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第四話「I Bot」(2)
 無代は懸命に呼吸を整えた。
 その身体はまだ、拷問部屋の床にうつ伏せに倒れたままだ。
 長時間に渡る拷問のダメージや、『D1』ことガラドリエル・ダンフォールの凄まじい拳による破壊は、D1自身のヒールによって完全に治っている。が、尋常でない破壊と再生の繰り返しで、神経がパニックを起こしていた。
 精神を集中させて強引な呼吸を繰り返すと、どうにか身体のリズムが戻り、全身のイヤな汗が引いていく。
 垂れ流した様々な体液で汚れた服が気持ち悪いが、今はどうしようもない。
 (…馬鹿野郎…! そんな事より、状況把握が優先だろうが!)
 自分に喝を入れる。
 無代を『カプラ嬢殺しの犯人』に仕立て上げようとしたカプラガード。
 それを阻止しに現れたD1。
 両者のにらみ合いはまだ続いていた。
 D1は、床に倒れた無代を守るように仁王立ち。それをカプラガードの面々が囲む形だ。
 「…ろくな証拠もなく犯人をでっち上げて、それでカプラガードのメンツを保とうなんて恥ずかしいと思わないの?」
 D1ことガラドリエル・ダンフォールが、カプラガードを鋭く糾弾する。
 これに燃え上がるような深紅の髪と、斬りつけるような鋭い美貌が加わると、大の男でも腰が引けるほどの迫力だ。
 「…メンツは関係ない。D1。とりあえず『犯人』さえいれば、捜査を続けることができる。プロンテラ市警がどんな圧力をかけようが、それなら表向き口を出せないはずだ」
 カプラガードのリーダーが言い返すが、言葉に力はない。
 「D1、キミだって悔しいだろう? カプラ嬢が殺されたのに、我々カプラ社がその捜査に加われないなんて。まして市警はまともな捜査をしていないじゃないか!」
 「…悔しくない…と思うの…?」
 ぞっ、とするような声が拷問部屋に響いた。それまでの気迫や怒りなど、まだ序の口だったと誰もが心底から理解する。
  「…悔しいわ。何もかもが悔しい…。カプラ嬢が…私の仲間が殺された。なのに市警は未だに死体を返しもせず、『複雑な背景を持つ政治テロの可能性があるた め、カプラ社による独自捜査は禁止。情報は全て市警に譲渡せよ』の通達…。これで納得するカプラ社員がいたら、私の所へ連れて来るがいいわ…」
 「…だったら」
 「でも! だからってこんなことは見逃せない。カプラ社は冒険者のための会社よ。それが会社のメンツのために、その当の冒険者を陥れるなんて、そんな事は許せない」
 D1は言葉を切り、
 「例えそれがD4…モーラの心を傷つけた『女たらし』でも、よ」
 さんざんな言われ様だ。
 (…だけど…だいぶ分かってきた。それで焦ってやがったのか…)
 無代はD1の『演説』を聞き、内心で苦笑しながらもおよその状況を理解する。
 (オレを犯人に仕立てて、市警に『我が社は既に、重要な容疑者を確保している』とか言って、取り引きを持ちかける、って筋書きか…)
 当然、市警は無代の身柄の引き渡しを要求してくるだろう。
 そこでカプラ側が、
 「この男の身柄と引き換えに、捜査情報を交換しよう」
 あるいは、
 「共同捜査をさせてくれ」
 などとともちかければ、『蚊帳の外』の状況を打破できるかもしれない。
 だが…。
 (あまりにも見え透いてる。市警は騙せないな…。取引に応じさせるのも難しいだろう)
 無代は批判的だ。
 (足元見られて追い返されるのがオチ…まして市警が『犯人の目星をつけている』もしくは『既に逮捕している』場合、逆効果だ。…いや『市警自身が犯人の場合』だってあるか。…危ねえな…)
 内心で首を振る。
 「…だが他に方法がないんだ! カプラガードがカプラ嬢を守れなかった上に、捜査にも加われないなんて! こんな屈辱があるか! オレ達は飾りじゃない!」
 リーダーが叫ぶ。が、D1は冷静に言い返す。
 「ダリウ、貴方の気持ちは分かるけれど、ガードが今、守らなければならないのは自分たちのメンツじゃない。…私達カプラ嬢よ。もし二人目の犠牲者が出たら…」
 「…警備は万全だ。プロンテラはもちろん、モスコビアから孤島までガードを配置してる。…一カ所を除いて、だが…」
