11
--
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
--
>>
<<
--
RECOMMEND
RECENT COMMENT
MOBILE
qrcode
OTHERS
(c)
このページ内における「ラグナロクオンライン」から転載された全てのコンテンツの著作権につきましては、運営元であるガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社と開発元である株式会社Gravity並びに原作者であるリー・ミョンジン氏に帰属します。 © Gravity Co., Ltd. & LeeMyoungJin(studio DTDS) All rights reserved. © 2010 GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved. なお、当ページに掲載しているコンテンツの再利用(再転載・配布など)は、禁止しています。 当ページは、「ラグナロクオンライン」公式サイトhttp://www.ragnarokonline.jp/(または、ガンホーゲームズhttp://www.gungho.jp/)の画像(またはテキスト)を利用しております。
ro
ブログランキング
にほんブログ村 ゲームブログ ラグナロクオンラインへ にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
ブログランキング
LATEST ENTRY
CATEGORY
ARCHIVE
LINKS
PROFILE
SEARCH
<< 第十一話「Mothers' song」(6) | top | 第十一話「Mothers' song」(9) >>
第十一話「Mothers' song」(8)
  『襲いかかる』と言っても、この姫様のすることだ。ただ馬鹿正直に、真っすぐ落下などするはずもない。
 エンペラーの直上、そこで静の手が閃く。空中での、それも敵の真上からの飛爪の連撃。だがこれはエンペラーへのダメージを狙ったものではない。
 「ちぃっ!」
 エンペラーが頭上に盾を掲げる。しかし飛爪はそれには擦りもせず、むしろエンペラーの周囲にチュン! チィン!と降り注いだ。
 それでいい。静の目的はただ一つ、エンペラーをその場から動かさない、足止めのためなのだ。
 しかも先刻、エンペラーが放ったマグナムブレイクというスキル、実は連発ができない。撃った直後に『ディレイ』と呼ばれる硬直時間があり、しかもその間は、他の強力なスキル攻撃も巻き添えで使えなくなる。
 すなわち今、真上から襲いかかる静を空中で迎撃する、その手段はない。
 「でぇぃやぁあああ!!!」
 裂帛の気合い。静の手に銀狼丸の白刃が構えられる。
 エンペラーのその身体が、実は入れ替えられたフールの身体、という迷いはもう、静の中からすっ飛んでいる。
とにかく闘う、そして勝ってから考える。
 そう、それこそがこの剣姫にふさわしい生き方だ。

