05
--
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
--
>>
<<
--
RECOMMEND
RECENT COMMENT
MOBILE
qrcode
OTHERS
(c)
このページ内における「ラグナロクオンライン」から転載された全てのコンテンツの著作権につきましては、運営元であるガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社と開発元である株式会社Gravity並びに原作者であるリー・ミョンジン氏に帰属します。 © Gravity Co., Ltd. & LeeMyoungJin(studio DTDS) All rights reserved. © 2010 GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved. なお、当ページに掲載しているコンテンツの再利用(再転載・配布など)は、禁止しています。 当ページは、「ラグナロクオンライン」公式サイトhttp://www.ragnarokonline.jp/(または、ガンホーゲームズhttp://www.gungho.jp/)の画像(またはテキスト)を利用しております。
ro
ブログランキング
にほんブログ村 ゲームブログ ラグナロクオンラインへ にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
ブログランキング
LATEST ENTRY
CATEGORY
ARCHIVE
LINKS
PROFILE
SEARCH
<< 第十一話「Mothers' song」(1) | top | 第十一話「Mothers' song」(3) >>
第十一話「Mothers' song」(2)
  「自分を食べろと、彼がそう言ったのね?」
 「うん」
 彼女の質問に『それ』は答える。聞いた彼女はしばらく目を閉じ、じっと何かを考えていたが、やがて目を開くと、
 「ねえ、憶えている? 貴方とはね、ずっと前に一度会っているのよ? 貴方がまだ生まれたばかりの頃」
 「……?」
 『それ』はちょっと首を傾げたが、すぐに記憶の中からその記憶を探し出した。
 そうだ、確かに会っている。
 それは『ウロボロス8』の研究所が天津に移される前、まだプロンテラにあった頃。『それ』がまだ飼育ポッドの中で、ほんの指先ほどしか成長していなかった遠い日の、だが鮮明な記憶。

 今とは別の、古い飼育ポッドのガラス越しに『それ』は彼女を見た。ただ、余りにも今と格好が違っていたため、すぐには気づかなかったのだ。
 なにせ記憶の中の彼女は、裸の身体に大判のタオルを巻き付けただけ、足は素足にスリッパという、何とも見事な格好。その背後で、速水厚志が何やらしきりに喚いているのが見えるが、彼女は毛ほども気にしていないようだ。両手で自分の顔を覆い、必死で喚く速水の様子から、彼女に『何か着ろ』と言っているらしい。が、その時の『それ』にはまだ、言葉を理解する力はない。
 やがて彼女はその格好のまま、飼育ポッドに取り付けられたお粗末な鉄の梯子に足をかけ、愛想の欠片も無いスリッパをパコパコ言わせながらそれを登った。速水の喚きが絶叫に変った所を見ると、下からはさぞや『絶景』であったのだろう。
 そして飼育ポッドの上部、薬品や食物の投入口となっている蓋が無造作にぱかん、と開き、
 ぽたり。
 巨大なガラスの筒を満たした飼育水の、その一番上に、何か小さなものが落ちた気配。
 (……?) 
 『それ』がそっと見上げた先には、小さな投入口から面白そうに下を覗き込む、彼女の目。
 そしてゆっくりと落ちて来る、真紅の粒。揺らめくルビーのような、真っ赤な液体。
 血。
 それは血だった。彼女が、恐らくは自分の指先かどこかから絞り出した、たった一滴の血液が、ゆらゆらと揺れながら『それ』の眼前に落ちてくる。
 ぱくり。
 ほとんど本能的に、『それ』は目の前に落ちて来た血を食べていた。そしてこれも本能的にこくん、と飲み込む。
 それにどういう意味があったのか、それまで顔を覆ったままだった速水が、突然黙り込み、あの狂気に近い目で『それ』を凝視しているのを感じる。
 梯子を降りた彼女が何かを話しかけても、速水は反応しない。彼女は剥き出しの奇麗な肩をすくめ、一瞬だけその視線を『それ』に投げた後、スリッパをペタペタ鳴らしながら飼育部屋を出て行く。その後ろ姿を見送る事もせず、速水は『それ』を見つめ続け、そして小さく呟いた。

