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第三話「mild or intense」(4)
  動かなくなった少女を改めてベッドに寝かせ、香は跳んだ。
 ドアの上、天井と壁が作る直角の空間に、手足を突っ張って張り付く。
 手がかりはなにもないが、体重が軽く筋力がブーストされた香なら数秒は落下せずにいられる。
 ドアが思い切り開かれる。
 同時に、香が落下した。
 落下しながら手刀を閃かせ、最初に入って来た人間の喉を真横から貫通。相手は声も立てられない。
 かつてあの天臨館のテロで、無代を守るために河童を殺した技。針掌だ。今ではさらに殺傷力が増し、人間相手ならほぼ一撃である。
 手刀を引き抜いていったん床まで落下。そこで一瞬うずくまって相手の死角を探り、一人目の後ろにいた男の股間ぎりぎりに滑り込む。
 「な…!」
 二人目は一言だけ発することができた。が、それだけ。
 真下から突き上げられた手刀が、あごの下から脳までを貫く。
 あと2人。うずくまった時に、足の数で確認した。足音の分析結果も、残りは2人と示している。
 ドアの外、左右に一人ずつ。
 (左! 股間を狙う!)
 香の手刀が左の『男』の股間を撃ち抜く。
 「ぎゃ…!」
 男の絶叫が響く前に、二撃目が喉に風穴を開けると、その絶叫はひゅうー、という間の抜けた音に変わる。
 「き、きゃあああ!!!」
 やっとこの惨状が脳に届いたらしい。恐慌の悲鳴を上げる最後の『女』に、香は肉薄した。
 相手の喉に手加減した掌底を叩き込む。げ、という音と共に悲鳴が止まる。
 「蝶の羽根を出せば殺さない」
 手刀の先を首に当てて、香が静かな声で脅した。
 「げふ…も、持って持って…」
 「持ってない?」
 こくこく、と首を縦に振る。
 「そう。残念」
 す、と香の手刀が女の首に滑り込む。女の目がくるり、と裏返る。
 (制圧)
 (最後の会話は無駄では?)
 (4人の身体検査を。羽根を探す)
 (可能性は低い。むしろ増援を警戒してこの場を離れるべき)
 (てゆーか、いつまで裸? せめて女の服を奪おう。血で汚れる前にはぎ取れ)
 女性らしい提案をしてくるのはたいてい『子宮』だ。
 時間は惜しいが、確かにいつまでも裸というわけにもいくまい。
 手早く女のシャツと、ズボンを奪う。いずれもリネンの、ゆったりしたものだ。
 他の男達も同様の、通気性を重視した格好であるところを見ると、この土地はかなり暑いらしい。
 女物でもゆったりしている分、香には相当大きい。が、贅沢は言っていられない。
 盛大に余ったシャツの裾を臍の前でどかん、と縛り、ズボンの裾もシャツの袖も、これまた盛大にまくり上げる。
 まくった布がもこもこと盛り上がって、それ自体が何かの防具のようだ。
 履物も奪う。サイズ違いの靴はまず履けないものだが、女の履物は編み上げ型のサンダルだった。これなら何とかなる。
 ひもを締め上げるようにして履く。大きいが、足元を固めると安心感が違う。
 床はもう、4人分の血で真っ赤に染まっていた。
 元の部屋の中を一瞬だけ覗く。あの少女はまだ全裸のままベッドの上。一人目に殺した男の血が噴出し、ベッドごと鮮血で染まっている。
 香の『目』には、少女の意識が肉体の中に、ほぼ元の状態に収まったのが分かる。もう放っておいても死ぬ事はないだろう。
 (…私にできることはここまで)
 腹をくくる。
 (…ごめんね。でも、私は無代に会わなくては)
 彼女にしては珍しく、内心で謝罪した。
 その一方で、自分が殺した4人の男女に対しては一顧だにしない。
 『死なせてしまった』事よりも、『助けてしまった』事に対し、むしろ負い目を感じてしまうのが、この香という女性の不思議な所だ。
 (とにかく蝶の羽だ。今はそれが最優先)
 脳が判断を下す。
 ここがどこなのか。
 自分やこの少女が『何をされた』のか。
 何が目的なのか。
 誰がやったのか。
 疑問は山積みだが、すべて『無視』。
 (私は無代のもとへ行く)
 意識と身体のすべてが、完璧に統合される。
 というより彼女が無代と出会って以降、彼女の心身が『他の事』で統合されたことはないのだった。
 (増援が来る)
 『右耳』が報告してくる。
 (…多数、少なくとも10人以上。重装甲の音。武器の音も。今度は…武装している)
 『左耳』。
 際限なく広がる血溜まりを避けて、まだ奇麗な廊下にしゃがんで『右耳』を付ける。
