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第十四話「Cloud Climber」(4)
 (やべ、見つかっちまったか?!)
 近づいてくる2人分の足音に、無代は、あわてて女子寮の裏口に引っ込んだ。
 草むらに身を隠すウサギさながらに身をかがめ、背中に背負った巨斧に手を延ばしながら、近づく足音に耳を澄ます。
 (……ん?)
 だが不思議、無代を見つけて追ってきたにしては、敵の足音に緊急性が感じられない。むしろ向こうの方が、逆に足音を忍ばせている風さえある。
 そっと外をのぞく。
 青々と芝生がひかれた広い運動場の隅に、下手な人家より立派な鳥小屋。武装鷹・灰雷(ハイライ)と騎鳥ペコペコ2羽分の建物だ。その前に、2人のレジスタンス兵士がいた。
 こちらに背を向け、どうやら鳥小屋の扉をこじ開けようとしている。
 (俺じゃないのか……?)
 無代はひとまず胸をなでおろすが、といって安穏としていられる状況でもない。無代と灰雷が目指す武装は、その鳥小屋に隣接する物置の中だ。
 そしてペコペコ小屋の中には確か……。
 (……あ)
 そこまで考えた無代が、2人の兵士の目的について、一つの答えにたどり着いたちょうどその瞬間だった。
 どずぅん!
 「うっ……げ?!」
 「げふ!?」
 ぞっとするほど重い衝撃音、加えて2人分のうめき声。
 そして無代と灰雷の目の前で、2人の兵士の身体が折り重なったまま、後ろ向きに数メートルも吹っ飛ばされる。
 ペコペコの鳥小屋に入ろうとして、逆に中から物凄い力で突き戻された。無代がそこまで見取ったのもつかの間、鳥小屋の中から巨大な黒い影がのっそりと出現し、仰向けにぶっ倒れた2人の兵士を真上からずん、と踏みつける。
 2人の兵士は声も出ない。
 思わずあっけにとられる無代より速く、動いたのは灰雷だ。
 ぱっ、と無代の側を飛び立つと、巨大な黒い影の周りをくるり、と一回りして、ぴぃっ、と小さく鳴き声を放つ。
 地面の上で半分気絶した兵士の元へ、無代がたどり着いたのはそれかから数秒も後だった。
 その間にも、二人の兵士を半死半生のままに踏みつけている影。
 騎鳥ペコペコだ。
 見上げるほどの巨体と、陽の光を飲み込む闇色の羽毛。その先端を飾る深紅の差し色のコントラスト。
 嘴に黄金と宝石をふんだんに使った、聖別を意味する十字架の象眼。
 「おお……お前さんが『フィザリス』か!」
 無代が思わず感嘆の声を上げる。
 『フィザリス』
 それはグラリスNo9パラディンの愛鳥である。
 義足のG9パラディンは、その片足を失った戦いで、同時にかつての愛鳥も失っている。それを知った教会が特例を発動し、法王の御座用ペコペコを育てる専用牧場から選び出して、3日に渡る聖別の儀式を経た後に与えたという雄鳥である。
 その後、世界に例のない生体義足のリハビリを、文字通り二人三脚で乗り越えた一人と一羽の間に、一体どれほど深い絆が結ばれたか。 それは彼ら自身の他には、到底うかがい知れまい。
 乗り手である義足のG9パラディンの重装甲を支え、さらに自分自身にも戦車並みの装甲をほどこすために、並のペコペコよりふた回りは巨大で、逞しい。
 この巨体に激突され、その上に踏みつけられた兵士達こそ災難。しかも本気で踏めば即死は免れないところを、手加減されて生殺しというのだから、まさに災難の上の災難である。
 無代があり合わせの布やら紐やらで2人の手足と口を封じ、その後にやっと解放されたのが、むしろ幸いというべきだった。
 とはいえ2人に同情はできない。
 彼らの目的こそ騎鳥ペコペコを盗むこと、つまりは『鳥泥棒』であり、これは窃盗罪の中で最も不名誉、かつ重い罪とされている。国によっては『四肢を切り落とされた上に晒し者』等の苛烈な刑罰さえ用意されていることを考えれば、フィザリスに踏んづけられる程度は温いにもほどがあった。
 ところでペコペコ泥棒と言っても、実は彼らが盗もうとしたのはこのフィザリスではない。
 いや、彼とて本来は法王か枢機卿クラスでなければ騎乗できない超高級ペコペコであり、もし盗んで売れば目の玉が飛び出るほどの値が付くだろう。
 が、それでも本命は彼ではないのだ。
 フィザリスに続いて、鳥小屋の中からするり、と扉をくぐる動作。それすら高貴に見える、サファイアの羽毛。
 「うぉう……」
 さすがの無代が、言葉にならない。
 大陸有数の大貴族であるグラリスNo10ロードナイト、その家系に聖戦時代から伝わる超希少血統。
 世界に二つとない、深く沈む青銀色の羽根の雌鳥だ。
 その超貴重な血を手に入れるため、かつて卵一つと引き替えに複数の城と領土を差し出そうとした貴族もいた、という。
 その余りの希少性と由緒ゆえ、一部では『伝承種(レジェンド)』の一つにすら数えられる一羽。もし盗んで売れば、まさに国一つと交換するほどの富が手に入っただろう。
 「『氷河(グレイシャ)』……」
 青色に由来するその名を無代がつぶやいても、そちらには目もくれない。細身だが強靭に鍛えられた身体を、あくまで優雅に揺らしながら、芝生の上でゆっくりと毛繕いを始める。
 無代はそこで初めて、鳥小屋から漂う異臭に気づいた。小屋の中に溜まった抜け羽と、糞の匂い。床に敷かれた寝藁は汚れ、一部は腐り始めている。
 (餌と、水は?)
 見ればエサ箱には餌が、水溜めには水が入ってはいる。恐らくカプラ公安エスナ・リーネルトが、灰雷を解き放った時に補充したのだろう。
 だがそれから数日、水はうっすらと汚れ、餌箱には抜け羽が混じっている。
 ただでもきれい好きのペコペコ、しかも生まれた時から完璧な飼育下で育てられたフィザリス、グレイシャの二羽にとって、この状況はさぞ堪え難かったことだろう。
 してみると、鳥泥棒をぶっ飛ばしたのも八つ当たり半分かもしれない。
 (時間は無え……けど)
 これを放っておける無代ではない。
 「すまねえ灰雷、ちょっと待っててくれ」
 言い置いて、鳥小屋に立てかけてあった掃除道具を手に取る。
 『どんな服も微妙に似合わない男』が、しかし唯一似合うのがこの『仕事道具』を手にした時だ。
 ペコペコ小屋に入り、抜け羽と糞の混じった寝藁を取り除き、新しい清潔な寝藁に取り替える。 
 餌箱と水溜の中身を捨て、水道(ジュノーの街には世界で唯一、上水道が備えられている)から新鮮な水を汲む。
 川も湖もないこの空中都市で、手が切れるほど冷たく新鮮な水がどこからやってくるのか、それは後に譲ろう。
 餌も新しい餌袋から、封切りでたっぷりと補充。餌袋に商標がないのは、2匹のためのスペシャルブレンドだからだ。中身の調合はおそらく天下一の『巨大種使い(ギガントファンサー)』グラリスNo7クリエイターの仕事に違いない。
 二羽分の掃除と給餌、ここまで15分かそこら。
 フィザリスとグレイシャが自発的に小屋に戻り、悠々と腹ごしらえを始めたのを確認して、いよいよ本題だ。
 物置の中、灰雷の武装を収めたケースはすぐ見つかった。ほかならぬ灰雷が小屋の中に飛び込み、
 『これだ、これを着けろ』
 と、言わんばかりに嘴でケースをつついて教えてくれたのだ。
 「合点承知」
 無代がケースの鍵を、これまたあっさりと解錠して中身を一瞥。
 「……おー、さっすが」