 『……終末ノ獣(リヴァイアサン)』 

 まだ言葉を理解しない『それ』の脳裏に、言葉の響きだけが焼き付いた。
 リヴァイアサン。
 それは、地上のあらゆる生物・そしてモンスターの特性を兼ね備えた究極の魔物……どころか、時には『神獣』とさえ認識される伝説上の存在だ。
 『一にして全、全にして一』を体現する究極の生命体。そして世界の終末を告げに現れるという、断罪の獣。もちろん、その概念はあくまで伝説・神話上のものであり、現実には存在しない形而上の獣である。
 当時の『それ』に、そんな知識はない。ただその言葉の響きだけを、心に焼き付けただけ。
 それだけの、短い記憶。
 「……ぼくは、あなたの、ちをたべた」
 「よく憶えているわね。そう、貴方は私の血を取り込んだ」
 『それ』の言葉に、彼女が謎めいた笑いを返す。
 「心身の精密検査と血液の提供、それが彼との契約だったから。……でもこんな事になるなんて」
 何を思うのか、彼女は少し表情を暗くする。
 「あまり嬉しくないというか、正直なところかなりイヤだけど……。まあどんな形であれ、殿方に好かれるのは女の甲斐性、と諦めるべきなのかしら……?」
 ふー、と小さな溜め息。
 「『霊威伝承種』の裔たる私の、その生命情報を取り込んだこの子と、貴方自身との融合……。『神』にでもなるつもりだったの?」
 彼女は『それ』に向って問いかける。だがその問いは『それ』に向けたものではない。
 「聞こえているのでしょう、速水博士? 肉体を捨て、魂魄だけになって、その子の中でずっと生き続ける気分って、どんなものなのかしら?」
 彼女の問いに、返事はない。しないのか、できないのか、それは分からないが。
 「でも、本当は貴方だって気づいているはずよ、博士。たとえこの子に取り憑いて、この世の全ての命を食い尽くしたとしても、貴方は決して神になんかなれない」
 寂しく、哀しく、しかしきっぱりと、彼女は言った。
 「ただ独りぼっちになるだけよ」
 そして彼女は『それ』をしっかりと抱き直すと、
 「いい? 私の言う事を良く聞いて」
 「うん」
 『それ』は素直に応えた。命令でも指示でもない、彼女の言葉がなぜか、すとんと心の中に落ちて来る。
 「もう二度と、人を食べてはいけない」
 「うん、もうたべない」
 『それ』がうなずく。彼女もうなずく。
 「独りぼっちていてはいけない。貴方は人に化けられるわね?」
 「うん」
 「なら人になって、人の中で生きなさい」
 「どうして……?」
 「貴方はもう、『寂しさ』を知ってしまった」
 彼女が優しく、でも少し申し訳なさそうに言う。
 「独りぼっちの寂しさは、知らない間に貴方を狂わせてしまうから」
 「うん」
 『それ』はまたうなずく。
 「そして優しい嘘をついて、生きていきなさい」
 「やさしいうそ?」
 「そう」
  彼女の笑顔が深くなる。
 「貴方の本当の姿を隠して、でも誰も傷つけないように。誰よりも優しい『嘘つき』に、貴方はなりなさい」
 「……うん」
 『それ』がもう一度うなずいた時、建物の外から音が響いた。大人数の、それも武装した集団が近づいて来る、と『それ』は判断する。恐怖と警戒で身体を震わせる『それ』を、彼女は優しく抱きとめ、
 「お別れね」
 寂しそうに、そしてとても申し訳なさそうに、彼女は微笑んだ。
 「本当はね、私はもうこの世界にはいない。今の私はあの時、貴方にあげた一滴の血に込められた『残留思念』。私という存在の残響のようなもの」
 「……?」
 「分からないわよね……ごめんなさい。でも私達の運命に巻き込んでしまった貴方に、私がしてあげられる事はもう、これぐらいしかない」
 彼女は抱き上げていた『それ』を床に降ろす。
 「……さよなら?」
 『それ』が知識の中から『別れの言葉』探し出す。生まれて初めての別れと、生まれて初めての痛み。
 しかし彼女は優しく笑うと、それとは別な言葉を贈ってくれた。
 「またね」
 身体を屈めて、『それ』の額に軽くキス。そして、
 
 「行きなさい。貴方を待っている人達がいる。……未来で」

 その言葉の意味を問いただす暇すらない。
 ふっ、と、彼女の姿が消えた。残り香一つ、温もりの一つさえ残さない、まさにかき消すような、それは消え方だった。
 いや、そこには最初から誰もいなかったのだと、『それ』は気づく。その証拠に、彼女が確かに踏んだはずの、砕けたガラスの砂漠には、足跡一つ残っていない。
 また彼女に抱き上げられていたはずの『それ』の脚も、抱き上げられる前と変らず、ガラスの砂の中に半分埋もれたままだ。

 幻。
 『それ』の意識の中に、どこからかひっそりと忍び込んだ、二重写しの記憶。彼女の息づかいや、肌の温もりまですべてが偽り。
 だが『それ』にとって、偽られたことは少しも嫌ではなかった。逆にその記憶こそ、飼育ポッドで生まれてから自由になるまでの、無数のろくでもない記憶の闇の中にそっと置かれた、ほの暖かい灯火のような宝物だった。
 『思い出』。
 そう呼ぶ事のできる、唯一の記憶になった。
 気づけば外が騒がしい。
 研究所を取り巻く森の中に、武装し散開した人間の姿が見え始めた。まだ『それ』には気づいていない。

