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第三話「mild or intense」(3)
 どれほどの時間が経ったのか。
 船底で意識を失った香が、その意識を取り戻して最初に見たのは、『自分の身体』だった。
 『自分の身体』を空中から『見下ろして』いた。
 硬そうな、簡素なベッドの上に横たわる、裸の身体。
 相変わらず背が低く、女性としても未発達な身体。
 背丈は仕方ないにしても、せめてもう少し柔らかい曲線で飾ることができれば、ちょっとはマシなのに…と思う。
 もっともっと食事を摂ればいいのだが、元々『食欲』というものが薄い上に、無代がいないとどうしても、『食事そのもの』に興味が持てない。
 そうだ。無代がいないせいだ、と拗ねてみる。
 そこで違和感。
 ひどく静かだ。
 それが違和感。
 無意識に、身体の各器官へ状況報告を求める。
 だが、帰って来たのは静寂。
 沈黙ではなく、静寂。
 おかしい。パニックを起こしそうになりながら、さらに全身を確認しようとするが、やはり返答は静寂だけだ。
 そこではた、と気づく。
 目の前にある、この身体は…?
 私。
 私の身体。
 では…『私』は…?
 疑問と回答と衝撃が同時に来た。
 (死…?)
 身体から意識が抜けている。
 (死ぬ…の…?)
 すう、という浮遊感。『香の身体』が遠ざかる。
 喪失と絶望。
 死ぬ事への絶望ではない。死は香の友だ。
 その絶望は、愛しい人にもう会えないことへの絶望。
 その喪失は、記憶の中の無代の顔が遠くなることへの喪失。
 『香』が消えていく。身体が遠くなっていく。
 その時だった。
 『香の身体』の目がぱちり、と開いた。
 真っ直ぐに『香』を見る。
 小さな、赤い唇が声を出さずに動く。
 (いってはだめ)
 (もどってきて)
 ぐぐっ、と『香』の浮遊が止まる。戻らなくては。まだ間に合う。
 戻らなくては!
 でもどうやって?
 赤い唇が、また動く。
 (からだを)
 (いしきして)
 そうか。
 また遠のきそうになる意識を懸命に支え、『香の身体』を意識する。
 伸びない背丈。
 薄っぺらい胸。
 板のような腰。
 棒のような手足。
 みんな嫌いだけど…でも私の身体。
 『身体』が近づく。でも足りない。まだ足りない。
 唇が動く。
 (…とうさ…じゃなかった、むだいが)
 (むだいが、ふれたばしょを)
 『身体』が何を言い間違えたのか、『香』には考えている余裕はない。
 そうか! 意識に電撃が走る。
 唇。あの人に、散々な思いをさせたファーストキス。
 でも、あの時の感覚が蘇る。意識が身体に染み込んでいく。
 頭。あの人がいつも撫でてくれる。
 肩。大きな手で抱き寄せてくれる。
 手。あの人に、いつも触れていたい。
 胸。あの人に、いつも申し訳ない…。
 (ええい! まどろっこしいっ! ここよここっ!)
 じん、と意識全体がしびれる様な、強力な思考が『香』を捕らえた。
 『子宮』だ。
 あの人が…あの人が…と、思うヒマもない。
 ふわりと浮かんだ風船のヒモに、いきなり巨大な鉄塊を吊るしたような重力。
 どすん! と『香』が『身体』に戻った。
 (最初っからこうしなさい! 唇だのキスだの! 乙女じゃあるまいし!)
 『子宮』が猛烈な不満をぶつけてくる。相変わらず身も蓋もない勢いに苦笑する。
 同時に、安堵がこみ上げる。
 生きている。私は生きている。
 全身に散らばった思考が、一斉に香に接触してくる。
 だが、妙だ。
 分散した思考から情報は集まってくるのに、『香』からの指示を受け付けない。
 (全器官の統括要求!)
 発せられた要求に対する返答は、沈黙。静寂でないだけマシだが、困惑する。
 (…あー、今はだめ。少し待って。私が代わりに統括中だから)
 そこへ、異質な思考が割り込んできた。香の知らない、完全に未知の思考だ。
 (あなた…誰?)
 (言えない)
 (??)
 香は混乱する。かつて『子宮』を相手に同じような会話を交わしたものだが、さすがにもう『知らない器官』などないはずだ。
 (誰なの?)
 (だから言えないの。そもそも、こんなこと自体『ルール違反』なんだから)
 何だか馴れ馴れしい。
 そもそも、他の思考群がそれに従っているのもおかしかった。
 (疑問は当然。でも問題はない。今は従うべき)
 『子宮』が要求してくる。
 次元の違う意味で、『脳』に匹敵する統率力を持つこの器官までが従っているというのはどういうことか。
 (ほら、『子宮』もそう言ってるじゃない。状況を説明したら消えるから、今は従って。同意要求!)