 故郷のアマツで様々な鷹装備を見てきた無代が、思わず声をもらすほどの、それは代物だ。歴史と伝統に彩られたアマツの装備が劣るとは思わぬまでも、そこは現代最高・最新を誇るグラリス・スナイパーの持ち物。
 「こりゃあ、腕が鳴るってもんだぜ?」
 無代がぎゅっ、ぎゅっ、と指を屈伸。
 灰雷を鳥小屋の止まり木に止まらせ、工具を手に取る。飛行船『マグフォード』において、無代自身が装着した装備をすべて外し、代わりに新たな装備を着けていく。
 終わるまで、これも15分。
 速い。
 熟練の鷹師でもこの数倍、事によったら半日仕事になっても不思議ではない。
 「よし、上出来!」
 無代が自画自賛する。
 だがこれで終わりではない。
 物置から、さらに巨大なケースをいくつも引っ張り出し、すべてを解錠して芝生の上に広げる。
 フィザリスとグレイシャ、2匹のペコペコも武装させるのだ。
 まず黒色のフィザリス。
 「よう、フィザリス。俺は無代だ、よろしくな」
 「……」
 無代の挨拶に、もちろん言葉による返事はない。が、無代としっかり目を合わせ、承諾の意志を伝えて来る。
 彼らから見れば無代だって不審者だが、そこは灰雷の顔が利いている。してみると灰雷、ペコペコをはじめとするカプラ動物たちのリーダー的存在であるらしかった。
 フィザリスを芝生の上に連れ出し、全身の羽根にブラシをかけ、嘴と爪をやすりで整えておく。フィザリスも大人しくこれに従い、静かに身を任せてくれる。
 義足のG9パラディン、その愛鳥もまた主人に似て物静かで、敵の攻撃を一身に受けて味方を守る『守護聖騎士』の騎鳥にふさわしい、堂々たる風格を備えている。
 そしてとにかく大きい。
 当然その大きさの分、着ける武装も分厚く、重い。本来なら一人では不可能と思われる重装騎鳥の武装を、しかし無代は単独で行う。
 ジュノーの石畳で戦うことを想定し、足の爪も専用のものをセレクト。また数で勝る敵からの集中攻撃を考えれば、羽や身体を守るアーマーはもちろん、普段は着けない頭や目を守るシールドも不可欠だろう。
 槍や剣を収める鞘は、空のまま装備。中身は乗り手であるG9パラディンが、自らのカプラ倉庫から取り出して放り込むはずだ。
 額には、正面からの攻撃を左右にいなす衝角『一本角(ソロホーン)』が光る。
 そこまで済ませて、次はグレイシャ。
 「初めまして、『氷河(グレイシャ)』。俺は無代だ」
 無代の挨拶に、だが返事はおろか無反応。
 「おーい」
 無視。
 「……えーと、ブラシかけていいかな? ほら、抜け毛あるし、ここらへん……」
 ずん!
 「うぉう!?」
 近づこうとした途端、巨大な足で無代の足を踏みに来た。あとわずかでもかわすのが遅ければ、つま先から先を持って行かれるところだ。
 鳥小屋の掃除ぐらいは許しても、その身体に触れるとなれば主人のG10ロードナイトか、その人が許した相手でなければ許さない。この気位の高さは、さすが『伝承獣(レジェンド・アニマル)』と言うべきか。
 「参ったな〜」
 無代もはたと戸惑う。実をいえば無代、この手の気位の高い動物を相手にするのは、これが初めてではない。過去にも気難しい動物を幾頭も世話した経験がある無代であるが、とはいえ彼らに自分を受け入れてもらうには、相応の時間が必要だった。
 今の無代には、その時間こそ貴重。
 ばさっ!
 助け舟が来る。
 武装鷹・灰雷が鳥小屋の太い鴨居に止まり、青銀色のペコペコをじっと見下ろす。
 グレイシャも見返す。
 「……」
 「……」
 鳥と鳥、しばし無言の間にどんな意志交換が行われたか。グレイシャが突然、
 ぶわっ!