 ルーンミッドガッツ王国特殊部隊『ウロボロス4』だ、と『それ』は知識の中から探し出す。ここ『ウロボロス8』が、主席である速水厚志自らの手によって全滅したため、王国への定時連絡も途絶えている。異常事態、そう判断して出庭って来たのだろう。
 このままここにいれば、『それ』は捕らえられ、処分される。運良く処分を免れたとしても、また飼育ポッドの実験動物に逆戻りだろう。
 『行きなさい』
 あの人の、最後の言葉に背中を押されるように、『それ』はガラスの砂漠から脚を引き抜く。だが既に建物は包囲されていて、歩いたり走ったりではもう逃げられない。
 『それ』は、自分の中を探った。『それ』の中に蓄えられた、混沌とした無数の生命情報、その中から『翼』を探し出す。鳥の羽根を持つ鳥人の情報、だがそれでは飛べないと判断。別の情報に切り替える。
 そして見つけ出したのは『ハーピー』と呼ばれるモンスターの情報。これなら『飛べる』。

 『!』
 ばさん! 一瞬で身体を変化させて翼を生成。力を込めた羽ばたきを一つ、天井の穴をくぐり、遥か高みの三日月を目がけて『それ』は飛び立った。
 小さな身体に対して、やたら大きな羽根だったのが幸いしたか、『それ』の身体はほとんど弾丸のような勢いで中空へ舞い上がる。砕けたガラスの砂漠が、穴の空いた屋根が、眼下で一気に遠くなっていく。
 研究所を包囲した部隊は、とうとう『それ』に気づかなかったようだ。もっとも気づいたとしても、どうする事もできなかったろうが。

 翼が力強く羽ばたき、月明かりの森を飛び越えていく。初めて見る風景は、『それ』の心さえ踊らせる。
 遠くに灯りの群れが見えた。人の住む場所だ、と『それ』は知識から判断する。
 『人になりなさい』
 言葉が蘇る。
 灯りの方へ翼を向け、草の厚く茂った川縁に降りた。そしてまた自分の中を探ると、『人』の情報を探し出す。
 どうせ人に化けるなら『彼女』になりたかったが、『それ』が取り込んだ血液1滴だけの情報では、彼女を完全に再現する事は無理だった。容貌を真似る程度ならともかく、個体の完全コピーとなると、生きたまま肉体を丸呑みにでもしない限り不可能だ。
 だから必然的に、もう一人を選択した。
 取り込んだ生命情報を基に身体を変化させる。『それ』が見慣れた、あの老人の姿では、動きに制約がありすぎると判断。年齢を巻き戻して若い身体を再構築し、ついでに衣服も生成した。
 生きたままの脳から吸収した情報から、言語や地理など生活に必要なローレベルの情報がコピーされる。が、あまり高度な概念、例えば彼の生前の研究に関する情報などは、コピーしても理解できないので無視。
 同時に『彼』の思考や感情も、『それ』にはコピーされない。
 人間そっくりに姿を変え、人間についての断片的な知識を使って人間を『演じる』何か、と言ったら分かりやすいだろうか。
 それとも、嘘つきの優しい魔物、と言った方が分かりやすいだろうか。
 そして最後に『それ』は、『名前』をコピーする。 
 
 「『はやみあつし』。ボクは、速水厚志」

 言葉を発してみる。
 二本の足で歩いてみる。
 どれも上手くいった。けれど一つだけ上手く行かない事がある。
 歌。それだけは、上手く歌えない。
 「……むずかしいなあ」
 『それ』、いや『速水厚志』は首を傾げると、諦めたように歩き出した。
 灯りの群れに向けて、彼は二本の足を動かして行く。
  『貴方を待っている人達がいる』
 幻の中の彼女がくれた、しかし確かなその言葉を道標にして。

 ぱちり。

 そして『それ』は目を覚ました。
 記憶の完全再生を可能にする『それ』にとって、夢を見ていたという感慨はあまりない。ただ彼女の『思い出』だけは、いつ再生しても懐かしい、そして暖かい感情を彼の中に呼び覚ました。
 「……行かなきゃ。約束があったんだ」
 寝台、それも板に直接、厚手の布を敷いただけの簡易寝台から起き上がる。そんな寝床でさえ、面積の半分を占領してしまうほど狭い部屋。窓もなく、扉には鉄格子のついた覗き窓。
 アルベルタの芝村屋敷。その奥深くに作られた、幽閉用の部屋。
 つまりは独房だ。
 扉に備えられた頑丈な錠前からは、中の人間を決して外に出さない、という強い意志を感じる。と同時に、『それ』の正体をまるで知らないという事実もまた、はっきりと露呈していた。
 『それ』の身体がたちまち形を失い、鮮やかなピンク色の、この世界の人間がよく見慣れた低級モンスターの姿に変化。ぽよん、と間の抜けた音を立ててジャンプし、鉄格子の覗き窓を難なくくぐり抜ける。
 部屋の外、薄暗い廊下に見張りがいない事を確認し、一瞬で人間の姿に再生。
 そして独り言。

 「……しーちゃんとふーちゃん、待っててくれるかなあ」

 『それ』、速水厚志は、暗い廊下を1人、進み出した。
中の人 | 第十一話「Mothers' song」 | 20:05 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment









Trackback
URL: