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第十一話「Mothers' song」(1)
 『それ』は夢を見ていた。

 夢と言っても『それ』の見る夢は、普通の人間が見るそれとは少し違う。
 一般に『夢』とは、眠っている間に脳が過去の記憶をランダム再生した、その結果として現れるものだ。内容が支離滅裂だったり、歓喜や恐怖といった感情がやたらと強調されるのもそのせいである。
 対して『それ』の見る夢には、そのランダム性がまったくない。つまり過去に体験した記憶がそのまま、ほぼ完全に再生されるのだ。なにせ単なる視覚再生だけでなく、聴覚や嗅覚といった『五感』までも再現されるわけだから、もうそれは夢であって夢ではない。まるでタイムマシンに乗って過去へ行き、その時間をもう一度体験しているようでさえある。
 それはこんな夢。こんな記憶。

 夜。
 空に、音がしそうなほど冴えた三日月が明るい。
 その月を、天井に開いた大きな穴を通して、『それ』は見上げていた。
 木造の、しかしかなり頑丈に作られている建物の中。だがその建物は、いっそ見事なくらいに崩壊していた。屋根は7割方が吹き飛び、四方の壁も似たような状態だ。
 外身がそうなら、中身はもっとひどい。
 内部に作られていた巨大な『飼育ポッド』は、10個のうち9個が跡形も無く破壊されている。粉々になって床一面にぶち撒かれた強化ガラスが、月光に照らされて白い砂漠のよう。唯一残ったポッドも、円筒形のガラスを持ち上げていた天井そのものが破壊されたため、今はばったりと横倒しになっていて、とても無事とは言えない有様だ。
 音は無い。建物の周囲は深い針葉樹の森に囲まれ、そこから虫の声が届いて来るのだが、それは逆に建物の内部の不気味な静けさを際立たせるだけだ。
 幼児ほどの大きさの『それ』は、静けさだけが支配する建物の真ん中に一人、長い時間立っていた。砕けたガラスの砂漠に、その脚が半分埋もれていて、そこから奇妙に蒼い影が少しだけ、落ちている。どれくらいそうしていたのか、天井の穴から見える三日月が、空の上をかなり動いた頃。
 建物の外から、初めて人の声が届いた。

 「こんばんは。……お邪魔していいかしら? あ、『玄関』って、ここでいいのかな?」

 女性の声。
 そして何とも力の抜けた、しかもちょっと的がズレた挨拶。そこに『それ』がいることは、あらかじめ承知していたようだ。
 実際、壁の7割が吹っ飛んだ建物をつかまえて『玄関』もへったくれもないのだが、彼女が入って来た場所は偶然にも、元々は玄関であった場所だった。とはいえ今は玄関どころか壁も、ついでに屋根までまとめて奇麗に消し飛んだ穴、というかただの空間である。
 その空間に現れた彼女の姿を、『それ』は見た。
 どちらかと言えば小柄な、しかし野生の雌鹿のように引き締まった身体。だが決して貧相な印象はなく、それどころかその胸や腰には、成熟した女性らしい豊かさをたたえている。細い首の上に乗った小作りの顔と、ピンクがかった独特のブロンド。その髪色に合わせたような薄紅色の衣装は、『ソウルリンカー』と呼ばれる職業のものだ。やや堅く軍服風にアレンジしてあるものの、それでも彼女の女性的な魅力を損なうには至っていない。
 しかし、彼女を最も魅力的に見せているのは決してその容姿ではない。
 雰囲気。
 オーラ。
 色々な言い方があるだろうが、まずはその表情。ふんわりと優しく、そして何もかもを『許す』笑顔だろう。
 そして彼女はその笑顔で、
 「素敵なお家……あーいえ、うん。素敵なお月様ね」
 さすがに言い直しながら近づいて来る。砕けて散らばるガラスの砂漠が、その足元でしゃり、しゃり、と奇妙に美しい音を立てた。
 静けさの中で一人ぼっちだった『それ』は、本音を言うとちょっぴり寂しくなっていた所だったので、その音と人の気配に少し安心する。
 そして彼女がもう一度、あの笑顔を見せた時。

 『それ』は、彼女を食べた。

 その小さな体内から、本体の数倍もある捕食器官を超高速で射出。相手を頭から飲み込み、さらに捕食器官内にある強力無比の消化器官で瞬時に溶解・液状化。次いでそこから余計な水分だけを絞り出し、ほんの一握りにまで圧縮しておいて、捕食器官ごとすぽん、と体内に戻す。わずか数秒の食事。
 だが食事を終えたはずの『それ』は、奇妙な感覚に首を傾げた。食べたはずなのに、お腹が空っぽ。
 (……?)
 疑問を感じたその瞬間。
 「めっ!」
 ごつん!
 『それ』の頭の上に、拳骨が降ってきた。
 「ダメよ。挨拶もしないでいきなり食べちゃうとか。特に女の子相手に」
 生まれて初めての体罰、続いてお説教。
 「んしょっと」
 『それ』は、自分の身体がひょい、と抱き上げられるのを感じた。
 目の前に『彼女』の顔がある。さっき食べたはずの彼女がなぜか、食べる前と寸分変わらない姿でそこにいた。
 『それ』は本能的に危険を感じ、全身から戦闘用の器官を露出させようともがいた。爪、牙、触手、敵の身体を傷つけるための器官が『それ』には備わっている。攻撃し、制圧し、そして『食べる』ためだ。
 だが……

