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第八話「Free Fall」(4)
  「…あっちゃん遅い!」
 静がそのしなやかな足で、石畳をかーんと踏 みならした。
 プロンテラ下町。晴天。
 雪のルティエでの一夜が明けた、その昼下がりである。
 『カプラ嬢(実 際には、彼女は『BOT』であったのだが)殺し』の集団を相手にとった、あの激しい戦いを終えた静、フール、速水厚志の三人がプロンテラの宿屋にたどりつ いたのは、もう明け方だった。
 しかも全員ずぶ濡れ。
 プロンテラの中央噴水に飛び込んで来たからだ。一夜をかけて 斬りまくった敵からの返り血で、血まみれなのを隠すために。
 顎の先から水滴を垂らしながら宿に入ると、早起きしてきた宿の女将とばったり出くわし た。が、さすがというか女将は騒ぎもしない。
 直ちに風呂が用意され、静が放り込まれる。
 一方、男二人は 裏の井戸端。それでもたっぷりの湯は用意された。
 身体を清め、武具を洗う。
 朝食をかき込む。
 そして眠る。
 三人が三人と も、さすがに限界だった。特に静は風呂の途中と食事中に二度ずつ、こっくりと居眠りをして女将に叩き起こされている。
 眠る前に若干の モメ事はあった。
 『ここで寝る! プルーフと一緒に!』
 フールのペコペコである『プルーフ』をいたく気に入ったらしい静 が、鳥小屋に居座ってしまったのだ。プルーフの背中にべちゃーっと張り付いたまま、気持ち良さそうにゴロゴロしている。
 女将がなだめす かしても頑として譲らないので、最後は女将もあきらめて、ため息まじりに毛布を持って来た。
 プルーフの大きな背中をベッドに、静が上機嫌 で毛布に潜り込む。
 当のプルーフは無関心。プルーフの持ち主であるフールも無関心。
 なぜか速水だけは、どういうつもりか頭にわさ わさと『ペコペコの羽』を飾って、静の視界をうろうろ。…だが残念ながら、寝ぼけ眼の静の眼中には入らず。それどころか、
 「…」
 心なしかプ ルーフにまで、呆れた目で見られてしまった。
 「…くっ!」
 どこまで本気なのか、速水がきっ、とプルーフとにらみ合うと、つか つかと鳥小屋を出て行ってしまう。
 「…速水クン。明日、お昼に宿の前で待ち合わせ」
 後ろから声をか けたフールをちらっと振り向いただけで、速水の姿は消えた。
 「…ペコペコに張り合ってどうすんのさ…涙目だったし…」
 さすがのフール が呟いたものだった。
 静は結局、昼前まで鳥小屋で熟睡。そして起きるなり、女将が用意した新しい剣士服を着、朝食兼昼食をたらふく食べ、約束 の少し前にはフールと共に宿屋の前に出たのだが…。
 「…あっちゃんが来ないっ!」
 静がまた足を踏み鳴らした。
 伸びやかな長 身の剣士姿は、下町を行き交う通行人の視線を自然と集めてしまう。昨夜の疲れや傷は奇麗に消失し、それどころか滑らかな白磁の肌や黒曜石の髪、瞳の輝きは さらに増したようだ。その精緻とさえ言える身体の色艶は天津人特有のもので、この国の人間にはない磁力にも似た魅力を放つ。そういう事には興味のなさそう なフールでさえ時折、静の姿に視線を奪われる瞬間があるほどだった。
 当の静はその視線をどう思っているのか(彼女ほどの達人が、それに気づいていないはずは なかった)、視線を返すこともせず、ただ眉を寄せて不機嫌そう。だが一方で、石畳に座ったペコペコのプルーフを撫でたり、寄りかかったりしながら結構呑気 に時間を過ごす。
 しかし、昼をかなり過ぎても、速水は戻って来なかった。
 「…来ない…!」
 「…事情がある のかも。バックがあるんでしょ? 速水クン」
 フールが、これは落ち着いた調子で応える。
 「…うん…」
 静も、そのこ とは分かっていた。
 速水厚志は『天津・芝村家』の人間である。
