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第九話「金剛不壊」 (5)
  「ええい畜生! ココもダメかい!」
 サリサ・ゾシマは毒づいた。
 自慢の巨盾と、そこから生えた衝角を使って目の前の敵を崩し、片手の斧を叩き込んで斬り伏せる。実際、息をつく暇もない。
 タートルチーム・ハンマーユニットのトップとして、またチームリーダーである一条流から権限を委譲され、現在はタートルチームそのものを率いる彼女だが、今、彼女と仲間達を取り巻く状況は極めて悪かった。
 『戦前機械(オリジナルマシン)』の脅威から逃れ、『安全』と判断された避難経路であるxイニシャルへウロボロス4全軍を退避させたまではよかった。
 だが、x1に移動した途端に、敵が現れた。それも、ルーンミッドガッツ王国正規軍による、相当の規模の規模の待ち伏せだ。先陣を切ったタートルチームは、転送と同時に彼らとの激しい戦いに突入せざるを得なかった。完全装備の前衛が突進を繰り返し、その後方から激しい魔法や矢、銃弾の雨が降り注ぐ中を、彼らタートルチームは必死に時間を稼いだ。その間に、さらに全軍をx2に移動させるためだ。
 だが、そこにもほぼ同規模の待ち伏せを受けた。予想された事とはいえ、状況はもはや最悪。
 現時点で、ウロボロス4にはタートルチームの他にも複数のチームが生き残っている。だが、前述したようにそれらは斥候や狙撃の『特化チーム』がほとんどであり、緻密に計画された作戦の駒としてならば絶大な力を発揮する反面、こういう臨機応変さが優先される遊撃的な戦いには向いていない。せいぜいが後方支援である。そのため事実上、敵と正面切って交戦出来るのはタートルチームのみだ。解体されたファルコン、イーグル、コンドル各チームを吸収して戦力がアップしているとはいえ、苦しさは隠せない。
 しかも、戦ったところでその先が見えない。
 避難場所であるxイニシャルはあと2つ、3と4。だが、この分だとx3も危ない(ヨシアとユークレーズが既に、そこで敵の待ち伏せを喰らった事を、サリサはまだ知らない)。
  そしてx4のポタメモを持っているのはユークのみ。 
 (……逃げ場なんか、無いじゃないか!)
 リヒタルゼンの現場に残ったタートルリーダー・一条流の到着を待つどころではない。まごまごしていれば、圧倒的な規模を誇る正規軍の攻撃で押し潰されるのは時間の問題だった。
 (このままじゃ……畜生、ユークがいれば……!)
 リーダーである流が別れ際に命令した『x4使用』の命令。それをユークレーズに伝えることができれば、流自身が『絶対安全』を保証した避難場所へと逃げ込める可能性がある。だが、現状ではユークレーズと、その護衛についているはずのヨシアを探しに行く事すら不可能だ。
 いや、ここまで大規模な待ち伏せが行われている以上、たった2人きりの彼らが果たして生き延びているかどうか。
 (これまでか……っ!)
 さしも気丈な女クルセイダーの心中にさえ、わずかな弱気が忍び込む。
 女戦士、サリサ・ゾシマが生まれ育ったのは、通称『亀島』と呼ばれる絶海の孤島だ。その島を拠点に、その生涯をほぼ船の上で送るという海の民、それがサリサの一族である。かつては七つの海を又にかけた海賊稼業で大いに鳴らした武装種族。しかし、最新鋭の火器を備えたルーンミッドガッツ王国の船団が海でも幅を利かすようになると、彼らの活動範囲は狭められ、時代の流れに押し流される格好でとうとう、王国に隷属する立場となった。
 (王国に海を削り取られて、隷属させられて、人質同然で秘密部隊に徴発されて、結局最後はその王国に殺される……か)
 苦い物がこみ上げる。
 (だけど……戦って死ぬならまあ上出来かい!)
 『誇り高き海の民』と、人は呼ぶ。
 彼女にとって『誇り』とは、自分の道は自分で選び、そして何であれその結果を受け入れる、その覚悟のことをいう。
 自分の生と死を、他の何かや、他の誰かのせいにしないこと、その決意のことをいう。
 (最後に良い戦友と出会えたんだから、それもアリだろさ。そうだろう? サリサ・ゾシマ!)
 自分で自分にハッパをかける。
 今、彼女と肩を並べて戦う仲間も、ついに合流できなかったリーダーとタートルコアのメンバーも、そしてユークレーズとヨシアも、この同じ戦いを精一杯戦っていることを、彼女は疑わない。
