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第五話「The Lost Songs」(1)
 永久飛空船「安全第一(Safety First)号」、通称「安一(ヤスイチ)号」。
 人と魔と神が入り乱れた聖戦を生き延び、現代まで残った「戦前種(オリジナル)」の機械で、完璧に稼働するものは決して多くない。
 まして人を乗せ、これほど安定した『飛行』ができるのは、今のところは恐らく『彼』しかいないだろう。。
 全長80メートル、全幅20メートル。
 巨大な葉巻型の機体を、後部のプロペラで駆動して空を行く姿は「飛行船」そのものだが、実は似ているのは姿だけだ。
 飛行船の本体がガスで満たされているのに対し、ヤスイチ号の内部は居住区を除き、すべて機械が詰まっている。だから、どちらかと言えばヤスイチ号は飛行船というよりも、「プロペラで動く葉巻型UFO」と言った方が良いかもしれない。
 実際、推進力こそ後部のプロペラから得ているが、浮力は未知の浮遊力場が使われているし、原動力も「無限に動く何か」ということ以外、現代では解析不能。伝承では強力な武装を含め、数々の超性能を誇ったとされているが…。
 今はプロペラで空を行くだけの、「安全第一」の名に恥じない悠々たる飛びっぷりである。
 海の上は雲もなく、穏やかそのもの。
 …なのだが、船内は時ならぬ「嵐」のまっただ中にあった。
 「駄目ったら駄目ですっ! 『香お姉様』はお疲れなんです! 皆出て行って下さいっ!」
 があー!  という女性の大声。
 『医務室』と表示のある部屋、その開け放たれたドアの中から、狭い廊下へ向って響いている。。
 「大体っ! アナタ達みたいな怪しい人達は信用できませんっ! 香お姉様に近寄らないで下さいっ!」
 どがん! とドア越しにすっ飛んで来たのは何と「ベッド」だ。
 「わ、わわわ! お、落ち着いて! ちょっと落ち着いておくんなよハナコちゃん! 船が、船が壊れるから!」
 狭い廊下で、飛んで来た「ベッド」を辛うじて避けたのは、クローバーと名乗るパラディンだ。
 今は鎧は脱ぎ、甲板服らしいツナギを着ているが、袖は肩から引きちぎってある。
 むき出しの逞しい両腕に刻まれた無数の傷が、『献身者(ディボーター)』として生きた歳月を、何より雄弁に物語る。
 仲間が受けたダメージを自分の身に転化し、仲間を守る『献身(ディボーション)』のスキルは、抜群の打たれ強さと体力を持つ者にだけ可能な捨て身の技だ。
 が、さすがの彼も、至近距離から飛んで来るベッドをまともに食らうのは勘弁、ということらしい。
 「駄目ですっ! 特にアナタっ! 海賊船長みたいで怪しすぎますっ!」
 「いやここ空だから。空賊って呼んでくれたほうが…わわわっ!」
 ずごん! と飛んで来たのは椅子。
 ベッドよりは小さくて軽いが、その分速度が乗っていてなかなかの威力である。
 「…困りましたわねえ…。船長さん…? これではらちが開きませんわ…?」
 床に落ちた椅子をひょい、と拾い上げ、少し離れた廊下に据えて悠然と腰掛けたのは、翠嶺と名乗った女教授である。
 「んなこと言ったってセンセ! あっしの言う事なんか聞いちゃくれませんぜあの子! おまけにこの怪力! センセこそ見てないでどうにかして下さいよ!」
 クローバーが盛大に文句をつけるが、翠嶺は困ったように首を傾げるだけだ。
 「どうにかしろと言われましても…。じゃ、そこの若い方、私の槍、持ってきていただけます?」
 「駄目え! 槍だめ槍っ! こら、お前らも素直に持ってくるんじゃないっ! センセに槍持たしちゃ駄目っ! …ったくもー! センセもセンセですよまったく…その…アレだ。人生の先輩として優しく説得とか、そーゆーので頼んますよひとつ!」
 「んんー? 難しい事をおっしゃるのねえ…」
 さて困った、という顔をしながらも、翠嶺がそーっと部屋の中に声をかける。
 「…あのー、『ハナコさん』? 確かにクローバー船長はとっても怪しげな組織の一員ですし、人相も大変怪しいですけど…」
 「うぉい! センセ!?」
 「話してみると意外に良いとこも…まあ…あるような…ないような…」