 芝村家は天津の天皇に仕える貴族であり、ルーンミッドガッツ王国と 天津との貿易を一手に握る大物だ。その権勢は、特に経済力のみを見た場合、静の実家である天津・瑞波国の守護大名『一条家』すら遥かに凌ぐ。
 だが、ここ ルーンミッドガッツ国内での芝村の立場は微妙な物があり、はっきり言って安定しているとは言い難い。天津人が王国内で起こすもめ事は全て芝村の責任に、と いう空気さえあるのが実情だ。
 だからこそ、天津ではちょっとした有名人である『一条家の末姫』が、事もあろうに単身プロ ンテラに家出して来たとなれば…その『お転婆姫』の動向に神経を尖らせるのは当然である。速水は静の、いわば『お目付役』として派遣された事は明らかだっ た。
 だというのに、『瑞波のお転婆姫と一緒になって、王国の秘密部隊らしい軍隊とガチでやり合った挙げ句、見事に潰走させました』などと報告した ら…。
 「…やっぱ怒られてるかな…あっちゃん…」
 静の表情が曇る。
 芝村家の事は静といえども噂しか知らないが、絶対君主である 当主・芝村巌の下、非常に厳しい家内統制が布かれていると聞く。その辺は、どちらかと言えば身内の情に厚い一条家とは正反対だった。
 「…といって も、余り遅くなるワケにもいかない。残念だけど、速水クンは置いて行こう」
 「…うん…」
 フールの冷静な提案に、静も気乗りしない様子 ながらうなずいた。宿の女将に伝言を頼み、荷物を背負い直す。といっても静の場合は銀狼丸と盾、それにいつもの腰のポシェット(また『飛爪』を補充してあ る)だけだが。
 「行こ」
 フールがプルーフを立たせて騎乗し、静に手を差し伸べる。
 「…後ろだよ」
 昨夜、静には 『鞍の前に姫乗り』されたのだが、今回は先にクギを刺す。
 「ちぇ」
 舌打ちしながらも苦笑いで、静は大人しくフールの後ろに横座り。
 ところで、絵 画などではよく描かれる『女性の横座り』だが、実はあまり安定した乗り方ではない。ましてプルーフのような『軍馬(?)』としての調教を受けたペコペコ は、乗っている人間の快適性など二の次だ。だが、静はその引き締まった腰をひょいと鞍に載せ、片手を軽くフールの腰に回しただけで、苦もなくバランスを取 る。下町の辻を抜け、南向きの大通りに出たプルーフがぐんとスピードを上げても、静のバランスは微塵も乱れない。露店街を抜け、一気に南の大門をくぐり抜 けてフィールドに出ると、プルーフの速度はさらに上がる。静が身に着けた、飾り気はないが丈夫な革のスカートや、ヘルムの下の黒髪が激しく風になびく。
 それでも静 は、まるで流れる雲にでも座ってるような風情で、緑豊かなフィールドの風の匂いを楽しみながら上機嫌である。
 フールは時折、 プルーフの足を止めて周囲を確認する。尾行を気にしているようだった。が、その度に、
 「…大丈夫。誰も付けて来てないよ」
 静の方が先に、 気楽な調子で応えた。この姫様の人間離れした感覚については、フールも身に染みにて知っている。
 「…ん」
 余計な時間をか けることなく、また走り始める。
 そして駆ける事しばし。風に混じる海の香りが『重さ』を伴うほどに濃くなった頃、王国の軍 港都市イズルードの街に入った。
 海に突き出した突堤の先から飛行船に乗る。王国の辺境区域と、隣国ジュノーを結ぶコースを 周回する飛行船は、浮力ガスの詰まった船体に木製の居住区、そして巨大なプロペラを持つ乗り物だ。無論、あの異世界の超技術によって建造された『ヤスイチ 号』に比べれば、多分に牧歌的な構造しか持たない。が、それでもこの世界の空を自在に行き来する乗り物として、非常に重宝されている。
 「…どこまで 行くの?」
 「ラヘル」
 静の質問に、フールが短く応える。
