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外伝『Box Puzzle』(4)
   あっさりと腹をくくった。
 天津有数の武門・一条家の当主に生まれた自分だが、ここでつまらぬ喧嘩の末に死ぬなら、それが一条銀という男の運命なのだ。最後に面白い少年と出会い、小気味良い思いができた、それで十分ではないか。
 銀が外へ足を踏み出そうとした、その時だった。
 「黙りゃがれ! あの人はこの俺の、『桜新町の無代』の客人だ! 手前らみたいなゴロツキにゃ、指一本触れさせねえからそう思いな!」
 天を突くような気合いと共に、無代がそう啖呵を切ると、ばっ、と両手を広げて玄関を塞ぐ。
 「お客人を狙って俺の家ん中に押し入ろうてんなら手前ら……この俺を殺してからにしやがれ!」
 天晴、としか言いようのない口上だった。そして自らのテリトリーである家と、自分の客を何よりも大事にする、桜の丘に生まれ育った者の誇りを体現するような姿だった。
 銀の足が止まる。無代のあの口上を聞いてしまっては、下手な助け舟はただ彼の誇りを穢すだけである。
 (……よかろう、無代)
 そう腹をくくり直す。あの啖呵を切った以上、もはや無代は子供でも少年でもない。
 銀と同じ『男』であり。
 そして『戦友』である。
 ならば銀が今、しなければならないのは彼を助ける事ではない。

 共に戦い、共に死ぬ事だ。

 腰の帯から扇子を抜く。このお殿様、相変わらず脇差し一本帯びていない。武器とも言えないような扇子一本、それを持ったままでひょい、と玄関を出た。
 しかしこれは天下の智将・一条銀をして、遅参も甚だしい。そこはもう既に戦場である。
 男が2人、地面にうずくまっている。1人はうんうんと呻き、1人は痛え!痛え!と叫び続けていた。2人ともその足の、膝の裏からおびただしい出血がある。
 言うまでもない、無代の仕業だった。敵の足にタックルし、その膝の裏に噛み付いて靭帯を噛み切る。後に『伝承種(レジェンド)』の代表格である『鬼』に対してさえ一矢を酬いた無代の喧嘩殺法、その変わらぬ必殺技だ。
 当の無代は既に3人目の男に組み付き、その丈夫な歯を必死に突き立てている。ぐちん! というイヤな音と同時に、男が仰向けにひっくり返り、痛みに喚きながら転げ回る。
 「このガキゃあ!」
  残りの男達が無代に殺到するが、それを上手くすり抜け、また1人の男に組み付いた。無代には武道の心得などあるまいが、こと喧嘩となれば技や才能よりも、 胆力や思い切りの方が上回ることだってある。この少年にあの『泥竜』の血がどれほど継がれているか知らぬが、しぶとい事この上ない。
 が、しかしその喧嘩殺法も万能ではない。
 「『バッシュ』!」
 ごきん!
 「ぎ……っ!」
 男の足に今にも噛み付こうとしていた無代の身体が、一撃で地面に叩き付けられた。男は剣士くずれらしく、その攻撃スキルを喰らったのだ。低級なモンスターなら一撃で屠るスキルとなれば、さすが頑丈な無代でも耐えられない。
 「調子に乗んな!」
 男がその足で、倒れた無代の顔面を思い切り蹴り付けようとする。
 「!」
 少年の危機、だがそれに合わせるように銀が動いた。
