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第八話「Free Fall」(3)
  「N0(エヌゼロ)…」
 カプラの言葉に、無代がうめくように応えた。
 「では『その 方』に会えば、カプラ社 を守れるかも知れない、そういうことですね?」
 無代が『カプラ』に念を押す。だが、カプラはそれを否定も肯定もしない。
 「…かぷら社 のシスてむは、ぼクの持つ『空間の魔』の力を基礎とシていマす。そシて、そレを運用すルたメの『ぷろぐらむ』、その『おりじなる』ヲ、「N0」ハ持っテい る。だかラ、他のカプラ嬢を全テBOTに入れ替えテも、彼女ダけは不可侵デす」
 
 『彼女だけは大丈夫』

 カプラ嬢が殺 害された際、カプラガードが全カプラ嬢に護衛を付けると決めた時、『一カ所だけを除く』と言った意味。
 原初にして、唯一にして、不可侵のカプラ 嬢。
 それが「N0」。
 「…正確にハ『彼女達』デすが…」
 「『達』?」
 カプラが謎めい た言葉を無代が聞きとがめ る。
 「…会えバ分かりマすヨ。…タだ、『彼女達』の力があっタとしテも…社長達の計画ヲ阻止でキるかどウか…。でモ、彼ラが計画ヲ実行しタ時、 『かぷらシステム』を自由に使エるのは彼女ダけデす」
 「分かりました、お引き受けします。…ただ、一つおお訊ねしてよろしいですか、『カプラ』 さん」
 「何デしょう、無代さン?」
 無代が立ち上がり、『カプラ』と相対する。割と長身の無代を、『カプラ』が見上げる格好。
  「…こんな大事を、D1はともかく何故『私』に? 落ちこぼれの木っ端冒険者ですよ、私は?」
 「あア、そノ事でスか」
 『カプラ』が 笑った。
 「無代サん、貴方が似てイたかラでス」
 「似ていた?」
 「そウ」
 『カプラ』がその目を少し閉じて、言っ た。
 「遠い昔、ボクに名前ヲくレた人々に。…彼らモまた貴方のよウに、『屈しナい目をシた人々』デ…し…」
 『カプラ』の言 葉が不自然 に途切れた。
 「…どうしました?」
 「相談役…?!」
 無代とD1が慌てて『カプラ』の様子を伺うが、少年の姿の『小さ な魔』 は呆然と立ち尽くしたまま、
 「…遅かッた…社長達ガ…予定を早めタらしい…!」
 「!」
 「…各地の…カプラ嬢達が一斉に 『BOT』ニ…しすてむガ乗っ取ラれまス…急いで転送ヲ…ウンバラへ…!」
 ウンバラは、ニブルヘイムへの入り口となる街である。死の街である ニ ブルヘイムには、空間転送で直接訪れる事はできないのだ。
 「…相談役は?!」
 「だメだ。…ぼクは…ボくの意志モ奪わレ…る…」
  「相談役!」
 少年の目からは光が、顔からは表情が消えて行く。
 駆け寄ろうとするD1と無代。が、その動きが『声』によって止まった。

  「…『無代』…『D1姉さん』…」

 名を呼ばれて はっ、とD1が、無代が振り向く。
 「D4!」
 「…モーラ…?」
  そこに『D4』、モーラが立っていた。
 姿勢よく着こなしたカプラの制服。『ディフォルテー』の青いヘアピース。
 そして無代 の、一夜限 りの恋人。
 「無事だったのね!? 外は?! 他のカプラ達は?!」
 D1ことガラドリエル・ダンフォールが、後輩の姿に声を荒げる。
  「どうなのD4! D2、D3は?1 G1姉さんは?」
 「…大丈夫です、D1姉さん。すぐに皆の所へ案内しますから…」
 「皆の 所…?」
 違和感。だが、真実を悟るのは無代の方が早かった。
 「…違う!」
 無代は叫んでいた。
 『D4・モー ラ』。 その声を、その瞳を、その肌を、誰よりも近くで感じたのはまだ一昨日の夜の話だ。その温もりを、一つのベッドで共有したのは。
 「それは…モー ラ じゃない! 『モーラだけどモーラじゃない』! 気をつけろD1!」
 「え?」
 D1が思わず、モーラと無代を見比べる。
 無代 の厳しい表情に対し、モーラは無表情と言ってもいい。
 「…D1…そレは…」
 『カプラ』が、最後の力で言葉を絞り出す。

  「…それガ、『BOT』ダ…D4はもウ、D4じゃナい…」

 「…転送しま す。D1姉さん、無代…」
 何も聞こえていないように、 『モーラ』が宣言した。
 「待て!」
 無代が『モーラ』に飛びかかる。しかし『モーラ』のスカートが翻る方が早い。
 美しい曲線 を描いて高々と上がった蹴り脚が、モーラのしなやかな身体と一緒に斜めに、これも美しい弧を描いて振り下ろされる。
 『トルリョチャ ギ』。いわゆ る回転蹴りだ。モーラは『拳聖』である。それもDナンバーを持つ超一級のカプラ嬢。
 『無代ごとき』が避けられるものではない。
 び んっ!
