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第七話「Wings」(4)
  ちか。
 今まで真っ黒だった巨大なモニターが一瞬、瞬きのような光に 包まれ、船外の風景を映し出した。
 狭いドックの中は今、ちょっとした騒ぎの真っ最中だ。
 香を拘束するた めに船内に入った男達が、逆に何者かに制圧されて叩き出され、ヤスイチ号は内部からロックされてしまった。閉め出しを喰らったスタッフやレジスタンス達 が、何が起きたのかと騒いでいるのが見える。
 「ふん。いくら騒いだってヤスイチの中には入れるもんか。こっちが許可しない限り、ワープ ポータルだって遮断できるんだぜ」
 『香』がバカにしたようにつぶやく。

 「『ヤスイチ』! いつまで寝てるつもりだい? 早く起きてボクを見ろよ!」
 
 ぴん。
 『香』の言葉 に反応し、巨大なモニターの一部に黒く反転した一画が出現した。
 そこに『文字』が表示される。

 …Are you "Enishi" ?

  その『文字』を、ハナコは理解できない。が、『香』はそれを見て、満足げに微笑む。
 「そうだよヤスイチ。えらいぞ、ちゃんと『知っていた』ね」

 …How do you do? …And long time no see Enishi. …Where is "Kizuna" ?

 「…うん、『初 めましてひさしぶり』。…っておい、ここで『姉さん』かよ? どんだけ姉さん好きなんだよお前」
 苦笑しながら突っ込む『香』。まるで懐かしい 友人に出会ったような『ノリ』だ。
 「でもごめんな。姉さんは先日の無理がたたって、しばらく『こちら』に来られないんだ。だ からボクで我慢しておくれよ」

 …OK.…Order prease. Enishi.

 だが『香』は首を振る。
 「…それは駄目 だ。ボクは君に命令しに来たんじゃない。起こしに来ただけだ。…君が今、ここで決めるんだ。自分が何で、これからどうするのか」

 …I…I…What am I ? …Who am I ?

 「うん。君は何? 君は誰?」

 …I am… am I …your friend? Enishi?

 「…」
 一瞬、『香』が虚を突かれたようにぽかんとする。

 …Enishi?

 「…うん…うん…馬鹿野郎…泣かせるなよ…そうだ…そうだよ! 君は僕の…僕たちの友達だよ…ずっと…ずっとだ…」
 『香』の目に、 うっすらと光る物がある。
 「…」
 すっかり傍観者のハナコには、何が起きているのか全く把握できない。
 ただ、この 『香』とヤスイチ号の間に、人間と機械の関係を超えたものがあることを、その直感で感じ取っていた。
 そして、それが今の自分や、香や、クローバー 達にとってとても頼もしく、そして信じるに足る力である事も。

 …Yes…I am not "Wepon"… but your "Friend".

  「そうさ。君は兵器なんかじゃない。僕らの仲間さ。さあ、君の『死にたがりの船長』を助けに行かなきゃ。エネルギーウイング『ルシファー』展開」

 …OK…Ready E.N.G.Wings …mode『Cherubim』.

 『香』が眉を寄せる。
 「ヤスイチ、『ケルビム』の四翼じゃ、『ルシファー』の十二 翼には…セロには勝てないぞ」
 
 …
 
 モニターは沈黙したままだ。
 『香』は語気を強めてモニターに話しかける。
 「…せめて衛 星軌道兵器群(サテライトアームズ)を呼ぶんだ、ヤスイチ。覚醒していないセロは、アレにアクセスできない。エアブースターと電磁シールドだけでも」

 …Sorry Enishi.

 表示されたのは謝罪の言葉。
 「…わかったよもう。この頑固者」
 はー、と『香』がため息をつく。
 「確かに、大 気圏内で『ルシファー』同士が激突したり、衛星軌道兵器なんか使ったら、地上にどんな影響が出るか分からない。…キミはこの時代から、優しい子だったんだ な」

  …Thank you Enishi.

 「…あんまり誉めてないけどね。頑固なとこも変わらないんだから…分かったよ、その代わり ヤスイチ」
 『香』が諦めたように、しかし決然と言った。
 「てめー、セロに負けやがったら承知しねーからな! 絶対、皆を運んで来いよ! 待って るからな!」
  
 …OK.See you again Enishi.

