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第四話「I Bot」(5)
 『ファルコンチーム』は油断していた。
 無理もない。
 生きた魔剣を操る異様な敵から、やっと逃げてきたのだ。
 ワープポータルを越えてきたのだから、追っ手などあるはずもない。
 目標の『ビニット』も手中にある。
 チームの2割を『喪失(ロスト)』する犠牲を出し、予定も狂ってしまったが、それでも彼らの心を占めていたのは『安堵』。
 だから、橋の上で哨戒していた1人のアサシンも、それほど真剣に任務に取り組んではいなかった。
 だから、そのアサシンは『それ』を見た時、とっさに自分が『幻』を見ていると思った。
 恐怖の記憶が見せる、それは幻覚に過ぎないと。
 降りしきる雪の中、橋の向こうから疾駆してくる騎乗のシルエット。
 ただの幻覚だ、そう思いたかった。だが…

 Khyahahaaaaaa!!!!

 Gahyuauaauauuu!!!!

 幻は幻にあらず。
 『悪夢そっくりの現実』。
 吼え哮る、二振りの生きた魔剣。

 「…そろそろお前も起きろ。『ミステルテイン』」

 フールが小さくつぶやくと、ペコペコの鞍に固定してあった最も大きな魔剣を引き抜く。
 のろり、と巨大な魔剣の目が開いた。
 その刀身から、がぎゃ、と細い手足が伸び、フールの左腕にがっちりとしがみつく。
 それは剣というより、巨大な十字型の盾のようだ。
 世に言う『三大魔剣』。
 左腕に『ミステルテイン』。
 右手に『オーガトゥース』。
 そして『エクスキューショナー』は…。
 しゃらん、と不吉な金属音を引いて、処刑者の剣に絡んだ鎖がほどける。
 死刑執行のその日、罪人の最後の懺悔を聞くための、聖なる十字架を飾った細い鎖。
 今や偽りの十字架と化したそれが、フールの右手首に絡み付く。
 「…ひ…!」
 やっと声を出せるようになったアサシンが、完全に引けた腰で逃走。
 そこへ。

 Khayakayaaaaaaaaaaaa!!!!!

 フールの右手の一閃で、処刑剣が『飛んだ』。
 ずどん! とアサシンの背中のど真ん中を貫く。
 「はあぐあがあああああ!!! あ…げ…が…」
 あり得ないほど広がった口から、内臓の全てを雪の上に嘔吐して、アサシンが崩れ落ちる。
 『ファルコンチーム』の仲間が、音に気づいて駆けつけてくる、が…
 「ひぃ!」
 「ああああああ!!!」 
 フールの姿を見た途端に凍り付いたように足を止める。
 いや、止まる。
 目をそらし、猛烈な悪寒に襲われたように震え、即座に逃げ出す者も、その場にへたり込む者までいる。
 『心的外傷(トラウマ)』だ。
 経験した苦痛があまりにも大きい時、それは精神にも『傷』となって残る。
 イヤな記憶や苦い思い出、などという生易しいものではない。
 ほとんど肉体的な痛みにも等しい苦痛が、心の奥底から再現され、人間の存在そのものを『蝕んで』ゆく。
 『魔剣醒し』ことフールの真の怖さは、むしろこちらにあるのかもしれない。
 いっそ一思いに死んだ方がよほど楽、というこの世の地獄が、再び出現した。
 橋を渡りきったフールが、一直線に『ファルコンチーム』に襲いかかる。
 腰の退けた槍も、でたらめに振り回す剣も、左腕のミルスティンがまとめて噛み止める。
 止めるだけでなくまれには石化させ、その禍々しい牙でばりばりと噛み砕く。
 「槍が…槍が…」
 同じ言葉を壊れたように繰り返す獲物の胴体を、手足を持つ巨大な魔剣が引き裂く。
 一方、右手から繰り出される神速のオーガトゥースは、身体のどこかを掠めただけで獲物の神経を隅々まで蹂躙した。
 全身の毛穴から鮮血を吹き出した敵が、きりきり舞いしながら凍りかけた川に落下していく。
 間合いの短い短剣と侮る者はいない。が、いたとしても即座に改めるだろう。離れていても強烈なソニックブローの洗礼を受けることになるからだ。
 そして処刑剣。
 鎖に繋がれた魔剣が敵に襲いかかる様は、いわゆる『鎖付き武器』というよりもむしろ、徹底的に訓練された強力な戦闘犬を操るのに似ていた。
 フールによって『目醒し』させられた、意志を持つ魔剣。
 それがついに真の凶暴性を剥き出し、『ファルコンチーム』を追い回し、思う存分噛み付き、その苦痛を味わい尽くす。
 
 Khyahahahahahahaha!!!!