 「いやいやいやいや! 歯切れ悪すぎるよ! そこは言い切れよ! あああああもう!」
 クローバーが頭を抱える。
 そもそも、なぜこんな騒動になったのかと言えば…。

 香があの孤島の施設から『ヤスイチ号』に保護された直後、時間にして1時間ばかり遡る。
 香と共に救出された『ハナコ』と名乗る少女。
 肉体と魂を引き剥がされながらも、香の助けで元に戻ることができたあの少女もまた、ヤスイチ号の医務室に保護された。
 船内で目を覚ました少女だが、謎の現象のショックからか記憶があいまいな状態。
 ただ自分の名前「花子」と、もう一つの記憶だけが鮮明だった。
 「あ、貴女、アタシを助けてくれた人ですね! お、お姉様って呼ばせて下さいっ!」
 香の顔を見るなり自分のベッドから飛び出し、香のベッドに跳び上がって抱きついてきたのだ。
 これにはさすがの香も目を白黒。
 何せ、体格としてはハナコの方がよほど年上に見える。妹の静と同じぐらいの年齢だろうが、胸や腰は見事に発達し、背も高い。香と並べば、どう見ても香の方が妹にしか見えない。
 とはいえ、そこまではまだ平和だった。問題は、詳しい事情聴取をしようとクローバーが顔を見せた時に起きた。
 そのクローバーの顔を見たハナコが、
 「…出たな! 悪者っ!!」
 と暴れ出したのである。
 最初、数人の医療スタッフが彼女を取り押さえようとしたのだが(後遺症による精神混乱と判断した)、逆に全員がハナコに投げ飛ばされ、部屋の外に叩き出されてしまった。
 クローバーもハナコが振り回すベッドに阻まれて部屋に入れない始末で、今もってハナコのろう城状態が続いている、というわけだ。
 (…あの怪力…どうも魂を戻した時に、どっか少しズレちゃったのね…)
 香はベッドに半身を起こし、ハナコの暴れっぷりを『観戦』しながら、頬の辺りを指でぽりぽり。
 引き剥がされた魂をひっつかんで戻すという、考えてみれば奇跡みたいなことをやってのけたのだから、その程度の副作用、というか『オマケ』ですんだのはむしろ幸運と言える。
 が、やっぱり多少の責任を感じる香だ。
 しかもこのまま暴れ続ければ、ハナコの身体にどんな不具合が起きるか分からない。
 加えて、クローバーも翠嶺も、状況としては香達の『恩人』でもある。
 (…何とかしてあげないといけない…よね…?)
 ここにはいない、彼女の恋人に尋ねる。答えの分かりきった問い。
 「…ねえ、ハナコ…ちゃん?」
 「はいっ! お姉様! 大丈夫です! ハナコがちゃんとお守りいたしますから!」
 振り向いた勢いでキラッ! と音が聞こえそうな笑顔。
 (…誰かを思い出すと思ったら…綾姉様だ…)
 香は苦笑い。
 「…いえ、そうじゃなくてハナコちゃん。お腹減らない?」
 香にしては大声。外の廊下まで聞こえるように。
 「減りました! …って、いえ、大丈夫です! …あ…お姉様、ひょっとしてお腹減りましたか?」
 「うん。ペコペコ」
 「う…困りました…」
 ハナコが本当に困った顔で、ぐちゃぐちゃになった部屋を見回す。が、食べるモノは何もなさそうだ。
 「外の人に差し入れしてもらうのがいいと思うの」
 「…でも…何か毒とか入れられたら…」
 ハナコがためらう。もう一押し。
 「殺すつもりならとっくにやっているわ。それに、貴女が毒見をしてくれれば、私も安心だし…ね?」
 「そ、そうですね! よし! 外の怪しい奴ら! ご飯を持ってこいっ!」
 人間相手のコミュニケーション能力に、お世辞にも長けているとは言えない香にしては、なかなか上手くいった。
 まあハナコがかなりのお人好しだったことが主な要因だが…。
 ハナコの要求に対して、クローバーの了解があってから数分。
 ありあわせのパンやらビスケットやらに、たっぷりミルクを注いだピッチャーを添えた『食事』が運ばれて来た。
 運び手はヴィフ。クローバーの傍らにいた、あの男プリーストである。
 薄い赤髪にすらりとした体躯。よく見ればかなり整った顔をしており、給仕の様子もサマになっている。
 どうやらかなり良いトコの出らしい。
 「お待たせいたしました香姫様、ハナコさん。粗末なモノで申し訳ありませんが、お食事です」