「うん…また会おう。きっとまた」
 次の瞬間、コックピットにある全ての計器に光が灯った。『香』とハナコの体を、無数の光が 彩る。
 「う、動いた…! 動き出した!」
 ハナコが目を丸くする。何せこんな巨大な機械を見る事さえ初めてなのだ。彼女の理解力の範 囲を完全にオーバーする事態に、ただ大声を上げて騒ぐしかできない。
 「よし、ハナさん、今から言う事を良く聞いて。それとコレ持って」
 『香』がハナ コに、男達を縛ったあの紐の余りを握らせる。
 「…は、はいっ!」
 「いいかい。ヤスイチは目覚めたけど、このドックの扉を開か ないと外に出られない。…ぶっ壊せば出られるけど、それじゃ人死にが出るからね。だから、ボクが外に出て、扉を開ける」
 「…は、はい」
 「でも、そし たらボクはもう、ヤスイチに戻っているヒマはない。ヤスイチはボクを置いて飛ぶから、船長とヴィフさんを拾って、そのまま逃げるんだ」
 「え…? え えええ?! だ、ダメです! そんなの…」
 ハナコが激しく抗議するが、『香』の意志は固い。
 「でないと間に 合わないんだよ。隣にいるセロが追って来たら、ヤスイチは破壊されてしまうかもしれない。ボク…『この人』の事は心配ない。外の連中には、『この人』を決 して殺せないワケがあるからね」
 「…でも…」
 「この判断、船長も納得してくれると思う。それと…ここからが肝心 だ。船長にきちんと伝えてほしい。まず、ここを脱出したら天津の瑞波の国へ行って。お爺さ…おっと違う、そこのお殿様、『一条鉄』って人に助けを求めるん だ。その人の事は船長が知ってる。それともう一つ!」
 『香』は、まだ不服そうなハナコの両肩をしっかりと掴む。
 「ヤスイチの翼 は『ルシファー』じゃない、『ケルビム』だ。他に武器もないから、まともに戦ったら『セロ』には勝てない。そう船長に伝えてくれ」
 「『ルシ ファー』じゃなく『ケルビム』…天津の…一条鉄…」
 「そう。…頼んだよ、ハナさん。」
 『香』がハナコの肩を離し、コクピットの窓へ 駆け寄る。小さな窓だが、開ければ人間1人ぐらいは通れる。
 「…あの!」
 「ん?」
 ハナコの呼びかけに、『香』が振り向いた。
 「…また…ま た会えますよね!?」
 「…」
 『香』の表情が初めて、ぐっ、と歪んだ。以外と涙もろいのかもしれない。
 そして感極 まったようにだっ、とハナコの元へ戻って来ると、その身体をがば、と抱きしめた。
 「…!?」
 「…会えるよ、ハナさん。きっとまた会え る!」
 いきなり抱きしめられて目を白黒させているハナコを開放し、『香』がにか、と笑う。
 「ボクは…ボクたちは待ってる!」
 もう涙はな い。
 窓に駆け寄り、そしてもう一度振り向くと、

 「…未来で!」

 『香』の体が窓を蹴って飛ぶ。
 外で騒いでいた連中が何事か、と注目する中、 ドックの床までかなりの高さをひらりと着地。
 同時に凄まじいスピードで走り出す。
 自動で閉じた窓に駆け寄ったハナコの目に、走 る『香』の後ろ姿が移った。
 何のつもりか、クレーンやらフォークリフトやら何やら様々な機械をひょい、ひょいと触りながら走っている。
 ヤスイチ号を 取り巻いていた連中(その中には『香』に打ち倒されたあの男たちも含まれていたが)が、『香』を追跡にかかる。
 その時だ。
 『香』が触れ たクレーンが、いきなり『暴れ出した』。その長い腕をぶん、と振り回し、巨大な引っかけ爪を床にどかん、と叩き付ける。
 男たちの一団が わっ、と立ち止まった。
 その彼らに、今度は無人のフォークリフトが集団で襲いかかった。数トンの荷物を持ち上げて運ぶその腕が、人間を次々に、 軽々と持ち上げてぽいぽいと放り投げていく様はなかなか壮観だ。
 『香』が、それらの機械に魔法でも使ったかのように。
 魔法をかけられ た機械たちが、まるで『香』を守るように共闘し、追跡者たちを力強く妨害する。
 『”アグネア”! 発信許可は出していない! 止まれ! 誰が動か している! 止まれ!』
 ヤスイチのコックピットに、外部からの悲鳴のような通信が届く。
 そう言われても、コクピットにいるのはハナコ だけだ。当然、うろたえるばかりで返事などできないし、ヤスイチ号を止めるなど論外である。
 「え? え? あ、あの…ごめんなさ いーっ!」
 「!?」
 若い女の声で謝られた方もさぞびっくりしたと見える。
 「”アグネア”! 中にいるのは誰だ! 船を 止めろ!」
 声が完全にでんぐり返った通信に対する答えは、ヤスイチ号自身が行った。
 ただし、相手はそれを理解できない。
 