 禍々しい嬌声。
 一切の見境いなく、しかし精密に狙いすました苦痛と死が、これでもかと撒き散らされる。
 『三大魔剣』がひしめくダンジョンの一画に、無防備に突っ込んだも同然。それも統制と連携が取れ、目的と目標が明確な魔剣の群れだ。
 そんなものはただの悪夢でしかない。
 その悪夢の前には、積み重ねた訓練も経験も意味をなさない。
 単純な破壊力や戦闘力なら、フールよりももっと上があるだろう。闘い方もユニークと言えばユニークだが、要は邪道だ。
 だが、この恐るべき局地制圧力を見るがいい。
 敵の精神までを蝕み、侵し、引き裂いてゆく様を見るがいい。
 蹂躙。
 『ファルコンチーム』が、空を華麗に舞うはずの隼が地に墜とされ、踏みにじられていく様を。

 「陣を組め! 迎撃!」
 完全に油断を突かれたファルコンチームだが、その全員が統制と戦意を喪失したと考えるのは、しかし早計に過ぎる。
 フールが橋を渡り、最初の敵を蹂躙するのを目視したチームのリーダーは、直ちに迎撃行動を指示していた。
 フールが単騎であり、魔法や遠距離攻撃による包囲に弱いことは、退却戦で分かっている。
 なぜ追って来られたのか。
 そもそもアレは何者なのか。
 疑問は多いが、今はアレを何とかするのが先だ。
 残った数少ない魔法使いや弓手、支援の教授まで動員し迎撃の陣を張る。
 フールに今まさに蹂躙されている哨戒班を『捨て駒』にして、自陣に死地を形成するのだ。
 いかに強力な敵であっても単騎。死地に誘い込んで足止めし、遠距離の集中攻撃を加えれば必ず殲滅できるはずだ。
 後方は川と、城壁が守ってくれる。その戦術に間違いはない…はずだった。
 さて、リーダーによほど運がないのか、あるいはよほど相手が悪すぎたのか。
 あるいはその両方か。
 もう1人の悪夢が既に、彼らを守るはずの城壁の上に立っていた。
 一条静。
 すらり、と腰の銀狼丸を抜く。
 (…銀(しろがね)の叔父上様…)
 柄を左手に握り、刀身に右掌を重ねて、今は亡き刀の鍛え手に語りかける。
 (…ご安心下さい。静がきっとお守りいたします…)
 その刀は、彼女の守刀のはずだ。だが守ってくれ、と、少女は願わない。
 守るのは自分だと、この少女は宣言する。
 (…ですから、怖れず怯まず…静の導きます通りに…我が敵を撃ち払われますよう!)
 かっ、と静の目が開かれる。
 「参る!」
 城壁の上から一切の躊躇なく、静が跳んだ。
 猛烈な雪と風の中を、しかし瞬きもせずに地面の敵を見つめたまま、一気に落下する。
 その落下する静のそばに、ふわりと黒い僧服。
 速水厚志。
 その腕を、人間には決してあり得ない長さに伸ばして城壁にしがみつき、もう片手で静を抱える。
 ぐん、と落下の勢いを殺しておいて、ほいっ、と静の身体を地面に放り出す。
 「…うわ…!」
 フールを包囲するはずの陣が一瞬動揺した。
 包囲の陣のど真ん中、雪の降り積もる真っ白な地面に、静がすとん、膝をついて着地した。
 す、と立つ。
 右手に銀狼丸。
 左手の指に飛爪。
 ありふれたヘルム、女剣士のスカート姿。
 敵の大半が呆然とその姿を見つめる中、我に返った一人のローグが矢を構える。
 静の真後ろ。
 (…誰かは知らないが、もらった…!)
 無防備な背中を貫くのは簡単だ。大きな背中だから狙いやすい。
 …大きな背中…?
 なぜ敵の背中がこんなに大きいのか、気づいた時には遅かった。
 ぐしゃ!
 ローグの顔面に静の肘が食い込んでいた。
 (こいつ…真後ろに跳んで…!?)
 その通り。
 静は立ち上がった次の瞬間、ほぼノーモーションで真後ろに跳躍していた。
 なぜか。
 落下する空中で包囲の全員を観察し、そのローグの矢が一番、攻撃に移るのが速いと見たからだ。
 だから最初に襲った。
 背中を見せれば誰でも油断し、余裕を持つ。しかも背後から撃って、万一にも外せば大恥だ。だから念入りに狙う。
 その結果、攻撃のタイミングは遅れる。静はまず、そこを突いた。
 ローグの矢がむなしく、静の脇を掠めてあらぬ方向へ放たれる。
 ごきん!
 さらに、仰向けに倒れたローグの顔面を、全体重を乗せた踵で頭蓋骨ごと踏み砕いた。
 即死。
 同時にローグの右側の僧侶が、首筋から血を噴いてのけぞる。
 銀狼丸の一撃だ。
 同時にローグの左側にいたモンクが、首を抑えてうずくまる。
 飛爪の一撃だ。
 一瞬で三人を戦闘不能にして、静はまたす、と立った。
 余計な思考はすべて空白。
 ただ感じている。
 敵の視線。
 自分を見つめる、敵の目。
 
