。女将には聞こえないが、無代には聞こえる。
 「…まあ、あまりにタイミングがよかったので驚いてしまいましたが、冷静に考えれば香お嬢様がそんなことするはずは…」
 「…ないよね」
 ふーっ、とため息二つ。いささか不謹慎ではあるがやむを得まい。
 「どうかなさいましたか?」
 女将が不思議そうに訊ねてくるが、まさか「下手人が『一条家の二乃姫』じゃないかと疑ってました」とは言えない。
 「べ、別に〜? じゃ、外が騒がしいのはそのせい?」
 「左様でございます、お嬢様。『カプラ嬢はオレが守る!』的な連中がワイワイと」
 「まあ誰だって気にはなるよねー…ごちそうさまー」
 静が最後のお茶を飲み干し、女将に下げるように促す。
 「お粗末でございました。…けどまあ、いったいどこのどいつが…何がしたくてそんなことをねえ。死体をそのまま放置して行ったそうで、まったくバチ当たりな」
 「まったくでございますね。さて、お嬢様、本日の予定でございますが…」
 落ち着きを取り戻した無代が『執事調』に戻る。が、静はなぜか応じない。
 じーっと無代の顔を見ながら、
 「ね、元彼女さんとこ、行ってあげたら?」
 「は?」
 「心配なんでしょ?」
 畳み掛けてくる静に、無代は苦笑する。
 「そりゃそうですが、わたくし振られておりますし。『二股』もバラしてしまいましたので、もう彼女に顔出せた義理ではございません」
 彼女と決別した後も『ディフォルテー』は何度か利用したが、いずれもモーラの部下のノーナンバー達だった。しかし彼女たちもモーラと無代の事情は薄々知っているらしく、無代への態度はなかなかに冷たい、と思うのは無代の気のせいだろうか?
 「それでも、行った方がいい。その方がいいよ」
 「いや、しかしなぜお嬢様がそれほど…?」
 静の強硬ぶりに、無代の方が首を傾げる。
 「…? そういえば何でだろ? …でも何か、そうした方が良い気がするの。そう…いますぐそうした方がいい気が…」
 すう、と静の目が別の輝きを帯びて、すぐに消えた。それは本当に一瞬のことであったが…。
 「承知致しました」
 無代が即答した。今まで渋っていたのが嘘のようだ。
 こういう時、彼女たちの言葉を無視すべきではない、と経験的に知っている。無駄に長く『一条の三姉妹』との付き合っているわけではない。
 おかげでひどい目に合う事も多いのだが…。
 かちゃん。
 静の茶器を下げようとしていた女将が、一瞬手元を狂わせ、盆の上の茶器を鳴らした。
 「も、申し訳ございません…!」
 女将が慌てて謝罪すると、そのまま部屋を出て行く。顔色がおかしく、なぜか涙ぐんでいるようにも見えたが…。
 「どうしたんだろ、女将?」
 「…さあ? それよりお嬢様。さっそく行って参ります。お昼のお弁当をご用意できませんので」
 「いいよ。自分で調達する」
 「申し訳ございません。では失礼致します」
 
 静の許しを得て、無代は街へ出た。
 人ごみをかき分けるようにして中央カプラの場所へたどりつくと、そこに立っていたのは他ならぬ、モーラだった。
 変わらない、いつもの凛とした姿。遠目に見ても奇麗なお辞儀を繰り返しながら、冒険者たちに応対する。
 モーラと目が合った。
 少し表情を緩めてくれたような気がするのは、無代の勝手な思い込みだろうか。恋人としての間柄に決別してまだ間がないけれど、決して険悪な間柄にはなっていない、とは思う。
 「…っと、それも勝手な言い分か」
 モーラの無事は確認したし、様子を見ても大丈夫そうだ。しかも、無代の100倍も勇ましい『光った』連中が周囲にたむろしている状況を見れば、彼ごときの出番はなさそうだ。
 実際、この状態なら超級のドラゴンだの堕天使だの、無代では手も足もでないようなモンスターが襲って来ても平気だろう。
 帰ろう、そう思った無代の目の前に、いきなり倉庫の扉が出現した。カプラ倉庫。
 魔法による超空間移送技術、それを応用したのがこのカプラ倉庫と、カプラ嬢による多重応対システムだ。
 元々は、先の聖戦時代に構築されたシステムを『発掘』したもので、どうやって作られたのかも、その作動原理もほとんど不明のまま。