 一礼して、いったん盆を香のベッドに置くと、部屋の隅でひっくり返っている小さなテーブルを持って来て、改めて盆を乗せる。
 ミルクをコップに注いでハナコに渡す動作も、なかなか優雅だ。
 『淑女扱い』されたハナコがちょっと赤くなる。が、慌てて怖い表情を作り、毒見のつもりかミルクを少しだけ飲む。
 …美味しかったらしい。
 直後にごくごくごくっ! と一気飲み。
 「おかわりはいかがですか?」
 「い、いただきますっ!」
 両手で差し出されるコップに、ヴィフがまたミルクを注ぐ。あくまで優雅。
 ごくごくごく…ご…く…
 最後の一滴を飲んだところで、ハナコの身体が『落ちた』。
 「…よっ…と」
 崩れ落ちるハナコの身体を、ヴィフが支える。同時に、ハナコの手から滑り落ちたコップを器用に受け止めた。
 ミルクに何か入っていたらしい。
 「…強い薬じゃないでしょうね?」
 『自分が仕組んだこと』だけに、責任を感じて訊ねる香に、ヴィフが微笑みながら片目をつぶる。
 「大丈夫、ただのハチミツとブランデーです。…疲れてたんでしょうね、一気に回ったみたいです」
 ハナコはヴィフの腕の中で、すーすーと健康的な寝息を立てている。
 「よーしよし! よくやったヴィフ! さすが良いとこの坊ちゃまは違うな!  最初っからオマエに頼んどけばこんなことには…やっぱアレか…『イケメン』ってヤツだからか…?」
 クローバーが喜んでいいのかどうか複雑な顔をしながら、廊下に転がっていたベッドをえんやこらと医務室に戻す。
 ハナコが寝かされ、一通りの片付けが終わった所で、翠嶺が椅子を持って入って来た。香のベッドの側に椅子を据えると、ぺたんと座る。
 「まあまあ、大変でしたわねえ」
 「…主にあっしがね…」
 「何かおっしゃいまして…? 船長さん?」
 「いえいえ。…改めてお食事をお持ちしますぜ、香姫様。…センセは?」
 「あら、では私は冷たいお茶を」
 ヴィフがかしこまって出て行く。
 「さて…っと。一条香さん? 改めて自己紹介しますね?」
 翠嶺が両手を膝の上に揃える。お行儀良くしているつもりらしい。
 「私は翠嶺。職業はプロフェッサー。魔法学校『セージキャッスル』創立者の一人で、永世名誉教授で、『放浪の賢者(グラン ローヴァ)』の資格も持ってます。貴女の義理のお母さん、冬待巴さんの先生でもありました。で…」
 少し言葉を切る。
 「『戦前種(オリジナル)』です。歳は正確に数えてないけど、千年以上…ですね」
 何でもない時と場所で聞けば突拍子も無い話だが、香は小さくうなずく。
 義母から聞いた話、そしてあの島での凄まじい戦闘を見た後では、むしろ当然とさえ思える。
 翠嶺の後を、クローバーが引き継いだ。
 「あっしはクローバーと申します。この飛空船『ヤスイチ号』の船長でして。…で、ルーンミッドガッツ王国に反抗するレジスタンスの幹部…とかもやってます。…あ、でも決して怪しい者じゃござんせんよ」
 「十分怪しいですわよねえ」
 翠嶺がころころと笑う。
 「あー、まあ…そうなんですかねえ…」
 翠嶺に悪意がないのは分かり切っているので、クローバーも頭をかくしかない。おどけた仕草に、香も少し微笑む。
 クローバー、確かに色々怪しい所はあるが、決して悪い人間ではないのは分かる。人にモノを押し付けない態度は、香にも好ましく映っていた。
 もっとも香の『目』には、また別なものも映るのだが…。
 「…さて香さん、まず貴女の事を聞かせいただけます? …なぜあそこにいらしたの?」
 隠す理由もない。
 香は、自分が移民船に乗り込んでから体験した事を全て話した。自分の異能、霊能力や分割思考のことも、セージキャッスル最高峰の頭脳である翠嶺相手では隠しても仕方ない。
 ただあの時、分割思考に割り込んで来た『謎の思考』のことだけは、なぜか語らなかった。
 隠した訳ではなく、言わない方が良い気がしたのだ。
 「…なるほど…。貴女が一条家のお姫様だってことを、連中は知らなかったのですねえ」
 「…知ってたらタダじゃ済まなかったでしょうなあ。いやよかった」
 翠嶺とクローバー、二人の言葉の裏に、
 『だって見た目だけじゃ、誰もお姫様だなんて思いませんよねえ』
 という響きを感じて、多少むっとする香である。が、実際その通りなので反論のしようはない。