 『大陸のスキルには弱点がある』
 
 静が動いた。
 いや、動いたなどというお優しい動きではない。
 例えるなら、雪の地面を這う稲妻。
 ざ!
 ざざ!
 ざざざざざざざざざ!!!!
 ざ!
 ざ!
 両足、両手、両肘、両膝。
 踵。
 額。
 顎。
 指。
 身体のあらゆる箇所で地面を蹴り、あり得ないような複雑極まる軌道を描く。
 だがデタラメな動きではない。
 包囲の敵がまず、それを理解した。
  「こいつ…! …狙えない…!? ターゲットできねえ!」
 大したスキルもない女剣士の一人ぐらい、形もなく消し飛ばせるはずの強力なスキルを、その場の全員が持っている。
 だが、そのスキルを発動させよう静を狙った時には、静はもう『そこにいない』。
 ただ速いだけではない。速い敵なら慣れている。
 「…避けられてる…!?」
 「まさか…あ、い、いない!? どこだよ!?」
 「馬鹿! 後ろだぁ!」
 ざく。
 騎士の胸板から刀身が生えた。
 後ろから静に刺されたのだ。
 「うわ!」
 「よ、予測してんのか!?」
 「そんな馬鹿な!?」

 その通りだ。
 静は予測などしていない。
 ただ避けているだけだ。
 何を?
 それは…『視線』だ。

 『大陸のスキルは、目に頼り過ぎる』

 天津の武芸者たちが見抜いた、スキルの弱点。
 確かに威力は強力だが…それで敵を狙う時、大半の使い手はまず『目』に頼る。
 見なければ使えない。
 それが8割。
 残り2割は見ずとも使えるが、それを『当てる』ための術がまだ未発達。
 音。
 空気の動き。
 殺気。
 気配。
 特定の肉体感覚に頼らない『術』が、いまだ出来上がっていない。
 威力が大きいゆえに、その精密な運用まで手が回っていない。

 ゆえに『威』あれども、『武』にあらず。

 静の耳に、師匠たちの言葉が蘇る。
 一条静という天才の剣を磨くために、見剣の城に集められた達人たち。
 彼らの全員が、闇夜だろうが目隠しだろうが、天井裏だろうが床下だろうが、手に取るように『観る』ことができる者ばかりだった。
 静は彼らに囲まれ、その天賦の武術感覚をさらに研ぎすまし、磨き上げている
 
