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第九話「金剛不壊」(1)
  「30秒前!」
 深夜の、明るい月が浮かんだ空に向けて、号令係の良く響く声が吸い込まれた。
 「20秒前! 第1詠唱、用意っ!」
 周囲に無数のかがり火が焚かれた、プロンテラ王城内の練兵場。
 等間隔で一列に並んだ5人のハイプリースト・プリーストが、一斉に手の中にブルージェムストーンを落とす。おなじみの空間転送魔法『ワープポータル』を使うための触媒石だ。
 「10秒前!」
 これまた一斉に印を結び、詠唱の準備を整えた術師。その全員が、両腕に手甲のような器具を装着している。その表面にはずらりと、青く光る触媒石。『ストーンホルダー』と呼ばれるこの器具は、大量の触媒石を素早く、かつ効率的に使うために考案されたもので、両腕合わせて200個の石を装着でき、かつ必要な時には手首のわずかな動きで石を手に保持できる。石がなくなれば、腰につけた『ローダー』と呼ばれる細長い器具から、中に収められた20個の石を一瞬で補充可能。そして作戦中はこのローダー50個を常に携帯する。
 それがウロボロス4・タートルチームの移動支援班『ウイングユニット』の基本装備だ。
 「5秒前! 4! 3! 2! 1! GO!」
 待ちかねた詠唱は一瞬。
 空間の『あちら』と『こちら』をつなぐ奇跡の光輪が5つ、地面に出現する。
 その輪の中心へ向って、詠唱者と同じハイプリースト、あるいはモンク、チャンピオンの装備を着けた『ウイングユニット』が一斉に駆け込む。一つの光輪につき、転送限界人数である8人ずつ、総勢40人。
 彼らは、光の中に姿を消したとと見るや、ほんのわずかの時間で全員が戻って来た。『あちら』で転送先を記録する『ポタメモ』を取り、すぐに帰還してきたのだ。と同時に、力の限り走って最初の5人の両翼に等間隔で整列。
 「第2詠唱! 5、4、3、2、1、GO!」
 やはり詠唱は一瞬。鮮やかに並んだ奇跡の光輪は、最初の5人に戻って来た40人を加えた、計45個に増えている。そこに再び、別の『ウイングユニット』が数十人が駆け込み、帰還し、さらに光輪の列を伸ばす。
 「第3詠唱!」
 カウントダウン。やはり光輪は一瞬で起動した。
 完璧に等間隔で並んだワープポータルの光輪の列はついに、広い練兵場の端から端まで届いた。『芸術』と讃えられるタートルチームの移動支援を象徴する輝き。その鮮やかな展開ぶりに、居並ぶウロボロス4の他チーム、総勢七千近い兵からも声にならない感嘆が漏れる。
 「出撃準備よし!」
 号令係の声にその指揮官、タートルリーダー・一条流が小さく、しかし重くうなずいた。その巨体にふさわしい豪壮な鎧姿が、やたらと似合っている。
 「よし。ウロボロス4、総員出撃」
 「総員出撃!」
 待ち受ける光の輪を目指し、七千の軍団が一斉に動き出す。その足音は地響きとなり、軽度の地震の如く王城の窓ガラスを細かく身震いさせる。
 「相変わらず見事なもんだがね、流や。でも一応、総司令官はアタシなんだけど……まさか忘れちゃいないだろうねえ?」
 流の後ろから響いた苦笑混じりの声はマグダレーナ・フォン・ラウム。
 王国の秘密組織・ウロボロスの『第4団』を牛耳る女戦士。首都防衛を担う『四季将軍』を始め、軍・王室の深部にまで影響力を持つ『影の女』であり、『戦前種(オリジナル)』を模して作り出された『完全再現種(パーフェクト・リプロダクション)』でもある。
 今、その彼女が掌握するウロボロス4の総出撃が行われたわけだが……。
 「お義理にでも総司令官様の許可取るとかさ、少しぐらい愛想があってもよかないかい?」
 「失礼しました、マム」
 流が丁寧に頭を下げて謝罪するが、その声や態度には反省の色など薬ほども無い。
 「作戦スケジュールはご覧の通り、問題なく遂行されていますので、あえて許可を頂く必要はないと存じまして」
