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第九話「金剛不壊」 (4)
  「……振り切ったか?」
 「……みたいですね。チームの本隊と合流するまで、油断はできませんけど……」
 「灯り、点けるぞ。ユーク」
 「はい、ヨシアさん」
 ぽう、と、ランプに灯が点った。赤みを帯びた柔らかい光が、2人の逃亡者を照らし出す。
 ユークレーズとヨシアだ。
 「怪我ねえか、ユーク」
 「平気です。ヨシアさんこそ……」
 「っはあ、『絞め金剛』ナメんじゃねーよ。クルトのオッサンのサクリなんざ、痛くも痒くもねー」
 へっ、と剛毅に笑うヨシア。だが、その顔が急に曇る。
 「しかし腹減ったな……。結局、晩飯喰喰い損なったし」
 「食べ物ならありますよ。ここ備蓄庫ですから。……でも先に装備を整えた方がいいですね」
 ユークレーズに促されて改めて見回すと確かに、天井が高く広い空間に、見上げるほどの物資が木箱に入れられ、整然と積み上げられている。
 「凄えなー。で、ココどこなんだ?」
 「アインペフの鉱山町の近くです。倒産した金属精錬工場を丸ごと備蓄庫にしたんですよ。ダミー会社経由で極秘に買収して」
 ユークレーズがちょっと自慢げに解説する。もちろん、全てはタートルリーダー・一条流の指示だ。
 『いざという時のために、チーム全員が避難・補給ができる安全な場所を作れ』
 流のその命により作られたのがこの場所『x3』、xイニシャルの第3シェルター。そしてユークレーズは常に、この場所のポタメモを持ち続けている。
 あの時……。
 ウロボロス4の宿舎で襲撃を受けたのが1時間前。金剛化したヨシアに守られながら、ユークレーズが出したワープポータルの転送先がここだ。もし追っ手の中にあの一条静クラスの超感覚の持ち主がいて、匂いで転送先を探ったとしても、
 「アインペフ界隈の匂いはどこも似ているので、匂いで詳しい場所まで特定するのは無理です」
 ユークレーズが保証した。転送先がアインペフ付近と分かっても、あまりに捜索範囲が広過ぎて2人を見つけるには時間がかかる、と。
 「なら下手に動かずに、救援を待った方がいいな。早いとこリーダー達と合流したいが……こっちはたった2人だしな」
 この際、階級は無視してヨシアが判断する。
 「となりゃ、腹が減っては戦ができぬ、だ。装備補給したら、何か喰おうぜ」
 ということになった。
 「青石に赤石……ポーションに……」
 「あ、ヨシアさん、そっちダメです!」
 ヨシアが、手にしたランプの光で木箱のラベルを確認するのを、ユークレーズが鋭い声で止めた。
 「お?」
 「そっから向こうは火薬です。灯りはダメ!」
 「おおっと、やべー!」
 ユークレーズの指摘に、ヨシアが慌ててランプを下げる。
 「……んじゃ食料は、と。お、この辺か!」
 「ええ。保存食ばっかりですけど……干し肉とか、乾燥野菜とか」
 「瓶詰めの水もあんのか。こっちは……酒かこれ?」
 「リーダーのです」
 「あー。飲むからなー、あの人ぁ!」
 ヨシアの、何とも実感のこもった言葉には理由がある。この金剛モンクは、その豪快を絵に描いたような体格や性格とは裏腹に、見事なぐらいの下戸だった。聖職者としての戒律とは関係なく(彼が属する宗派はそもそも飲酒を禁止していない)、体質的に全く酒を受け付けない。
 「しかし、だからって軍事備蓄に酒入れるかねー。やるよなー、あの人も」
  わはは、と笑うのへ、ユークレーズが血相を変えて、
 「いいんです! リーダーがお酒を召し上がるのはリラックスのためで……遊興のためじゃないんです!」
 「へいへい。んじゃオレたちも、遅っそい晩飯を『召し上がる』としようぜ。とりあえずこれを……」