 …No. I am not "Agnia". 

 …My name is "Safety First".

 …My friends call me "Yasuichi". 

 … I am going  …

 モニターに映る文字が、何かを噛み締めるように点滅した。

 …I'm Going to the "future"

 『香』がドックの一画の、操作室にたどり着いた。ロックなど最初からないかのようにあっさ りと扉を開き、中にいた男二人に掌底を叩き込む。制圧に数秒とかからない。
 そしてほとんど間を置かず、ドックの内部に大きな作動音が響き、正 面の巨大な扉が開き始める。
 扉の外は外は『青空』。
どっ、と外の風がなだれ込み、ドック内の固定されていない小物やらが乱舞する。
 『香』を守っ て暴れる機械たちに翻弄される男たちは、もう完全にパニック状態だ。
 操作室の窓から『香』の顔が見えた。
 にか、とあの笑顔。
 そして、握りこ ぶしにぴん、と親指を立ててみせる。
 「あ、ありがとう! あなたも元気で! きっとまた会いましょう!」
 多分聞こえは しないだろうが、ハナコは窓越しに必死で声を出す。
 そして『彼』の真似をして、握りこぶしにぴん、と親指を立ててみせる。
 それが見えた のだろう。
 『彼』の笑顔がぐっ、と大きくなった。
 ぶわ、とヤスイチ号の船体が浮き上がる。この時代の人間には決して理解できない、音も熱 もない浮遊力場。巨大な純白の船体が、滑るように扉へ向う。
 ハナコはただ呆然と、正面モニターの中でどんどん大きくなる『丸い空』を見つめている。
 そして。
 モニターの全 てが『青空』に染まった時。
 ヤスイチ号は空の中にいた。

 …Open E.N.G.Wings …mode『Cherubim』.

 直ちにエネル ギーウイング『ケルビム』を展開。
 四枚の光の翼を広げ、ヤスイチ号は空を駆ける。

 …未来へ。

 
 「ヴィフ!  俺はいい! 自分にヒールしろ!」
 クローバーの怒声が響く。
 もう一方の手首がたった今千切れ、強引に傷口 をくっつけた所だが、同時に彼らの最後も近かった。
 いかにクローバーが強者でも、武器も持たない防具もない片手で、同じく武器も防具も持たな いヴィフを庇いながら戦えるはずはない。
 それはわずかな時間を延命する効果しか、ない。
 ヴィフの背中に は、クローバーが庇いきれなかった傷が無数に穿たれている。一方、庇っているクローバーの腕も、まるですだれのように切り裂かれ、指はバラバラに折れ曲 がっている。
 ヴィフのパッシブヒールが無ければ、とっくに肘から先が無くなっていただろう。
 そのヴィフも、激しい出血と傷の痛みで意識が 薄れている。
 「ヴィフ! ヴィフ! しっかりしろ! ヒールだ!」
 「…ヒール…」
 「馬鹿っ! 俺じゃねえ! 俺はいい、お前 だ、自分にヒールしろっ!」
 「…」
 ぐら、ヴィフの身体から力が抜け、クローバーの身体にその体重が預けられる。
 死が近い。
 「献身(ディ ボーション)!」
 クローバーの身体から、奇跡の光がほとばしった。やっとスキルを絞り出した両手は、辛うじて手首でつながっているだけ。
 瀕死のヴィフ がこれから受けるダメージは全てクローバーが受ける。
 だが、これまでに受けた傷はどうしようもない。
 クローバーも満 身創痍の今、二人にこの場を切り抜ける力はもうない。
 ただ一分、一秒、自分たちの苦しみを長引かせることしかできない。
 その場にいる誰 もが、クローバーでさえそう思っていた。
 たった一分。
 たった一秒。
 しかし、彼らが命をかけて稼いだ時間は決して 無駄ではない。
 その一分。
 その一秒。
 それは無限の未来にむかって繋がる、何よりも貴重な時間だった。

 ばりばりばりばりっ!!!!

 拷問室の中に、数千枚の厚紙をまとめて破り捨てるような、もの凄い音が響いた。
 全員がぎょっと 身体を強ばらせる。
 その頭上から、ばらばらと小石やら建材の破片やらが降り注ぎ。
 そして『青空』が姿を現した。
 「…天井 が…?!」
 誰かが呆然と叫んだ。それはそうだろう。
 今まで何の異常もなく拷問室の上部を覆っていた天井が、その上の岩盤ごとそっくり消えて しまったのだ。
 まるで巨人の腕で抉り取られでもしたように。

  「せ! ん! ちょー! さ! あ! あ! あ! ん!!!!」

 その空から、 必死の涙声が響いた。
 「…ハナコちゃん…?!」
 戦士として経験豊かなクローバーも、さすがに状況が飲み込めていない。
 だが、それが この絶望的な状況を打開するカギになる、ということは、戦士としての本能で理解していた。
 「ハナコちゃん! どこだ!」
 轟!
 吹き飛んだ天 井から、空の風が吹き込む。
 その風に乗るように、純白の船体が姿を現した。拷問室の天井を岩盤ごと抉り取った、その光の翼は4枚。
 船腹にはでっ かく『安全第一』の文字。
 「アグネア!?」
 「ヤスイチ!?」
 ブロイスとクローバーが同時に叫んだ。
 「ここで すっ!! 船長さん! ヴィフさんっ! 掴まってぇ!」
 ばん、と開いたヤスイチ号の窓からハナコが首を出し、先に重りを付けた紐を投げ落とした。
 『香』がシー ツを撚って作ったあの紐に、通信席にあったレシーバーをひっぺがしてくくりつけたものだ。
 クローバーがとっさにそれを掴む。即座にヴィ フの身体に結びつけ、自分の腕にも絡めた。
 「引いて! ハナコちゃん!」
 傷のため、紐を持つ手に握力が足りない。見栄 も体裁もなく両手ですがりつき、ついでに歯で噛み付く。
 「はいっ! …ぅうりゃあああああああっっ!!!」
 ハナコが吼える のと、我に返ったブロイス達がクローバーとヴィフに襲いかかるのが同時。
 「紐を斬れ!」
 ブロイスのその指示は当然かつ的確なもの だ。
 だがわずかに遅かった。
 いや、決して遅くはなかった。ただ、ハナコの牽引力が『常識外れ』だっただけだ。
 びゅぅん!
 「ぶっ?!」
 引っ張れと指 示したクローバーでさえ一瞬、振り落とされかけるほどの加速度。大の男2人の身体が、軽々と宙を舞う。
 ブロイス達にはまるで、目の前から掻き消え たように見えたに違いない。
 逆バンジージャンプとでも言うべき、とんでもない牽引力だった。
 クローバーとヴィフの身体が勢い余ってヤスイ チ号の窓を越え、船体の上まで跳ね上がる。
 「うっわああああ!!!」
 クローバーといえども、翼もなく空中に放り出 されるなどという経験はしたことがない。
 (…落ちる落ちる落ちる…!)
 上昇する力が尽きた所でクローバーと、意識の ほとんどないヴィフの身体が落下を始める。
 このままではなす術も無く、元の拷問室の床に叩き付けられて死ぬだけだ。
 そんな間抜け な結末はまっぴら御免だった。
 「ハナコちゃん、手を!」
 夢中で叫んだ。
 「は、はいっ、 船長さんっ!」
 ハナコがさっと手を出す。この辺は素直な娘で助かったと言えるだろう。
 「献身っ!」
 空中で再び、 クローバーの身体から光の線が飛ぶ。
 目標はハナコ。
 光がハナコとクローバーをつなぎ、ハナコにかかるダメージを全てク ローバーに移す。
 がしっ、とクローバーの腕が、差し伸べられたハナコの手を掴んだ。
 落下の重力が加わり、それこそ重機でぶん殴ら れたような凄まじい衝撃がハナコの腕にかかる。
 ハナコは怪力の持ち主だが、その身体は普通の女性のものだ。クローバーの腕を掴んで止める ことはできても、代わりに彼女の腕が千切れるか、指が破壊されるだろう。
 だが、そのダメージを転化できたなら。
 「ぐうっ…!」