 『見るな』。
 
 『観ろ』。

 その教えが今、静という天才の器の中で、真の輝きを放ち始めていた。
 静の目は何も『見て』いない。
 同時に、周囲の360度すべてを『観て』いる。
 彼女の感覚から観ると、敵の視線はバレバレを通り越して『痛い』ほどだ。
 現代風に言うなら『テレホンアタック』。
 誰が、いつ、どこを、どう攻撃します、と事前に電話を入れてから撃つようなものである。
 (ボウリングバッシュ…狙ってる…よね?)
 ひょい、と足をさばいてポイントをずらす。
 それだけで、静を骨までバラバラにするはずのスキル攻撃は止まる。
 だが、それらはまだマシである。
 (…詠唱付きは…ホントひどい…)
 詠唱付き、つまり『呪文の詠唱』を必要とするスキル使いは、静には腹立たしいほど未熟だ。
 何せその連中ときたら、静を穴の空くほど見つめながら、馬鹿のようにこっち向きで口を開けて詠唱する。
 (…せめて口を隠せ、未熟者…)
 そういう敵に対しては、飛爪を数個まとめて、詠唱している口の中に放り込んでやる。
 飛爪を喰らった魔法使いがうめきながらしゃがみ込み、口の中の飛爪を地面に吐き出す。ズタズタに千切れた舌も一緒だ。
 高速詠唱中に口の中に異物が入るとこうなる。
 (…練度が低い…)
 静の義母・一条巴ならば口元を隠し、仮面を被るなどして視線をかく乱するぐらいの心得は当然だった。
 一国の妃として生活する今も、彼女が常に懐に詠唱隠しの仮面を所持していることを、身近な者たちなら知っている。
 目に偏光レンズを入れて視線を、口元を覆って詠唱を、敵から隠すための『お面』だ。
 武の国・瑞波に異国から嫁入りした彼女だけに、相応の苦労があったのだ。
 (…こっち見るな、もう…)
 斜め後ろからの視線が強くなったのを感じて、静がまたひょい、とポイントをずらす。
 ついでに視線の方向に、振り向きもしないで銀狼丸を一振り。
 ぎゃっ、と叫んでアサシンが一人倒れる。
 姿を隠そうが気配を消そうが、襲いかかる時にはどうしても『見て』しまう。
 それが限界。
 静には既に、余裕さえあった。
 「…しーちゃん…!」
 静の背後から速水の声が届いた。その押し殺した声音が、良い知らせの訳はない。
 静がゆっくりと声の方を振り向く。
 速水が立っていた。周囲に数人の敵が打ち倒されている。
 フールと静が時間差で敵を襲って敵の注意を引き、その隙に速水が…。
 だが速水の腕の中にあるのは、オレンジ色の髪の『死体』。
 『ビニット』。
 速水が小さく首を振る。
 蘇生不能。
 そう伝えたいのだろう。
 間に合わなかった。
 そう伝えたいのだろう。
 静は速水に小さくうなずき返すと、銀狼丸をぎゅっ、と握り直した。
 怒りだの悲しみだのといった安っぽい感情は、今の静にはない。
 静を動かしているのは、もっと重く、もっと熱く、そしてもっと純粋なものだ。
 それを表す言葉はない。
 だがただ一つ、それを表すことができる一対の黒い瞳が、彼女の敵を強く射抜いた。
 そして、その場に居合わせた全員が、またあの幻を見る。
 舞い散る雪が見せる、幻の羽根。
 静の背中から羽化する如く、天空へ立ち上がる二枚の翼。
 それはただの幻だ。
 だが、それを見た全員が悟る。
 