 ならば自分も戦うだけだ。結果が死だとしても、それはそれだ。
 「……よっしゃあ、皆ついて来な! タートルチームの意地を見せてやれ!」
 左手の巨盾を抱え直し、右手の斧を握り直す。背丈こそ小柄だが頑強な身体に気合いをみなぎらせ、敵の陣のど真ん中に斬り込む。
 攻撃は最大の防御、と言う。このまま逃げ回ってジリ貧になるよりは、正面突破で死中の活を拾う。何とも彼女らしい決断だった。
 そしてこのサリサの決断こそが、チームを救う決定打なる。
 「姐さんっ! サリサ姐さんよぉっ!」
 激しい剣戟の音の向こうから、自分の名を呼ぶ声が届いた。
 「……! その声は、ヨシアかいっ!?」
 鳥肌が立つような思いで、サリサが叫び返すのへ、確かな返事が届く。
 「おうよ! 姐さん、ユークもいるぜ!」
 ウロボロス4を半分包囲しかけた敵の軍勢の、その向こう。スキンヘッドの頑強なモンクと、小柄なプラチナブロンドのプリーストのコンビが今、まさにワープポータルの転送を終えた所だ。
 「ユークも! ……よく無事で!」
 「こっちも会えて嬉しいぜ姐さん。……だけどすまねえ、敵を連れて来ちまった!」
 ヨシアの叫びの通り、その後方に敵の姿が次々に出現する。ユークレーズの出したワープポータルを追跡されたのだ。ヨシアがすかさず攻撃するが、今度ばかりは数が違いすぎる。
 「今行く! 待ってなよ!」
 サリサはひときわ大声で叫ぶと、
 「スヴェニア中尉、ヨシア少尉の両名を保護する! ハンマーユニット、突貫!」
 敵の包囲陣の中央をぶち割って突出していた事が、逆に幸いした。ヨシアとユークレーズのいる場所まで、それほど距離はない。
 「おらッ! 退かないと轢き殺すからねっ!」
 敵に向って威嚇しておいて、がっ、とその両足を開き、ぐっ、と腰を低く落とす。
 次に上体を前に倒し、左腕の巨盾を背中に背負うように、地面と水平に構える。盾から生えた鋭い衝角が、まるで甲虫の角のようだ。
 だから、その名もそのままに『甲虫術(ビートルアーツ)』。
 サリサの出身部族に伝わる、重装甲を利用した突貫技術。サリサ・ゾシマをタートルチーム、ハンマーユニットのトップたらしめる、オリジナルかつユニークな戦闘技術がこれだ。
 「でぃやぁあああ!!!!」
 巨大な甲虫が地を這うように、サリサが突進した。『女性美』という観点からはいささかボリューム過剰な彼女の下半身、それが今、信じられないようなトルクを発声させて大地を蹴る。
 「『ゴキブリ』って言ったヤツから殺すっ!」
 いや誰もそんな事は言っていないのだが、これがサリサなりのお約束というか、気合いの入れ方なのだろう。
 「!」
 敵に驚く暇さえ与えず、さながら甲虫の角のような衝角が、まるでそこに目があるかのように正面の敵の喉笛を真下からぶち抜いた。
 しかも、それだけでは止まらない。既に死体となったその敵を衝角に引っ掛けたまま突進する。
 一瞬、腰が引けた敵の包囲陣を、今度はサリサの斧が襲った。といってもこの超低重心の態勢からでは、通常の斧使い(アックスワーク)は不可能である。
 その右手の片手斧が狙うのは、敵の膝から下。伏せられた盾と地面の隙間から、目にも止まらぬ横薙ぎの一閃。たったそれだけで、敵の足首が枯れ木のように斬り飛ばされる。
 「ぎゃっ……!」
 あっという間に3人、喰った。いずれも重装甲の騎士やらクルセイダーだが、サリサが狙う『足元』という部位は元々、非常に防御しにくい場所である。その上、サリサの『甲虫術』があまりにもユニーク、というかはっきり言えば『邪道』であるために、初見ではどう対応していいのか分からない。戸惑っているうちに、気がつけば接近され、その足に斧を叩き込まれている。
 さらに2人、うち1人は一薙ぎで両足を持って行かれた。
 「このっ!」
 やっと多少の落ち着きを取り戻した敵が、サリサに剣を、あるいは槍を叩き込む。だが、この重装甲。そして信じられないほど低く構えたポジション。背中の盾が剣を跳ね返し、最初に刺し殺した敵をやっと振り落としたばかりの衝角が、槍の一撃をしぶとく逸らす。
 恐るべき肉食の巨大甲虫、その脅威に敵が気づく頃には、またあっという間に距離を詰め、膝下を狙った一閃を撃ち込んでいる。