 やはり多数の足音が、地鳴りのように聞こえる。ガチャガチャという金属音は武装していることの証拠だ。
 (…厳しい)
 香は素手。殺した4人も武器は持っていなかった。
 武装した集団を相手に、素手で立ち向かうのはさすがに無謀だ。香の手刀では盾や鎧を貫く事はできない。
 一人か二人相手にできたとしても、その間に他の敵に滅多斬りにされるだろう。
 (もう一度裸になってベッドに戻り、無関係を装う)
 『胃』が提案は、一斉に否定される。時間がないのが最大の理由だ。しかも脱いだ服は奪ったもの。もう一度女の死体に着せている暇などない。
 (建物の外へ出て、距離を稼ぐ)
 『右足』
 (建物の内部のどこかに隠れ、脱出のチャンスを待つ)
 『左手』
 (今はどちらとも決められない。とにかくこの場を放棄)
 『脳』が決断、接近する足音と反対方向へ走る。
 しかし…、そちらからも足音。
 (…まずい!)
 逃げ場がない。
 壁も床も厚くて破れない。屋根はさらに厚い。
 (囲まれる前に、どちらか一方を突破して逃走!)
 廊下の突き当たりから、銀色の集団が飛び出してきた。鎧と武器の色。
 反対側も同じだ。
 (右!)
 『左目』の判断で、香が走り出す。正面にまず3人、鎧の具合から見て、ナイトかクルセイダーだろう。まともにぶつかれば一瞬で潰される。
 「動くな!」 
 正面のナイトが突進して来ながら怒鳴るが、当然、無視。
 (下半身の筋力ブースト!)
 跳ぶ。天井までの距離は、さっき室内での跳躍で計測済みだ。
 天井に『着地』し、もう一度『跳躍』。
 前衛の3人と、その後ろにいた2人を飛び越える。だが、さらに前に2人。シーフとアコライト。ただし、いきなり落下してきた香に腰が引けている。
 (行ける!)
 『肝臓』が好機を宣言。
 アコライトの喉を手刀で貫き、そのまま突破する。シーフのナイフが服を掠めるが、とっさに振ったでたらめな一撃など脅威ではない。
 階段。
 一段ずつ降りるなど論外。壁を蹴り、手すりも蹴って一気に階下へ飛び降りる。
 扉。
 位置的に見て外への扉だろう。考えている暇はない。後ろから追っ手の気配が迫る。
 ノブに飛びついて回転させると、抵抗無く開いた。外へ飛び出す。
 一瞬、視界が真っ白になった。
 真昼の、それも南方の焼け付くような日差しが、ずっと薄暗がりにいた香の目を焼いたのだ。
 即座に光量を調節し視界を確保する。
 真っ白な砂浜と、海が広がっていた。波の音が遠いのは、周囲が珊瑚礁で囲まれているからだ。
 孤島。
 逃げ場がないと悟り、香に絶望がのしかかる。例え船を奪えたとしても、航海術を持たない香は漂流するしかない。
 それよりも、建物から続々と飛び出して来る武装した集団が目下の問題だ。いずれも無言なのが、行き届いた訓練を想像させる。
 じっとしていても取り囲まれるだけなので、何の宛もないまま懸命に砂浜を駆けた。
 が、加速の魔法で速度を増した追っ手は、すぐに肉薄してくる。結局、不意打ちやだまし討ちに頼らなければ、真っ当な勝負で香に勝ち目はないのだ。
 (…無代)
 もう会えないのか、という思いが香の意識を犯し始めていた。懸命に反論する思考もあるが、それも小さくなる。
 何本かの矢が香を掠めていく。射程距離に入ったら、一気にハリネズミにされるだろう。いや、魔法で肉片にされるのが先か。
 魔法の方が早かった。
 香を取り囲むように魔法陣が出現する。ストームガスト。発動まで半秒もない。
 (…無代…!)
 今日、心の中で何度その名を呼んだだろう。だが、きちんと声に出すのはこれが始めてだった。
 「…無代ぃいっ!」
 悲痛、という言葉がぴったりの叫びが、香の喉からほとばしった。
 その時だ。
 ひどく場違いな物が、香の視界に入った。
 いや、場違いというのは少しおかしいかもしれない。
 真っ青な空に、真っ白な砂浜。そこに配されるものとしては、むしろふさわしいかもしれない。
 それは女性だった。
 真っ白な、つばの広い帽子を日よけに被り、すらりと長い素足に涼しげな編み上げサンダルを履いている。
 薄い水色の衣装と、鮮やかな緑色のロングヘアが海風になびく。
 もしこれが一幅の絵画だとするならば、美しい南の島の風景に、これほど見事にマッチした登場人物もあるまい。
 ここが『戦場』でさえなければ。
 「…?」
 ふ、と、香を囲んでいた魔法陣が消失した。
 魔法詠唱を妨害する技『スペルブレイカー』、と理解する前に、香はその身体を地面に投げ出している。
 女の足が目の前にあった。