 …ああ、ここで死ぬのだ…

 「…た、た、退却! 退却っ!!!」
 その日二度目の絶叫が、ファルコンリーダーの口からほとばしる。
 彼自身も、静の飛爪を右目に喰らっている。ヒールをかけてもらったものの、飛爪が眼窩深くに埋まっていて取れず、片目のままだ。こうなると外科的に飛爪を取り出さない限り、魔法や回復薬で傷を完全に治癒することは不可能。
 リーダーの残った片目に、静の姿が焼き付く。遠くではフールが、ついに最後の敵を喰い尽くしたところだ。
 恐らく彼は一生、この悪夢に悩まされることだろう。
 「止めろ! 貴様が止めろ! いいな!」
 リーダーは誰かに向けて叫ぶと、もう見栄も体裁もなく真っ先に蝶の羽を駆動させる。
 リーダーの『逃走』に、他のメンバーも浮き足立った。今度こそ、部隊の全ての機能が消滅したのだ。
 てんでにハエの羽根を、蝶の羽を使い、またワープポータルを出す者もいる。
 静には十分すぎる隙。
 狙うはワープポータルの転送円。
 静の身体が稲妻と化して駆け出す。浮き足立った足止めスキルを避けるなど、今の静には雑作も無い。
 だが、その静をも制止する敵が、まだ残っていた。
 ざん! 雪の街の冷たい空気を切り裂き、地面から生える氷の槍。
 氷閃槍。
 王都の郊外でフールを止めた、あの忍術だ。
 静の足元から、再び息をもつかせぬ槍の連撃が襲いかかる。
 静の表情が引き締まった。
 (…これは…こいつだけは違う…)
 視線が読めない。いや、そもそも術者がどこにいるのか、静にさえすぐには見つけられない。
 (手強い…!)
 威力が低いのをいいことに、静は強引に氷の槍を突破しようとするが、その静のスピードさえ押さえ込むほどの連撃が地面から湧き出す。
 ファルコンリーダーが「お前が止めろ」と命じた者。それがこの忍者なのだろう。
 (…そこか!)
 ついに静が術者の位置を見破った。
 (…川の…中…!)
 察知した静の方が、逆に舌を巻いた。
 忍者の隠れ場所。それは半ば凍り付いた川の、氷の下だ。
 一体いつからそこにいたのか、常人なら数分で凍死するはずの場所で、その忍者は身を隠し、これだけの術を発動させつづけている。
 恐るべき手練だった。
 ファルコンリーダーの、おそらくは最後の切り札。
 だが彼は自分の身を案ずる余り、その札を温存してしまったらしい。この最強の札をもっと早く場に出していれば、わずかでも戦況を変えることができたかもしれないのに。
 だがいかに強力な札だろうが、切り時を誤った札はもはや、溺れる者が掴むワラと変わらない。
 静が河に向けて突進しようとしたその時、だが状況が変わった。
 凍った川の氷がばん、と割れ、その下から人影が飛び出したのだ。
 一飛びで、静の間合いのわずか外に着地する。
 静がまた、内心で感嘆した。
 (…できる…!)
 静が飛爪を飛ばし、次いで銀狼丸の一閃を送った。
 挨拶代わりだ。
 忍者は、身にまとったずぶ濡れの布を脱ぐと、ぶん、と振って飛爪を払い落とし、同時に横へ転がって静の太刀をかわす。直前まで氷の下に潜んでいたとは思えない体さばきだ。
 濡れた髪が、降りしきる雪を裂く。
 女。
 あらわになった忍び装束の身体は引き締まり、暗い雪の空へ湯気を立ち上らせている。
 静と、女忍者が対峙した。
 女忍者の背後では、墜ちたファルコン達が逃走していく。
 静は追わない。
 いや追えない。
 忍者が自ら、自分の姿を敵にさらす意味を、静は知っている。
 本来忍術とは、敵を騙し、欺く技である。堂々と敵に対峙し、これと渡り合う技ではない。
 だから、忍者があえてその道を選ぶ時、それは『技を捨てる時』だ。
 忍者が技を捨てる時。
 それは死ぬ時、いや『既に死んでいる』時なのだ。
 「…瑞波の…一条静姫様と、お見受け致します」
 何のつもりか、女忍者が話しかけてきた。風貌から見て静と同じ天津人らしいので、静を知っていてもおかしくはない。
 が、どこか思い詰めたような声。
 静は無言。
 「…私の腹の中に、爆弾がございます。この間合いで爆破すれば、恐れながら御身様も道連れに…後ろの方が蘇生なさいましょうが…」
 後ろの方とは速水のことだ。
 「…ぶしつけではございますが、静姫様にお願いがございます…」
 女忍者が突然、がば、と地面に土下座した。
 「…御身様を害するつもりはございません。『一条の静姫様』相手に、到底勝てぬのも承知の上。この身一つ、爆破して散る所存…」
 遠く、最後に残ったハイプリーストがこちらを見ている。雇った忍者が最後まで仕事を全うするか、それを確かめる役だ。
 ここで女忍者が死んでも、仕事をやり遂げたと認められれば、彼女の属する忍群へ報酬が払われる。