 しかし、とにかく『使う事』だけは可能というオーパーツ。

 こういう事物を「戦前物(オリジナル)」という。

 超空間内に作られた倉庫は、冒険者一人につき一つ存在し、その持ち主の冒険者にしか見えず、もちろん開く事もできない。
 目の前の倉庫の扉はまぎれもない無代のものだが、他の冒険者には見えないし触れもしない。
 本来は無代の要求が無ければ出現しない扉だが、どうやら今日は特別らしい。
 「…心配してくれたの?」
 モーラの声。ぶっきらぼうなようだが、歓迎する音色もある。ちなみにこの声も、無代にしか聞こえない。
 『本体』のモーラは相変わらず街角に立ってお辞儀をしているが、ここで無代に語りかけているモーラも本物だ。超空間移送技術を応用した多重コミュニケーション。
 「そりゃ、まあ。でも無事な顔見て安心したよ」
 「…ありがと。あの…無代…」
 「モーラ、もしよかったら」
 言いにくそうなモーラの先手を取る。
 「よかったら後で、少し話がしたい。今度の事件のこと」
 「…」
 沈黙。やはりまずかったかな、と無代が後悔しかけたとき、小さなため息が聞こえ、
 「お昼に交代だから、その後で」
 ほっとしたような声。
 「ありがとう。何でも好きな物奢る」
 簡単に待ち合わせ場所を決めると、ふふ、という含み笑いと共に声は途絶え、倉庫も消えた。しまった、今だったら倉庫開けるのタダだったかな、と無代が思ったのは内緒だ。

 カプラ嬢の交代は瞬間移動を使って行われる。
 前任者が超空間へ飛ぶと同時に、同じ位置に新任者が出現する早業は、うっかりしていると見落としてしまうプロンテラの名物の一つだ。
  無代はモーラが次の担当者(キャロルという、モーラの後輩だ)と交代するのを確認して、待ち合わせ場所の中央噴水へ歩き出した。にぎわう露店街を、顔見知 りの同業者たちに挨拶しながら抜けて行く。途中何人かのおしゃべりにつかまりそうになるのを上手く切り抜けていくが、そうもいかない相手もいる。
 「はよー、無代っちい! 今日はお嬢様は〜?」
 「おはようございます、うっきうき商店様」
 無代が丁寧に応対したのは、道ばたに座り込んでいた女性の商人だ。
 「あはは、しゃべり方、やっぱ変だ〜。うきでいいようきでww」
 笑われても苦笑するしかない。そりゃ一昨日までは普通にしゃべってたのが、いきなり『バカ丁寧な従者風』でしゃべり出したら、笑われるのも仕方ないことだ。
 ただ、笑われて腹を立てる相手ではない。
 プロンテラに来た最初の時期にずいぶん世話になった先輩商人。しかも何より、昼間は無害な商人姿だが、夜ともなれば名うてのアサシンクロスという別の顔を持っている。
 無代が怒ってどうなる相手でもなかった。
 「今日はわたくし一人でございます。景気はいかがで?」
 「んー、カプラ事件のせいで人は多いけど、売れ行きはいまいち! ディフォルテーばっか見てないで、ちっとは露店も見てほしい!」
 「あはは」
 先輩を相手にしばし情報収集。
  殺されたカプラ嬢はシーリンという名前の新人で、その時はプロンテラの西門を担当していた。それが深夜、人通りの絶えた時間帯に殺され、その後通りかかっ た『深夜組』の冒険者に発見されたという。話の通り正面から心臓を吹き飛ばされており、蘇生限界時間もとっくに過ぎていたため『死亡』した。蘇生といってもその傷では、限界時間もほんの数分しかなかったろう、という話だ。
 商売に戻る『先輩』と別れ際、ついでに頼み事をする。二つ返事で引き受けてくれたので、安心して街を歩き出す。
 が、無代の表情は微妙だ。
 (まあ、香じゃないよな。そうだとしたら、やり方が的外れすぎる)
 香の顔を思い浮かべる。
 そりゃ『やりかねない』という危惧はあるものの、あの香が嫉妬に狂って殺人を犯すほど素っ頓狂とは思えない。
 万一殺すにしても、無代とはほとんど縁もゆかりもないシーリンなど殺す意味はなかろう。
 (香ではない)
 それはもう確信と言ってよかった。
 (しかし、ならばなぜ静があんな反応をしたのだろう?)