 「一カ所? …ああ、まあ『彼女だけは大丈夫』でしょうからね。でもそれで万全と言える? 市警の言う『複雑な背景を持つ政治的テロ』が本当なら…」
 「…」
 ダリウと呼ばれたガードのリーダーが黙った。確かに、現在持ち場についているカプラ嬢だけでなく、待機や休暇中のカプラ嬢まで守るとなると、ガードの人数だけでは全く足りないはずだ。
 「…どうしろって言うんだ、ガラドリエル…いやD1」
 ダリウが困りきった声を出した。無代という『生け贄』を得て一発逆転に賭けたものの、現実には八方ふさがりなのだ。
 「何もする必要はないぞ」
 拷問室の吹き飛んだ扉から、新たな声がかかった。壮年の男。
 うつ伏せのままの無代には容姿を確認できないが、訛のない声からやはりプロンテラの生え抜きと判断する。
 「…アイダ専務」
 D1が、あまり歓迎していない声を出した。ダリウらガードたちは逆に一言も発することができず、ただ男を見つめている。
 アイダ。
 その名前に無代も心当たりがある。
 ヒルメス・アイダ専務。カプラガード上がりの重役で、カプラガードの総責任者でもあったはずだ。
 「カプラ嬢殺害事件捜査への不関与、捜査の市警への一任は『会社の決定』だ。直ちにそこの彼を解放し、適切な治療を施したまえ」
 「…」
 「ダリウ・エニウド警備主任。社の決定に反した上、このような強引な捜査を行ったことについてはこの後、聴聞が開かれるだろう」
 上司の冷徹な言葉に、ダリウは返事もできない。
 「…それは役員会の決定なのですか? 専務」
 代わりにD1が質問する。決して穏やかな声ではない。
 「その通りだ、D1」
 「『相談役』も賛成なさったのですか?」
 「『相談役』は役員会のメンバーではないし、お手を煩わせるまでもない」
 「聞いてないということですね? …『あの方』に」
 「…何が言いたい、D1」
  やや尖ったやりとりになっても、アイダの声は落ち着いている。対してD1の声は危険な熱を帯び始めている。
  「カプラ嬢が殺害されたというのに、社の対応が軽すぎるのではと疑問を抱いています」
 斬りつけるような声。
 「…これはカプラのナンバーズ全員から、『D1』たる私自身が聞き取りを行った結果で す。そこには当然、ノーナンバー達の意見も集約されています。今回の社の決定に納得しているカプラ嬢は一人もおりません」
 「キミの報告は役員会にも届いている。だが、事は感情論で片付くレベルではない」
 「レベルではない? では役員会は今回の事件の背景をある程度ご存知なのですか?」
 「答える義務はない」
 「そんなバカな!」
 「慎みたまえD1。キミが『D1』の地位を利用し、他のカプラ嬢や社員達に対し高圧的、独裁的な態度を取っている、という報告もある。カプラの頂点として、キミには常に厳しい目で見られている。言動には気をつけることだ」
 言い方と言葉は奇麗だが、要するに『いい気になるな黙ってろ』という脅しだ。
 キレるかな…? と、無代はD1の呼吸に耳を澄ましたが、そうはならなかった。
 「…私自身の言動については承知しました。反省すべき事があれば反省します。…が、他の点はやはり納得が行きません。相談役と直接、お話をさせていただきたい。『あの方』なら私たちの気持ちを…」
 「許可できない」
 アイダがにべもなく答えた時だ。
 「…ぼクと話スのニ許可ナんかいラないヨ?」
 その場にいる全員の耳に、異様な声が響いた。
 カプラ嬢が使う多重コミュニケーション技術。だがカプラ嬢の声でははない。異常に歪んだ、男とも女ともつかない声。
 「…相談役! お久しぶりです! D1です!」
 D1の声が弾んだ。
 「ウん。D1、こウして話スのハ久しブリだネ」
 「…相談役、アイダです」
 「ハい、専務も久シブり。…カプら嬢が殺サれタ件、文書デは報告受ケたケれド…アなたカら直接聞きタかっタな。そレに役員会の決定モ、ちょット納得イかなイよ?」
 『相談役』の声音に怒りや懐疑は感じられない。が、言われたアイダは明らかに焦っていた。
 「いえ、それは…カプラ嬢の殉職自体は珍しい事ではありませんし、いちいち報告してお手を煩わせることもないと…」
 「アはハ、ボくがヒマなノは知っテるクせに。それニ専務? カプら嬢はウちの会社ノ宝だヨ? ソれガ殺さレて、それデも黙っテいるのハ、やッぱり変だト思うヨ」
 からかうような内容だが、声音は笑っていない。