 が、もし認められない場合報酬が払われないのはもちろん、今後忍群への仕事の依頼も途絶えてしまう。
 そうなれば彼女の家族を含む、忍群全体が餓えて消滅する。
 自分が死ぬだけでは済まない、それが忍者の厳しい掟。その責任を背負って、彼女はここで静に対峙している。
 だが願いとは?
 「…このようなこと、お願いできた義理ではございませんが…。私が散りました後、できますれば蘇生をお願いしたく」
 「はあ?」
 静が思わず声を上げ、目を丸くする。
 命乞い、ではないが、ほとんど命乞いに近い。そんな忍者など、静も初めて聞く。
 「ご無礼は承知、恥も承知で申し上げまする…どうか! どうか蘇生を! …お供の方、姫様をお守り下さい!」
 がば、と土下座から起こした顔。口にイクドラシルの葉をくわえている。蘇生魔法のアイテム。
 女忍者が、そのまま後ろへ飛んだ
 高い。
 「キリエエレイソン!」
 速水が女忍者の言葉に応じ、静の身体を包むバリアの呪文を飛ばして来る。
 ぱん!
 むしろ間の抜けた音がして、女忍者の身体が弾けた。と同時に、周囲に鉄片の雨が降り注ぐ。雪を貫き、地面に深々と食い込む。
 同時に静の身体を半透明のバリアーが、カンカンと鉄片を弾き返した。
 爆破の威力は高くないが、この鉄片で殺傷力を増す爆弾らしい。
 鉄片に続いて、ざぶ、と血の雨が降る。
 気がつけば、監視のハイプリーストも消えていた。さすがの静も、もう追跡は不可能。
 忍者は仕事を果たしたのだ。
 「…」
 無言で立ち尽くす静の足元にごろん、と何かが転がって来た。
 首だ。
 蘇生のアイテムを口にくわえた女忍者の、生首。
 そもそも忍者とは、命を惜しむ職業ではない。まして敵だったのだから、何かをしてやる義理などどこにもない。
 先刻、静が敵に同じ事を敵に願ったとしたら、嘲笑すら受けられないだろう。
 …だが。
 静はかがんで忍者の口から葉を取った。そして少し離れた場所に落ちた身体の方へ、生首をぽーんと蹴っとばす。
 雑な扱いにもほどがあるが、情や哀れみでやっていることではない。静にしてみれば気まぐれもいいところなのだ。
 だが強いて言うなら…生首になってまで彼女の所に転がって来た、その忍者の必死な表情が、近しい『誰か』を思い出させたからかもしれない。
 安否の知れない、彼女の従者の事を。
 さて首が飛んだ、身体が四散したとなれば、蘇生可能時間は極めて短い。扱いの雑さに反して、静の行動は素早かった。
 千切れた四肢を器用につないで、イグドラシルの葉を起動させる。
 時間はギリギリ…だが成功した。
 「…がはっ…! げほ…!」
 びくん、と忍者の身体が壊れたごとく痙攣する。今までバラバラ死体だったのだから、その程度の反動で済むなら安いものだろう。
 静はそれを確認するともう興味を失ったようで、地面の奇麗な雪をすくうと銀狼丸を丁寧に清め、水気を拭き取って鞘に納める。
 同じく雪で顔を洗い、手足の血を清める。が、衣服やらに付着した血まではぬぐいきれない。
 それどころか、凄まじいまでの返り血だ。気の弱い人間が見たら、それだけで卒倒しそうである。
 「…しーちゃん」
 「…ん。ご苦労様、あっちゃん。フールも、無事でよかった」
 いつのまにか、二人の若者も静のそばに来ていた。
 速水の腕には『ビニット』が抱かれたままだ。
 三人とも無言。
 「…一条静姫様! あ、ありがとう存じました!」
 静の背後で、女忍者が叫んだ。雪の中で、必死の土下座。
 「天津は月根の国、風花忍群が一人、淡雪(あわゆき)と申します! このご恩は、いつか必ず! …御免っ!」
 「…」
 ふ、と、淡雪と名乗る忍者の姿が消えた。
 静は応えず、振り向きもしない。代わりに、フールに歩み寄る。
 「聞きたいことがあるわ」
 魔剣をすべて仕舞い、ペコペコを降りたフールが、静と対峙する。
 「…フール。一つだけ答えて。…『アレ』は…『何』…?」
 「…」
 「答えろ。あの『ビニット』…あれは何だ!? なぜ『中身が無い』!?」
 静の、黒曜石の瞳に火が灯った。
 「答えなさい、フール! あの『ビニット』は死んでいる。でも、それはあいつらに『殺されたから』じゃない! 元々、中身がなかったんだ! 香姉様ほどじゃないけど、私にだってそれくらいは分かる! コレは中身が無いのに動いてた! コレは何だ! そして…」
 「『…ボクは何だ…?』」
 吠える静の瞳を見つめながら、フールが呟いた。そしておもむろに自分のマントを脱いで積もった雪を払うと、速水から『ビニット』の身体を受け取り、マントで包んでやる。
 無慈悲に魔剣を振るう時とは打って変わって、優しい手つきだった。
 そして、再び静を見つめ返すと、フールは言った。