 「それでよろしいわ。そのまま伏せていて下さいね?」

 頭の上から声が聞こえた。
 (女性の声。若い)
 『右耳』
 (いや若くはない。声は若いが…響きが違う)
 『脳』がそれを否定する。
 (選択の余地はない。従う)
 「大丈夫よ。すぐに済みますからね。安心して?」
 上からさらに声が降ってくる。
 優しい声だった。
 自分が戦場にいることを一瞬忘れるほど、しっとりと柔らかい声。
 「何者だ貴様っ!」
 「『教授』だ! 騎士騎士! 前へ出ろ!」
 追っ手の一団
 「あら、野蛮ですこと」
 少し呆れたような声はしかし、やはり戦場の声ではない。まるで子供の悪戯でも叱るような調子。
 「でもあまり『お痛』が過ぎると、お仕置きが必要ですわね?」
 やはり子供扱いらしい。
 それをかき消すようにがしゃがしゃん! という金属音。重武装の前衛が突進して来る音だ。
 「…船長さん、私の槍を下さいます?」
 「ほいきた、センセー!」
 女の声に、壮年の男の声が応えた。砂浜の途切れる先、ヤシの林の中からだ。
 たまらず、香が顔を上げた。
 この優しげな声と細い足の持ち主が、あの武装集団を相手にするというのか。
 無理だ、と直感する香の眼前に、何かが落ちて来る。
 女の帽子。
 「持ってて下さる? 気に入ってて…汚したくないから、ね?」
 呆然と視線を上げた香が、最初に見たのは女の背中。そこにふわりとかかる、緑色のロングヘア。
 そして涼やかな水色の『教授服』。通称『振り袖』と言われる独特のフォルム。
 さすがに暑いのだろう、特徴の一つである首回りのマフラーは外してあり、ほっそりと白い首がのぞいている。
 その『振り袖』を閃かせ、彼女のすらりとした手がひょい、と挙げられたと見るや、その両手に細く、長い物が出現した。
 槍だ。
 香の目にはその槍が、後方から投げられたものと分かった。さっきの林の中の声だろう。
 女の、鎧も手甲もない、まるっきり素手の左右に二本の槍。
 (…二槍…?)
 疑問符が頭を駆け巡る。魔法戦闘のエキスパートである『教授』という職業は、そもそも槍を使う職業ではないはずだ。
 それも両手二槍など剣士でも聞いた事がない。
 「…」
 ぞわっ。
 その時、香の背筋に冷たい物が走った。槍を握った途端に、女教授の雰囲気が一変したのだ。
 「…貴様ら…ここで自分が死ぬ理由を知りたいか? え?」
 口調まで変わっている。
 死の淵で死者を手招くと言う伝説の魔女ならば、こんな声を出すのだろうか。
 「…教えておいてやろう…。私の、大事な物を返さないからだ!」
 重武装の敵が構わず突進して来る。
 だが、残念な事に彼らは、女を間合いに捉えることすらできなかった。彼らが襲われたのはその遥か手前。
 ひゅん!
 女の槍が敵に向かって奔る。それも信じられないほどの距離。
 槍の間合いというより、それは飛び道具の間合いだった。
 まず槍の持ち方が違う。
 長槍の端っこ、『石突き』の金具を引っ掛けるように握る。
 さらに槍の振るい方。
 相当の重さがあるはずの槍を、手首のスナップを利かせてひゅん、と宙にさばく。そして…
 ぱきん!
 まるで鞭を振るうようなフォームで、敵の顔面を真っ向から撃ち抜くのだ。
 ぱん、ぱきぃん! ぱきぃん!
 それも連撃。
 女の両腕が優雅な舞を踊るようにひらめき、ギラギラと輝く槍の穂先が稲妻のような軌道を描いて、立て続けに敵に襲いかかる。
 武術に関しては先進国である瑞波生まれの香をして、見た事も聞いた事もないフォーム。
 さらに。
 きぃぃぃぃいいいいい!!!!
 魔法の起動音。
 『教授』の技、打撃を与えた相手に、追い打ちの魔法を叩き込む『オートスペル』だ。
 撃ち抜かれた敵の顔面に、攻撃魔法の魔法陣が出現する。
 だがその魔法陣もただ事ではない。
 香の目に、真円の魔法陣が10個、まるで皿を重ねるように重なって出現するのが見えた。