 ラヘルは大陸の東の端に近い、岩山と砂漠ばか りの辺境地帯である。『砂漠』と言っても、緯度の関係でかなり寒い地域もあり、また大陸最大の火山である『トール火山』にも近い。いずれにしても人が住む には過酷な、いやモンスター達にとってさえ住みやすいとは言えない、生命には優しくない地域である。
 着陸した空港さえ、荒野のど真ん中。乗客はこ こから、ぞろぞろと歩いてラヘルの街まで行くしかない。
 だが、フールはあえてその行列には混ざらず、空港で粗末な茶を2つ買って一つを静に渡し、 乗客達が去って行くまで一服。
 そして乗客の姿がほとんど見えなくなった頃、
 「…行こう」
 茶の器を露店 に返すと再びプルーフにまたがり、静を乗せ(無論後ろだ)、荒野を走り出した。
 道はない。それどころか、まともな目印さえない荒野。だが、フール とプルーフの走りに迷いはない。山の形や太陽の位置を使って方角を見定めるのは、荒野を行く冒険者に必須の能力だが、フールもまたその技術を身につけてい るらしい。
 (…北…)
 鞍の後ろで揺られる静は、冒険者アカデミーの課題で『ラヘルの街』そのものは訪れた事があ るが、この荒野に来るのは初めてである。だが、ある程度の方向感覚はぐらいは働かせられる。
 (このままずっと北に行けば…『氷の洞窟』が あるはず…)
 駆け出した冒険者としての地理知識を総動員して考える。
 『氷の洞窟』。
 大陸北方の入り口にあるその洞窟状ダンジョ ンは、内部が遥か高山地帯へと通じる風穴になっており、常に低温の空気がが充満した天然の冷蔵庫である。そして、世界でもそこにしか生息しない特殊な低温 型モンスターが数多く巣食っているはずだ。
 しかし、プルーフを操るフールは途中でそのルートを外れる。危険な食人植物、凶暴なネコに 似たモンスターを避けつつ、ほとんど人は通わないであろう山肌へとプルーフの嘴を向ける。
 その事には特に質問しなかったが…。
 「…フール、 気づいてる?」
 「え?」
 背中から投げられた静の緊張した声に、フールがプルーフの手綱を引く。さすがに異常を感じ たらしい。
 「…何か感じる?」
 「わからない? …血の匂い」
 「!」
 フールがぎょっ として辺りを見回す。
 「…ボクには感じないけど…」
 「まだかなり遠い。けど間違いない。風に乗って血の匂いがする。…人の血よ。それにあっ ち」
 静が、数百メートルも離れた荒れ地の向こうを指差した。
 「足跡。まだ新しい。…かなりの数」
 「…!」
 フールが大急ぎ でプルーフの手綱を返し、静の指差す方向へ走らせた。彼にはまだ何も見えないが、静が言うからにはそれは『ある』はずだ。
 「あそこ、ほ ら!」
 静が叫ぶと、まだ走っているプルーフの背から飛び降りる。
 石だらけの地面にびたっ、と頬をこすりつけるようなポーズで、その 鋭い視線を走らせる。ついで、その耳を地面に張り付けて音を聴こうとする。昨日、プロンテラの石畳で同じ事をし、足音から異常を感知してみせた静だ。だ が、いわゆる『岩砂漠』のため地面が石だらけで、うまく耳が付けられない。
 立ち上がった静が、そのブーツの先でがしがしと石を蹴飛ばすが、耳 をぴったりと付けられるような平らな土などそうそう出て来ない。
 「…!」
 静はむっとした様子で腰の銀狼丸をすらり、と抜いた。そのまま逆手 に持ち替え、両手で頭の上まで振り上げる。
 「…ふっ!」
 すと、と銀狼丸が地面に突き刺さった。子どもの頭ほどもある岩を豆 腐のように貫き、あるいは避け、その刀身の半ばまで埋まる。
 ご承知の通り、この銀狼丸という刀は決して名刀ではない。瑞波の先代の殿様・一条銀(い ちじょう しろがね)が、その短い生涯で鍛えたただ一振りの刀、という由緒はともかく、刃物としての出来は決して良くはない。店売りのツルギの方がまだまし、かもし れない。それが、こうも見事に地面に刺さったのはひとえに、使い手である一条静の非凡さによるものだ。