 ヨシアは相手にもせず、適当に木箱を降ろすと、
 「うんしょ!」
 ばきばき、と道具も使わず中身を取り出す。そのままどかっ、と腰を下ろして木箱の中身をごそごそ。
 「んー? こりゃあお前……」
 「ビスケットですね。これなら火を焚かなくても食べられますよ!」
 ヨシアの反対側に座ったユークレーズが、木箱から厚手のビスケット状の物体を取り出す。
 「あ、いやユーク、それ……」
 「いただきまーす! って、あ痛っ! 痛たたたたっ!」
 ビスケット状の物体にかじりついたユークレーズが、即座に顔をしかめてそれを吐き出す。
 「ダメだってユーク。そりゃあな、こっちの木槌で叩き割ってから喰うんだよ。齧りついたりしたら、下手すると歯折れるぞ」
 「は、早く言って下さいっ!」
 「いや、今のはそのヒマなかったぜ。腹減ってるのはわかるがなー。……ほれ、コレぐらい小さくして、口の中で飴みたいに溶かして食べるんさ」
 「へ、へえ……。こんなの初めて食べました」
 ヨシアが砕いてくれた一片を口に入れて、リスみたいに片方のほっぺたを膨らませるユークレーズ。
 「『金剛焼き』って言ってな。ものすげー堅い携帯保存食で……ウチの寺の名物さ」
 「ええ?!」
 「まさかココでご対面とはなあ。ひょっとしてそれ、オレが作ったヤツかもなー」
 「……」
 「だから何だよその顔!」
 「いえ、何でも」
 何でも、という割にはどよーんとした顔で、残りの金剛焼きをもごもごと食べるユークレーズ。その顔を、じーっと見つめるヨシア。
 「……何ですか? ヨシアさん?」
 「いや……」
 「僕の顔に、何かついてます?」
 「いやいや。……何、つまらん話さ。……故郷の、妹や弟になー、オレが里帰りするたびに、コレを土産にしてたんさ。っても、他に土産にするものもないからなー」
 ヨシアが、何かを懐かしむように、言葉を続けた。
 「ご兄弟がいるんですか」
 「貧乏人の子だくさんってヤツさ。上に2人、下に3人。オレは口減らしで、寺に上げられたんだよ」
 珍しい話ではない。
 ヨシアの故郷は辺境の、半農半猟で辛うじて成り立つ小さな村だった。貧乏人が子どもをたくさん作るのは矛盾して見えるが、これは貧しさ故に成人になるまで育たない『歩留まり』を考えてのことだ。跡継ぎとなる労働力が育たなければ、自分たちが老いた時に、畑を耕し猟をする人手が足りなくなる。
 残酷なほどにリアルな命の営みが、そこにはまだ現実として存在していた。
 「お元気なんですか、故郷の……ご家族」
 「いや。もういない」
 ヨシアはぽつりと答えた。
 「妹や弟は、10歳にもならんうちにみんな病気で死んだ。上の兄弟も、それぞれ狩りに失敗してな。親も……」
 飢饉や疫病で追いつめられた者が、一発逆転を狙って無理なボス級のモンスターに手を出し返り討ちに遭う、というのもよくある話だった。死者を蘇生させるイグドラシルの葉1枚すら買えない、貧しき者達の運命など知れたものなのだ。
 「……すいません」
 「謝るこたないさ。こっちこそすまん、不景気な話聞かせちまって」
 淡々と口に運ぶ金剛焼きは、ヨシアにとって決して良い思い出ばかりではないのだろう。
 実際、ヨシア自身にも自分が育った寺への愛情や郷愁はない。そこはただの『選別所』だった。ヨシアと同じく、口減らしで寺に上げられた子ども達は即日、モンクの修行に放り込まれる。戦いのスキルなど後回し。とにかく『金剛』だ。金剛化して、先輩僧侶にひたすら叩きのめされ、弱い者から次々に命を落とす日々。
 寺には寺の事情がある。次々に送られて来る子ども達が全員無事に成人などすれば、寺の方が破産してしまう。だから修行という名の選別に生き残り、狩りで食い扶持を稼げるようになるまで、それは続けられる。