 「あー、まあいいんだけどね」
 マグダレーナがヒラヒラと掌を振ってみせた。彼女にしても実際の所、流の言うことに嘘はないと分かっている。出撃の準備から始まって、出撃、展開、撤収に至るまで分単位、秒単位で完璧に整えられたスケジュールは、マグダレーナをして全く口を挟む余地のないものなのだ。
 (ホント、こんな茶々でも入れてなきゃ、アタシのすることがないじゃないか)
 どこまでも苦笑まじりで、マグダレーナは内心ボヤく。
 「……では我々も参りましょう。マム」
 流が軽く手で促した先に、既に彼ら専用の光輪が2つ用意されている。タートルチーム・ウイングユニットから選抜された2人のハイプリーストによるものだ。
 2つあるのは、流とマグダレーナそれぞれのためである。マグダレーナは『月影魔女』と呼ばれる女戦士達(彼女らは全員が幼少時からマグダレーナの養女であり、忠実な『私兵』である)を引き連れているし、流もまた専属の『旗本隊』を持っている。先の『ウイングユニット』選抜の2人と同様、防御班『ウォールユニット』、攻撃班『ハンマーユニット』、支援班『メロディーユニット』から選抜された少数の腕利きが、タートルリーダーたる流の周囲を固めている。この精鋭集団は『タートルコア』と呼ばれ、各ユニットとは別行動で常に流に付き従う。ちなみに、最初に紹介したウイングユニットのハイプリースト2人は、治療班『ヒールコア』を兼務する。
 さすが精鋭だけあって『ユニットコア』達の動きは機敏だ。先に『ウォールコア』の2人がワープポータル内に突入し、それに『ハンマーコア』2人が続く。その後に『ヒール(ウイング)コア』が1人だけ光の輪をくぐる。万一、転送先に敵が待ち構えていた場合の用心だ。先に突入した前衛4人と支援1人が場を支えている間に、後続は即時退却できる。
 ここで一端、呪文を詠唱し直して新しい光輪が出され、『メロディーコア』、そしてリーダーたる一条流、最後に『ヒール(ウイング)コア』が輪に入る。
 (……ホント、見事なもんさ)
 マグダレーナも『娘達』に続いて、専用に用意された光輪をくぐった。すると、転送された先の目の前にもう、既に新しい光の輪が用意されている。
 タートルチーム得意の『多段転送』。タートルリーダー・一条流が考案した、ワープポータル越しの追跡を振り切るシステム。ウロボロス4のメンバーの間では、天津の貴族達が行うという呪術的な移動法になぞらえて、『方違(かたたがえ)』とあだ名される。
 『方違』の中継地には、一条流によれば海岸などが選ばれることが多いと言うが、マグダレーナにはそれを確かめる時間はない。単なる中継地にかがり火などは用意されていないから、周囲は闇。ただその闇にも明るく輝く、目の前の二段目の転送光輪を、間を置かずにくぐっていく。
 その頬に一瞬、確かに海風の匂いが掠めるのを感じた。
 (……やはり海が近い)
 そう思った次の瞬間には、彼女の身体はもう光輪を抜け、彼女を包む匂いも別な匂いに変わる。
 乾いた草と、土の匂い。
 高地の痩せた土地に、乾燥に強い灌木と背の低い草が生い茂る土地。今は闇に沈んだそのフィールドの真ん中に、そこだけが宝石を積み上げたように輝く大都市が浮かび上がる。
 『企業都市リヒタルゼン』。 
 東側の高台にスラムを従えたその大都市は、高度な科学技術と豊富な資金力を背景に、シュバルツバルド共和国の経済活動の中核を成す一大拠点だ。
 その巨大都市の間際、その闇の中に、ウロボロス4の軍勢が整列している。
 無音。
 「……マム。予定通り作戦に移ります。目的はリヒタルゼン市内の『カルファレン社』の強制捜査と、脱走した元コンドルリーダー、テムドール・クライテンの発見・捕縛。まず斥候部隊を都市内の目標施設へ。同時に別働隊が郊外の空港を急襲して停泊中の飛行船を奪取。本隊を飛行船にピックアップした後、上空と地上から時間差による奇襲をかけます」