 と、大きく翼をはためかせると、無代の先に立って扉をくぐり、外の広場へと出て行く。
 無代の指示ではない、あくまで自分の意志だ、というのだろう。
 またも灰雷に助けられた格好で、しかも無代の地位が回復したわけでもないが、無代としては、
 (ま、仕事が続けられるなら文句無えや)
 大して気にもせず、グレイシャのお供に甘んじる。
 しかしグレイシャ、陽の光の下で見ると、ますます美しい。
 フィザリスに比べて細身な一方で、首や足、翼がすらりと長い独特のフォルム。その貴婦人の如きグレイシャの身体を、無代はことさら丁寧にブラッシング。
 同じく爪と嘴を整えた後は武装となるが、これに一工夫が必要である。
 実はこのグレイシャ、長身のG10ロードナイトを乗せて戦う、ただそれだけのペコペコではない。
 その道では知らぬものなし、という独自の『芸』を身につけていて、むしろそちらの方が彼女の血統よりも評価が高いのだ。
 彼女の持つ『芸』のための、独特かつ特殊な装備を、無代が取り付けていく。当のグレイシャといえば、灰雷が見張ってくれているおかげで邪魔こそしないが、決して無代に協力的でもない。
 さすがの無代も、すべての装備を取り付け終わる頃には、うっすらと汗をかいていた。
 だが。
 「うん、上出来!」
 ふんっ! と腕を組み、自分の仕事の出来映えを自画自賛する無代は、驚いたことに『最初より元気』になっている。
 『マグフォード』を出た後、『セロ』の脅威を前に必死でもがき続け、ここに至るまでも緊張の連続だったはずだが、その疲労をまったく感じさせない。
 カプラ宿舎に残されていた食料と、回復剤をいくつか拝借してはいるものの、その後も鳥小屋の掃除だペコペコの身支度だと働き続けているのに、この回復ぶり。
 『仕事をしていたほうが元気になる。その出来がよければ効果倍増』という無代の体質というか異常性こそ、何よりの特殊能力と言えるかもしれなかった。
 残るは2人の盗人の始末だ。
 絶対に逃げられないよう、改めてきっちりと拘束し、芝生の上にすっ転がす。そこは無代の仕事、老カツギ仕込みの縄さばきと結束術を持ってすれば、たとえ鬼だろうが金輪際ほどけるものではない。
 「で、そんな有様にしといて悪りぃんだけどさ」
 人なつっこい笑顔と、手には巨斧ドゥームスレイヤー。
 「ちょこっと質問に答えてくれると嬉しいんだがなあ」
 「……」
 既に意識を取り戻した2人は、それでもさすがに訓練された兵士らしく、どこの馬の骨とも知れぬ無代ごときの脅しには屈しない。
 「駄目か? じゃあ仕方ねえ。おーい、フィザリス」
 無代がその名を呼ぶと、2人の顔色がいきなり変わった。
 ずしん! と地面が揺れる。
 ただでも重い身体の上に、さらにこれでもかと重武装をほどこしたフィザリスが、無代の呼びかけに応えたのだ。
 地面に転がされた2人からも、分厚く整えられた芝生の上にくっきりと足跡が刻まれるのが見えたろう。もしあれに踏まれたら、もう手加減もクソもない。今度こそ即死だ。
 ずしん! ずしん!