 「…では、今度は私のお話を聞いて頂けるかしら…?」
 翠嶺が少し口元を引き締めて、香にたずねる。
 「…」
 香が小さくうなずく。
 「…ありがとう。まず…貴女がひどい目にあった、あの場所のことからね。…あれは『BOT工場』です」
 「…『BOT』?」
 香をして初めて聞く言葉だ。
 奇しくもそれと同じ言葉を、遥か遠いルティエの街で、妹の静がフールから聞いている。
 無論、香の霊感を持ってしても、そこまで知覚することは不可能だ。
 「そう、『BOT』。…人間の身体から魂を引き剥がした…『生きた人形』とでも言ったらいいかしら? あそこはそれを生産する施設なの」
 「…生産…何のために…?」
 「…色々、としか言いようがありませんわね」
 翠嶺が、長く垂らした『振り袖』をくるくると腕に巻き付ける。どうもそれが、考え事をする時の彼女の癖らしかった。
 「はぎ取った魂の代わりに『プログラム』と呼ばれるモノを入れれば、様々な『用途』に使えます。労働用に軍事用。…愛玩用…も、あると聞きますわ」
 香の脳裏に、『工場』で見たハナコの見事な裸身が思い出された。比べて自分の貧弱な身体も思い出すが…別な意味で少女人形のような美しさを持つ香にも『愛玩用の需要』はあるのだろう。
 さすがの香も胸が悪くなる。
 「ああいう工場がが世界のあちこちにあるのです。貴女が乗ったような移民船とか…巡礼団とか…そういうのを偽装して人を集めて…BOTを作っている」
 「…」
 「この船のクルーや私は、その連中と戦って、潰して回っているのですよ」
 翠嶺やクローバーが『あの島に工場がある』という情報を掴み、ヤスイチ号のステルス機能を使って島影に潜んで攻撃のチャンスをうかがっていたところ、追われている香を発見して助けた、という流れであるらしい。
 「…ありがとう」
 「どういたしまして。…といっても貴女を助けたのはあくまで『偶然』なのよ? 結局は貴女自身の幸運、という事でしょう」
 翠嶺が優しく微笑む。別に多大な恩を着せるつもりはない、という意思表示だ。
 「…そして、ここからは『私』の話です」
 翠嶺が、腕に巻き付けていた『振り袖』をするするとほどいた。
 「…私の弟子が2人、あの連中に連れ去られました。昨年の事です」
 優しく、人を安心させるその声音はそのまま。
 だが癒せない深い傷を、そして狂おしいほどの苦悩を抱えた人間の声は、このように響くのか。
 「双子の男の子なの。私の…大切な友人の忘れ形見。…必ず無事に育てると…約束したのに…」
 翠嶺がその両手で、自分の顔を覆った。
 泣いているわけではない。
 むしろ泣かないためにそうしている。
 胸を掻きむしられるような焦燥に、自分が崩れ去ってしまわないように、彼女はそうしている。

 『戦前種(オリジナル)』
 先の聖戦を戦い、その際に与えられた超絶的な『性能』のままに現代まで生き残った者たち。
 その1人である翠嶺には、パートナーがいた。
 同じ『戦前種』である、女パラディン。
 『風の守歌』とあだ名された、聖歌の歌い手。
 彼女たちは実の姉妹の様にお互いを想いながら、現代までの気の遠くなるような長い年月を共に過ごした。
 だがある時、そのパラディンが人間の男と恋に落ちた。
 そしてその愛を貫くために『戦前種』としての力と寿命を捨て、その男の妻となり、子供を産んだ。
 男は、アナベルツの田舎にある小さな町の領主。緑の森と、青い湖と、鮮やかな山々に抱かれた小さな、小さな町。
 「貴女の名前のような町よ。翠嶺」
 彼女は幸せそうに、そう便りをくれた。
 しかし。
 「…近くの、別の領主の奇襲を受けてね…。そいつは『彼女』が目当てだったのよ。美しくて聡明な…珍しい小鳥でも欲しがるみたいに」
 翠嶺が、辛い思い出を絞り出す。
 「急を聞いて私が駆けつけた時には既に、彼女たちの小さな城は落城寸前だった。大急ぎで敵を蹴散らして…城内に踏み込んだ時には、彼女も、彼女の夫も、もう…」
 まだほんの幼児だった双子の息子たちを守って、彼女は息絶えていた。
 蘇生限界時間もとうに過ぎたその身体の下に、息子たちはずっと抱かれていた。