 そして最も敵から遠い魔法陣から、炎のボルトが一つだけ吐き出される。
 そこからが見物だ。
 たった一個のボルトが次の魔法陣に突き刺さると同時に、刺さった魔法陣が急回転しボルトを収束、加速する。
 そして次の魔法陣へ打ち出す。
 2個目の魔法陣がさらにボルトを収束、加速する。
 3個。
 4個。
 5個目以降はもう、香の目でも知覚できない速度と収束度に『成長』する。
 魔法にある程度の知識がある香でさえ、想像を絶する呪文制御技術。まして細かい制御の難しいオートスペルともなれば、既に人智を越えていると言ってよい。
 ぱちぃん!
 金属音としか聞こえない音と同時に、敵の首が消失した。
 最後の、10個目の魔法陣から打ち出されたボルトが命中したのだ。
 真っ赤に焼けた鉄板に水滴を落とした時の、あの金属的な蒸発音。
 そのあまりの速度と収束ゆえに視覚で捕捉できず、その圧倒的な熱量ゆえに、敵の首から上が『消失』する。
 一瞬遅れて、血柱が上がった。
 頭を失った敵の首から、真っ青な空に向って真紅の噴水が次々に噴き上がる。
 きぃぃぃぃいいいいい!
 きぃぃぃぃいいいいい!!
 きぃぃぃぃいいいいい!!!
 槍の連撃に追随して、オートスペルもまた連続して発動する。
 この熱量の前には、盾も鎧も兜も全く意味をなさない。
 香の伏せた砂浜に、細かい血の霧がハラハラと振り注ぐ。
 女から預けられた帽子が汚れないように、身体の下に仕舞ったのは香にしては上出来だった。
 (…これは、熱線砲(ブラスター)…? まさか…でも、あれは確かに…積層型立体魔法陣!)
 香の脳裏に、故郷の義母・巴の記憶が蘇る。
 あの話を聞いたのはいつだったか。現役の軍人時代『当代一のボルト使い』と称された義母が、ふと漏らした昔話。
 (…私が当代一? とんでもない)
 (…私は半分も再現できなかった。『熱線砲』の熱量)
 (…それも実験室に3日引きこもってよ?)
 (…学生時代、生涯唯一の『赤点』を食らったけれど)
 (…『先生』が相手では仕方ない、って納得しちゃったわ)
 あの誇り高い義母が、苦笑しながら話してくれた『赤点』の話。
 その『先生』の名前…義母は何と言っただろうか。
 ぴきぃいん!
 また一人、胸板を槍で撃ち抜かれる。
 きぃぃぃぃいいいいい!
 ぴちぃん!
 熱線砲。
 有り余る『死』が惜しげもなくバラまかれる。明らかなオーバーキルだが、女教授は手加減する気など毛頭ないようだった。
 『私の大切なものを返せ』
 それは怒りの表現なのか。
 真っ白な砂浜と真っ青な空。その下で、エメラルドグリーンの髪とサファイアの衣装が思うさま暴れ回る。
 噴き上がる鮮血は赤。
 勢い余って地面にまで打ち込まれた熱線砲に、溶けてガラス状になった砂がキラキラと陽光を反射する。
 「…先生! センセー! お気持ちゃあ分かりますが、一人二人は残して下さいよー!」
 後方から男の声が響いた。
 女教授の凄まじさに目を奪われて忘れていたが、彼女の後方からこちらへ殺到した男。
 パラディンだ。味方らしい一団を引き連れている。
 味方のダメージを自分に転化して守る『献身』のスキルを女教授にかけつつ、鎖付きの盾をぶん回して戦う姿はなかなかの強者のようだ。
 が、どうにも比較対象が悪すぎる。
 彼自身もあまり出しゃばる気はないらしく、連れのプリーストにダメージ回復をさせつつ、敵の厄介な魔法を妨害というサポート的な戦い方だ。
 「ふん。…わかってる、船長。2人は残してやろう」
 す、と女教授が構えを変える。
 槍を握るのではなく、今度は中指と人差し指で挟んで引っ掛ける、さらに柔らかいグリップ。それで本当に槍をホールドできるのか、と見えた瞬間、ひゅひゅん! と槍が奔った。
 後方のブラックスミス。
 その後方のセージ。
 2人の向こうずねに刺撃が襲いかかる。そして例によってオートスペル…だが、今度は『熱』ではない。
 ひゅぉぉぉおおおお!!!