 (…保留)
 (…もー。わかったわよ。それでもいいわ。とにかく聞く。いい? 『香』は捕われて、身体を生かしたまま意識だけをもぎ取られた)
 (…身体を生かして…意識だけを…?)
 (そ。普通なら身体だけ残して、『香』は死ぬ)
 (でも、私には分割思考がある)
 (その通り。『香』が引きはがされても、身体には『香』が残っている。たとえ肉片にされたとしても、『香』を完全に消すことはできない。強い組織思考ができる)
 (だから戻れた…?)
 (それでも私の助けがあったからよ? 感謝してよね。同意?)
 (…同意)
 (よしっと。じゃ私、消えるから…そうね『また会いましょう』。それまで頑張って。でないと…困るんだから)
 最後まで馴れ馴れしく、言うだけ言うと思考が消えた。ぴょん、と飛び跳ねるように、本当に消えたのだ。いくら呼びかけても、一切の返答も反応もない。
 代わりに、全身の器官が今度こそ『香』として統合される。
 (今のは誰…? というか『どこ』?)
 (全器官回答不能。回答権限なし)
 『子宮』が代表して応える。
 (…何それ?)
 (考えても無駄。とにかく『香』の味方で、『香』は死なずに済んだ。それでいいじゃない? それに、解決すべき問題はまだ続いてる)
 そうだった。
 ただ目前に迫った死を免れた、というだけなのだ。香の危機が続いていることに違いはない。
 (了解。細かい事を気にしている場合ではない。状況整理を…そうだ! 無代は!?)
 慌てて感覚を確認するが、無代の危機はもう感じ取れない。万一、無代が死ねば絶対に分かるはずだから、とりあえず危機は去っているとみるべきだろう。
 一応、安堵する。
 (各器官に質問。感覚が戻ったのはいつ?)
 (およそ5分前。このベッドに寝かされた直後に、『あの思考』によって起こされた)
 『子宮』が応える。
 (ここは未知の場所だ。部屋の中。木製の壁と天井。出入り口はドアだけ。明かり取りの小さな窓が一つ。同じベッドが5つあり、ここはドアからみて左端。他に人はいない。)
 『左目』が報告する。
  (ここに私を寝かせたのは中年の男。ヒゲがあり、恐らく朝、風呂かシャワーを浴びた。タバコをかなりたくさん吸う。銘柄はアルベルタのもの。このベッドに は過去、最低3人の人間が寝かされている。いずれも少年。隣のベッドにも数人の匂いが残っている。うち最低一人は少女。そこから向こうのベッドまでは感知 できない。あと、窓の外から潮の匂いがする。海が近い)
 『鼻』の報告だ。
  (足音からみて、ベッドに寝かせた男は大柄のアルケミスト、あるいはブラックスミス。窓の外から数種類の鳥の声がするが、恐らく南方の種類。他に生活音が しないことから、人里からは離れているとみられる。微かだが波の音。やはり海が近い。確証はないが、外の音の聞こえ方からして、ここは建物の2階以上の位置にある。直上に屋根、外は晴れており、かなり暑い。)
 『右耳』が分析する。
 『脳』が分析を開始。
 (部屋の壁、ドアに使われている材木は乾燥しておらず、まだ新しい。材の種類は複数で、南方のものだ。頑丈さを優先したらしく厚いが、大工の腕はよくない。急ごしらえのイメージ)
 どうやらここは南方のどこかで、人里からは離れた海の近くらしい、ということしか、今の所はわからない。
 (足音! さっきのアルケミスト! だが何か重い物を抱えている。恐らく…人!)
 『左耳』が警報を発する。
 (…動くな! ただし戦闘態勢! 危険と判断した場合は直ちに戦闘開始。判断は脳が行う。同意?)
 (同意!)