 「しかしこの件に関しては市警…いえ、実は王室上部から強い圧力がかかっておりまして…」
 「王室…!?」
 アイダの口から飛び出した意外な言葉に、D1が厳しい声を出すが、アイダは無視。
 「我が社にとっても無視できない圧力です。そこをご理解いただければと…」
 「…マ、何にシても、僕ニは役員会ノ決定に口出ス権限は無イかラ、いいケどネ」
 「…は。ありがとうございます」
 「デも」
 一瞬気を緩めたアイダに、『相談役』の言葉が続く。
 「D1たチの話を聞クぐライは良イでしョウ?」
 「…どうしてもとおっしゃるなら、先に役員会による聞き取りを実施します。その後でしたら…」
 「…」
 アイダの言葉に露骨な拒否の色が混じり始めた。『先に役員会の聞き取りをする』などとは言うが、結果としてそれは『口止め』になるだろう。
 彼の仕事はカプラガードの統括である。そしてカプラガードは『カプラ嬢』と『カプラ社』を守るのが任務である。
 が、アイダはそれよりも、『役員会』を守る方に重きを置いているのは明らかだ。
 「この事件への深入りは、カプラ社そのものを危険にさらす可能性が高いと判断します。相談役も、ここはいったん矛を収められて…いえ当然、市警による捜査で真犯人が判明した暁には、社としても厳しい対応を…」
 秘密主義による幕引き。
 その場の誰もが、何かどす黒い…しかしどうしようもない闇の匂いを嗅いで顔をしかめそうになった、その時だった。
 「カプラ嬢を殺したのはオレだ」
 「!」
 驚愕が部屋の中を駆け巡った。
 謎の『相談役』さえ息を飲む気配がしたほどだ。
 「…どっこいしょっと…。…何だ? 聴こえなかったか? 『真犯人』はオレだって言ってるんだが?」
 無代だ。
 ぶっ倒れていた身体を無理矢理起こし、壁にもたれるようにして胡座に座り直す。
 「オレが殺した。モーラ…D4に振られた腹いせにね。さあ、何でも喋るぜ。聞いてくれ」
 「き、貴様、一体何を言い出す!」
 アイダが血相を変えて怒鳴った。
 ダリウはぽかんとし、D1も驚いた顔で無代を振り返っている。
 (…何を言い出す…? さあね…自分でも分かんねえよ)
 無代は内心苦笑する。
 だが、彼の勘が告げているのだ。
 ここだ。
 食らいつけ。
 賭けろ。
 有り金全部。
 (…賭けてやる。…誰が乗る? 張ってこい。こっちの賭け金は…オレの命)
 ぐるり、とその場の人間を見回した無代の耳に、あの声が響いた。
 「…無代さンとイったネ? それハとてモ興味深イ話だ」
 『相談役』だ。
 今までほとんど感情の感じられなかった声に、初めて「意志」を感じる。
 「…だろ?」
 にやり、と無代は唇を歪めてみせる。ひどい三文芝居の上に台本もないと来ているが、後には引けない。
 (…さあ『相談役』とやら。賭けるかね?)
 「貴様! いい加減な事を言うな! 何のつもりだ!」
 アイダがまだ怒鳴っているが、無代は平気な顔だ。
 「いい加減だと? ふざけんな。そっちが聞いてきたんだろうが。さんざん痛い目見せてくれながらよ。だからもう降参したんだよ。降参。わかる? 降参。オレが犯人なの。わかる? 殺人犯」
 無代の笑みがいささか悪質なものへと変化する。
 何せ首を叩き落とされても凹まない根性の持ち主だけに、開き直った時は極めてタチが悪い。
 「な…」
 アイダの顔色が真っ赤から真っ青へ急変した。無代の行動がまったく理解できないようだ。
 これまでこんな無茶苦茶な男とやりあったことなどないのだろう。
 完全に言葉が出なくなったアイダに代わって、『相談役』の声が再び響く。
 さらに強い意志を込めて。
 「D1、無代サんを連れテ、ボくの所へおイで」
 「…そう来なくっちゃな」
 無代の笑みが満面の、それもかなりの『ワル顔』に変わる。きっと『相談役』とやらも同じ顔をしているだろう。
 「ま、お待ち下さい、相談役! 役員会の決定を無視する事は貴方でも…!」
 「…専務。忘れナいでホしいネ!」
 相談役の声が厳しさを帯びる。
 「ボくが長い事、会社の運営にクちを出さナかっタから、みんナ忘れテしマったらシいけドね。…本来、『カプラ』は会社じゃナい」
 『相談役』の声はもはや、先ほどのD1に匹敵する熱量をはらんでいる。
 「ぼクが『カプラ』ダ。…気ニ入らなイなラ止めテご覧」