 重さよりもキレ味を重視した、ハンマーというよりは鋼のムチのような一撃が、無代の首筋を撃ち抜く。
 「が…っ!」
 無 代の首がかくん、と揺さぶられた。頭蓋骨の中の脳が一瞬でシェイクされ、平衡感覚を奪われてそのまま床を這う。意識まで刈られなかっただけ、無代の打たれ 強さを褒めるべき場面だった。
 「D4!?」
 D1が反射的に腰の剣を引き抜く。パラディンの使う、強力な片手剣 だ。が、構えられたその 剣先には力がない。
 例えばあの一条静のような使い手ならば、相手の構えを一目見ただけで、あるいはその剣先を一目見ただけで、その人間の意 志を 悟る事ができるという。
 もし、あの比類なき使い手である姫君が、今のD1のそれを見たならば、そこにはただ『困惑と迷いしかない』と即座に断ず るだろう。
 D1ほどの強者でも、そんな剣では脅威たりえない。
 『モーラ』のスカートが再び翻る。剣を握った拳を撃ち抜かれ、D1の手 からあっさりと剣が飛んだ。
 「っ…! D4! どうしたの?! 正気に戻って!」
 「だ…めだ…っ!」
 剣を失いながら も 『モーラ』に必死で訴えるD4に、床を這ったままの無代が苦しい声をかける。
 「そ…いつは…もうモーラじゃ…ない!」
 そうだ。
  違うのだ。
 無代は誰よりも、それが分かる。いや、分かってしまう。
 モーラの、あの生命力に溢れた肢体。生まれ持った輝くような才能 を、厳しい下積みで磨きに磨いた実力、それに裏打ちされた自信。
 そこから滲み出す優しさ。
 見据えた明日。
 希望。
  無代が、自らの失意の日々の中で惹かれ、魅せられた『モーラ』の美しい『あり方』。
 だが今、彼らの目の前にいる『それ』には、全てが無かった。
  奪われたのだ。
 魂ごと。その美しい魂ごと。何者かに根こそぎ奪われてしまったのだ。
 『BOT』。
 蹴りの一撃で惨 めに床を這 いながら、無代は痛みと同時に吐き気にも耐えねばならなかった。蹴られ、脳を揺らされたからではない。
 心を撃たれたのだ。
 無代自身が 暗闇の中で惹かれたものを、魅せられたものを、目の前で無惨に奪われた。愛しいものを、その形だけ残して破壊された。
 こんな残酷な奪 われ方はな かった。
 「そんな…そんな…!」
 D1もまた、ようやくその事を悟っていた。そして無代と同じ衝撃で、心のどこかを破壊され た。
  『ディフォルテー』の先輩として優しく、時に厳しく接して来た後輩だ。いずれは『D1』を継ぐ者になるかも、という予感もあった。
 モーラもま た、その気概と希望を隠しもせず、日々を精一杯生きていた。
 (妹のように…思っていた…!)
 だからこそ、『無代』などというチンピラ 冒険者に口説かれ、一夜で捨てられたと聞いて激昂したのだ。モーラが泣いて止めるのも聞かず、カプラガードに殴り込んで無代をとっちめたのだ。
  それが奪われた。こんなにも残酷な形で。
 そして『相談役』の言葉が本当であれば、カプラ社は今まさにこの『BOT』によって侵略さ れようとして いる。
 幼い頃から憧れ、努力し、手に入れた『カプラ嬢』の制服。カプラ嬢の頂点たる『D1』の称号。
 それに付随す る、『カプラ嬢を守 る』という責任と、それを果さんとする気概。
 (…私は…!)
 『モーラ』のスカートが立て続けに翻り、空気に焦げ目を残しそうな 鋭い蹴 りがD1を襲う。
 よろよろと避けるのがやっとだ。
 一度だけ防御した腕は、恐らく青アザになっている。早く治療しないと数分後には見事 に腫れ上がり、動かなくなるだろう。
 (…私は…何も守れない…)
 腕が上がらない。脚が動かない。
 カプラ社と、 カプラ嬢の誇 りを守るためなら、魔王とでも一騎打ちしてみせると思っていた。
 だが、魂を奪われた後輩の、『カプラ嬢の形』をした『モノ』を前に、D1の心は 激しく動揺せざるを得なかった。
 (…守れ…なかった…)
 すとんっ!
 D1の防御をや すやすとすり抜けた『モーラ』の足刀が、 槍の鋭さを持ってD1の腹部を抉る。
 「かは…っ!」
 D1の身体が、『く』の字に折れた。心と一緒に。
 「…」
 す う、と、息一つ切らさずに、モーラが構えを解く。いや実際、無代はもちろん今のD1が相手なら、制圧するのに息を荒げる必要など全くなかった。
  「制圧しました、アイダ専務」
 『モーラ』は何の感情も無く、モーラの顔で、モーラの声で、宣言した。
 「ご苦労、 D4」
 どこ からか、カプラ社専務『ヒルメス・アイダ』の声が響いた。カプラ社の音声伝達技術『積木霊』だろう。
 「まあそういうことだ、D1」
 い ちいち説明なんかする必要もない、というバカにしたような響き。
 「キミの仲間達には、すぐに会わせてあげよう。何、心配はいらん。数日後には全 員、私の忠実な人形となってもらう。…D4と同じようにね」
 「…!」
 D1が、きっ、と顔を上げるが、その視線を向ける相手はそこには いない。
 「…専務っ!」
 「…転送します」
 D1の威嚇の声も届かないまま、モーラが静かに告げた。
 無代とD1の 身 体が、転送の光に包まれる。



 「無代さん。キミ、ブラックスミスなら、コレ持ってって頂 戴」
 『飛び降り』の準 備を終えた無代の前にどすん、と大振りの斧が差し出された。ゴツい刃を下にして地面に置き、それを支点に柄の方をほい、と放られる。
 「…これ は…W1(ダブルワン)?」
 「知らない? これが『呪砕き(ドゥームスレイヤー)』よ」
 放られた柄を握った無代に、得意げに教えるの はW1。カプラ『W(ダブル)』のトップを張るカプラ嬢だ。
 『W』は金髪のツインテール。『カプラ嬢の末っ子』という設定の、最も少女っぽい外 見。
 『W1』、本名『カヤ・ウィンゼル』。
 彼女はその『Wの役』を、実に20年に渡って務める現役最年長のカプラ嬢である。それも、 ヘアビースなどの仮装を一切使わない『地』で。
 実生活では既に結婚して子どももいるのだが、外見といい声といい、20年間全く変わらぬ 『少女っ ぷり』ときたら、『カプラ嬢七不思議』の一つに数えられるほどだ。
 「…こんな凄いものを…」
 「マトモな武器はみんな取り上げられ ちゃったけどね。これは『マトモじゃない』って思われたみたい」
 がはははは! 笑い声が場違いに豪快だ。見かけも声も『金髪ロリータ』なだけ に、この違和感は凄まじい。
 ちなみに『マトモじゃない』とは、この『ドゥームスレイヤー』という武器の特性による。非常に大きな威力があるが、 持ち主が相当の腕力を持っていないと使えず、さらには持ち主の気力体力を大幅に消耗するという呪いまでかかっている。『実戦には役に立たない武器』、いわ ゆる『ネタ武器』のレッテルは仕方ないところだ。
 「ココに放り出されてから、この避難壕掘ったり色々役に立ったけど、もうココじゃ用済みで しょ。持ってって頂戴」
 「…しかし、貴女の武器が…」
 「大丈夫、作るから!」
 にこ、と微笑む。
 このW1は腕の い いホワイトスミスであり、カプラ嬢達の使う武器の多くは彼女が自ら制作した物、という事実は有名だ。
 「キミが肉まん作るの見てね。負けちゃいら れないと思ったの。キミと同じく、鍛冶道具はいつも持ってて取り上げられずに済んだし、材料も皆の荷物をかき集めれば何とかなる。炉はその辺の岩削って自 作する!」
 ぐっ、と親指を立てた拳を突き出し、もう片方の手は腰。
 自分よりだいぶ歳上と知っていても、その反則的に可愛い仕草に無代 も思わず頬をゆるめる。
 「…無代さん、落下場所が決まった」
 G1が声をかけてきた。
 彼女は先ほどからずっと岩塊の端っこに 寝そべって、遥か真下の地上を覗き込んでいる。スナイパーの持つ異常な視力と、風を読む能力(それは弓使いに不可欠な能力だ)で、落下地点と落下のコース を選定しているのだ。防御の呪文があるとはいえ、落ちる場所はできるだけ穏やかな場所がふさわしい。もし落下の途中で何か障害物に当ったりすれば、それだ けで防御呪文が消えてしまうことも予想される。
 「…見えるかい、あの湖。あそこがいいだろう。風は北東に吹いてるから、もう少し待てばこ の岩が あの上に流されるはずだ」
 G1が淡々と説明する。無論、この高さから落ちれば、激突する先が地面だろうが水面だろうが大した違いはない。防御呪 文がなければ即死、という結果があるだけだ。
 が、わずかでも生存の可能性が高くなる落下地点としてG1が選んだ落下地点が、そのジュ ノー近くに ある名もない湖だった。
 「すぐ側に高い岩山があるのが気になるけど…」
 「了解ですG1。見事、ホールインワンで落っこちてみせます よ」
 無代が軽口で応じる。それが強がりに過ぎないと分かっていても、G1、W1を始め、集まったカプラ嬢達の間に笑いが漏れる。
 その 笑いの輪が、一つの言葉で途切れた。
 「…待って、無代」
 無代を囲んだカプラ嬢達の人垣が割れる。
 そこから姿を 現したのは D1。だが、先ほどまでとは様子が違った。
 奇麗に結い直したらしい真紅の髪はほつれ一つなく、背筋がぴんと伸び、足取りも力強い。そ して何よ り、彼女の象徴とも言うべき強い瞳の光が、奇跡のように復活していた。
 つかつか、と歩いて来たD1が、G1、W1らに囲まれた無代の前で止ま る。そして何を思ったか、カプラの制服の裾を両手で掴むと、
 「…っ!」
 がばっ、と真上に脱ぎ捨てた。
 「ちょ…っ!」
  「な…!」
 無代はもちろん、何事かと見守っていたG1らカプラ嬢たちが仰天する。気でも狂ったのか、と思った者さえいた。
 制服を脱い だD1の身体に残ったのは、色気の欠片もない機能的な下着だけだ。だが、その下の肉体は見事にシェイプアップされ、戦士としての機能と女性としての魅力を 鮮やかに両立している。
 「…G1姉さん、これを」
 D1が静かに、だが決然と、脱いだ制服をG1に差し出した。もう片方の手で、頭を飾 るカプラのヘアバンドも外し、共に差し出す。『D1』はカプラ嬢の最高峰を示すナンバーだが、G1のように歳上のカプラ嬢に対しては、後輩としての礼を尽 くすのがしきたりである。
 「…どういうつもり? D1?」
 差し出されたG1は、もちろんすぐには受け取らず、眉間に軽く皺を寄せて聞 き返す。
 「…私は、これを着ける資格がありません」
 先輩カプラ嬢を前に、D1が決然と宣言した。
 「カプラの最高 峰たる 『D1』を名乗る資格はおろか、この制服を着る資格も、ヘアバンドを着ける資格もない」
 「…」
 G1は黙って後輩の言葉を聞いている。 それは、周囲を囲んだカプラ嬢達も同じだ。
 この岩塊に幽閉されてからすっかり意気消沈したD1の姿に、少なからず失望した者も多い。 そんな彼女 らにとっても、これは久しぶりに見る『強いD1』の姿だった。
 「…私は、自分が誇りを持って行使してきた『カプラの力』に、あんな背景があった なんて知らなかった。そして…初めて『怖い』と思った」
 D1の、飾り気の無い告白。それがカプラ嬢達の間に広がっていく。
 「正直、私 はこれからも今まで通り『カプラ嬢』でいられる自信がない。昨日までの私、『D1』はもう砕け散ってしまった」
 自分自身の、弱 さの告白。だがそ の言葉は決して弱いものではない。
 「私は何も守れなかった。殺された後輩達も、会社も、相談役も、D4も、私自身の誇りも、 何一つ守れなかっ た。ここへ来てからの、私の情けない姿を皆がどんな目で見ていたか、それも知っていて、それでも立ち上がる事をしなかった。…もう『カプラの守護者』たる 資格はない。だから、制服とヘアバンドを外した」
 「…だから? だからどうするというの、D1?」
 G1が厳しい顔 で、眼鏡を直しなが ら問いかける。この眼鏡は当然、伊達眼鏡だ。王国でも指折りのスナイパーである彼女に、眼鏡など無用の長物である。一切度の入っていないその眼鏡越しに、 後輩を見つめる鋭い視線。それはカプラ嬢としてではなく『カプラの教官』たるグラリスの顔だ。
 「…だから…」
 D1はその視線 を真っ直 ぐに受け止める。
 「…だから『取り返しに』行きます!」
 「『取り返す』?」
 「はい。…砕け 散った『私の欠片』を拾い集めて もう一度…もう一度『私は私になる』。その時、私がまたカプラ嬢でいられるかどうかはわからないけれど…。それでも、ここで黙って『私が私でなくなる』よ りはいい」
 ぐっ、とD1が無代に向き直る。
 「私も飛ぶ。連れて行ってくれ、無代」
 「!」
 D1の言葉に、 G1を始 めとするカプラ嬢の間に、悲鳴に似た驚愕が広がった。だがD1の態度に一切の揺らぎは無い。
 まっすぐに無代を見つめる。
 「無代。私は さっき、お前の事を『嘘つき』と言った」
 「…? ああ」
 「お前が言った『大事な人々との約束』、『成り上がるチャンス』、 どちらも本 当だろう。…だがもう一つ、理由があるはずだ」
 D1が人差し指でびしっ、と無代の鼻面を指差して、言った。
 「…お前は、 モーラを助け るつもりなんだ。違うか?」 
 「…」
 無代は応えなかった。
 いや『応えられない』と言った方が正しいだろう。
 そも そも、BOTにされてしまったモーラを助ける事ができるのか、それが無代には分からない。もし方法があるとしても、その方法など見当もつかない。
  だが、諦めるつもりはなかった。モーラを助けられるなら、その方法があるなら。
 そしてそれが自分に出来る事ならば。
 無代はどんなこ と でもするつもりだった。
 「…お前は嘘つきだ。無代」
 D1が繰り返した。
 「だが、信じるに足る男だと思う。私を連れて行って くれ。きっと役に立つ」


 D1の『落下宣言』は、ちょっとした騒動を引き起こした。
 しかし、とにかく時間が無かった。 ぐずぐずしていれば、風で移動する岩塊が落下地点の湖を通り過ぎてしまう。
 D1は結局、引き止めようとするカプラの先輩後輩の意見を振り切 り、 無代と共に飛ぶことになった。
 G1の指示で直ちに、余った装備がD1の身体を固める。高価な防具などは望むべくもない。 普段使いの、防具とも言 えないような装備品ばかり。それでも武具一式を身につけると、さすがD1を名乗るだけの風格はある。
 「行こう」
 準備ができると 同時 に、ためらいなく無代を促す果断さもまた、その復活ぶりを感じさせる。
 「…よし」
 無代も即応。こちらも完全武装だが、D1に比べると どうも武装がしっくりこないのは致し方ない。W1から託された『呪砕き』は背中に、刃を下にして背負っている。そのため柄が上に、肩から突き出して見える のが奇妙な感じを受けるのだが…。
 『コイツは振り回すんじゃない。『腰で捌く』のよ』
 短い時間なが ら、W1が教えてくれた『呪砕き』 の運用法。
 長い柄を腰の後ろに回し、刃と柄をそれぞれ腰の両脇でホールドしておいて、思い切った踏み込みと腰の回転でもって、敵に重い一撃を打 ち込む。
 『ベッドん中で女を泣かせる時の、あの腰使いよ。しっかり頑張ってね!』
 がっはっは、と笑う『金髪ロリータ』に、無代 も苦笑 するしかなかった。
 「…よし、魔法だ!」
 『カプラの教官』たるG1の指示が飛ぶと、ハイプリーストのカプラ嬢から防御の魔法が無代 と D1に贈られる。
 そして『魂』を交換し、薄青い光に包まれたソウルリンカーから『カイゼル』、『カアヒ』。
 そして『カウ プ』の術が贈 られた。
 一度だけ、どんなダメージも無効化する術。それが無代とD1の命綱だ。
 「…多くは言わない。また会おう、無代さ ん。…D1」
  G1が短く別れを言う。
 無代とD1はもう言葉は使わず、微かな頷きでそれに応えた。
 岩塊の端、そのさらに端へと二人が進む。もう 振り 向く事もなかった。
 飛ぶのだ。
 その場に居合わせた全員が、その感慨を熱く胸に抱いた。
 (…?!)
 その命がけの 飛 翔の直前、集中と緊張でギリギリまで研ぎすまされたD1の直感が、背後で何かの異変を捉えた。
 思わず振り向く。
 考えるよりも先 に身体 が反応するのは、彼女の武人としての鍛錬ぶりを示していた。そして鍛え抜かれたその『目』が、背後で見守るカプラ嬢達の人垣を一瞬で認識し、そして異変の 中心を瞬時に捉える。
 銃口。
 カプラの制服が並ぶ人垣の、わずかな隙間。
 そこから覗く凶 器の牙。
 それが狙うの は…。
 「無代っ!」
 やはり、考えるよりも身体が先に動いた。自分の隣で、今にも宙へ足を踏み出そうとしている無代を、身体で庇う。
  ぎぃいん!!!
 凶器の銃口が火を噴いた。吐き出されたのは単なる銃弾ではない。スキル攻撃。人間の1人ぐらい、一撃で微塵に砕く威力を 持つ。
  ぱきぃん!!
 凄まじいダメージがD1を直撃した。だが、D1は無傷だ。さっき贈られたばかりの『カウプ』の術が、そのたった一度の効果を発揮し たのだ。
 だが、肉体への直接のダメージは防げても、その凄まじい破壊力の余波までは消しきれない。D1、そして庇われた無代をも巻き込み、二人 の身体が数メートルも吹き飛ばされる。
 その先は、『空』。
 「…!」
 宙に放り出されながら、それでもD1の目は 脅威から視線 を離さない。凄まじい集中力の中で、一瞬一瞬がスローモーションのように間延びして見える。
 火を噴いた銃口を中心に、カプラ嬢の人垣が左 右に割 れる。
 G1が、その伊達眼鏡を宙に飛ばす勢いで銃口に殺到し、脚をムチのように使ってこれを宙に蹴り上げた。
 W1が、その小 柄ながら パワーに溢れた身体を投げ出し、銃の射手をタックルで引き倒す。
 凶弾の射手。
 それもまたカプラ嬢だった。
 『T4(ティー フォー)』。カプラ『テーリング』のNO4。職業は銃を操る『ガンスリンガー』。
 この岩塊に来てから一度も、誰とも口をきかず、岩の上でうずく まるだけだった。無代の肉まんも受け取らず、言葉も交わしていない。
 そこにいる全員が、この岩塊に来てからT4の顔を見たのさえ、ひょっとした ら初めてかもしれなかった。
 感情の無い表情。
 何の光も宿さない瞳。
 (…『BOT』…!)
 D1の心を、再 びあの痛 みが掻きむしる。
 まただ。
 また守れなかった。
 モーラに続いて、ここにも犠牲者がいた。
 『空の牢獄』 からの脱出を 阻むように、あらかじめプログラムされ、武器を持たされて送り込まれていたのだろう。鉄格子のない牢獄の、見えない看守。
 (…畜 生…っ!)
  自分が、『D1』たる自分がその義務を果たしていたなら。ここに幽閉された全員と、無理矢理でも語り合ってその心根を確かめ、皆の気持ちをもっと早く一つ にまとめあげていたなら。その中にBOTが紛れ込んでいるなど即座に見抜いていたはずだった。
 だがその後悔は遅い。
 「…D1っ!」
  無代が叫ぶ。
 彼には、何が起きたのかを全て把握する能力はない。だが、把握すべき大切な事はちゃんと把握している。
 だから叫んだ。
  D1にはもう『命綱』がない。
 『たった一度だけ、あらゆるダメージを無効化する』、その『カウプ』の効果。
 それが、あの 一発の凶弾で 消えてしまった。残っているのはわずかな防御呪文だけ。
 D1の目には、岩塊に残ったソウルリンカーが必死に岩の端まで駆け寄り、カウプを贈り直 そうとするのが見えている。
 だが、遅い。
 ご………お………
 重力が、D1と無代を捕らえた。
 一瞬が何時間に も感じ られた、集中力のスローモーションが終わる。
 ごぉぉぉおおおお……!!!
 無代とD1の全身に、叩き付けられたような衝 撃が襲う。
  地上まで2000メートル。
 落下が始まった。
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