 戦前種としての力は失われていたが、1人の妻として、母として、彼女は戦って果てたのだ。
 後に翠嶺が聞いた話では、その死の寸前まで彼らの城には、彼女の歌う聖歌が響き続けていたという。
 『風の守歌』。
 その歌を聴く味方に、絶大な支援効果をもたらすスキル『ゴスペル』。彼女のその歌がなければ落城はもっと早かっただろう、と、誰もが口にした。
 姉とも妹とも想う人を失った翠嶺には、何の慰めにもならない話。
 が、しかし確かにその歌の力で、彼女の2人の息子は生き残った。
 翠嶺は2人を連れて町を落ち延びる。そしてそれ以来、旅の空の下でずっと母として、また師として慈しみ、育ててきた。
 それをまたも失う事になれば…。
 
 「…その子達…私の弟子達の名前は…」
 翠嶺がそこまで言った時だった。
 香の声が、それをさえぎった。
 「1人は『エンジュ』、もう1人は『ヒイラギ』。透明に近い銀髪と、ブルーの目の双子、ね」
 「!?」
 翠嶺の目がまん丸になった。
 (…『先生』にこんな顔させたと言ったら、お義母様は誉めてくれるかな…?)
 香が一瞬、そんな事を考えたほど、それは無防備な表情。
 「その子達のお母さん、貴女の元パートナーは…『瑠璃花(ルリハナ)』」
 翠嶺の表情がそのまま固まっている。代わりに隣のクローバーが、
 「あの…姫様?…その皆様を…ご存知なんで…?」
 これも驚いた声で訊ねるが、香は首を横に振る。
 「全然知らない…いえ、『知らなかった』」
 「じゃ…なんでまた…?」
 その問いに対する香の答えが、部屋の中の空気を一変させる。
 「『本人達』から聞いたの」
 「!?」
 「そこにいるわ。貴女の…右後ろ」
 今度こそ本当に血相を変えた翠嶺とクローバーが、同時に後ろを振り向く。
 が、当然と言うか何も見えない。
 びきっ、と翠嶺の雰囲気が一変する。あの槍を持った時の、鋭く激しい瞳。
 「…貴様…いい加減な事を言うと許さんぞ!」
 しなやかな腕が電光と化して奔り、香の胸ぐらを掴み上げる。
 どうやら槍を持たなくても、何かの拍子に性格がひっくり返るらしい。
 「せ、センセー! 落ち着きなすって! 手荒なマネはいけやせん!」
 クローバーが大慌てで仲裁に入るが、香は特に抵抗もせず、また表情も動かさない。
 「…信じられない?」
 逆に、翠嶺の瞳を真っ直ぐに見返しながら聞き返す。
 「…私には何も見えん。何か証拠でも…」
 「…寝起きがもの凄く悪い」
 香がいきなり言った。言われた翠嶺の顔に疑問符。
 「…何?」
 「…無理に起こしたりするとひどい目に遭う上に、その日一日機嫌が悪くなるので余計に大変」
 「…あ、あら?」
 翠嶺の瞳からすとん、と鋭さが抜ける。ついでに香の胸ぐらもぽい、と離してしまう。
 「あと、料理の時には決して刃物を持たせないこと。人格が変わっちゃうと、何もかもミンチにしちゃうから」
 「あらあら…?」
 「万事に忘れ物、うっかり多し。過去には旅のテントごと忘れたことも。野宿の後には指差し確認励行」
 翠嶺が真っ赤になった。
 「あ、あらあらあら…? 香さん…それ…誰に…」
 「だからそこにいる、エンジュとヒイラギ」
 「…!?」
 腰を浮かせていた翠嶺がすとん、と椅子に落ちた。
 「…どーりで…。センセの寝起きの悪いのは元々ですかい…」
 どうも実際に被害に遭ったらしいクローバーが顔をしかめる。
 「…『あれは夜ばいかけようとした船長が悪い』、って、エンジュとヒイラギが」
 「…夜ばい?」
 香の解説に、翠嶺がきょとんとする。
 慌てたのはクローバーだ。
 「ええええ?! 違う、違いますってセンセー! 夜ばい違う夜ばい! 朝起きて来ないから起こしに行っただけですって!」
 「あー、あの時は失礼致しました船長さん。つい半殺しに…」
 「…もー、二度とセンセー起こしにゃ行きません…」
 よっぽどひどい目に遭ったらしい。
 「…ええ…? でもそれって本当に…? 本当に…エンジュとヒイラギ?」
 香の方に身を乗り出した翠嶺が、可哀想なほどにうろたえる。
 「信じてくれた?」
 「う…え…ええ。分かった…分かりました、信じます。…でも…それって…まさか…」
 「違う。2人は死んではいない。…大丈夫」
 (…?)