 それが分からない。
 そしてモーラの様子も、少し気になる。
 噴水が見えて来ると、花壇の側に立っているモーラがいた。
 既に服も着替えて髪型も替え、知らない人間にはこれが『D4』だとは分からないだろう。ただの『美しく若い女性』にしか見えまい。
 だがやはり様子がおかしい。
 困惑した表情でそわそわと辺りを見回す取り乱した仕草は、最難関といわれるDナンバーを若くして許された彼女らしくない。
 気になって足を速めると、モーラが無代を見つけた。
 「無代! 来ちゃ駄目っ!」
 モーラの叫びが聞こえ、無代が身構えるのと同時。
 囲まれた。
 武装し、既に抜刀した一団。リーダーらしきナイトが進み出る。
 「カプラガードだ。無代だな?」
 カプラガード。カプラ社が擁する専属の武装集団。
 訓練された組織的な行動に抵抗する暇もない。抵抗したところで武器もなく、戦闘能力もやっとブラックスミスに転職したばかりの無代では無駄もいいところだ。
 こういう時は、すばやく捨て身で開き直るのが無代流である。
 「…左様でございますが、わたくしに何か?」
 「カプラ嬢殺害の件で聞きたい事がある。来てもらう」
 並んだ剣がじわり、と動いた。
 (…今回は裏目らしい…)
 自分を送り出した静の言葉を思い出しながら、無代はため息をつく。

 無代と静が滞在する、宿屋の厨房。
 そこが今、ちょっとした地獄絵図に変わっていた。
 室内のあちこちが焼けこげ、元が何であったか定かでない様々なものの残骸が散乱し、異臭と煙が立ちこめている。
 「…ねえ。何で卵焼きが爆発するのか教えてくれない?」
 若い男の、それも真剣な声が室内にぽつり、と落ちた。
 「し、知るワケないでしょ! あ、アンタがちゃんと教えないからよっ!」
 怒鳴り返したのはほかでもない、静だ。
 宿屋の外厨房。つまり、宿泊者達の自炊のために解放されている厨房である。
 そう聞くと、様々な設備が充実している宿屋のように聞こえるが、そうではない。
 この宿はプロンテラでも最も安い部類に入る、いわゆる『木賃宿』だ。
 木賃宿とは、宿泊客が木賃、つまり炊飯用の薪代を払って自炊をする宿のことである。
 一応、金を払えば食事を作ってくれる内厨房もあるので多少はマシだが、間違っても高級な宿というわけではないし、規模も小さい。
 外厨房も簡素なかまどが6つあるだけで、何ら立派なものではないのだが…。
 それにしてもひどい惨状である。
 「ボクはちゃんと教えてる…ってゆーか、どう教えたら卵焼きが爆発するのさ、逆に」
 静に反論する若者の声は、あくまで冷静だ。言っている事ももっともである。
 そもそも静がなぜ、外厨房で卵焼きを爆発させているのかというと…。
 話は無代と別れた直後、
 「無代がいないので、自分でお弁当を作ります」
 と、静が宣言したことに遡る。
 当然、女将は止めた。
 お姫様に炊事をさせるわけにはいかないし、十分な代金は支払われているのだからお弁当ぐらい宿で用意する、と、至極もっともな理由である。
 が、一度言い出したら聞かないのも静だ。世話役の無代が留守なのだから、自分でやらなくてはという自立心もあるが、単にやってみたい!という好奇心の方が大きかったかもしれない。
 結局、女将の制止を振り切り、強引に手伝いも断ると、かまどの前に立った。
 が、はたと困る。
 一条静姫、生まれてこのかた厨房に立った事がない。
 余談だが、一条家の三姉妹のうちでこの手の家事に最も長けているのは、実は意外にも長女の綾である。
 実母の桜が亡くなった当時、実父の鉄はまだプロンテラの軍人であり、士官用のアパート暮らしだった。そのため、綾が母親代わりに家事を引き受けていた時期があるのだ。
 後の天下の女傑にしてはユニークな過去だが、綾なりに母の死を背負い、家族のためを思いながら必死の苦労を重ねて身につけたものだけに、決して笑いものにはできない。
 次女の香も、彼女なりに綾を手伝った過去があるし、事象を数値化して記憶する術に長けている彼女だけに「やらせれば」それなりの成果を上げられる。ただ、本人に家事に対する興味が絶望的に薄いのが難点だが。
 で、静なのだが…。母が亡くなった時期にはまだ幼児であったし、物心ついた時には既に父は瑞波のお殿様であったから、彼女も「一国の姫」であった。
 本人も武術の鍛錬に打ち込んでいたこともあり、いわゆる家事炊事はさっぱり経験がなく、興味もなかったのだ。
 (…お米ってどうやってご飯にするんだろ…?)