 クローバーの 顔が初めて苦痛に歪む。ハナコの腕にかかるはずのダメージが、まともにクローバーを襲っていた。
 両手首を千切ってまたつけるという荒行の後、 武装した敵を相手に素手で大立ち回りを演じたのだ。さすがのクローバーの耐久力も限界を超えていた。
 後は信じるのみ。
 「え、えええい いっ!」
 そのクローバーの信頼に、ハナコは見事応えてみせる。ただ無我夢中だっただけだが、それでもその怪力は確かに、2人の男の運命を変え た。
 がくん、と二人の落下が止まったとみるや、小さな窓をこじるようにして船内に引っ張り込まれる。
 ずっどおん!
 ハナコと、ク ローバーと、ヴィフの3人が、まとめて操縦室の床にひっくり返った。
 「…痛った…」
 「うお、ハナコちゃん、ケガないか、ケガ!」
 自分だって結 構な大ケガの癖に、開口一番そんなことを聞いて来るクローバーに、ハナコはふっと泣けそうになる。
 やっぱりいい人だー、と改めて思う。
 「ハナコは大 丈夫ですっ! この通りケガしてません! それよりお二人は!?」
 「おう、俺…あっしは大丈夫だがね。この若いのと来たらだらしねえ…おい、ヴィフ。いつ までもひっくり返ってんなよ」
 すぱん、と、その大きな手でヴィフの金髪頭を引っ叩いた。
 雑な扱いにもほ どがある。
 だが、効果は覿面だった。
 「…ぶっ…ひっ…ひ…どい…なあ…船長っ…ヒール!」
 ぶわっ。
 お得意の『途 切れないヒール』が起動、ヴィフの身体の傷が見る見る回復する。
 「…口ん中がジャリジャリします…」
 「血流しすぎた後、ヒールかけるとそうな る。体液が足りねーんだ。水分補給すると治るが、今はその暇無え」
 クローバーがヴィフに手を貸して立ち上がる。ついでにヴィフがクローバーにヒール。
 えらく息が 合っている。
 「…良かった…良かったです…二人とも…良かったです…」
 ハナコがそんな二人を、しゃくり上げながら抱きしめた。
 「…ハナコ ちゃん…よくやってくれた」
 クローバーがその大きな、また盛大に傷が増えた腕でハナコの頭をがしがし撫でる。
 「しかし…ヤス イチをよく動かせたな…?」
 「あ…あの…香さんが…」
 本当は違うのだが、今は詳しく説明しているヒマはない。ハナコにもそのぐらいの判断はつ く。
 「そうか…さすが『霊威伝承種(セイクレッド・レジェンド)』。…そういえば、コイツの正当な持ち主は、今や香姫様だもんな…って、姫様 は?!」
 一応納得したクローバーは、肝心の主の不在に気づく。
 「香さんは…ヤスイチを飛ばすために扉を開けてくれて…まだあそこ に」
 「…!?」
 ハナコは顔色を変えたクローバーに『香』から言われたことを必死で伝えた。
 『天津の瑞波へ 行く事』
 『光の翼の事』
 大急ぎで、しかしかなり正確に伝えたようだ。
 「…わかっ た。…ハナコちゃん、本当によくやってくれた」
 もう一度、クローバーがハナコの頭を撫でる。
 そして決然と 言った。
 「全員席につけ。天津へ向う」
 「はい、船長」
 「ええ!? でも! 香さんは…」
 即座に従ったの はヴィフ。抗議したのはハナコだ。
 「…大丈夫、ハナコちゃん。香さんは必ず助ける」
 ハナコに優し く、しかし決然と声をかけたのはヴィフだった。
 「…!」
 ハナコがヴィフを見て、一瞬息を飲む。
 クローバーと ヴィフ。
 正直、2人は顔も体つきも全く似ていないのだが、今、ハナコには2人が重なって見えた。
 2人の背中。
 それは、自分 の命が勘定に入っていない、男の背中だった。
 身体の痛みや心の悲しみより、もっと大事なもののために、それを『超える』覚悟を決めた男 の背中だった。
 この男たちは、やるつもりなのだ。
 やると決めた事のために、命なんか最初から無いものとして、戦うつもりなのだ。
 そして。
 ちかっ。
 ヤスイチ号の メインモニターが一瞬、瞬く。