 言ってから、香の頭に疑問譜が浮かんだ。自分の発した言葉に、自分が疑問符。
 最後の一言。自分は確かに『大丈夫』と言った。
 翠嶺を安心させるためだ。
 だが、他人にそんな気遣いをする人間だっただろうか、自分は? 無代と家族以外の人間に?
 しかし、翠嶺は確かにほっとしたようだ。
 「死んでない…? 本当に…?」
 「ええ。確かに」
 香は深くうなずくと、無意識に少しだけ微笑んでみせた。
 翠嶺を安心させるために。
 慣れない、不器用な笑みで。
 「確かに、そこに2人の『魂』がいるけれど、それは『死霊』じゃない。『生霊』、ってことになるのかしら…とにかく、身体はまだ生きてる」
 ふう…と、翠嶺の身体から力が抜ける。
 「…そう…よかった…よかった…」
 見えない双子を探すように視線をさまよわせ、同じ言葉を繰り返す翠嶺。
 「…『心配かけてごめんなさい、先生』ですって」
 香が『通訳』する。
 「…いい。…そんなことはどうでもいいの。…生きて…こうして手がかりが見つかったなら…」
 翠嶺が深いため息と一緒に言葉を吐き出す。
 「それで、あの子達の身体はどこに?」
 ぐいっ、と顔を上げる。表情に力が戻ってくる。
 「『分からない』って。『天津行きの船の中で気を失って、気がついたら身体を失ったまま先生の側にいた。それからずっとここにいる』そうよ」
 香の通訳に、翠嶺が唇を噛む。
 「…アルベルタでどうしても外せない用事があって…2人を先に船に乗せたの…あんなことをしなければ…」
 何度も何度も繰り返した後悔の言葉なのだろう。血の出るほど噛み締めた唇に、後悔の深さが映る。
 「センセ、苦労されましたもんね。でもよかったじゃないすか」
 クローバーが、精一杯優しい声を出す。
 双子と翠嶺が、アルベルタで別れた後。
 双子を乗せた船は天津に着いたものの、船内に2人はいなかった。
 2人の行方を探しに来た翠嶺が船員に詰め寄ったが、船員は「そんな子供は最初から乗っていない」の一点張り。
 一人、双子の捜査を始めた翠嶺。
 一方、クローバーたちはその船が、『BOT工場への人集め船』だと突き止め、行方を追っていた。
 翠嶺とクローバー。同じ敵を追う二者が必然的な遭遇を経て、協力することになったのだという。
 その後、いくつかのBOT工場を発見して破壊したものの、双子は発見できなかった。
 「一年近く探し回って…それがまさか、私の側にいたなんて…ね」
 翠嶺が苦笑するが、本当の意味での苦さはない。根底には安心があるようだ。
 「…でも、身体から引き剥がされた魂は、数時間と持たずに消えてしまうはず…そうよね?」
 翠嶺の質問に、香は小さくうなずく。
 「…そこが不思議なんだけれど…翠嶺…先生?」
 「…『先生』でいいですよ? 何でしょう?」
 翠嶺が香の方に身を乗り出す。
 「…歌が聴こえる」
 「歌…?」
 香の言葉に、翠嶺が微かに首を傾げる。
 「そう、歌。多分…ゴスペル。エンジュとヒイラギ、双子の魂を包むように…ずっと」
 「…?! それ…って…まさか…?!」
 「…ええ。この子達のお母さんの…『瑠璃花』さんの歌、だと思う」
 翠嶺の、知性と品の良さを決して失わない表情がぐらり、と揺らいだ。
 「本来なら、身体から引き剥がされてすぐ消えるはずの魂を、その歌が守っている。ゴスペルにそんな効果があるなんて知らなかったけれど…『奇跡』を起こす歌ならばあり得るのかも」
 「…ええ…きっとそう…あの子の、瑠璃花の歌はいつも『奇跡』を起こした…ホントに…『守歌』そのものね…」
 翠嶺が、組んだ両手を額にあててうつむいた。肘は膝の上。
 香はその姿から目線を外すと、部屋の隅に椅子を移して座っていたクローバーの方に顔を向け、