 ウロボロス4を分厚く包囲したはずの敵陣、その一角が今、確実に割れていた。好機。それを黙って見ている阿呆など、少なくともタートルチームには1人もいない。まして打撃班ハンマーユニットが、トップ1人に突撃させてじっと見ているワケがなかった。
 「姐さんに続けぇ!」
 サリサの作った突破口に、騎士が、パラディンが、複数でチームを組んだ密集隊形のハンマーユニットが全力で斬り込む。小さな突破口に楔を打ち込み、引き裂き、傷口を広げるのだ。さらにそのポイントを狙って、後方から矢や魔法の集中攻撃が叩き込まれる。彼らはいずれも、少人数ながらその火力を最大に生かすために、一点への集中攻撃を徹底的に訓練されている。もちろんこれも、リーダーである一条流の指示だ。
 突破口を楔でこじ開け、さらにそこに焼けた鉛を流し込むような容赦ない攻撃に、さしもの敵も短時間ながらその陣形を大きく崩す。
 サリサの狙いは当った。一時的ながら、敵の包囲を突破したのだ。
 「ユーク! ヨシアっ!」
 だだだだーっ! と盾を背負ったままのサリサが2人の元へ駆け寄る。ヨシアが後続の敵に奮戦しているが、既にその数は単騎でどうにかなるレベルを超えている。一刻の猶予もない。
 「サリサさんっ! り、リーダーは?!」
 ヨシアに治癒と支援の呪文を贈り続けていたユークレーズが、駆けつけたサリサに血相を変えて訊ねた。だが、サリサはそれには応えない。
 「話は後だユーク! リーダーからアンタに命令だ! 『x4の使用を許可する』!」
 「!」
 「復唱は!」
 「!? あ……『x4使用許可』、了解!」
 乱戦に次ぐ乱戦、混戦に輪をかけた混戦。修羅場慣れしていないユークレーズは、明らかに混乱している。
 (……無理もない。今、ここにリーダーがおられないって事は、今は内緒にしとく方がいいね)
 こちらは修羅場慣れどころか、修羅場で生まれ育ったサリサである。状況を読むのは素早い。あの一条流が彼女を、女性ながら打撃班のトップに据えているのは、その戦闘能力もさることながら、この『戦闘勘』というものを高く評価しているためだ。
 「味方と合流するよ。来な、ユーク!」
 サリサがわざと、頭ごなしに『命令』する。小隊長であるサリサはヨシアと同格、つまり階級上は少尉であり、ユークレーズより下である。が、ヨシアがこれまでさんざんやってきたように、修羅場ではサリサが主導権を握る。こういう命令系統の逆転は、近代の軍隊でも普通に起きる事である。士官学校を出たばかりの少尉さんより、さんざん現場を渡り歩いた軍曹、曹長クラスの方が、前線では主導権を握る、というケースは珍しくない。
 とはいえ、ここまで容赦なく上官を呼び捨てにすることはまあ、そうあることでもないだろうが。
 「アタシの盾の下に入るんだ、ほら!」
 「はい、サリサさん!」
 ユークレーズも逆らわない。身体を低くして、サリサの盾の下に潜り込む。
 「……姐さん、そいつ、頼んだぜ」
 ヨシアの声が、盾の上から届いた。それはまるで……
 「……ああ、任せな」
 「ヨシアさん?!」
 ユークレーズが色を失う。それはまるで『別れの挨拶』。
 「オレは走れねえ。行け、ユーク」
 ヨシアの、何でもないという調子の声が響く。金剛状態のモンクは、その圧倒的な防御力と引き換えに『速度』を奪われる。今のヨシアは、走れない。
 サリサとユークレーズに、ついていくことはできない。
 「それにここ、止めとかねーとな! ぐずぐずすんなユーク、リーダーんとこ行くんだろが!」
 力強い言葉でユークレーズの背中を押すヨシアの姿は、ユークレーズからは見えない。だが今この瞬間も、その五体に剣を、槍を、斧を、矢を、銃弾を、魔法さえ豪雨のように浴びせられているはずだ。それでも手当り次第に敵を捕まえ、関節を極め、骨を折り、腱をねじ切り、気管を潰して戦っているだろう。
 轟、とヨシアの咆哮が響く。
 斬れず、焼けず、貫けず。しかし近づけば殺される。『絞め金剛』の恐ろしさを、存分に味わわせているだろう。
 それでも。
 だがそれでも。
 1人の戦いには所詮、限界がある。ヨシアとユークレーズが待ち伏せを受けたx3からの追っ手は今や、倍々ゲームでその数を増やしている。ヨシアの奮戦も、あとわずかで時間稼ぎにすらならなくなるだろう。
 「……走るよ、ユーク!」
 「ま、待って下さいサリサさん! ヨシアさんが……!」
 「行くよっ!」