 …Don't worry "Hanako"

 それはハナコにしか見えなかった。当然、見えても彼女には読めない。
 だが、ハナコ には感じる事が出来た。
 覚悟を決めた男は『2人』じゃない。
 『3人』だ。
 「…はい。ハナコは…ハナコは…皆さんを応援しますっ!」
 握りこぶしを 突き出して、指をぴんと立てる。
 親指。
 「おう、あっしらに任とけ、ハナコちゃん」
 「ハナコちゃん の応援があれば千人力だよ」
 ヴィフとクローバーが同じ様に、親指を立てる。
 「よし、行くぞ。『セロ』が出てくる前に、この場を『撤退』 する」
 「…そう言えば追ってきませんね、『セロ』」
 「追いかけたくても追いかけられないのさ」
 クローバーがに やり、と笑う。
 「ブロイスだよ。あいつは誰も信用しない。自分が乗らない『セロ』を飛ばすことは絶対にしない。あいつがドックまで走っ てセロに乗るまで、出て来ない」
 クローバーが分析してみせる。
 「成る程。じゃ『撤退』しましょう。ステルス システム起動」
 副操縦席のヴィフが、光学・音響・魔法の三大ステルス機能をオン。
 「…エネルギーウイングでの飛行は初めてだ が…早く習熟せんとな。『ケルビム』マックス。ヤスイチ号、最大戦速。目標天津」
 4枚の光翼がぶん、とはためきヤスイチ号が一気に加速。
 同時にステル スシステムが純白の船体を包み込む。
 後には青空しか残らない。


 「…無事出航…っと」
 ドックの操作室 から見送る『香』が、満足そうな笑顔を見せた。
 「…こっちもそろそろ限界か…。こんだけやっちまったら…もう二度とこっちには来られない だろうなあ…」
 少し寂しそうな独り言。
 「後は…無事ボクらを『産んでもらう』しかない…。頑張ってよ…『母さん』」
 『香』が自分 の胸に手を当てた。
 それは、時間と空間を超えた、奇跡のエールだった。
 きっ、と顔を上げ、悠々と操作室を出る。
 いつのまに か、操作室の周囲にはもの凄い数の包囲網。
 その人垣の後ろにいる一人に、『香』は真っ直ぐに声を放つ。
 「『ウロボロス 6』ことプロイス・キーンだな」
 その鮮やかな態度に目を奪われたか、ざっ、と人垣が割れる。
 『香』とブロイ スが相対した。
 「さあ、この身をウロボロスの巣へ連れて行くがいい。この身は『霊威伝承種(セイクレッド・レジェンド)』の血と霊力を 受け継ぐ最後の一人。他のウロボロスが涎を流して欲しがるモノだ」
 堂々の名乗り。
 「我は再び眠るが、この身は丁重に扱えよ。妙な傷でも付けて、他 のウロボロスにつるし上げを食らっても知らんぞ」
 にやり、と笑って、その場にどかっ、と座り込む。
 (ボクはこれで 行くけど…大丈夫。必ず『父さん』が助けてくれる…)
 その言葉を聞く者はいない。
 だが、『香』の意志とは無関係に、その右手が す、と上がると。
 ふわ、と自分の頬を包んだ。
 それが、しばしの別れの挨拶であるように。

 つづく。
中の人 | 第七話「Wings」 | 15:25 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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