 無代に注意が向いている隙を突き、するりと男に近づくと手にした扇子でひょい、と男の右目を突く。
 「ぎゃ……っ!」
 別に武道の技でも何でもないのだが、えらくタイミングがよかったためか、見事に男の眼球が潰れた。たまらず目を押さえて後退する間隙を縫って、銀は無代の側に膝をつき、その身体を助け起こす。
 「大丈夫か、無代」
 「……馬鹿、何してんだ金良さん、逃げるんだよこの『どじ』!」
 「ああ『どじ』だな」
 銀は苦笑する。現状は最悪、まさにどうしようもない。無代はさっきのバッシュの一撃で盛大に鼻血を噴いている。首の骨でなくて幸いだったが、代わりに鼻を骨折したようで血が止まる様子はない。
 「あんた、喧嘩なんか出来ないだろう! 逃げてよ! 早く! 逃げろって!」
 無代が必死に銀の胸を押す。だが銀は動かず、それどころか静かな笑みを浮かべてす、と立った。
 「確かに、私は喧嘩はしない。親子喧嘩も兄弟喧嘩も、夫婦喧嘩もしたことがない」
 何とも呑気な銀の台詞に、無代の顔に怒りすら浮かぶ。
 「金良さん!」
 「だがな、無代」
 ぱっ、と銀の手の扇子が開く。襲いかかろうとしていた男どもの動きが一瞬、止まる。
 「喧嘩はしないが、『戦』はする。……見せてやろう」
 すう、と銀の扇子が天を指し、ぱちん、と閉じられた。
 瞬間。
  どん! と耳をつんざく衝撃音と共に、無代の目の前の男が『真横』に吹っ飛んだ。ずざあ! とその身体が地面に削り痕を残し、数メートルも先に叩き付けられる。どう見ても即死。その手足の関節が、壊れた人形のようにバラバラに折れ曲がった中に、ぴんと一筋だけ真っすぐ突っ立っているのは『矢』だ。
 弓手のスキル攻撃。巨大なモンスターの土手っ腹にさえ風穴を開けるその威力の前には、非武装の人間など木偶も同然だった。
 「う……わ……あっ!?」
 残りの男どもが一斉に浮き足立つ。そこへ、新たな攻撃が襲いかかった。
 空気を引き裂くような音は矢。
 血の花を咲かせた後から響く轟音は銃声。
 銀と無代の2人だけを器用に避けて、雨のように降り注ぐ攻撃。なるほどそれは喧嘩の域を超え、確かに『戦』だった。
 わけも分からず逃げようとする男達の動きが、さらに凍り付いたように止まる。顔を真っ赤にして何とかもがこうとするが、一歩たりとも動けぬどころか瞬きすらできない。
 すう、と周囲の気温がなぜか急速に低下し、無代の吐く息までが白く色づく。
 氷。
 極低温の魔法の矢が、彼らの周囲に無数に降り注いでいる、などと無代に分かるはずもない。ほとんどダメージのないその矢に撃ちまくられ、男どもが動けないのだと知る由もない。
 どん!
 動けない男を矢が縫う。
 ぱん!
 動けない男を銃が弾く。
 実に淡々と、あっという間に10人の屈強な男どもが討たれ、動かなくなった。まさに一方的な蹂躙だ。
 戦場に静けさが落ちる。
 その静けさを、ざあ、という水音が破った。無代が顔を上げると、彼の家の向こう、剣竜川の川面を巨大な物がこちらへ向って来るのが見える。
 「……船!?」
 「『私の船』だよ」
 無代の『俺の船』に対抗したわけでもあるまいが、銀はちょっと自慢そうに言った。『銀の船』、それは天を突く2本の巨大なマストを持つ、大型の帆船だ。戦艦。

 瑞波中央水軍一番艦・『本丸霜鯨(ホンマルシモクジラ)』。

 遥か北の、氷の海を支配するという純白の魔鯨、その名を冠した一条瑞波水軍の旗艦。それは銀の死後『殉船』として瑞波沖の海に沈められるまで、天津中にその武名を轟かせた一条家当主の御座船である。
  また余談になるが既にこの時代、次の当主となるべき一条鉄のための新一番艦『本丸蝦蟇鯨(ホンマルガマクジラ)』、そして銀の息子・流のための二番艦『二 ノ丸飛鯨(ニノマルトビクジラ)』の建造は始まっている。若き日の野望に沿い、七つの海の制海権を狙う一条銀その人の指示だ。
 この先の銀の運命を思えば、この霜鯨もまた主である銀と共に、残り少ない命を生きるものだった。
 ざん、と霜鯨が着岸する。
  徹底的に訓練された水夫達が、素早い動きで甲板から梯子を下ろすそれより速く、優美な人影が一つ、甲板からひらりと地面に飛び降りた。魔術師のマントがひ らめき、艶やかな太腿が一瞬だけ露になる。変わらぬ愛靴であるヒール付きの軍靴。城ではちゃんと着物を着ているが、ここぞとばかりに戦闘服で装って来たら しい。
 余計な飾りなどない、夕暮れの薄闇すら照らす豪奢な金髪だけで十分。異国に嫁いで人妻となり、一子を成して母となっても、その容色は衰えるどころかますます磨きがかかったようだ。
 「心配をかけたね、巴」
 「……いいえ、心配などしておりません。殿様」
 一条家の正妃、一条巴(いちじょう ともえ)は、素っ気ない言葉とは裏腹に優しい笑みで答えた。
 「私よりも殿様、『佐里』によく謝っておいて下さいませ?」
 夕暮れの空気を颯爽と切って、銀の側に歩いて来た巴が、懐から一枚の手紙を出した。銀の鼻先に突きつける。
 「あの子が店から私に寄越した手紙。見て、このめちゃくちゃな字……よほどあわてたのね。これじゃ私の名前がヘビです。今頃きっと、真っ青な顔して仏様にお祈りしてるはずですよ」
 「うん、謝っておこう」
 銀も苦笑する。
 汲月楼の佐里。一条銀ご贔屓のその美姫の正体を知り、共に朝を迎えるまでに心を許したもう1人の人物。それが銀の正妻である巴、というのも妙な話ではある。
  だがあの孤独な異国の姫君は、この賢明で美しく、そして圧倒的に強い巴という女性を実の姉のように慕っていた。時には女2人酒を酌みながら、『お殿様』の 悪口で盛り上がることもあるほどだ。そのお殿様が桜町で危機に陥っていると知れば、即座に巴の所へ使いを出すのも当然である。
 「その方が『無代さん』? お怪我をなさっていますね」
  ある程度の話は伝わっていたのだろう。銀の側で尻餅をついたままの無代に、巴は優しく微笑むと側に膝をつき、自分のハンカチでその鼻血を拭ってやる。そし て懐から『ヒール』の呪文を封じた一巻きの巻物を出し、自ら唱えた。口の動きが見えないほどの高速詠唱は、魔法の心得などない無代にはチュン、チチチ、と いう小型鳥の囀りにしか聞こえない。だがその効き目は確かで、砕かれた無代の鼻から一瞬で痛みが消え、血も止まった。巴の手の中で、役目を終えた巻物が消 滅する。
 「はい、これでもう大丈夫。……夫がお世話になりました。本当にありがとう、無代さん」
 地面に両膝をついたまま、両手の指先を揃えて地面に触れさせ、深々と頭を下げる。無代の目と鼻の先を、この世で最も豪奢な金色の滝が、光を伴って流れ落ちた。
 「あ……いえ……あの……」
 気の効いた受け答えどころか、ろくに声も出せない。少年の無代にとって、あらゆることが予想外であり、規格外過ぎた。
 「では『桜新町の無代』、また会おう」
 銀が差し出す手を、呆然と握るしかできなかった。痩せて細い、しかし熱い手。
 くるりと背を向け、もう後も見ないで霜鯨へ向けて歩み去る銀。その背中を、もう一度改めて無代に深々と頭を下げた巴が追いかける。
 霜鯨が主とその妻を乗せ、再び帆に風を受けて大河の水を切った。天津にその名を轟かせる名艦の船足はさすがに速い。見る見る速度を上げ、無代の視界から消えて行く。
 だがその甲板に、銀色の髪と金色の髪が並んで揺れる光だけは、いつまでも無代の目に残った。
  気づけば、討ち倒された男達の死体はおろか、血痕さえも奇麗さっぱり消されている。彼らがどこの誰であれ『いた事すら無かった事になる』に違いない。この 町がいかに自己責任の町とはいえ、喧嘩を売った相手がお殿様で、水軍の旗艦が出て来てなぎ倒されるというのは少々、運が悪過ぎた。
 道の上で、ただ呆然と座り込んでいた無代がはっ、とようやく色々な事に気づき、船の去った後に向って土下座の姿勢を取った。が、ちと遅い。
 手の中の鼻血だらけのハンカチ。部屋の文机に記された文字。
 そして、握られた手の熱さだけが、この日の証として残された。