 それでも、ヨシアは耐えた。
 硬く、強く。寺の高僧ともなれば、ボス級のモンスターにさえ単独で挑み、これを『絞め殺す』実力を有する。そうすれば、故郷の村の一つぐらい養う事はわけもないことだった。小さな寺の一つも建て、『住職』として物心両面で故郷を支えるのだ。
 だが、その村はもうない。彼の家族ごと、消えてしまった。
 だからその想いが断たれた時、ヨシアという人間は一度、死んだのだ。
 「修行とか、もうバカらしくなってな。といって今さら他の事する能もない。だから、寺にウロボロスからの勧誘が来た時、半分自棄んなって志願したのさ。まあ、寺の方でも良い厄介払いだったろうけどな。俺、色々問題児だったからよ」
 わはは、と笑う表情に、もう曇りはない。
 「……強いんですね、ヨシアさん」
 「あん?」
 「僕は、家を追い出されたんです。……兄に」
 「兄ちゃんいるのか?」
 ユークレーズの表情が苦い物になる。
 「ええ。去年、家を継いだんです。でも……兄は僕を嫌ってて……僕がこんなですから、仕方ないですけど」
 ユークレーズの実家は、田舎とはいえ歴とした貴族である。となれば、例え本人にその気がなくとも『家督争い』というものと無縁ではいられない。そこで兄と弟、どちらが家を継ぐかという話になった時、ユークレーズの異能ともいうべき記憶・情報処理能力が取りざたされるのは仕方ない。
 凡庸な兄と。
 異能の弟と。
 周囲が2人をどんな風に比べ、どんな風に天秤にかけたか。
 すったもんだの末に家を継ぐ事が出来た凡人の兄が、結果として弟をどう見るか。
 たとえそれまで、どれほど仲の良い兄弟だったとしても、二度と元には戻れないだろう深い断絶がそこに生まれたとして。
 当主の座をいつ奪いに来るか分からない『敵』を見る目で、弟を見る兄がそこに生まれたとして。
 誰が誰を責められるだろう。
 「だけどそれ、お前のせいじゃないだろ? お前の力はホント凄えんだからさ、胸張ってりゃいいじゃんか」
 「……」
 「なあに、仲の悪い兄弟なんて珍しくもないさ。オレだって、兄貴達とは仲悪かった。里帰りの度に喧嘩してたぜ?」
 わはは、と笑うヨシアの耳に、ユークレーズの小さな呟きが聞こえた。
 「……でも」
 「ん?」
 「僕は大好きでした。……兄の事」
 立場が変わっても、変わらず好きだった、と少年は呟いた。
 ユークレーズはただ、兄を好きでいたかっただけなのだ。
 異能の力を持って生まれたけれど、それを自分のために使おうとは少しも思わない。兄がそうしろと言ってさえくれれば、その異能の力を全て、その一生を全て兄のために捧げて何の悔いもなかったろう。
 しかし、その想いは断たれた。
 
 『出て行け、化け物! お前は天才なんかじゃない、呪われているだけだ! 寄るな、呪いが感染る!』

 浴びせられる言葉は、ただ冷たい拒否だけだった。その冷たい言葉で、兄が何を守ろうとしたのか気づいた時。
 兄がただ、自分のプライドを守ろうとしただけだと分かってしまった時、ユークレーズの心は砕けた。
 ヨシアと同じように、ユークレーズもまた一度、死んだのだ。
 「そーか……」
 ヨシアはただそう呟いて、新しく砕いた金剛焼きの欠片を一つ、ユークレーズに渡した。しかし心の中では、この少年がなぜ、あのタートルリーダー・一条流にあそこまで傾倒するのか、理解できたような気がした。
 自分の異能を、余す所なく使ってくれる人間。そして、決して揺らぐことなく『好きでいさせてくれる』人間。
 (……リーダーに出会って、お前は生き返ったんだな……)
 ヨシアの中に、一つの想いが結晶した。それは小さく輝く宝石の様でもあり、小さく胸を刺す痛みの様でもあった。