 おやすみなさい かあさんの胸で  


 彼女に抱かれた『それ』の耳に、歌が聴こえた。彼女が歌う、それは子守唄。 


 おやすみなさい かあさんの胸で

 悲しみやわらぎ 心やすまる
 
 アラル アラメ アラル アラメ 
 
 アラル アラメ アラル アラル アラメ

 『それ』は、ガラスの飼育ポッドの中で生を受けてこのかた、『歌』というものを聴いた事がなかった。だからこの歌は、『それ』が生まれて初めて聴く『歌』だった。
 そして歌というものが、信じられないほど心地よく、そして美しく響くものだと、『それ』は初めて知った。
 正直言うとまだ少し怖かったのだけれど、でも彼女を傷つけたり食べてしまったら、その歌もまた消えてしまう。そしてもっと、もっとその歌を聴いていたかったので、『それ』は彼女を傷つけるのも、食べるのもやめた。

 こわがらないで ヘロデのことを

 この子守唄を 聞いておやすみ

 アラル アラメ アラル アラメ 

 アラル アラメ アラル アラル アラメ

 素朴で美しいリフレインを何度か繰り返して、その優しい歌を終えると、彼女は『それ』の顔を覗き込み、 
 「めっ!」
 その可憐な目をわざわざ釣り上げた。それで精一杯、怖い顔をしているつもりなのだろうが、残念ながら余計に可憐なだけだ。
 「『ごめんなさい』は?」
 自分では怖いつもりのその顔で、じーっ、と『それ』の目を見る。

 「……ごめんなさい」

 また自分の知識の中を探り、『それ』は言葉を探し出した。謝罪の言葉。
 「ん」
 怖い顔が笑顔に戻る。でもまあ、可憐さはあんまり変らない。
 「貴方一人? ほかの人は?」
 問われて、『それ』はまた知識を繰り、そして答える。
 「たべた」
 彼女の眉が曇るのを見て、『それ』は困った事になった、と思う。
 「ごめんなさい……?」
 「ん? ああ、んー……」
 彼女はちょっと首を傾げたが、
 「それはまあ、いいかな。貴方が悪い、ってワケじゃないし」
 ふむ、と溜め息をつく。
 「みんな貴方が食べちゃったの?」
 「ううん」
 『それ』は首を振った。
 「にんげんを、みんなにたべさせた。そのあと、みんなを、ぼくにたべさせた」
 「? 『食べさせた?』 誰が?」
 「『はやみあつし』」
 その名を聞いて、彼女の目がまた曇ったようだった。
 「それはいつの事?」
 「ゆうがた」

 それは、夕方の事だった。

 『これまでだ! 忌々しい老いめ! 忌々忌々忌々忌々忌々忌々しい病め!! もう明日までも生きられん! 終わりだ! ならば終わりだ! これで終わりだ! そして始める! ここから始める! 終わりの始まり! 始まりの終わりだ!!!』
 『はやみあつし』が突然そう叫び出したのを、『それ』は飼育ポッドの中から見ていた。
 叫びながら、デスクの上にあった毒々しい色の薬を太い注射器に取り、自分の腕に荒っぽく打ち込む。わずかな時間の命と引き換えに、人間に最後の力を与える麻薬だとは、『それ』にはわからない。
 麻薬が効いたのか、速水は老人とは信じられないような力で、隣室の食堂から次々に人間の死体を運んできた。
 速水が自ら夕食に毒を盛り、部下の研究員を皆殺しにした、とも『それ』には分からない。続いて『それ』を除く9つの飼育ポッド、その全てに大量の薬を投入する。それは生物の理性を完全に奪う興奮剤、しかも下手をすると死に至るほどの投与量だと、今度は『それ』にも分かった。
 10個の育成ポッド、そのうちの9個に収まった9匹の仲間達が、一斉に荒れ狂う。
 胸が悪くなる様な光景だった。
 竜の首。
 亀の脚。
 悪魔の胴体。
 人の手。
 獣の尾。翼。爪。触手。牙。粘膜。毛。針。鱗。羽。
 およそ考えうる、あらゆるモンスターの器官をごっちゃに備えた人造生物が、その異形を競い合うように荒ぶり哮る。音に聞こえる異国の難関ダンジョン、その最奥のフロアでさえここまで酷くはないだろう。
 人造合成モンスター、通称『キメラ』。
 『次回の聖戦』に備え、人間が魔物に対抗する手段として、秘密機関『ウロボロス8』により研究されてきた異形の生命。 
 その極致とも言うべき9体が、飼育ポッドのガラスを内側からぶち砕き、研究所の床に脚を降ろしていく。そこには所狭しと並べられた研究員達の死体。
 『喰え!!』
 速水の叫びと共に、異形の晩餐が始まった。大量の興奮剤と、同じく大量の血肉によって狂い果てた9匹の魔物が、研究所の床を、天井を、壁を、勢い余って破壊していく。
 マナーの欠片もない、食前酒もデザートも給仕も何もない、おぞましいメインディッシュのみの悪趣味な晩餐。
 異形の聖餐。
 そしてメインディッシュが平らげられると、速水は最後のポッドを開き、『それ』に向かって言った。
 「そいつらを喰え! 全部だ!」
 速水によって創られた『それ』にとって、速水の言葉は絶対だ。
 『それ』はポッドを飛び出すと、仲間達を次々に食べた。仲間達の荒っぽい食事に比べれば、『それ』の食事は極めてスマートと言える。数倍、下手をすると数十倍もある仲間を、捕食器官ですっぽり飲み込むと、暴れる暇すら与えずに消化・吸収する。
 9匹全部を平らげるのに、ものの数分とかからなかった。
 残ったのは『それ』と、破壊され尽くした研究所と。そして……。

 「俺を、喰え」

 『ウロボロス8』・速水厚志の、それが最後の言葉になった。
中の人 | 第十一話「Mothers' song」 | 20:00 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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