 「!」
 今度こそ、アイダが絶句する。
 「じゃ転送スるよ。D1、無代サんを」
 「はい! 相談役!」
 がば! と無代の身体が抱え上げられる。お姫様抱っこだ。
 「待て! やめろD1!」
 アイダの怒声が響くが、D1は一顧だにしない。
 「誰か! 誰か止め…」
 空間転送の断層が、声を遮断する。
 D1に抱っこされた無代は一瞬、立ちくらみの様な症状。転送酔いだ。
 そして数秒、酔いが醒めた無代が見たのは、天井の高いだだっ広い空間。
 その真ん中に、一人の人間が立って、彼らを迎えていた。
 子供だ。男の子。きちんとスーツを着ているのが何やら微笑ましい。
 「ようコそ、ボクのオふィスへ…」
 男の子が無代に向かって深々と頭を下げる。その声はまぎれも無い…
 「…相談役…さん?」
 「はイ。ボくがカプラ社の相談役デす。そシて…」
 男の子がにっこりと微笑んだ。
 「ボくが『カプラ』…『戦前種(オリジナル)』でス。よロしクお願イしまス、無代サん」
 

 「無代」という一人の男が、その生涯で残した『伝説』は数多い。
 その中の一つに『この世の全ての『戦前種』と知り合いだった』というものがある。
 それが真実か否かはさておくとしても、この『カプラ』との出会いこそ、その伝説の第一歩であったことは間違いない。
 「出会いこそ冒険。出会いこそ宝」
 そう言い続けて人生を駆け抜けた男がまた一つ、新たな宝箱を開けたのである。



 見事な半月が天頂にかかる夜空。その一番低い場所。
 静はまだそこにいた。
 掴めそうな月に向って手を伸ばす…が、届くはずもない。
 (…やっぱり駄目か…)
 苦笑。
 そこでやっと重力が、思い出したように静を捉え、浮遊感が消失する。
 ごおっ!
 静の耳が、落下の風切り音で満たされる。
 さすがにこのまま石畳に叩き付けられれば、静といえども命に関わる。
 「…よっ!」
 後ろざまに軽く手を伸ばすと、窓の出っ張りに指がかかった。ちょん、と弾く。
 それを弾みにきゅん、とまた身体を回転させる。
 回る。
 回る。
 重力にその身体を捉えられ、地面に向けて落下しながら、しかし静の身体は別の力を得たようにくるくると回転する。
 何を計測したわけでもなく、何の計算があるわけでもない。
 ただ、そうすればいいと「知っている」とでも言えばいいのだろうか。
 考えるより先に身体が動き、結果は動いた後についてくる。
 それが静の『流儀』だ。そんな静を、姉の香などはいつも『理解不能』と眉をひそめるのだが。
 石畳に落下する直前、静の両足が思い切り、宿屋の壁を蹴った。
 落下と回転のベクトルが変わる。
 ころころころころころ!!!
 静の身体が鞠か何かのように石畳を転がる。落下による『縦』のエネルギーが、蹴りによる『横』のエネルギーと、回転のエネルギーによって分散される。
 ころころころころ…
 ほとんど通りの反対側まで転がって、静はやっと止まった。
 肘やら膝やらをあちこちぶつけているが、エネルギーを奇麗に分散させたため大した傷も無い。
 そのままフールを追って走り出そうとした静は、しかしぴたり、と足を止めた。
 夜を昼に変えるほどまばゆく発光する石畳。
 その上に黒い人影が立っている。
 「…今晩は、しーちゃん」
 速水厚志。
 「…今出て行ったの、ふーちゃんだよね。…しーちゃん、追いかけるの?」
 「そう。…何か用? 急ぐんだけど?」
 静は真っ直ぐに速水を見る。
 「あのねしーちゃん。ボク、キミが危ないことするのも、止めなきゃいけないんだ」
 「…芝村の御当主の命令?」
 「うん」
 王国における『芝村家』の立場は微妙だ。
 天津において、王国の手先のような言われて反感を買っている、という事情は既に書いた。
 逆に、王国では天津の代表として無理な要求を押し付けられたり、天津の国々が起こしたもめ事の責任を問われたり、かなり理不尽な扱いも受けている。
 もし王国内で天津の人間がモメ事を起こした場合、下手をすると芝村の責任にされる恐れさえあった。
 しかも静は瑞波の国の大名・一条家のれっきとした『姫』だ。
 今や『天津の剣』、最強の武闘派、という目で見られる瑞波の姫が、妙な事に関わりになることを怖れるのは当然と言える。
 「…芝村の立場は分かるけど…止められると思う?」
 「思わない」