 「任せるよ、流」
 先ほどのマグダレーナのクレームに対する配慮だろう、流がわざわざ確認を求めてくるのへ、マグダレーナはまたひらひらと手を振る。その作戦内容に関しては、計画段階から耳にタコが出来るほど聞かされていて、マグダレーナでさえ空で暗唱できるほどだ。実行手順はまさに秒刻みの緻密さで組み立てられており、空と陸から敵を立体的に挟撃する大胆さと独創性はまさに『一条流ならでは』だろう。
 それにしても、民間の飛行船を奪取して使用するという作戦は、いささか乱暴と言うかテロすれすれ。いや、見方によっては立派なテロだ。
 そもそもターゲットとなるこの都市は、ウロボロス4が所属するルーンミッドガッツ王国ではなく、隣国のシュバルツバルト共和国の都市。つまりここは「他国」であり、事によっては「敵国」である。そのど真ん中で、共和国側に何の連絡もしないまま軍事行動を起こすわけだから、政治的にも極めて危険な行為である事は言うまでもない。
 しかし、だからこその『ウロボロス4』なのだ。
 彼らは確かにルーンミッドガッツ王国に属しているが、正規軍ではない。言うなれば『外人部隊』である。その構成員も、兵士はともかく士官達は全員、王国の人間ではないのだ。
 王国にしてみれば、もし露見したとしても直ちに切り捨てる事ができる。『そんな部隊は存在しない。我が国の名を騙ったテロ組織である』と。
 超法規的な外人部隊。それを率いる影の権力者マグダレーナ。それが『ウロボロス4』の強さであり、同時に危うさでもあるのだった。
 「……信頼しているよ、流。以降、異常事態を除いては報告も確認もいらない」
 「ありがとうございます、マム」
 流が一つ頭を下げると、静かに命じた。
 「状況開始」
 七千の精鋭部隊が音もなく、一斉に動き出す。
 元々が徹底的に訓練されたエリート揃いとはいえ、一条流の手腕によってほとんど一夜で、ここまで完璧に組織化された軍団を前に、さすがのマグダレーナも微かな戦慄を憶える。実際、この一条流という男の能力から言えば、この七千の精鋭部隊の指揮でさえ全くの役不足だろう。この男の指揮下に入る軍勢が数万、数十万、数百万に膨れ上がった時、この世の誰が対抗しうるのか。
 マグダレーナの脳裏に、部下であるクルトの進言が蘇る。
 (……一条流を、天津に帰すべきではない)
 あの夜、彼女自身が言下に退けた進言。それが今、彼女の内心にさえ微かな迷いを生んでいることも確かだった。
 だが、今は作戦中だ。余計な事を考えるべき時ではない。
 「……さて、リヒタルゼンか。鬼が出るか蛇が出るか」
 マグダレーナが呟くのへ、
 「鬼や蛇なら可愛いものです」
 傍らの流が即座に受ける。こういう受け答えもできるところなど、決して真面目一辺倒でもない。その一方で伝令を次々に走らせ、報告を受け、指示を飛ばすことも怠らない。そのため伝令の数も通常の部隊を遥かに上回り、下手をすると戦闘部隊より多いのではないかと疑うほどの規模だ。
 落ち着いているが鈍重ではなく、機敏だが焦ってはいない。まったくもって、『指揮官』というものの見本のような男だった。
 (……クルトには悪いが、こっちのがやりやすいのは事実だね)
 マグダレーナの脳裏に、今は不在の副官の生真面目な顔が浮かぶ。
 と、同時に、

 『「あァ? 作戦だァ? んなもんお前、向こうより先にばーッと行ってよ、んで先にガツーンとやったモンの勝ちよ勝ち!」』

 遠い昔、戦場で聞いたドラ声が、彼女の脳裏に蘇る。
 頼もしくもあり、同時に頭痛のタネでもあった、その懐かしい声。かつて不敗の伝説と共にウロボロス4を『シメていた』あの男。
 『クレイジーアイアン』・一条鉄。
 今、彼女の隣に立つ一条流の叔父であり、同じ一条家直系の血を引く男だが、とてもそうは思えないほど行動・性格ともに正反対。しかし、こうして共に戦場の風に吹かれてみると、マグダレーナには別の感慨もある。