 「うっぜ!!」
 ぶん! エンペラーがその剣を頭上へ、静を迎撃するための鋭い軌道を描かせた。スキル攻撃が使えないといっても、エンペラーの圧倒的な腕力と武器性能を持ってすれば、ろくな防具もない静一人を弾き飛ばす程度、さしたる手間ではない。
 だが、そのエンペラーの剣に伝わったのは、彼がかつて感じた事ない手応えだった。
 じゃりぃん!!
 静の手の銀狼丸、その刃の峰が、エンペラーの剣と激しく絡む。そして同時に、本来なら静を弾き飛ばすはずの衝撃を丸ごと吸収し、その力を回転力に変えた。
 エンペラーから奪った回転力、その力を利用した静が、その身体をくるりと旋回させ、両足をぴたりと揃えた見事な姿勢のまま、膝のバネを存分に使って着地を決める。
 エンペラーのペコペコ、その頭の上に。
 敵の間合いの内側も内側。地面という二次元ではなく、空中という三次元を使った、その驚異的な立体攻撃によって、静は一気にエンペラーの懐に飛び込んだのだ。
 「げっ」
 エンペラーが目を剥いた。それはそうだろう。こんな破天荒な敵が存在するなど、想像すらしたことがあるまい。
 空中にいる間にバックラーを背中に戻し、静はもう銀狼丸を両手に構えている。静の剣法は、基本的に盾を用いない。一本の剣で攻撃と防御を同時に行う、近代剣法の基礎を既にモノにしているのだ。
 「ふっ……!」
 銀狼丸の剣風がエンペラーに襲いかかった。それも決して力任せに叩き付けたり、あるいは速度のみを頼んで斬りつけるような、単純な攻撃ではない。
 圧倒的なパワーを持つエンペラーの剣に対し、ある時は攻め、ある時は退く。そして隙と見ればつけ込み、時には蛇のように絡み付く。
 速く、軽快に。しかし時には重く、鈍重に。
 華麗かと思えば泥臭く、潔いと思えば嫌らしく。
 ぱあん! じゃりん! ぎりぎり……しゃあん!
 わずか数瞬の時間、銀狼丸とエンペラーの剣が激しくせめぎ合った。銀狼丸の攻撃も防がれるが、エンペラーも静に触れる事ができない。
 とはいえ剣士とロードナイト、その職業による単純な力量差を考えれば、静の戦いぶりはまさに奇跡。それはまるで、小さな拳銃一丁を携え、大砲を備えた戦車と渡り合うようなものだ。
 しかも、2人の間の均衡を破ったのは静の方。
 「痛っつ!」
 エンペラーが顔を歪める。剣を握ったエンペラーの手が突然、血に染まっていた。静の剣に指を、それも親指の付け根を斬られたのだ。
 静が放った一撃を剣の鍔で受け止めた、と思った次の瞬間の事だった。止めたはずの銀狼丸の刃が、まるで生きているかのようにひらり、と翻り、鍔の内側へ舞い込む。やばい、と思った時にはもう遅い。剣を握った指を、銀狼丸の刃がこじるように引き斬っている。
 『真剣の常道は小手打ち』という。真剣同士で闘う場合、どこを攻撃するよりもまず、剣を握るその腕を攻撃するのが有効、ということだ。
 しかし鍔競り合いに持ち込むと見せかけて、手元の微妙な動きだけで『親指撃ち』に切り替えるこの一手。
わずかな油断さえ許さない『怖さ』を秘めた、真の意味での『殺人剣』。
 それが一条静の剣、決して華麗なだけではない。
 何とか千切れずに済んだとはいえ、親指をそこまで傷めては、エンペラーといえども剣を握る握力は半減以下だ。
 決定的な隙。
 静の渾身の打ち込みが唸る。どうにか盾で防いだ、と思ったら、その盾にいきなり猛烈な圧力がかかる。
 何とそれは静の『足』だった。ペコペコの頭の上に立った静が、そのすらりとした片足を上げ、エンペラーの盾を上から思い切り踏みつけたのだ。どうでもいいが、もう片足はペコペコの頭の上に踏ん張ったまま。信じられないようなバランス感覚である。
 盾そのものだって結構な重量がある上に、静の体重まで重ねられては、いくら筋力に秀でたエンペラーでもたまらない。
 がくん、と盾が落ちる。エンペラーの顔面、そして首がまともに静の射程距離に入った。
 「ふっ!」
 銀狼丸が駆ける。盾は蹴り落とされ、剣は動きが半減。さしものエンペラーにも防ぐ術無し、と思われた。
 だが、やはり恐るべきはエンペラー。
 圧倒的な肉体の完成度や、超高度な装備だけがこの『取り替え児』の価値だ、などと思ったら大間違いだ。
 