 ドアが開いた。
 薄目をさらに細く開けて観察。その状態でも全感覚を動員すれば、それだけで常人が両目で凝視するのと同じぐらいの情報を得る事ができる。
 入って来た男は、先ほどの香のプロファイリングにぴったりだった。
 ヒゲのある中年のアルケミストで、くわえ煙草。
 ぴったりすぎて笑いそうになるが、もちろんこらえる。
 男はやはり、肩に人間を担いでいた。
 香と同じ、裸の女。
 「…っこらせっと。畜生、今度はまた重いな。コッチは軽かったのに、極端なんだよ」
 ぼやきながら、肩の女を香の隣のベッドに寝かせる。
 「ふん、でもまあ、子供にしちゃイケる身体だな。ふふん」
 女の裸をじろじろ見ながらこんなことを言う。いわゆる女性的魅力のことだろう。
 「今夜が楽しみだ」
 そう言って、部屋を出て行く。
 香は迷った。
 今なら音も、声もなく殺せる。こいつが蝶の羽根を持っていれば、それで終わりだ。だが、持っていなかった場合、この未知の建物を探索することになる。
 他に何人いるのか。
 どの程度の戦力があるのか。
 それがわからない。
 その上…。
 ぱたん、とドアが閉じられる。決断出来なかった。
 香が目を開けて、隣の女を見る。
 まだ少女だが…しかし女の香から見ても、見事な身体だった。
 小さめの簡易ベッドからはみ出しそうな身長。仰向けでも崩れない大きな胸。堅いベッドと背中の間に隙間ができるほど立派な臀部。膝から下が特に長い、しなやかそうな足。
 姉の少女時代には及ばないが、ほとんど匹敵するほどのボリュームとフォルム。
 香はじっと観察する。
 いや、別に女性の身体に興味があるわけではない。むしろ身体には興味がない。
 香が気にしているのは、身体の『上』。
 少女の身体を見下ろす位置、その空中に、もう一人の『少女』がいた。
 ふわりと浮かんだまま、『自分の身体』を不思議そうに見下ろしている。さっきの男には見えず、香にだけ見える『少女』。
 霊体。
 さっきの香と同じ状態だ。身体を生かしたまま、意識だけをはぎ取られている。
 だが、香と決定的に違うことが一つ。
 彼女は、自力で身体に戻れない。
 いまも、だんだんと身体から離れていく。放っておけば…あと数秒で死ぬ。
 死は香の友だ。だから人が死ぬからといって、香の心は動かない。
 無代以外は。
 あの移民船の中でも、多くの死を見逃してきた。
 自分が生きるために。
 だから今、少女が目の前で死んだとしても、同じ事のはずだ。
 だが…。
 香の身体は動いた。思考より、心より先に、身体が動いていた。
 なぜそんな矛盾した行動をとったのか、香は後々まで悩むことになる。が、それは意外にあの「謎の思考」の影響かもしれなかった。
 (少し…母様に似ていた)
 あの思考の雰囲気を思い出す。だが、母ではない。似ているだけだ。
 自分を助けてくれた、あの思考。
 何と言うか、それに対する『対抗心』があったのかも、と思う。
 (負けていられない…)
 そんな気持ちがあったのかもしれない。
 香が手を伸ばして、『少女』の『手』を掴む。
 見えない物を見、触れられない物に触れることができる力。
 「…私は香。貴女、名前は…?」
 見えない者と語る力。
 (…ハ・ナ・コ…)
 少女の『口』が名前を告げる。
 (この娘には未来が…ある)
 そして運命を見る力。
 一瞬のビジョン。
 (なら…ここでは死なない)
 ぐい、と『少女』を『身体』の方へ引っぱる。
 『少女』が驚いた顔をするが、香は無視。強引に『身体』へ押し込む。
 こんな荒っぽいことで戻れるのか、とも思うが、多分大丈夫だ、という確信めいたものがある。
 『少女』が『身体』と重なる。が、どうもズレている。
 (…まずいか、な…?)
 香がそう思った瞬間、少女の身体がびくん! と跳ね上がった。
 体重の軽い香が、一瞬吹っ飛ばされそうになる。が、何とか耐える。
 まだ意識と身体がズレている。痙攣はそれが原因だろう。
 香は全身の筋肉に強化を指示し、何とか押さえ込もうとするが、いかんせん体重差がありすぎる。その上、少女の身体も無意識の痙攣だけに、筋力のリミッターが外れている。いわゆる火事場の馬鹿力状態だ。
 ひゅう、と少女の口が息を吸い込む。
 (まずい!)
 香には次に起きる事が予想出来た。押さえ込むのをあきらめ、何とか少女の首の後ろに指を回す。
 無代とのファーストキスをお膳立てした、あの麻痺の技だ。
 が、わずかに間に合わない。
 「ば…あ…ああああああああああああ!!!!」
 絶叫が、少女の口からわき上がった。
 (しまった…!)
 香の耳が、複数の足音を捉える。こちらに向かってくる。首筋への一撃でやっと少女が黙ったが、もう遅い。
 (全器官戦闘態勢!)