 『刃観』とでも言うのだろうか。刃物をどの ように使えば、その威力を最大にできるのか。そういうことが訓練によらず、生まれついての勘でわかってしまう。
 地面から垂直 に、見事に突き立った銀狼丸の側に、静が片膝を付いて身をかがめる。そして、その刀身にそっと耳を当てた。
 平らな地面がな いなら、地面に突き刺した刀を『集音器』代わりに使う、というこの発想。
 「…足跡から見てペコペコが200、徒歩が800、合わせて千、通 過は2時間以内。…今は足音は聞こえないけど、時間から考えて遠くへ去ったんじゃなくて、今は『止まってる』んだと思う。あるいはワープポータルで移動し たか…全滅したか。とにかく近辺でこの人数が移動してる音はしない」
 まるで『レーダー』、いやそれ以上と言えた。そもそも、こんな岩だらけの砂漠で『足跡』 なんか見分けられるものではない。熟練のチェイサーでも難しいだろう。
 静がす、立ち上がると地面に刺さった銀狼丸を抜き、懐から取り出した懐紙で丁寧に拭って 刃こぼれを確かめ、鞘に納める。
 「…どしたのフール? 早く行こ?」
 「…ヤバい事になってるかもしれない。キミは 引き返した方が…」
 「やだ」
 フールの申し出を言下に否定すると、フールより先にさっさとプルーフに乗る。
 「…わかっ た。でも危なかったらすぐ逃げて」
 「はいはい」
 無駄を絵に描いたような返事。
 フールは苦い顔 だが、ぐずぐずしている場面でもない。諦めたように騎乗すると、再びプルーフを走らせる。平らな岩砂漠から、山肌の斜面に入るとさらに岩だらけのひどい地 面になる。が、岩場だろうが何だろうか、ペコペコの走りを阻害する環境などそうそう存在しない。そういう意味では馬など問題にならないほど便利な騎乗生物 だ。
 「…血の匂いが濃くなってきた」
 静がフールに伝える。
 「…」
 フールは応えないが、その手綱捌きから見ても 急いでいるのは明白だった。
 そして。
 「…あそこ…!」
 静が指差す先に、『血の匂い』の元があった。
 男が一人、死 んでいる。
 岩だらけの山肌にわずかに生えた樹木の、とっくに枯れ果てて白骨のようになったその幹に、槍で胸板を貫かれたまま『縫い止められて』い る。
 血はその胸から地面に滴っていた。
 「…『ハーミット』…!」
 フールが呻くように呟くと、プルーフを一気に 駆けさせてその死体の元へ駆けさせた。
 『隠者(ハーミット)』とフールが呼んだその男はスナイパーだった。無惨にへし折れた弓 が、吊られた死体の足元に打ち捨てられている。フールがその胸に刺さった槍を引き抜くと、支えを失った身体が地面に崩れ落ちた。
 すかさずフール が、死者蘇生の魔法を込めたイグドラシルの葉を使う。が、予想できたことだが蘇生しない。こんな風に心臓をまともに貫かれては、蘇生限界時間などわずか数 分だ。死体の状況からみて、その時間はとっくに過ぎていた。
 「…知り合いなの?」
 静が、死体に向って目を閉じるフールに訊ねた。
 「…兄弟、み たいなもの」
 その答えは、あの『BOT化』されたまま殺され、雪のルティエに葬られた『ビニット』に対するものと同じだった。
 「…静姫。詳 しい説明しているヒマは無いけど、やっぱりここから先は危険だ。キミは…」
 「…戦ったのね、この人。たった一人で…」
 フールの言葉を 無視して、静は周囲を見回しながら呟く。
 「…矢と、血の跡。少なくとも二十人以上『殺してる』。死体がないから、敵に蘇生され ちゃったんだろうけど…」
 「腕のいい弓手だった。ここの見張りが仕事で…食い止めようとしたんだ。…一人で」
 フールの言葉に も、知らず知らず無念が滲む。
 「ここはもう『戦場』よ、フール。ここで武士に『退け』って言う、その理由が『危ないか ら、怖いから』じゃ話にならないわ」
 「…キミって武士?」
 「そこ突っ込むトコ?」
 にっ、と笑って やり返す静に、フールはため息。