 (……そして俺は……)
 夜の、誰もいない静かな倉庫。並んだ分厚い肩と、華奢な肩。
 ぽつんと光る、小さな灯り。
 壁に映る、大きな影がふたつ。
 それぞれに何かを失い、その欠けた欠片を探し続ける2人の逃亡者の、重なるようで重ならない時間。
 近づくけれど、重ならない影。
 「リーダーやチームの皆、大丈夫でしょうか……」
 「なあに、心配いらねえよ。あのリーダーだぜ?」
 ユークレーズの弱気に、ヨシアが力強く応える。
 「だからお前も元気出せ。大丈夫、オレが必ず愛しのリーダーんとこ連れてってやるからよ」
 「はい……って誰が『愛しのリーダー』ですかっ!」
 「しっ……!」
 真っ赤になって突っ込んだユークレーズを突然、ヨシアが手で制した。
 「外に誰かいる……!」
 「!?」
 その言葉に、ユークレーズもはっ、と緊張した顔になる。
 「追っ手ですか?」
 「わかんねえが……」
 「でも、ここが分かるはずは……」
 ユークレーズの疑問に、ヨシアはぴしゃりと、
 「『絶対』は無えよ。クルトのオッサンが裏切ったってんならなおさらだ」
 何かにつけて周到な一条流という男は、『xイニシャル』の場所どころかその存在そのものを、チームの一般士官にも、上官であるクルトにさえ秘密にしている。だが、これだけの規模の施設を買収し、これだけの物資を備蓄したのだ。組織の外ならともかく『身内』にも一切知られるな、というのは水に飛び込んで濡れるな、というのに等しい。金の流れ、物資の流れを丹念に追って行けば、場所を特定することも決して不可能ではない。
 「……!」
 「腹ごしらえの時間が稼げただけめっけもんだ。逃げるぞ!」
 「はい……っ!」
 ユークレーズの返事は途中で途切れた。ヨシアの太い腕が物凄い勢いで、ユークの身体を突き飛ばしたのだ。
 「ちきしょう! ルアフ!」
 ヨシアが唱えた呪文に応じ、青い光の玉がヨシアを中心に、2メートルほどの範囲で回転を始める。『ルアフ』は、クローキングやハイドといった『自分の姿を隠す』スキルを打ち破る魔法だ。
 見えない物をあぶり出すその光に照らされるように、彼らの周囲に人影が浮き上がる。
 「追っ手だユーク! もう囲まれてる! ポタ出せ!」
 ヨシアが叫ぶ。そして、
 「『金剛』っ!」
 その身を無敵の鎧で覆う。その身体に短剣や矢が襲いかかるが、ギリギリ間に合った金剛の効果がそれを弾き返した。敵は既に、積み上げられた木箱の影や天井にまで相当の数が潜んでいたらしい。
 もう一瞬でも気づくのが遅ければ、2人ともなます切りにされていただろう。
 (……畜生! オレの油断だ!)
 ヨシアは歯噛みしたい気持ちだった。『xイニシャル』を持つシェルターは安全、と信じ切っていたのが間違いだった。通常なら2人のどちらかが常にルアフを使い、周囲を警戒し続けるのがタートルチームの基本だ。
 「ヨシアさん! でもココがバレてるなら……!」
 他のxイニシャルも危ない。ヨシアに庇われながら、ユークレーズが叫ぶ。
 「……他もダメかよっ!」
 ヨシアが下がる。後ろは倉庫の壁。ユークレーズは、壁とヨシアの背中に挟まれるような格好だ。完全な袋小路。
 「くっそお!」
 敵の数が見る見る増えて行く。外にいた敵が、建物の内部に次々と突入し、群がるようにヨシアとユークを襲う。このままでは殺されるのを待つだけだ。
 「しゃーねえ、一か八かだ! ユーク、俺にしがみつけ! キリエ絶やすな!」
 「ヨシアさん?!」
 「行くぞ! 祈れ!」
 叫ぶのと、足元に置かれたままのランプを、ヨシアの足が蹴飛ばすのが同時だった。金剛状態でスピードはないが、それでも十分に重い蹴りは、火のついたままのランプを転がすには十分。
 転がす? 
 どこへ?