 「…彼女は…『BOT』なんだ…」

 「? ボット?」
 静が目をぱちくりさせた。
 知らない言葉だ。
 「そう『BOT』。そして…ボクの、姉妹みたいなものさ…」
 未知の言葉に戸惑う静に、フールが表情を変えずに答える。
 「…全部、話すよ。…会ってほしい人もいる。でもその前に…」
 フールが、マントにくるんだ『ビニット』を抱き直す。
 「この子を葬ってやりたい。…いいかな?」
 「…」
 静はそれ以上追求せず、黙ってフールに協力した。速水もだ。
 街を離れた林の中に、フールがバッシュの一閃で大穴を穿つ。
 マントに包まれた遺体を降ろしたところで、静がす、と手を出し、彼女のヘアバンドを外す。少し血がついていた。
 「…待ってる人がいるかもしれないから…ね」
 遺品のつもりなのだろう。懐紙に包んで、ポシェットに仕舞う。
 フールは何も言わず、荒っぽい墓穴に土を戻し、穴を埋めて行く。今はただの大剣に戻ったミステルティンがスコップの代わりだ。
 速水がどこかから、一抱えもある石をうんうん言いながら運んできて、墓標の代わりに据えた。
 「…速水クン、お祈り、頼めるかな」
 「…うん。でも、ボクなんかのお祈りが効くとは思えないけど…」
 「いいよ。頼む」
 速水が慣れない手つきと口調で祈りを捧げた。
 静のヘルムに雪がかかる。
 フールの鎧も、うっすらと雪を乗せる。
 速水の黒い僧服も、雪でまだらに染まっていく。
 死者の魂を、神のいます天国に送る祈り。
 だが、肝心の魂がない『死者』に、そもそもその祈りは意味があるのか。
 安らかなれと願えど、誰が安らかになるというのか。
 祈りが終わった。
 「…行こ…?」
 静が二人の若者を促し、速水がワープポータルを出す。真っ白な地面に描かれた転送円。
 静にはそこから吹く風の匂いを感じる。
 王都。
 「…帰ろ…?」
 三人の姿が転送円に消えた。
 夜明けが近いが、雪はまだやまない。
 名前も何も無い石の墓標も、ほどなく雪に埋まるだろう。

 つづく。
中の人 | 第四話「I Bot」 | 17:00 | comments(2) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment
早く続きが読みたい・・よみたすぎる・・・

あっちゃん今回ちょっとでばりすぎじゃナイデスカ(゚ロ゚; 三 ;゚ロ゚) ミナサマにモウシワケナイ気持ちがあるようなないような・・・

回数を増すごとにボリュームUPしてるようなそんな予感がします・・・!
wktkがとまらない展開に今後も期待してます!

なにはともあれ、おつかれさまでした(*´ヮ`*)

posted by (*´ヮ`*) ,2009/09/12 9:53 PM

 >(*´ヮ`*)さん

 いえいえ、あっちゃんの見せ場はむしろこれからですw
 でも、今のポジションもいい味出してて気に入ってますよ。
 お預かりしてる以上、きっとかっこ良く書いてみせるとも!

posted by sizuru ,2009/09/13 1:44 PM










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