 サリサが、その身体でユークレーズを突き飛ばすようにして走り始めた。今度は逆方向、ウロボロス4が陣を張る方向だ。
 そしてヨシアが戦う場所とは、逆の方向。
 「サリサさんっ! ヨシアさんを置いて行くつもりですか!」
 「置いて行きたかないよ!」
 ユークレーズの抗議に、返って来たのは絶叫だった。
 「……!」
 「置いて行きたかないさ! でもこれしかない……これしかないんだ!」
 ユークレーズに、いや自分自身に言い聞かせるように、サリサが叫ぶ。同時に、八つ当たりの様に斧を振るい、盾を捌いて敵を打ち倒していく。それでも、万全の待ち伏せ態勢を整えていた敵を、完全に崩す事はできない。ほんの僅かの時間、敵陣のほんの一角を貫けたに過ぎない。
 今のウロボロス4には、体勢をひっくり返す力はない。
 轟、とヨシアの咆哮が響く。
 その不屈の五体を余す所なく使って、サリサとユークレーズの退却路を守るために戦っている。
 だが今、誰もそのヨシアを救うことはできない。
 「これが……これがアイツの望みなんだ! アイツが望んだ事なんだよ!」
 サリサがまた叫んだ。
 「アイツ、ってヨシアさん……ですか?!」
 「そうさ!」
 かっ! とまた敵が1人、膝から下を吹っ飛ばされる。
 ずん! とまた一匹、ペコペコが喉を突き上げられ、乗り手もろとも地面に崩れ落ちる。
 「ウイングトップをやめて、チームを出て……アンタを守ること。それがアイツの、ヨシアの望んだ事なんだ! アイツ自身が直接、リーダーに望んだ事なんだよ!」
 「!?」
 サリサの盾に守られながら、戦場のど真ん中を走るユークレーズの身体が、がくがくと震えた。
 「アンタはタートルチームの、リーダーの宝物だ! リーダーとアンタさえいれば、チームは機能する!」
 サリサが言葉を継ぐ。叫ぶように。
 「リーダーは確かにキレ者だ。だけど、それを形にするにはアンタが必要だ。だからチームの他の誰を失っても、リーダーとアンタだけは失えない!」
 「……」
 「だからリーダーは、どんな時もアンタを絶対に守る護衛を必要とした。そしてアイツは……ヨシアはそれに応じた!」
 「……どうして……?」
 サリサの叫びを全身に浴びながら、ユークレーズが呟く。いや呟くことしかできない。
 「どうして……!」
 どうして?
 なぜヨシアが自分を?
 ユークレーズの問いに、サリサの叫びは答えない。
 それを、彼女がユークレーズに告げる事は、『ルール違反』だから。
 代わりに、敵をまた1人なぎ倒す。だが、敵の攻撃も激しさを増している。頑丈な盾ごと、サリサとユークレーズを叩き潰そうとするような猛烈な打撃が、真上から撃ち降ろされる。
 「がっ!」
 サリサが崩れそうになる腰を、渾身の力で立て直す。だが一瞬、動きの止まった重装の甲虫を、敵の魔法陣が捕らえた。
 「魔法が来るよ! ユーク!」
 「はいっ! さ、サンクチュアリ!」
 「馬鹿、違う! 息を止めな! 肺を灼かれる!」
 魔法攻撃に備えて、自動治癒の魔法結界を張ろうとしたユークレーズを、サリサが怒鳴りつける。最前線の中の最前線で、呑気な治癒結界など張っているヒマなどない。
 「!」
 ユークレーズが慌てて息を吸い込んだその瞬間、業火の魔法が叩き付けられた。
 盾の周囲が白熱し、盾の下に守られているはずの空間まで、灼熱の空気が渦巻く。耐火処理した制服や鎧はともかく、髪の毛など体毛は容赦なくチリチリと焼け焦げた。
 「熱つっう!」
 サリサが呻く。自慢の盾が白熱し、それを抱えた左手と背中まで高熱が伝わるのだ。だが、それでも己の命と見立てた盾は決して放さない。そしてまた、ユークレーズを突き飛ばすように走り出す。
 (……さすがだぜ、サリサ姐さん)
 その足音を、戦いを、背中に感じながら、ヨシアはその唇に笑みを作ろうとした。
 だが、それは笑みにはならなかった。
 笑みを浮かべるはずの彼の唇はもう、原型を止めないほどに損傷しているのだ。無敵の金剛状態とはいえ、擦過傷までは止めようがない。常人なら一撃で首ごとすっ飛んで形も残らないような一撃を、それこそ無数に受けて来た。唇は裂けて折れた歯が覗き、片目はもう眼球ごと潰れている。右の耳たぶがほとんど千切れて、ぶらぶらと揺れるのが鬱陶しい。
 それでも、ヨシアは倒れない。
 それでも、ヨシアは戦い続ける。
 (……ユーク)
 彼の背中から遠ざかって行く、少年の名を想う。
 