 さながら罪人を地獄へ連れ去る鬼神の如き足音が近づく。
 慈悲はない。
 「……!!!!」
 2人の心があっさり折れた。
 さっき踏まれたのがよっぽど懲りたと見える。
 「おっけー、じゃあインタビューな?」
 無代が巨斧を肩に担ぎ、短い質問をいくつか。それだけで必要な情報はすべて揃った。
 後は器用に彼らの衣服をひっぺがし、荷物に詰め込む。靴だけはボロボロのデッキシューズと早々に取り替えた。
 「よっしゃ、グレイシャ、フィザリスも聞いてくれ」
 戦闘準備と腹ごしらえ終えた2羽のペコペコに、無代が話しかける。
 まず手に持ったホウキの柄で、芝生を削って一本の線をゴリゴリと引いておき、
 「いいか? この鳥小屋の影がこの線まで来たら、お前達のご主人がジュノーに帰って来る」
 とんとん、と線を、そして黒々と落ちる鳥小屋の影を指す。
 「そしたらお前達の出番だ。どうか全力で戦って、ご主人達を守ってくれ」
 無代がフィザリスを、そしてグレイシャの目を順番に見つめる。
 騎鳥ペコペコの知能は、鷹師の使う武装鷹に劣らず高い。無代の言葉を完全に理解(もちろん、彼らにも理解しやすいように説明する無代の手柄でもある)し、今度こそ二羽ともに無代と目を交わすと、確かに意志を疎通した。
 本当は灰雷同様、彼らについてきてもらえれば、恐ろしく頼りになる戦力だろう。が、騎鳥ペコペコが主人に示す忠誠は鋼鉄より堅い。いや、本来は武装鷹だってそうなのであって、鷹師でもない無代と灰雷の関係はもう奇跡のレベルなのだ。
 「よろしく頼んだ。じゃあ、縁があったらまた会おう」
 最後も無代らしく、鳥に対しても丁寧に頭を下げると、今度こそ正面玄関からカプラ女子寮を後にしたのであった。女子寮から大量の物資を荷物に詰め込んで逃げ去る姿は、どう見ても熟練の泥棒だったが。
 さて、2人の鳥盗人から得た情報を元に、目標は既に定めてある。
 ジュノー市民が囚われている浮遊岩塊『ハデス』、そこに次なる目標がいる。
 架綯。
 翠嶺の弟子の少年賢者が、賢者の塔の教授達とともにハデスに囚われていると、2人の鳥盗人が明かしたのだ。
 無代が今、こうしてハデス岩塊の外周壁にへばりついているのは、そういう理由からだ。
 ただ、ミネタ岩塊からハデス岩塊への連結橋は破壊されているはず。
 なのに、どうやって無代はミネタからハデスへ移動出来たのか。
 その種明かしはいずれ語るとして、ともかくも無代は敵の目を避け、上空の『セロ』からも死角となる岩塊外周の岩壁にへばりつき、目的の場所へとよじ登っているのだった。
 (……っんしょっ、と)
 無代の腕が、とうとう岩塊の上縁へかかった。
 そっ、と頭を出す。
 そこは岩塊の端の、荒れた灌木がまとまって生えたエリア。こうして顔を出しても、敵のレジスタンスから姿を隠せる。もちろん、岩塊の上に囚われた市民達の目からもだ。
 (架綯は……?)
 生い茂る藪ごしに目をこらす。事前の情報を元に、おおよその位置を特定して登ってきたとはいえ、市民でごった返す岩塊の上で少年一人を見つけるのは簡単ではない。
 だが、こと『目』となれば頼りになるのが灰雷だ。
 くい、と嘴で『あそこだ』と教えてくれる。
 (……いた!)
 岩塊の一角に賢者達が集められ、周囲を兵士が固めている。その足下に、うずくまるようにして架綯が倒れていた。
 生きてはいるようだ。が、遠目で見ても顔色が真っ青で、恐らく呼吸器の発作を起こしている。
 危険な状態だった。
 (どうする!?)
 無代がぐっ、と唇を引き締める。
 ここから架綯までの距離、兵士の数と兵種、装備。それらを目に焼き付け、頭をぶんぶんと回転させる。
 こちらは一人と一羽。お世辞にも戦力が充実している、とは言えない。
 だが。
 (やれるか……いや、やるしかねえ)
 ここまで来て、何もせずに引き下がるという選択肢は、どうせ最初からない。
 いつものように、本当ににそうすることが日常であるかのように。
 無代は決死の覚悟を決めた。
 薮に隠れながら岩塊の上に這い上がり、背中の巨斧『ドゥームスレイヤー』の柄を握りしめる。
 (ちくしょう、やってやる……やってやろうじゃねえか!)
 
 つづく
 
中の人 | 第十四話「Cloud Climber」 | 11:07 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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