 (……この存在感はやはり、同じ『戦人(いくさびと)』の血かね)
 戦場という『鉄火場』に生を受け、乳を飲み、飯を食って育った男の匂い。ルーンミッドガッツ王国の貴族どもからはとうの昔に失われた剣呑で、しかし頼もしい匂い。
 腕一本・頭一つで国を分捕り、あるいは守り抜いてきた『戦人』の血が、天津にはまだ脈々と生きているのだろう。
 『頼むに足る男達』。そのまぎれもない本物の風格に、マグダレーナの血さえ微かに熱を帯びる。
 「脱走した元コンドルリーダー『テムドール・クライテン』の発見と身柄確保が優先だ。決して殺すな。自害もさせてはならん」
 一条流の指示が飛ぶ。
 この内容は当然、事前に全員に叩き込まれている。が、改めてこうして念を押すのもまた『戦人』・一条流らしい配慮である。なぜなら、戦場に出た兵士というものは、往々にして作戦や目的を見失うものだからだ。どれほど訓練を積んだ者でも、現実に敵を目の前にした途端に『戦うこと』しか頭に浮かばなくなることは珍しくない。本能としての闘争心や生存欲の方が勝ってしまうのだ。
 もっとも、この戦闘本能のない兵士など戦場では物の役に立たない。そのため、そこら辺のさじ加減こそが指揮官の腕の見せ所、ということになる。
 『いいか、くれぐれも殺すな。身柄の確保だ。特にコンドルチームのメンバーは、元リーダーを視認したら即、知らせろ』
 テムドール・クライテン。
 一条流によって造反を暴かれ、王宮の留置場へ拘置されたはずのテムドールが、ほとんど即座に脱走した事実は、ウロボロス4にとっても大きな衝撃だった。
 テムドールの拘置直後、面会に行ったクルトが既に拘置所が空であることを発見した(実際に脱走させたのがクルト自身であるなど、誰も想像さえしていない)のが昨日のこと。
 その報告を受けたマグダレーナは激怒し、クルトを叱責した上で直ちに捜索を指示した。が、ウロボロス4だけでなく、マグダレーナの影響力の及ぶ王国の組織が総動員されたものの、テムドールの行方は未だに分からない。 
 こうなってはもう、残る手がかりは彼の実家・リヒタルゼンでも有数の企業である『カルファレン社』しかない。実際テムドール自身も、一条流を自らの謀略に勧誘する際に、その野望の一端を実家の会社が担っていることを匂わせている。
 『ウロボロス8』。
 『次の聖戦の必勝』を目的に組織されたウロボロスの中でも、『生命操作』によってより強力な人間、あるいは魔物を作り出すことを目的とした組織。『戦前種』を模して作られたマグダレーナ自身がその組織の『作品』であり、自らの会社がそれに手を貸したと、テムドールは流に明かしている。
 テムドールがその言葉通り『ウロボロス8』の復活を目論むならば、母体である会社に何らかの手がかりを残している可能性は高い。いやむしろ『世界を手に入れる力』と彼が豪語した企みの、その本体さえそこにあるかもしれない。
 そう考えればこの作戦の意味は、単なる組織の裏切り者の逮捕、というだけに止まらない。下手をすれば王国、いや世界の存亡に大きく関わる作戦となるかもしれなかった。
 (しかし、何をしようと言うんだろうね、あの若造。……いや、恐らくバックには『あの連中』がいる)
 マグダレーナの脳裏に、かつて『ウロボロス8』を構成した科学者達の顔がよぎる。その中にはあのテムドールの祖父もいた。
 (アタシを作り出した『神様気取り』の技術屋ども)
 その顔の中でも、まだこの世に残っている者は多くない。彼らの後を継いだ『ウロボロス8・速水厚志』は死んだ。しかしマグダレーナは、残された彼らが今も『神様気取り』の実験を繰り返している事を疑わない。
 例えば彼らがまた、自分のような『再現種(リプロダクション)』を作り出したとしたら。あるいはそれを量産でもしたら。
 (連中を放置するんじゃなかった。とっとと潰しておけば……!)