 『耐える時は、守りたいモノを想え。たいてい、守りたいモノが無いヤツから先に死ぬ』

 ヨシアがモンクの修行をした寺院の、先輩僧の言葉が蘇る。
 あの頃、ヨシアが耐えるために想ったのは、故郷の家族だった。
 
 『……ごめんよぉ、ごめんよぉヨシア。ごめんよぉ……』
 
 それは、母の声だ。口減らしのために、幼いヨシアを寺院に預ける時、母はそればかり呟いて、泣いた。寺の修行は厳しく、ほとんどの子供は一人前の僧侶になる前に死ぬのだと、彼女は知っていた。でも他にどうしようもなかった。
 ごめんよ、ごめんよと謝るだけだった。
 (……泣かないでくれよぉ、母ちゃん……)
 今はもう、思い出の中にしかいない母に、ヨシアは語りかける。
 (オレこそ、オレの方こそごめんよぉ……オレがもう少し早く一人前になって、村に帰れてたら……)
 皆、死なずに済んだのに。
 (だってよぉ、オレ、思わなかったんだよ……。父ちゃんや兄ちゃんが狩りにしくじって死んじまうなんて、思わなかったんだよぉ。だって父ちゃん、あんなに強かったじゃないかよぉ。ポポリンだって、ポイスポにだって、負けた事なんかなかったじゃんかよぉ。村にウルフが襲って来た時だって、父ちゃんや、兄ちゃんたち皆で追い払ったじゃんかよぉ……)
 分かっている。
 それがただの、子どもの幻想だと、今なら分かる。真っ当な冒険者なら鼻歌混じりで片付けてしまうような低級モンスターに、命がけで挑まねばならなかった父や兄。その帰りをじっと待つしかなかった母と、弟妹。
 (それが……それが何で、大狐や化虎なんか狩ろうとしたんだよぉ。敵うワケないじゃんかよぉ)
 でも、どうしようもなかったのだ。締め上げるような飢饉や重税を前に、一発逆転に賭けるしか、もう生きて行くすべがなかったのだ。
 (オレだったら……今のオレだったら! そんなの素手でも絞め殺してやるのによぉ! ごめんよぉ! ごめんよぉ!)
 間に合わなくてごめんなさい。
 守れなくてごめんなさい。
 守るモノのない『金剛』に、もはや存在価値などない。生きていても仕方ない。
 だから、寺を出てウロボロス4へ来た。思えば、ずいぶんとヤケになっていたものだ。
 だが、そこで出会った『上官』を見て、ヨシアはえらく驚いた。細っそくて奇麗なプラチナブロンドに、これまた細っそくて軽そうな身体。
 お貴族様の、奇麗な顔。
 最初は反発して、イジめた。わざと命令を聞かず、顔を合わせればからかった。
 からかわれた年下の中尉殿が、真っ赤になって本気で怒るのが面白かった。
 そのうち、それが楽しくなって。
 その時間を、何よりも楽しみにするようになって。
 いつしか。
 そう、いつしか。

 『守りたいモノを想え』

 がつん! と、巨大な槍がヨシアの胸板を直撃した。服も防具もとうに破壊され、胸板の筋肉もズタズタに斬れて、骨が見えている。
 それでも、槍はヨシアを貫けない。
 逆に槍を掴んで捻り上げ、騎乗の敵を地面に落とす。
 「ようこそ、オレの寝床へ」
 もう、まともな言葉も出せない口で、なおそんな軽口を叩きながら、重装甲の鎧の重さに四苦八苦する敵に組み付き、絞め、折る。
 
 (……ユーク)

 いよいよ、思考が乱れ始めた。だが、ヨシアの身体は崩れない。
 想いも揺るがない。

 (……行けよ、ユーク。……お前の大事な、リーダーの所へ)

 轟!
 不屈の金剛が吼える。
中の人 | 第九話「金剛不壊」 | 18:04 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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