 と、かまどの前で真剣に悩むレベルである。
 とりあえず火は起こせるので、その上に鍋を置いて米を入れてみる。
 焦げた。
 辺りに煙が充満する。
 「…あのさ」
 後ろから声をかけられた。
 「な、何よっ?」
 失敗に突っ込まれるのがイヤさに、ムキになって振り向く。
 「初めてなんだから! 失敗はしょうがないじゃないっ!」
 相手もろくに見ないで先制してみる。
 「それはまあ仕方ないと思うけどさ…」
 長身の、若い男。静の先制攻撃にもさして怯んだ様子はない。
 身体の幅や厚みはそれほどでもない。ただ、四肢は絞り込んだ鉄筋のように鍛えられているのが分かる。彫りの深い、美男子といってもいい顔立ちだが、女性の好みそうな甘さはあまりない。
 「お米、もったいなくない…?」
 「…う」
 そう言われると静も苦しい。
 「キミ、お姫様なんでしょ? お金はあるんだろうけど、それでももったいないことは良くないと思う」
 正論である。
 「…そ、それは、そうね…うん」
 さすがの静も勢いが弱い。
 「教えようか?」
 「え?」
 「だから料理。お米炊いて、卵焼きぐらいなら」
 静の返事を聞く前に、男がくるくる、と自分のシャツの両袖をまくり上げた。静の鍋を掴み、焦げた米を捨てる。
 「まずお米から。鍋洗って、水汲んで…汲み方ぐらい分かるよね?」
 「う…うん。あ、熱っ!」
 男が差し出す鍋を掴もうとして、静が思わず手をひっこめる。
 「あ、ごめん。熱かった? じゃ、これ」
 備え付けの鍋掴みを静に差し出す。鍋は素手に持ったままだ。
 「それ、熱くないの?」
 「? …ああ、別に」
 虚を突かれた感じで、鍋掴みと鍋を受け取り井戸へ走ろうとした静がはた、と止まる。
 「あ…えと、あたし静。一条静。あなたは?」
 「ボク? ボクはフール」
 「フール…。あの、フール?」
 「ん?」
 「…よ、よろしくお願いしますっ!」
 ぴょこん! と頭を下げる。『師弟関係に身分なし』というしつけが行き届いている辺りはさすがで、むしろフールの方が驚いた顔。
 そして即席の料理教室となったわけなのだが…。
 何とか米を炊くまではよかった。問題はその後。
 卵を焼こうとフライパンを火にかけたところで…。
 「…卵焼きがいちいち爆発するなんて、オカルト現象だよまるで」
 フールがさすがにぼやいた。
 呆れたことに鎧兜と盾まで装備している。ロードナイトだ。
 二度目の挑戦の際、爆発した卵の直撃を顔に喰らった後、特に熱そうなそぶりはなかったものの、いったん自室に戻って耐火装備で武装したのだ。
 なぜか当の静は無傷なのが、さらにオカルトである。
 「…た、卵がおかしいのかもしれないじゃない!」
 静が言い返すが、さすがに勢いがない。
 「まあ一概に否定はできないけど…。じゃボクがやってみる」
 静に代わってフールがかまどに立つ。懐疑的な口ぶりの割に、鎧と盾は装備したままなのは、彼なりに『オカルト現象』に衝撃を受けているからだろう。
 完全防備のロードナイトによる、前代未聞の調理が始まって…すぐ終わった。
 「爆発しない。卵は悪くない」
 「…む」
 「ね、こうしない?」
 黙り込むしかない静に、フールがフライパンを差し出し、
 「ボクのこの卵焼き、半分あげる。その代わりキミの炊いたご飯、半分もらう。今日はそれでよしとする」
 「…」
 「どう?」
 「…うん」
 そういうことになった。
 宿で借りた弁当箱にそれぞれの『成果』を詰め、簡素ながらも弁当が完成する。
 爆発卵の謎は謎のままだが、静のオカルト的能力、ということだろうか。
 「…ありがとうございましたっ!」
 「あ…いや」
 「えへへ。また、教えてね、フール」
 初めての弁当を大事そうに抱えて飛び出して行く静を、フールは困ったように見送る。
 感謝された事への困惑か、また教えてくれという要求に対してなのか。
 どうも自分でもよく分からないようだった。
 「ご苦労さん、フール。アンタがいてくれて助かったよ」
 宿の女将が厨房に顔をのぞかせる。
 「…いいけど、約束忘れてないよね、女将さん?」
 「ん? ああ、お嬢様の面倒見てくれたら宿代一ヶ月分棒引き、だろ。忘れてないともさ。あのお嬢様にこれ以上やられたら、こっちの神経が持たないからねえ」
 わはは、と笑う。
 どうやらフール、女将に頼まれて静の面倒を見る役を引き受けたらしい。
 「忘れてないなら、いい。…あ、これあげる」
 フールが厨房を出て行きざまに、女将に包みを差し出した。
 「え? これ、アンタの弁当だろ? 朝に自分で作った方の。いいのかい?」
 「…こっち食べるから」
 フールが反対の手に提げているのは、ついさっき静と作った弁当。
 「まあ、アンタがいいならいいけどさ。しかし変わってんねアンタも。別に自炊弁当しなくても…そもそもこんな宿にいなくてもいいだろに。稼いでんだからさ?」
 フールを見送りながら女将が訊ねるが、返答は短い。
 「お金はないよ」
 「ふーん…って、アンタ手! 頬っぺたもそれ、火傷じゃないか! ちょっとお待ち!」
 女将があわてて薬を取って来て、手際良く塗り込む。
 「痛くないかい?」
 「…痛い? 痛い…そうか、痛いんだ、こういうの」
 「何だって?」
 思わず女将が聞き返すのへフールは答えず、代わりに短く礼を言っただけでその場を立ち去る。
 「痛い、って何? 分からないんだ…」
 去り際に呟いた声は、誰にも聞こえない。…はずだった。
 「ふーん。なるほどー。あーゆーふーにやればいいのかー。キミ、うまいねー」
 厨房から出たところで、廊下の向こうから何とものんびりした声がかかった。
 「…?」
 フールがさすがに立ち止まり、相手を凝視する。
 自分と余り違わない年格好。服装はプリースト。頭にえらく派手な花飾りをつけているのが特徴といえば特徴だ。
 立ち姿に緊張はなく、どちらかといえばぽやん、とした雰囲気。
 「女の子と仲良くなるには、やっぱり食べ物だよねー。僕もそうすればよかったなー」
 何だか間延びした声。
 「…誰?」
 「あ、ごめんごめん。僕、速水。速水厚志。あっちゃんでいいよ?」
 「いやだ」
 「あれ〜?」
 フールはもう興味がなくなったようで、速水と名乗った男の脇を抜けて行く。
 「仲良くしようよー…似た者同士じゃない?」
 「!」
 何気なく投げられた言葉に、フールがふ、と振り向いた。
 二人の視線がぱちん、とぶつかる。だが、それ以上の事態には発展しない。
 「興味ない」
 フールが視線を外し、今度こそ歩き去る。
 「…嘘つき」
 速水が少し笑って、その後ろ姿に言葉をぶつけた。それは、聞こえたのか聞こえなかったのか。
 フールはもう振り向きもせず、真っ直ぐに外へ出て行く。
 「…でも僕が一番、嘘つき」
 最後のは速水の独り言。
中の人 | 第三話「mild or intense」 | 22:22 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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