 だが後悔してももう遅い。
 「斥候部隊より報告! 建物外観より目視する限り、カルファレン社は無人の可能性大。侵入して捜索します」
 「よし」
 「飛行船奪部隊より報告。全チーム配置に付きました。予定通り、管制塔と飛行船を制圧します」
 「うむ」
 流も、もう細かい指示は出さない。作戦は順調。
 ……そう思われた時だった。
 ばしゃあっ!!
 いきなり猛烈な閃光が、真夜中のフィールドを貫いた。光源は空港。管制塔やドックといった施設全体が一瞬、影とになって浮かび上がるほどの光量。
 「何が起きた?! 伝令急行しろ! 予備班も行け! ロビンチーム、急行して状況把握。戦闘があるかもしれん!」
 「サー・イエス・サー!」
 流の指示で伝令班が、さらには強行偵察を任務とするロビンチームが急行する。『ロビン』はあのテムドールの妹、ジュリエッタがリーダーを務めていた部隊だが、ジュリエッタの脱走(流がわざと逃がしたとは、これも公には知られていない)により、今はリーダー不在のまま流の直接指揮下にある。専門の斥候部隊がアサシン・ローグといった盗賊系の職業で固められているのに対し、ロビンチームにはペコペコに乗った騎士系の兵士や、僧侶・歌吟系の支援職もバランスよく配置され、いざという時にはかなりの軍事制圧能力を持つ。
 「マグダレーナ様、異常事態のようです」
 「ああ。今の光、アタシにも見覚えがないね。……何だ、一体?」
 流の報告を聞くまでもなく、マグダレーナも異常を感知している。流もそれは承知だが、改めて『総司令官』の顔を立てただけだ。
 そんな2人の所に、息せき切って伝令が戻って来る。
 「報告! 先ほどの光は『飛行船』です! ですが『飛行船ではありません』!」
 「何を言っている?!」
 伝令の言葉に、流が顔をしかめる。この手の要領を得ない言葉を、最も嫌うのが流という男だ。
 「落ち着いて正確に話せ! でなければ見たままを、そのまま全部言え!」
 「申し訳ありません、サー! 飛行船奪取班が、停泊中の飛行船に接近しようとした瞬間……飛行船が突然発光し、その光で奪取班は消失! 一瞬で蒸発したものと思われます! 改めて後方から確認したところ……飛行船と見えた物は飛行船ではなく、何か別の物体です!」
 「何っ?」
 さすがの流が、全身に鬼気をみなぎらせた。ウロボロス4の襲撃班を一瞬で消滅させるほどの『未知の物体』。
 それが脅威でないはずはない。
 『全軍臨戦態勢! 市内偵察中のオウルチームを呼び戻せ! スワローチームも空港へ向え! 作戦変更、未知の脅威の把握を優先する!』
 流の決断は速い。オウルは盗賊系の職業で構成された隠密斥候専門、スワローは弓手・銃手を揃えた狙撃チームだ。
 しかし状況は、流の指揮すら超えて動いた。
 「……! 何だいありゃあ!」
 マグダレーナが思わず声を上げた。
 閃光の後、再び暗闇に落ちた空港から、何かが浮上してくる。全長80メートルほどの葉巻型。それは飛行船のようだが、しかしプロペラも何もない。
 ただ、音も無く浮上して来る。
 ばしゃあっ!!
 再び、あの閃光が閃いた。それは今度は消えることなく、葉巻型の『船体』の後部から吹き出す光の翼となって。夜のフィールド全体を照らし出す。
 真夜中の太陽。
 光の翼の数は『12枚』。
 それはかつて『ここではない遠い世界』で、最も優れた神の御使いに与えられた翼の数。
 そして、神を裏切って闇に堕ち、黒く染まった翼の数。
 エネルギーウイング・『ルシファー』。
 あの『ヤスイチ号』の同型艦であり、そして今やヤスイチ号を凌ぐ力を持つ、最強の『戦前機械(オリジナルマシン)』の証し。
 『飛空戦艦セロ』。
 その恐るべき力が今、一条流とウロボロス4をターゲットした。
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