 速水が苦笑しながら頭をかいた。
 「だからボク、しーちゃんに付いてっちゃダメ? 一応『監視』してるってことでさ」
 「いいわ。ただし邪魔しないこと」
 即断。
 そして走り出す。
 かなりのスピードだが、速水は楽々とついてきた。足音さえ立てない。
 黒い法衣の下に隠れて見えないが、どうやら膝から下を人間の物ではない、何か別な構造に変形させているらしい。
 「失敗種(エラー)」
 自分のことをそう呼んだこの青年の身体には、やはり隠すべき何かがあるのだろう。
 「…でもしーちゃん。ふーちゃんがどこに行ったか知ってるの?」
 「知らない」
 「え…? だったらどうやって追いかけるのさ?」
 「匂い」
 静は視線を正面から動かさず、速度も落とさず答える。
 「…凄い…しーちゃん、ふーちゃんの匂い分かるんだ」
 「ん? 分かんないわよそんなの。犬じゃあるまいし」
 「あれ〜? だって匂いって言ったじゃない!」
 速水が素っ頓狂な声を出すが、静は落ち着いたものだ。
 「フールの匂いじゃない。人の匂いは薄すぎて追いかけられない」
 「じゃ、何の匂い?」
 興味深そうに静の顔を覗き込む速水に、静が始めて顔を向ける。
 にっと笑う。そして答える。
 「卵」

 静のスピードが緩んだのは、王都プロンテラの東門が近くなった頃だった。
 そこはカプラ嬢、『ビニット』の縄張りだ。
 オレンジ色のショートカット。右手を軽く頬に当てるいつものポーズ。
 その周囲は騒がしい。
 中央のディフォルテーと同じく、『カプラ嬢をテロから守れ!』という『有志』の冒険者たちが集まっている。
 もちろんカプラガードも出動しているが、『有志』の方が遥かに数が多い。
 呆れたことに出店まで出ている。ちょっとした祭り状態だ。
 「…ダメだ…もう匂いが分からない…」
 静の目が険しくなる。人やモノが多すぎて、匂いが混ざりすぎているらしい。
 「うーん、人も多いからわかんないねえ…」
 速水も、あまり緊迫感こそないものの、それでも人ごみをじっと見つめている。
 その時だった。
 「来たぞ! テロだ! 西門!」
 叫びが上がった。
 「!」
 静の目が遠くを睨む。
 その鍛え抜かれた瞳に、首都の反対側、遥か遠い夜の闇に、漆黒の翼が浮かび上がるのを捉える。
 黒い炎をまとった槍。
 ランドグリス。
 数体の強力な『取り巻き』をも従えた、恐るべきモンスターだ。それも複数。
 カプラガード、そして『祭り』の面々が一斉に動き出す。
 「くそ、こっちじゃなかったか!」
 「考えるな! やっちまえば同じだ! 行くぞ! 他の門の連中も呼んでこい!」
 「陽動かもしれん! 何人か残れよ!」
 輝かしい転生オーラをまとい、静の目にも凄まじいと分かる強力な装備に身を包んだ冒険者たちが、速度増加の支援を受けて駆け抜ける。
 ついでに静や速水にも支援の魔法が飛んで来るが、見た目が『剣士』姿だけに、静がその場を動かないのに文句を言う者はいない。
 「…どうする? しーちゃん…。…しーちゃん…?」
 「…違う…」
 「しーちゃん? 何…? 何が違うの…?」
 速水が慌てて静の顔を覗き込み、ぎょっとしたように顔を堅くする。
 静の目が変化していた。
 あの目だ。
 東門の方をじっと見つめている。
 東門付近の人ごみが目に見えて減っているが、フールの姿はない。
 念のためだろう。残った冒険者の一団が、ビニットを定位置から移動するよう誘導している。
 軽くうなずいてそれについていくビニットが、ナンバーズ(Bナンバーは現在5人だ)なのか、それともその部下のノーナンバーなのか、ここからでは判別がつかない。
 が、それを見ていた静の目が光る。
 「…おかしい」
 言うや否や、静がべたっと地面に這いつくばると、石畳に耳をつけた。
 目を閉じ、じっと何かの音に耳を澄ます。
 「…しーちゃん?」
 困惑して覗き込む速水の前で、静がぱち、と目を開ける、
 「…冒険者の歩き方じゃない。…足音が違う…あの人たち…兵隊…?」
中の人 | 第四話「I Bot」 | 16:56 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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