『皇帝』・エンペラー。
 
 彼が生まれたのは、工業都市アインブロックのスラム街だった。
 母親は場末も場末の酒場女で、父親は『候補者』が多過ぎて不明。当然のごとく、母親は育児などまるで駄目。だからエンペラーは物心つくより前から、孤児同然の状態で育った。
 喰うため、生きるために、言葉を憶えるより先に盗みを憶えた。手をつなぐより先に逃げ足を、笑顔より先に殺人を事を憶えた。
 アインブロックの駅や空港を拠点に、かっぱらいや置き引きを繰り返し、またある時は郊外の工場に押し入って、高額の製品を盗み出した。
 警察の捜査の手が伸びると、即座に町の外の荒野や山に逃げ、そこで何ヶ月も暮らす生活。危険なモンスターも数多く生息する地域だが、こうなるともう彼自身が一匹のモンスターのようなものだ。事実、時たま狩りに訪れる初心者らしい冒険者も、彼の獲物だった。
 奪う事、喰う事、襲う事、逃げる事、闘う事。
 それらのすべてが彼にとっての『生きる事』だった。
 そうして研ぎすまされた圧倒的な闘争本能、そして生存本能。その野生の極致ともいうべき本能は、時に武術や技術を凌駕する。
 生まれながらの異端。いや奇形。
 そんな彼が『取り替え児』として最高の肉体を得た時、その暗い星が放つ異形の光は、正しき星すら飲み込む。
 「ナメんなぁ!」
 ばん! とエンペラーが剣を振った先は、敵である静ではない。握力のほとんどないその手で、静を攻撃するのは無意味と瞬時に判断し、矛先を変えたのだ。
 変えた先は、自分が騎乗するペコペコの尻。
 瞬間、激痛に襲われた騎鳥がパニックを起こす。頭を振り上げ、脚を蹴り上げ、まるでロデオの暴れ馬ように荒れ狂う。
 鞍に座って鐙を踏みしめるエンペラーには耐えられても、片足でペコペコの頭の上に立つ静はたまらない。
 「くっ!!」
 エンペラーの頭部を狙った最後の一撃が、無情にも逸れる。それでも暴れ回る足場の上で、上半身と腕の力だけで銀狼丸をコントロールし、エンペラーの首筋に刃を当てたのはさすがと言える。
 だが、それが限界だった。
 ついに静の身体が、ペコペコの上から振り落とされる。
 いや、落ちたというより、静が逃げたのだ。もうじきマグナムブレイクのディレイが終わる。これ以上、エンペラーの至近距離にいるのは危険過ぎた。
 だが一口に逃げるといっても、静に翼はない。エンペラーの攻撃を避けられるほど遠くへ、一気に逃げることなど不可能だ。蝶の羽、テレポートを可能にするそのアイテムを使えば逃げられるが、それはしない。
 静はまだ、戦いを投げたわけではないのだ。
 片手の指をペコペコが纏った装甲板に引っかけ、それを起点にしてぐるり、とペコペコの腹の下へ滑り込む。例えは悪いが、まるでトカゲかヤモリのような動きだ。
 ペコペコの腹の下、つまり真下を攻撃できるスキルは限られる。危険地帯に変わりはないが、それでも静の闘志は衰えない。
 (まだまだあっ!!)
 静は、エンペラーの乗っている鞍、そして鐙を固定しているベルト類に銀狼丸を突き立てた。
 騎乗具を破壊する攻撃は地味だ。しかし鞍と鐙は人間とペコペコの間をつなぐ、重要なインターフェイスである。パソコンで言うなら、いわばキーボードとマウスのようなものと言えば分かりやすいだろう。つまりコレを破壊される事は人間とペコペコ、相互の意思疎通を大幅に削ぐ事になる。
 その間にも、エンペラーを取り巻くBOTモンスターが、状況を把握して行動を始めていた。連中に押し包まれ、四方から数を頼んだ攻撃を叩き込まれれば、さすがにひとたまりもない。
 「こっ……のお!!」
 しかしさすがエンペラーの装備というべきか、ベルト一本も恐ろしく頑丈で、簡単には千切れてくれない。だめだ、時間がない。 
 そこは見切りよく攻撃を諦めた静、すとん、と地面に降りると身体をひねり、バックラーを背中に背負ったまま、亀のような格好でうずくまる。
 「ひゅうっ!」
 地面すれすれの口から思い切り息を吸い、両手で頭を庇う。対マグナムブレイク用の耐爆姿勢だ。
 息を止めるのには理由がある。
 マグナムブレイクというスキルの危険性は、決してその爆発だけではない。その高熱の爆気をモロに吸い込むと、気管や肺といった呼吸器官に大やけどを負い、いわゆる『無気肺』という状態になる。こうなると最悪の場合、呼吸ができなくなって窒息死してしまうのだ。
 また手で頭を覆うのは、こういう空気の逃げ場のない場所で熱波を喰らうと、高い確率で髪の毛を焼かれるからだ。髪の長い女性は、特にその危険性が高い。