 縦に重ねて並ぶ魔法陣は変わらず、内部を奔るボルトが『氷』。だが、それもまた収束と加速を繰り返すうちに、ただの氷を超越してゆく。
 (『凍線砲』(フリーザー)…間違いない、この人が…)
 香ほどの女性が、ほとんど戦慄していた。
 想像を絶する低温の余波で、周囲の空気中の水分が一気に凍結し、南国の砂浜に時ならぬダイヤモンドダストが降り注ぐ。
 がりん!
 狙われた二人の膝から下が一瞬だけ凍った後、砂のように崩れ落ちた。ピンク色の砂。傷口が完全に凍結しているため血は出ない。
 「あ、あ、ああああああ!!!」
 2人の絶叫。
 「…運が良かった、と思うがいい」
 女教授の捨て台詞。
 パラディンの部下らしい男たちが殺到し、あっという間に取り押さえる。
 「クソ! クソ! てめえら何者だ!」
 ブラックスミスが懸命に毒づくのへ、一人の男が押し殺した声で応えた。
 「レジスタンスだ。貴様らこそ覚悟しろ」
 「! レ、レジスタンスだと…? 反…王国の、あ…」
 ブラックスミスの青い顔が、驚愕のためにさらにどす黒く染まる。
 (…レジスタンス?)
 聴こえてきた言葉に香の意識が反応するが、意味は曖昧なまま。
 「うし、制圧っと! センセー、お疲れさまです〜」
 「ん」
 パラディンのねぎらいにも大して愛想を返さず、それどころか使い終わった槍をぽいぽい、と投げ渡す。
 「うおっとっと! あぶねーですってセンセー! もー、せっかく良い槍なんすから大事にしてくださいよ!」
 「…」
 槍を手放した途端、女教授の雰囲気がまた一変した。
 ぽわん、という音が聞こえそうな、脱力と言うか軟化というか、元の優しい雰囲気に戻っている。
 その形の良い眉を心配そうに寄せると、てててっ、と香に近づいて助け起こしてくれた。
 「…大丈夫? 怪我はない? 痛い所は? ああヴィフさん、この人を診てあげて頂戴」
 慌てて槍を受け止めたパラディンの「聞いてますセンセー? ねえあっしの話聞いてます?」という抗議もほぼ無視し、味方の若いプリーストを呼び寄せる。
 「ごめんなさいね。ついカっとなって暴れちゃって…反省はしてないけど。怖かったでしょう?」
 香を抱き寄せて優しく頭を撫でてくれる。
 当の香は複雑な気分だ。間違えて子供扱いされるのは慣れているにしても…。
 (…胸、大っきい…)
 香にして、思わずそう思ってしまうほどの、それはボリュームだった。
 故郷の義母や姉、先ほどの『ハナコ』という少女など、胸の豊かな女性は多く見て来たが、これはまさにトップクラス。
 香のコンプレックスを地の底まで落とすには十分すぎる。
 (…)
 香自身は自分の見てくれなどに興味はないのだが、無代の事を思うとどうしても他の女性と比較してしまう。
 (…あの人も、こういうの好きだろうなあ…)
 その辺は、一条家の異能の二の姫とて、普通の恋する女性とどこも違わない。
 とはいえ、さっきまで死を覚悟するような修羅場にいた割に、呑気な話ではある。
 「…うん、怪我はないようね? でも、よく逃げられたものね、あそこから…って…ええええ!? ちょっと、あなた!」
 女教授が香の前に膝をつき、視線を合わせるとその両手で香の顔をわしっ、と挟み込んだ。
 香は動けない。動いても無駄と全器官が判断している。
 「…あなた、『戻った』のね…? 一体どうやって…」
 そこへ、後ろからパラディンの声。
 「…先生。『ラボ』の方にやった連中も一人、女の子を収容。これも『戻ってる』らしいっす。センセー、…こりゃあ…」
 「ええ…『私の探し物』はありませんでしたが…でも来た甲斐はありましたわね」
 女教授が香から目をそらさずに応える。収容された女の子とは「ハナコ」だろう。
 香の『右目』がほっとする。
 「貴女のお名前を聞かせてもらえるかしら? …あ…」
 女教授が訊ねてきて、はっとしたように言葉をつなぐ。
 「こちらから先に名乗るのが礼儀ですわね。私の名前は…」
 