 既に同意済み事項のため、脳からの同意要請はすべて省略。
 香が跳ぶ。


 静が今日の狩りを終え、宿に帰って来たのは夕方。
 井戸端で弁当箱を洗っていると(宿の女将が止めたが、やっぱり聞かない静である)ちょうど帰って来たらしいフールとばったり出会った。
 「あ、フール。朝はありがとう」
 「…いや、別に」
 フールは言葉少な。静の隣で水を汲み、自分の弁当箱を洗い始める。朝と同じ鎧にマント姿なのでかなり妙な光景だが、これでフライパン握るぐらいだから、元々無頓着なのだろう。
 静の手やら、袖をまくり上げた腕やらに擦り傷がある。狩りの代償だ。さして深い傷でもないが、冷たい水が少し染みるらしく、時々顔をしかめる。
 「…痛ったー。ね、フール。お弁当、美味しかった?」
 「ご飯が少し、固かった」
 「ふふ、そだね」
 フールの率直な感想に、静が笑う。
 「でも、フールの卵焼き美味しかったよ」
 「…そう?」
 「うん」
 静が弁当箱を洗い終わった。
 さっと水を切ってふきんで拭く。水を下手に散らさず、無駄遣いもしないのは武術の心得の一つだ。むしろこれに関してはフールの方が無頓着で、汲んだ水を遠慮なくバシャバシャ使って洗う。
 鎧に跳ねた水滴に、夕暮れの空が映り込んでいた。それを静が、面白そうに見る。
 その小さな小さな空に、黒い影が映った。
 「こんにちはー、一条静さん」
 静がゆっくりと立ち上がって振り向いた。
 速水厚志。
 この若者も朝と同じ、黒を基調とした僧服。
 「僕は速水厚志。あっちゃんって呼んでいいよー? あ、怪我? ヒール!」
 ふわ、と回復呪文がかかる。静の両手が光に包まれ、擦り傷がみるみる回復する。
 それでいて、全く『反動』がない。
 『殴りプリ』らしく、回復量はそれほどでもないが、見事なぐらいの『癒し型』だ。『殴り』にはその性質上『気つけ型』が多いので、これは珍しい。
 「ありがとう…あっちゃん?」
 「そうそう。僕ね、君と仲良くしないといけないんだけど、一緒にご飯とか食べてくれません?」
 言っていることがいちいち怪しいのだが、本人は全く意識していないらしい。よほどの馬鹿でないなら、かなりの天然だ。
 「…悪いけど駄目」
 特に何かの感情もなく、静が断る。
 「あれ?」
 速水が首を傾げる。なぜ断られるのか、本当に分からないらしい。
 「あ、そうか。知らない人について行っちゃ駄目なんだね?」
 「違う」
 独り合点する速水を、静が言葉でばっさり斬る。そしてもう一撃。
 「知らない『人』ならいいけど…知らない『人じゃないもの』は駄目なの」
 びきっ!
 静の言葉が響いた瞬間、井戸端の空気が砕け散った。
 裏庭に放し飼いのニワトリたちが狂ったように逃げ惑い、軒先の野鳥たちが一目散に飛び立っていく。
 殺気。
 速水だ。
 熱や圧力さえ感じるその膨大な殺気に、まず反応したのはフール。
 洗っていた弁当箱を放り出し、振り向きながら腰の短剣を引き抜き、速水の眼前に立ち塞がる。
 背中に、静を庇う。何かを守護する姿がなかなか様になっている。
 「大丈夫。平気よ、フール」
 だが、庇われている静は身じろぎもしない。
 「…凄いね、分かっちゃうんだ。僕が人間じゃないって…」
 「人間じゃないことだけね。アタシじゃそれが限界だけども?」
 姉の…香の『目』なら、そこに何を見るのだろう。 
 外見には何の変化もない。端正という言葉に柔らかさを2割ほど加え、3割ほど脱力させた容貌。
 ストイックな黒い僧服。
 そしてそこだけ真っ赤な、頭の花飾り。
 だが、さっきまでの茫洋とした雰囲気は、もうない。
 「さすが『サクセス』は違うね。僕みたいな『エラー』とは、出来が違うんだ…』」
 殺気がきしみを上げる。
 庭の隅に非難したニワトリが、1羽、また1羽と倒れていく。
 「…でも困ったな。それを知られるのは、困るんだ…。誰も、誰も知らないのに…。2人とも永久に…黙っててもらわないと…」
 途切れがちの『殺人予告』に、フールの身体がぎりり、と緊張を増す。
 だが、その背に庇われたはずの少女は、違った。
 「…あのね。『殺す殺す』って吠えるヤツほど、結局は殺せないものよ?」
 一片の動揺もない声。
 怖いもの知らずなわけではない、胆の据わり方が半端ではないのだ。
 「僕がそうだ、って言うの…?」
 「そ。本当に怖いモノならね、アタシはもう殺されてるわ。怖いなんて感じるヒマもなくね。そういうのはね、獲物を前にどうでもいいことぐちゃぐちゃ喋ったりしない」
 「…」
 速水が黙る。殺気が急速にしぼんでいく。
 ぱちん、という音は、フールが短剣を仕舞った音。
 「…ありがと、フール」
 「余計なことした。カッコ悪い」
 「うふふふふ。お詫びって言っちゃなんだけど晩ご飯、一緒に食べよ? コイツに」
 静が速水を指差す。ご丁寧に親指。
 「奢らせるから」
 「…えー?」
 速水が頭をぽりぽりと頭をかく。さっきまでの異様な空気が嘘のように、元の茫洋とした雰囲気に戻っている。
 「はいそこ文句言わない。食事、誘ったのそっちでしょ? ツレがいちゃいけないなんて聞いてないわ?」
 にー、と笑われる。
 「…本気?」
 フールがさすがに変な顔で静を見下ろすが、静は平気な顔。
 「本気本気。じゃ、先に食堂行って女将に注文してくるね。何食べよっかなー?」
 静が自分の弁当箱をひょい、と頭に乗せ、器用にバランスを取りながら駆けていく。 
 「…」
 フールは、もう突っ込む気も失せたらしい。
 速水はまだ、ぽりぽりと頭をかきながら、
 「えーと、どうしてこうなったんだっけ…?」
 「さあ? でもまあ一応…南無?」
 「南無あり…?」
 間の抜けた応えを返す速水に背を向け、フールは放り出した弁当箱をもう一度洗う。
 水を切って布巾で拭き、静と同様井戸端を後にする。
 うーん、うーんと何やらまだ思案中の速水をふ、と振り返り、
 「あ、あとさ」
 「ん?」
 「御馳走様」
 「…ええー?」
 
 『晩餐』はそれなりに豪華で、それなりに盛り上がった。
 といっても、速水の一方的なおしゃべりに、静とフールが突っ込みを入れるだけなのだが…。
 宿の女将はご機嫌半分、不機嫌半分である。
 お姫様に御馳走を出すのは嬉しいが、材料も下準備も間に合わない。もっと早く言え! と速水が怒られる。
 お姫様の前だぞ、せめて鎧ぐらいは脱いで来い、とフールが怒られる。
 当の静は、出される料理がとても気に入ったらしく、どの皿にも手をつけてよく食べた。
 特に、大皿に山盛りになった芋の煮付けに、なぜか異様に執着する。
 「何だか懐かしい味…」
 だというが、どこで食べたものかは思い出せず、最後まで首をひねった。
 さんざん飲み食いした挙げ句、速水に風呂の準備までさせた頃には、もう夜も更けていた。フールはもう自室に引き上げている。
 「じゃ、今日はありがと、あっちゃん」
 「…うん」
 速水はまだ何となく納得のいかない顔だ。
 「よかったね〜。ちゃんと『一条の末姫と仲良くしました』って報告できるよ? 『芝村の御当主』に」 
 「…うん…ん? んんん? って、芝村って…知ってたの?」
 「それで隠してるつもりだったの? 腰のサッシュに芝村の家紋入れて?」
 「…しまったー!」
 今頃になってサッシュをほどき、ポケットに突っ込むが明らかに遅い。
 「ええーっと…」
 「いいよ。アタシは気にしないから。御当主には適当に言っといて」
 速水の完敗のようだが、そもそも勝てる要素があったのかどうかも怪しい。
 「…いいの? 芝村の人間と…お父さんとかに怒られない?」
 自分が誘ったくせに心配そうな速水に、静がにーっと笑う。
 「天津の一条と芝村、確かに仲が良いわけじゃないけど、敵ってわけでもないしね。『芝村のお金で散々飲み食いしてやった』って言えば、きっとお父様に誉めてもらえるわ」
 「そりゃ…うん。…でもその…僕が人間じゃなくても…?」
 「ん」
 静がまたにっと笑う。
 「『一条の女の目』を嘗めないでよね。アンタは…まあ、そんなに悪い人じゃないわ」
 「…ありがとう」
 「おやすみ、あっちゃん」
 「うん、おやすみ」
 速水の前でぱたん、とドアが閉じる。
 「…僕は嘘つきだけど…」
 速水が小さな声で独り言。
 「…嘘が通じない人っているんだ…」
 最後は、なんだか泣きそうな声になった。
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