 瑞波に集められた歴戦の古参兵が伝えた戦闘経験、そこから編み出された危険回避法を、静は幼少時から叩き込まれている。これほどに『戦慣れ』した姫君など、世界中探しても彼女だけに違いない。
 何より特殊なのは、静がこれを実戦で使うのは今回が初めて、という事実かもしれない。

 だがしかし、静の予測に反して、再びのマグナムブレイクは襲って来なかった。
 その代わり別の衝撃が、静の足元を襲った。

 (地震!?)
 常人を凌駕する超感覚を持つ静でさえ、一瞬その正体を錯覚する衝撃。地面に猛烈な震動が走り、それがまるで火山の爆発のように膨れ上がる。と、思った次の瞬間だった。
 ずっどぉぉおん!!!
 静の後方で、地面が爆発した。噴き上がった大量の瓦礫と土砂が、静の身体をボロ屑のように翻弄する。
 「きゃっ!!?」
 予測不能の破壊力の前に、さしもの静がなすすべなく数メートルも吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。飛び散った瓦礫と、岩だらけの地面への激突で、全身に激しい打撲が積み重なる。
 「ふっ……ぐうぅ!!」
 静が呻いた。幸いにもと言うべきか、致命傷となるような大きな骨折や激しい出血はない。だがそれでも、全身に負った無数の亀裂骨折や裂傷のため、激痛で息が出来ない。右目の瞼が切れて視力がなく、同じく右耳は鼓膜がやられたらしい。何も聞こえない。
 いや正直、意識を保つことすら危うい。気を失わないようにするのがやっとだ。
 (『スパイラルピアース』……!)
 そんな状態でも、静の感知能力は状況をきちんと把握した。ロードナイトが使うスキルのうち、最大の攻撃力を誇る『スパイラルピアース』。この爆発が、エンペラーの使ったそのスキルの結果であることを、静は見抜く。
 スパイラルピアースは本来、敵を視認して使うスキル、つまり静が言うところの『目に頼る』スキルだ。だから騎乗するペコペコの腹の下、という死角にいた静には、この技は使えないはずである。もし使ったとしても、敵の視線と殺気を感知する静なら、その発動を予測する事はたやすい。
 では、それを気づかせずに発動できた理由とは?
 (味方を、撃った!)
 周囲に散らばる瓦礫の中に、粉々に砕けたモンスターの破片がある。
 見えない静の代わりに、近くの適当な味方を狙って、その強力無比なスキルを叩き込んだ。エンペラーほどのパワーと、強力な装備を併せ持った敵が振るったのだ。その螺旋型の衝撃波は味方のモンスターを砕くだけに止まらず、地中深くまでその破壊力を浸透させ、結果として大爆発を起こさせた。
 近代兵器にある『地中貫通爆弾(バンカーバスター)』さながらの地中爆発により、隠れた静を味方もろとも吹き飛ばす。戦車並み、と評したエンペラーの戦力は、決して大げさではなかった。同時に、この静を相手にして咄嗟にそれだけの攻撃を行う、その戦闘センスもまた卓抜したものだ。
 (だめ……っ!)
 静は地面に叩き付けられたまま、凄まじいダメージで動けない。だがこのまま動けなければ、待っているのはなす術のない死だ。ほとんど無意識に腰のポシェットから回復剤(安価な、効力も低いものだったが)を出し、どうにか一本飲み下す。
 だが足りない。どうにか死こそ免れたが、全身のダメージが大き過ぎて、とても回復し切れないのだ。
 勝てない。
 元々、針の穴のような小さな可能性に賭けての特攻だった。それを迷いなく、過たず決行した静こそ凄まじいが、それでも越えられないエンペラーの壁は、想像以上に厚いと言うしかない。
 逃げる、その判断をする時だった。
 だが静は、その場から1人逃げる事を良しとしない。
 フールが、あの若者が一人、まだ闘っている。その事を静は疑わなかった。彼を残して、自分だけ逃げる事はできない。何とかフールに撤退を伝えなければならない。