 「…わかった。でも退き時は誤らないで。蝶の羽で即、逃げるんだ」
 「はいはい」
 またしても無 駄。
 『ハーミット』を埋葬する時間もない。静は、ハーミットが頭に被ったままの帽子を取って、せめて顔に被せてやると、しばし手を合わせる。それ だけだった。
 騎乗したフールも、静も、もう後ろを見ない。
 岩山を駆けるプルーフの、強力な足の爪が岩を蹴る鋭い音だけが響く。ペコペコの爪には、 馬の蹄鉄と同じく鋼の金具を装着して強化するのが基本だ。
 「…また血の匂い」
 「『力(パワー)…魔術師(マジシャン)も…』」
 静が告げるの と、フールが二つの死体を視認するのが同時だ。
 岩場に放り出されるように、男のチャンピオンの死体が一つ、少し離れて女のウィザードの死 体が一つ。ウィザードが『魔術師』なら、チャンピオンが『力』だろう。
 「…兄弟?」
 「…近道するよ。振り落とされないで」
 静の質問にフー ルは答えず、代わりに短く警告するとプルーフの手綱を操り、巨岩だらけの斜面を一気に駆け上がる。横座りの静には辛い傾斜。フールの腰に回した片手に、も う片方の腕を回してしがみつく。
 がっ、ががっ! さしものプルーフの爪が、時折スリップするほどの難コースを、フールはし かし平然と登り切り、そして今度は下る。
 当然、下る方が難しい。技術はもちろん、乗り手にもペコペコにも落下の恐怖が襲うものだ。 だがフールとプルーフ、このコンビだけはその限りではない。そもそも彼らは恐怖を感じることがあるのか否か、それすら怪しむほど平然と、岩場を飛び抜ける ように下って行く。
 そして、人間の身長を遥かに超えるような巨岩が、いくつも折り重なるように積み上がった一角で、フールはプルーフの手綱 を引くと鞍を降りた。静も続く。
 岩と岩の隙間、ペコペコがやっと通れるほどの迷路のような天然の通路を抜けると、そこに 真っ黒な空間が口を開けていた。
 洞窟だ。
 フールが、その暗闇に向って声を投げる。
 「…博士…!  フールです! ご無事ですか!」
 「…フール…か」
 闇の奥から、応えがあった。年老いた、女性の声。
 「博士…!」
 フールがプ ルーフを座らせるや、マントを翻して洞窟の中へ駆け込もうとした。
 「…待って、フール」
 それを、静が言葉で止めた。
 「…その奥にい る人は誰…? その人は『生きてる』の? それとも『死んでる』の?」
 静の問いは奇妙なものだった。が、その表情は真剣だ。
 「…!」
 問われたフー ルの方がむしろ動揺した表情を見せ、言葉に詰まる。
 「…フール…。私から説明しよう」
 それに代わって、洞窟の奥から声が聞こえた。
 「今、そちら へ参ります。いささか身体を病んでおりますので、ご容赦下さい」
 漆黒の暗がりから、一人の女性がゆっくりと歩み出てくるのを、静は油断の無い目で見守 る。
 『教授』の服。色は黒。
 後ろへまとめた髪は真っ白で、顔にも老いの色が濃い。が、秀でた額と瞳の輝きは、知的で理 性的な人生を刻んで来た者に特有の、ある種の静けさをたたえている。
 「…一条…静姫様でいらっしゃいますね。…御身様がまだご幼少のおりに一度、御拝謁の栄 誉を賜ったことがございます。…お母上の『一条桜』様に、よく似ていらっしゃる…」
 「…?!」
 静の目に驚きの 色が浮かぶ。
 「大変申し遅れました。私はフランシア・センカル。そして…」
 深々と頭を下げる。
 「…元『ウロボ ロス2』、『BOT製造者(ボットメーカー)』と呼ばれた女でございます」
中の人 | 第八話「Free Fall」 | 02:14 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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