 一条銀と無代。
 瑞波の運命を大きく変える、2人の男の出会いはこのようであった。

 さて、夢のようで夢でない、そんな1日を過ごした無代だが、結局その事は誰にも告げないままで、また父の船に乗って次の航海に出た。
 商売品の寄せ木の細工箱、そこに銀のアドバイスを容れた事は言うまでもない。そして目的地のアユタヤで、無代は見事に王族の1人に謁見する幸運をたぐり寄せ、とてつもない大金を稼ぎ出す事に成功した。
  さらに無代、その王族の屋敷にしばらく居候し、厨房に入り浸ってアユタヤ料理のレシピをいくつか身につけたのだが、これが正解だった。異国の文物を買い付 けて帰るには知識も経験も不足している無代だが、『舌』となれば話は別だ。美味い、不味いに国境はない。だから、稼いだ金の一部でアユタヤ独特の調味料を 買い付け、瑞波へ持ち帰ったのだ。
 そして屋台を出した。
 『元祖・あゆたや焼き』という、目を覆いたくなるようなベタな商品名で売り出した料理だったが、折から瑞波が『アユタヤブーム』だったことも手伝って飛ぶように売れ、無代は一躍成功者として名を挙げることになる。そしてもう一つ。
 父の『火の顔』から声がかかった。
 「家に入って、店で働け」
 「断る」
 即座に断った。今まで放っておかれた親に才覚を認められたことはともかく、自分の未来まで搾取されるなどまっぴら御免だった。
 「だけど『抱え商人』なら入ってやってもいい」
 父の前で腕を組み、そう言い返した。
  無代の言う抱え商人とは、つまりは契約バイヤーのようなものだ。儲けの一部を店に上納する代わりに、店に住居や生活の面倒を見させ、店の船や隊商に便乗し て貿易する権利も持つ。当然、上納金以上の稼ぎが必要だし、赤字の補填もない厳しい契約関係である。大抵は店から独立した直後の若い商人が、自分の店を持 つ資金を貯めるために、元の店と契約するのが通常だ。間違っても、まだ十代前半の少年が言い出す事ではない。しかし、
 「上納は1割。あご・あし・まくらはそっち持ち。あごは店の賄いでいいし、まくらはこの店の長屋でいい。嫌なら他所へいく」
 無代、堂々と宣言したのである。蛇足だが『あご』は食費、『あし』は交通費、『まくら』は宿泊費だ。儲けの1割がこれに届かなければ店側の赤字だから、即座に解約となる。
  そんな無代に『火の顔』が何を思ったのか、それは分からない。だが結局、彼はまた無言でこれを許した。以来、天臨館を退学になり家を勘当されるまで、無代 はこの店のお抱えとして働くことになる。今度は船に乗っても雑用はない。その時間に、ひたすら勉強できたことは、これまた無代の地力の一つになっていく。
 契約が決まると同時に、生まれ育ったあの妾宅も出て(もちろん文机は持って行った)、店の人間が住む長屋に移った。自分の力と才覚で勝ち取った、自分の住処だ。
 さて、その住処で初めて過ごす夜の事。
 一人前に外で酒など飲み(青年無代は酒に強いが、この時はまだ少年だ)1人、自分の家に帰って水をがぶ飲みし、すり切れた畳の上にひっくり返った時だった。
 とん、とん。
 長屋の戸を叩く者がある。
 「……? 誰だい? 開いてるよ?」
 店の顔見知りでも来たか、と思って声をかけた無代に、しかし返事はない。代わりに、玄関の木戸が無言のままからり、と開いた。
 「?!」
 最初、幽霊でも出たのかと思った。無代の酔いが一気に醒める。
 ゆらり、と戸を潜って入って来たのは、布ですっぽりと顔を隠した若い女。性別と年齢は、僅かに除く黒い瞳で判別した。ふわふわと揺れる布と着物は、無代があの異国で見慣れたアユタヤ風。
 「誰だ?!」
 「……『桜新町の無代』様ですね?」
 少し異国訛りのある、しかしはっきりとした艶のある声。これが桜町でも指折りの美姫、あの『汲月楼の佐里』だと、無代が知るのは少し先の事になる。
 「無代は俺だ。何の用だよ」
 気合い負けしてなるものか、と無代はぐっと抑えた声を出す。
 「……我が主より、伝言をお伝えに参りました」
 女が、すっ、と無代の前に一枚の手紙を差し出した。何とも半信半疑ながら、無代がそっと手に取って開く。
 文面を折ったその目が、いきなり見開かれた。

 むだいよ

 おまえのたからものをあずかった

 かえしてほしくば

 しろへこい

 わたしをたおすことができたなら

 たからものはかえしてやろう

 「……!」
 無代が慌てて部屋を見渡すと、確かに彼の宝物が無くなっている。『文机』、それがどこにも見当たらない。
 「畜生……っ!」
 もう一度、手紙を睨みつける。短い文面の最後に、署名。

 てんじょううらのまおう

 「ふっ……ざけんなあああ!」
  無代が真っ赤になって吼えた。どこの誰かは知らないが、悪ふざけにもほどがある。いや、どこの誰かは分かっている。わざと漢字を使わず、ひらがなだらけの 手紙だが、無代はそれに見覚えがある。いや文字に見覚えがあるのではない。それを書いた人間の姿をくっきりと思い浮かべる事ができるのだ。
 字を見ず、人を見て憶えた、あの夕暮れの時間が無代の脳裏に蘇る。
 ただ、それがなぜこんな事をするのか、その事となるとまるっきり理解不能だった。
 「なんだよこれ! どういうつもりだよ!」
 「多分、主の悪戯でしょう。ここのところ退屈していらっしゃいますので」
 しれっ、と答えた女の目が笑っている。それを見て、無代の意地に火が付いた。
 「……馬鹿にしやがって……この無代様をナメんじゃねーぞ!!」
 どれだけ受け継いだのかもわからない『泥竜』の血が滾る。気合いと根性だけで練り上げ、桜の丘生まれの土生骨が軋む。
 「お受けになりますか? お城までお送りしますよ?」
 無代のキレっぷりが面白いらしく、女がちょっとからかうように言う。
 舐められている、と思うと無代、本当に血が沸騰しそうになる。いいとも、やってやろうじゃないか。たとえ相手がどこの誰でも、たとえ『瑞波のお殿様』でも知った事か。

 「よっしゃあ! 俺をお城とやらへ連れて行きやがれ! その『天井裏の魔王』とかって野郎、きっちりぶっ飛ばしてやらあ!」

 無代、十四歳。
 ついに開かれた冒険の幕の、その向こうへ。

 そして一条銀、四十四歳。
 人生最後の物語の、その向こうへ。

 おわり
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