 「『翠嶺(すいれい)』先生」

 香が先に、その名を告げた。
 「あら?」
 ぴょこん、と眉を上げた女教授に、香が言葉を続ける。
 「私は一条香。一条巴…旧姓『冬待巴』の、義理の娘です。お助けいただき感謝します」
 「あらあら…まあまあ…!?」
 絵に描いたような驚きの表情で、女教授が香の頬やら肩やら頭やらをぽんぽんと叩く。
 「冬待さんの…? え…ということは貴女、瑞波のお姫様…?」
 「はい」
 「あらどうしましょう。大変失礼致しました、香…姫様?」
 「いえ、構いません。助けて頂いたのですから」
 香は笑顔を作ろうと頑張ったが、さて上手く行ったかどうかはわからない。
 どっちにしても、翠嶺という女教授から返って来たのは優しい笑みだった。
 「…では、私のこともお義母様から聞いてらっしゃるのね?」
 「はい。当代一のボルト使いで…そして『戦前種(オリジナル)』でいらっしゃる、と」

中の人 | 第三話「mild or intense」 | 22:27 | comments(1) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment
・・・・ぷはぁ!!!
息するのわすれてた!!!(笑

あやうく窒息死するとこだった!!!!(阿呆


あーー!しーちゃん今回もめっちゃかわいい!(*´▽`*)
「ああいう芯の強いきもったまのすわった女性にはあこがれるですよ! 」
・・・だって(笑

そして個人的にうきさんの性格がかなりツボでした・・・!
さかさまになりながら笑ってすごいことをさらっと・・・テラモユルス

はやく続きがよみたいなぁ・・・もっともっとー
でも中の人は今忙しいからワガママはいわないです(*´▽`*)ノシ

「うちの数少ない娯楽バンザイ!!」
だそうです。僕も楽しみにしてます。ではε=ε=ヾ((●・ω・)ノ

posted by 速水 厚志 ,2009/08/07 9:26 PM










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