 積み上げられた大量の物資、その一角。ユークレーズが指摘した、あの場所。
 
 『そっから向こうは火薬です。灯りはダメ!』

 その瞬間の事を、ユークレーズは良く憶えていない。余りにも巨大な爆音と閃光が、人間の感覚の上限を振り切ったらしい。バリアの呪文であるキリエエレイソンに守られていなければ、いや守られていたにも関わらず、内臓ごと五体をバラバラにされるような衝撃。そしてヨシアの腕にがっちりと抱かれたまま、宙を吹っ飛ばされる無重力感覚。
 「……ひ、ヒール! ヒールっ!」
 夢中で、ただ夢中で自分とヨシアに治癒の呪文を唱える。バリアも唱えたいが、詠唱に一定の時間のかかる呪文はパス。極論すれば、即死でない限りはヒールを唱え続けている限り死ぬ事はないのだ。
 ばぁん! 無重力状態が突然途絶え、代わりに激しい衝撃が2人を襲った。爆風で吹っ飛ばされ、そのまま地面に激突したのだ。
 「……っ!」
 金剛状態のヨシアが下になり、激突のダメージの大半を引き受けてくれた。が、ユークレーズも無傷では済まない。足が地面にこすれた衝撃で足首から先が千切れそうになり、左腕の肘は脱臼。また倉庫の火薬と一緒に貯蔵してあった弾薬にも引火したらしく、周囲に無数の流れ弾がバラまかれた結果、ユークレーズの身体にも何発か食い込んでいる。
 幸い致命傷はなかったが……。
 「あ……っう……!」
 「しっかりしろユーク! 呼吸を整えてヒール唱えろ!」
 こちらはさすがに金剛モンク、さして傷を負っていないヨシアがユークレーズを叱咤する。ついでにさっき補充したポーションを取り出すと、ユークの身体に振りかける。ボロボロになった制服の隙間からむき出しになった傷が塞がり、食い込んだ銃弾がぼろり、と肌の外へ押し出される。
 「……ヒールっ!」
 ユークレーズがやっと呪文を唱えた。ヨシアがその身体を支えて立たせてくれる。
 「……くそっ、アレでも振り切れねーかよ!」
 ヨシアが毒づくのへ、ユークレーズが視線を向ける。
 元工場だった倉庫は、ものの見事に吹き飛んでいた。建物は、内部にあった物資もろとも周囲に散乱し、ぶすぶすと煙を上げている。爆発の中心部はちょっとしたクレーター状で、地面は真っ黒にすすけ、まだところどころに火の手も上がっている。
 その凄まじい破壊の光景の中、敵はまだ生き残っていた。ユークレーズやヨシア同様、バリアの呪文だろう。あるいは、あのジュノーの空中牢獄から脱出する際、無代達が使ったカウプの呪文かもしれない。死亡してもすぐに復活できる呪文、というものも存在する。
 ともかく、あの爆発にも関わらず、敵はまだ存在する。いや、それどころか……。
 「増えてる……!」
 「増援を呼ばれたな。ここはもうダメだユーク。どこでもいい、ポタ出せ。逃げるぞ」
 「でも……っ!」
 ここ『x3』は既に敵に知られている。ということは恐らく、他のxイニシャルも危ない。
 逃げ場は無い、そう思った時だった。
 (あっ……でも、あそこなら……!)
 ユークレーズの頭に、一つの思考が割り込んだ。
 (『x4』なら……!)
 『x4』。
 それは、タートルリーダーたる一条流と、ユークレーズの2人しか知らない避難場所。そして、そのポタメモを持っているのはユークレーズただ一人。
 (他のxイニシャルが敵に知られていても……あそこだけは!)
 『4』は、他のxイニシャルとは全く性格が違う。安全性も何もかも、ケタ違いの『場所』。
 だが。

 『ここだけは、みだりに使うな。というより……例えお前の命が危ないとしても、使ってはならん』

 ユークレーズの耳に、一条流の言葉が蘇る。『命令がない限り、自分が死んでも使うな』という、非情とも言える命令。
 それは、絶対の機密を守るためだ。
 部隊の全員が危機に陥った時、一人でも多くの人員を助けるためにのみ使用が許される。だが、ユークレーズが一度でもそれを使ってしまい、万一その場所が追跡されて露見したら……全ては水の泡になる。
 一人の命には代えられない、絶対の機密。それが『x4』の『x4』たる所以なのだ。
 使えないどころか、今まさに命を共にしているヨシアに、話すことさえ許されない。
 (……!)
 ユークレーズの喉が、ひりひりと痛んだ。爆風で痛めたこともあるが、それよりも精神的なストレスで、口がカラカラに乾いている。
 (今、2人でx4に行けば……2人とも助かる……)
 その思いはある。
 (……ダメだ……リーダーの許可がなくちゃ……使えないんだ!)
 その思いもある。
 ぐるぐる回る。ぐるぐる、ぐるぐる、回り続けて最後はバターになって溶けてしまったという、説話の動物のように。
 だが、敵はそんなユークレーズの葛藤など構ってはくれない。湧き出すように出現する敵の数は、既に千に迫ろうとしている。
 「急げユーク! あの人数じゃ防ぎきれん!」
 もう迷っている時間はなかった。
 そして、ユークレーズは一つの決断を下す。
 「……ワープポータル!」
 詠唱は一瞬。

 そしてユークレーズはこの先ずっと、ずっとその決断を悔やみ続ける事になる。
 一つの辛い別れと、余りにも深い心の傷と共に、いつまでも。

 いつまでも。
中の人 | 第九話「金剛不壊」 | 18:03 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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