 「…クローバー船長。私もお茶が欲しい。…うんと熱いのを」
 「…合点かしこまりました、香姫様」
 ヴィフのように優雅でこそないが、頼もしく一礼してクローバーが部屋を出て行く。
 ドアが閉まった。
 静けさの中で、香は言葉を続ける。
 「…双子の身体も、ならばこの歌が守っている可能性が高い。BOTにされても、プログラムとやらに身体を侵されないように」
 「…ん…」
 「…大丈夫。きっとまた、貴女の胸の中に抱きしめる日が来る」
 翠嶺にそう言ってしまってから、香はまた悩んだ。
 おかしい。
 こんな言い方は自分の、一条香のものではない…これはまるで『あの人』のようではないか。
 もう半年も会っていない、無代の笑顔が浮かぶ。
 そんな香の思考の最中、医務室の窓のシールドが突然、微かな作動音と共にゆっくりと開いた。
 磨き抜かれた窓ガラスの向こうには、雲一つない空と、どこまでも続く海。
 そこに沈んでゆく夕日。
 香は誘われるように、自然にそちらに視線を向ける。
 …いや、本当に誘われたのかもしれない。
 香の背後で、翠嶺の気配がする。
 が、香はそちらを見ることなく、しばらく夕日を眺めていた。
 「…ありがう。…もう大丈夫です」
 その声を聞いて初めて、香は視線を戻す。
 千年を超える時を生きた『戦前種』は、まだ少し目が赤かったが、もう元の知性と気品を併せ持った表情に戻っている。
 「…確認させて、一条香さん。子供達の…双子の身体を見つけたら、貴女は彼の魂を元に戻せますか?」
 「戻せる」
 香ははっきりと答えた。
 「一度自分で体験して、彼女で実践した。経験はそれで十分」
 香は隣のベッドで眠るハナコをちらりと見る。
 「…ただし、戻す時のわずかなズレで、何らかの不具合が残る可能性はある。彼女のように筋力のリミッターが外れるとか…特定感覚器官の麻痺。例えば…」
 香は少し考え、
 「例えば、『痛みを感じなくなる』とか…」
 「ああ」
 翠嶺が苦笑し、ついで表情を硬くする。
 「彼を…子供達を助けてくれるなら、よほどの事でない限り問題ない。あの子達の身体が連中に汚されて…魂が消えて…私が1人ぼっちになることを思えば…ね」
 香が小さくうなずき、そしてまた『なぜうなずいたのか』悩む。
 他人の事を気遣ったり、他人と心を通わせるような…『情』とでも言うべきものを、自分が表現している事が信じられない。思わず自分に問いかけてしまう。
 (…全器官に質問。『一条香』に変調はあるか?)
 (否定的)
 (なし)
 (特段の変調はない)
 体内諸機関から、一斉に否定のアナウンス。
 (だが、『一条香』の行動に変化がある。それは認めるか?)
 (変化はあるが、変調ではない)
 かなり断定的なニュアンスで応えたのは『子宮』。
 (変調ではなく、成長、進化と捉えるべきだ)
 (…成長…?)
 (当たり前でしょ? 家族と無代以外の人間と、まともに喋るの初めてなんだから。そりゃ成長もするわよ)
 呆れたような思考をぶつけられて、香はますます困惑する。
 見えざるものを見、触れ得ないものに触れる力。
 母からその力を受け継いだ彼女が、自分を守るために作り上げた『無関心』の鎧。
 最初にそれを砕いたのは無代だった。
 そして今、この飛空船の中でまた、その鎧が剥がれ落ちそうになっている。
 (…なぜ…?)
 (…どうして今、ここでなの…?)
 その答えを香が知るのは、もう少しだけ後のことになる。
中の人 | 第五話「The Lost Songs」 | 23:02 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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