 だが、その撤退への躊躇が結局、命取りになった。
 「逃がすかよコラ!!」
 その声。静としたことが、それがエンペラーの声、と気づいた時には遅い。
 ずん、と身体の上に凄まじい重量がのしかかる。屈強な鎧に身を包んだエンペラーが、騎鳥の上から身を躍らせ、転がったままの静の身体の上に飛び乗ったのだ。
 完璧なマウントポジション。しかも、パワーもウエイトもケタ違いの相手となれば、静でも即座には脱出できない。加えて全身に傷を負っている今の状況では、マウント状態を返すことはほとんど不可能だ。
 「くそぉ……あっ?!」
 それでも抵抗しようとする静の身体から、いきなり力が失われた。エンペラーだ。手甲に包まれたその拳で、静の形の良い顎に真横から一撃を喰らわせた。
 その一撃は、決して激しい一撃ではなかった。だが顎のその位置への攻撃は、頭蓋骨の中の『脳』を揺らす。
 「うあ……」
 ぐらり、と静の目から焦点が失われた。頭蓋骨の中で、脳がゴムボールのように跳ね回っている。いくら肉体を鍛えても、脳までは鍛えられない。むしろそれで失神しなかった静を誉めるべき場面だった。
 だがこの後の事を思えば、逆に失神した方が楽だったかもしれない。
 「こーゆー悪りぃ手は、こうだな」
 エンペラーの腕が、静の片手をがっちりと地面に押さえつけると、反対の腕でナイフを抜く。
 そのままためらいなく、静の手首を貫いた。
 「!!!あああああ!!」
 静が絶叫した。この剛胆な姫君でさえ、声を抑え切れなかった。無理もない。戦闘用の大振りのナイフ、それで右手首を骨ごと貫かれた。しかも貫通した切っ先は、地面に埋まった岩の内部にがっちりと食い込んでいる。
 そして左手首。
 右と同様にそれを貫いたのは、彼女の手から落ちた『銀狼丸』だった。
 「!!!!!」
 自らの守り刀を使った、あまりにも無惨な磔り付け。
 静はもう、声すら出せない。歯を食いしばり、両腕の激痛をただ受け止めるしかない。
 いっそ失神したほうが楽だろうに、静の鍛え抜かれた心身がそれを許さないのが、逆に残酷だ。
 「へえ、コレでもイっちまわないんだ。やっぱすげえなお前」
 エンペラーが本気で感心したように、狂おしいほどの激痛に歪む静の顔を見下ろす。
 「しかもめちゃめちゃ強えしよ。……いいねえ、気に入ったぜ?」
 その大きな手が、静の顎をがきっ、と捕らえ、そして言った。
 「お前、俺のガキ産めよ」
 エンペラーのとんでもない宣言に、静の目が見開かれる。
 「お前と、俺のこの身体の間でガキ作れば、そのガキ絶対強くなるだろ?」
 にやり、と笑うその顔は美しいが、しかし毒に満ちあふれている。

 「この身体が老いぼれる前に、そのガキの身体とこの身体、また取り替える。俺は永遠に最強だ」

 そう。どうしようもなく歪んでいるのは、この男の心そのものなのだ。
 痛覚、それ自体を火箸で掻きむしられるような激痛に耐え、静が暴れ出した。自由な両足をじたばたと激しく動かし、エンペラーのマウントを解こうともがく。
 だが無理だ。いたずらに体力を消耗するだけの悪あがきにすぎない。
 「暴れんなよ。ガキ産ませるのに頭いらねーんだぜ。ケツだけんなって生きてーのかよ?」
 歪み切った悪意の前には、もはやいかなる抵抗すら虚しかった。
 静の腰から、ポシェットがむしり取られる。
 「バッシュ!」
 ばん!! 破裂音とともにポシェットが粉砕された。エンペラーなら、素手でもこの程度の破壊力は出せる。
 ポシェットに仕舞われたなけなしの回復剤、飛爪。そして何よりも、逃走のための『蝶の羽』が、あっさりと四散した。
 もう逃げる事はできない。
中の人 | 第十一話「Mothers' song」 | 20:10 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment









Trackback
URL: