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第十話「Changeling」(1)
  『BOT製造者(ボットメーカー)』、フランシア・センカル。
 彼女はその日の出来事を、今もはっきりと思い出すことができる。
 
 初めて『一条静』に出会った、その日の事を。

 あれはちょうど16年前。王国特殊部隊『ウロボロス』の一角である『ウロボロス2』の主席を襲名した直後のこと。
 季節は冬、時刻は午後。
 場所はルーンミッドガッツ王国首都・プロンテラ王城内。同じく王国特殊部隊『ウロボロス4』の、士官用宿舎の一室だった。
 その時、生後まだ数ヶ月だった静は、簡素だが頑丈なベビーベッドの上で、ほとんど『大の字』になって眠っていた。母親のお手製らしいエキゾチックな、しかし見事な刺繍の入った寝具を、えいやっとばかりに蹴っ飛ばしている。天津人の血を受け継ぐ黒髪に、眠っていてもそれと分かる母親似の可憐な容貌。その肢体は当然まだ未成熟な乳児のものではあるが、太さも伸びやかさも健康そのもので、肌や爪の艶も内側から溢れる生命力に輝いていた。
 センカルとて女性である。本来なら『まあ可愛い』の一言も呟く場面だったのだが、残念ながらその時の彼女は、とてもそんな気分ではなかった。いやそれどころか、今すぐでもその場所から逃げ出したい気持ちだった。
 理由は、静が眠るベビーベッドの向こう。
 そこに、窓を背にして4人の人間がいた。
 まず1人目。厳つい顔と、頑健そのものの分厚い肉体を持つ三十路の男。
 静の父親『一条鉄(くろがね)』。
 センカルの胴体ほども太さのある腕をがっしりと組み、『仁王立ち』という言葉がぴったりの姿で、こちらをじっと見つめている。特殊部隊『ウロボロス4』のトップアタックチームを率いる『ウルフリーダー』。歴代リーダー中でも最強、という称号が伊達ではないことは、一見しただけで分かりすぎるほど分かった。
 続く2人目。ピンクがかったブロンドに、ふわりと優しげな雰囲気を漂わせた女性。
 鉄の妻で静の母親『一条桜(さくら)』。
 遥か聖戦の時代、異世界から次元を超えてこの世界にやってきたという少数民族『霊威伝承種(セイクレッド・レジェンド)』最後の生き残り。他に例を見ない強力な霊能力を有し、ウロボロス4でも特異な任務をこなす『ラビットチーム』のリーダー。……が、夫の隣で椅子にちょこんと腰掛けた姿は可憐そのもので、とても軍人の雰囲気はうかがえない。
 3人目。闇色の髪と瞳が印象的な2〜3歳の幼女。
 一家の次女で静の姉『一条香(かおり)』。
 仁王立ちした父親の太い足に隠れるように、じっとこちらを見ているこの幼女が、母親の桜と同等か、もしくはそれ以上の霊能力を受け継いでいる事を、センカルは報告書で読んで知っている。その瞳に自分がどう映っているのか、だが精巧な人形のように端正なその顔には、何の表情も浮かんでいない。それが逆に不気味極まりない。
 そして最後の4人目。この時、確かまだ5歳になったばかりの、これまた黒髪の少女。
 一家の長女『一条綾(あや)』。
 この少女の『5歳』という実年齢を聞いて、驚かない人間はいないだろう。上等な革で仕立てられた子供用の剣士服が、内側からパンパンに張りつめるほど太く伸びやかな肢体は、どう見てもローティーン、下手をするとハイティーンの少女にさえ見える。父親とそっくりに腕を組み、軽く足を開いた立ち姿の自然さが、逆にその卓抜した運動能力、いや『戦闘能力』を物語る。例えるならばそれは、歳若いながらも精悍極まりない肉食獣の化身だった。そしてその化身が、我こそはこの一家の守護者と言わんばかりの風格で、家族の誰よりも前に立ち、センカルを見据えている。
 これが怖い。本気で怖い。
 なにせ、武術武道にはまるっきり縁のないセンカルでさえ、彼女の放つ『殺気』をはっきりと感じ取れるのだ。
 燃えるような瞳、今にも牙を剥きそうな容貌。そして、そこから発せられる猛烈な殺気は、ほとんど実体のような圧力を持って、細いセンカルの身体を押しつぶしに来る。対するセンカルといえば、地位こそ軍人であるものの、そのキャリアは一貫して研究者であり技術者。こんな殺気が飛び交う場所に立った経験すらない。
 (話が違う!!!!)
 内心、そう叫び出したいような気分だった。
 そもそも今日この部屋で、センカルが一条静と対面することに、何の問題も無いはずだ。センカル自身や一条夫妻が所属するウロボロスの、その遥か上層部で取り引きが行われ、きちんと話がついているはずなのだ。
 取引とはすなわち、『ウロボロス6』こと『死神・クローバー』に追われ、この世界から抹殺されるはずの霊威伝承種、その唯一の生き残りである一条桜を保護する代わりに、彼女の血を受け継ぐ娘達を監視・研究する。そういうことで、両者の契約は終わっているはずなのだ。
 (なのに……!)
 なのになぜ、自分がこんな殺気を浴びせられねばならないのか。その事が、センカルにはさっぱり理解できない。彼女から見れば、これは明らかな『契約違反』なのだ。
 だが、これはセンカルの方が間違っている。
 例えどんな契約や命令があったとしても、大切な肉親の身体を勝手にいじくり回されるのを歓迎する人間がいるだろうか。ウロボロスという巨大組織の命令だからこそ渋々承諾しただけで、それを嫌悪する家族の感情までコントロールできないのは、むしろ当たり前の事と言えた。まして、家族の結びつきを非常に大切にする一条一家ならばなおさらの事だ。
 しかしセンカルにはそれが分からない。幼少時代から書物と研究器具の間で育ち、書類と手続きによって大人になった彼女には、『家族の情』など理解の外なのだ。行動の優先順位が違う、というより最初から順位に入っていないのだからどうしようもない。
 理解できないまま、ただ目を逸らし、油汗を流しながら困惑するしかなかった。
 「おい、綾。やめな」
 窓際にいた鉄が、長女の背中に声をかけた。さすがに父親の言いつけには逆らえないのか、綾から発せられていた殺気がふっ、と消える。
 (……!)
 ふう、とセンカルは一息つく。父であり、一家の家長である鉄からの助け舟、と思ったのも一瞬。
 「いいか綾。相手ビビらすのに怖い顔すんのは『ど三流』のするこった。こういう時にはな、むしろ笑うんだ。ほれ、やってみな」
 その言葉が終わるや否や、綾がセンカルに向けて、今度はにかっ、と歯をむき出して笑った。
 センカルの背筋に、氷の柱がぶち込まれたような錯覚が走る。
 綾の笑顔。それ一つでさっきまでの肉食獣が、一気に小さな魔神に進化した。放つ殺気は3倍増し。センカルは息すらできなくなる。
 (……ひいぃ……!)
 泣きたかった。こんな剣呑な連中に関わるべきではなかった。見ず知らずの相手に殺人レベルの殺気を浴びせる娘が娘なら、それを止めるどころか倍増しにする親も親だ。書類と手続きが通じない相手など、ただの野蛮人か狂った野良犬だった。
 (……もういやだ……もういやだ……!)
 心と身体がこぞって悲鳴を上げる。が、しかし逃げるわけにはいかなかった。
 なぜなら、これは『契約』だからだ。
 彼女が今日、ここで一条静と対面するという契約は、既に組織によって決定され、書面化され、関係諸機関に回覧され、それらの責任者全員がサインを終えている。センカルにとってそれは、自分の意志や感情で勝手に変更できるものではない。
 書類と手続き。
 それはセンカルにとって、水や空気のように絶対の存在だ。家族の情が優先順位に入らないのと同じで、自分の感情もまた、そこに入ることは許されない。
 「……ぼちぼちいいだろう、鉄」
 一条一家とは別の、落ち着いた女の声が部屋に響いた。
 「綾も、もうおやめ。……大丈夫。お前の大事な妹に、妙な真似は決してさせやしない。アタシが責任を持つ」
 静かな、しかし有無を言わさぬ力のある声。『ウロボロス4』主席『マグダレーナ・フォン・ラウム』。
 その超絶的な能力から『完全再現種(パーフェクト・リプロダクション)』の異名を持つ、文字通り王国最強の存在が、センカルの隣から、一条一家に声をかけたのだ。
 一瞬、綾の殺気がマグダレーナに向く。だが。
 「やめとけ綾。その婆さんだけはいけねえ」
 父親の鉄が、素早く娘を抑えた。ちなみに鉄は『婆さん』と言うが、マグダレーナの見かけは婆さんどころか、極めて若々しい女性のそれだ。それでいて未熟な感じは微塵も無く、逆に無限に老成した雰囲気さえ醸し出している。まさに『年齢不詳』という言葉がぴったりの風貌だ。
 「鉄、あんた達はこれで席を外しておくれ。一応、これも契約のうちだからね」
 マグダレーナの言葉に、鉄は無言で頷くと、足元にいた次女の香を片手で軽々と抱き上げる。そして、
 「綾、行くぞ」
 まだ仁王立ちを崩さない長女を促した。言われた綾は少し不満そうに父親を見ていたが、
 「ダメだ。今のお前じゃ、その婆さんにゃ勝てねえ。絶対に、だ」
 鉄が綾の目を真っ直ぐに見て、ゆっくりと言い聞かせる。
 「まだその時じゃねえ。ウチがどうしてもこの婆さんと戦(や)らにゃならん時は……そん時はこのオレが戦る。お前は桜と、妹達を守るんだ」
 当のマグダレーナ本人を前にして、これが父親から娘に送る言葉というのも凄まじい。が、綾はそれで納得したらしく、自分から父親の手を握った。
 この一幕には、さすがのマグダレーナも苦笑するしかない。他国の若者を人質同然に招集する『ウロボロス4』という組織の性質上、部下から反発されることは別に珍しくない。が、ここまで露骨に『仮想敵扱い』されるのは、マグダレーナにしても初めての経験だ。
 服従はしても魂は売らない、その誇り高き『戦人(いくさびと)』の血の意味を、だがマグダレーナが真に理解するのは、『一条流』という若者を部下に持つ、この16年後の事になる。 
 「じゃあ綾も、香も。先に宿舎へ帰っていなさいね。……コルネ! コルネ、そこにいる?」
 「イエス、リーダー」
 母親の桜が初めて言葉を発した。可憐な、そしてこれもまた何か抗いがたい魅力のある声。そしてその呼びかけに即座に、部屋の外から応えがあった。女性の声だ。
 「ユールリアン少尉、入室致します」
 「うん、入って」
 桜の許可と同時にかちり、と部屋の扉が開き、一人の女性兵士が入って来た。プリーストの意匠を取り入れた軍服に身を包んだ、どうやらこれが『コルネ』と呼ばれた女性のようだ。きびきびとした動作で扉を閉め、マグダレーナ、鉄、そして桜の順に敬礼を送る。センカルは無視。
 「おう少尉、ご苦労さん。悪りぃが、娘ら頼まあ」
 鉄が、抱き上げていた香を女性兵士に預け、綾の手も預ける。桜もそれを見守りながら、
 「お願いね、コルネ」 
 「承知致しました、リーダー」
 どうやらこのコルネという女性兵士、桜の部下であると同時に、一条一家の個人的な世話役でもあるらしい。決して美人というわけではないが、軍人にしては珍しく人当たりの良さそうな、いかにも家庭的な雰囲気を持っている。そのせいか、子供にしては扱いの難しそうな綾、香の二人の娘も大人しくコルネに抱かれ、また手を引かれている
 「香様、綾様、ではコルネと参りましょう。……失礼致します!」
 もう一度、室内の全員に敬礼し(やっぱりセンカルは無視)、部屋を出て行く。今日の晩ご飯はお芋を煮て差し上げますからね、というコルネの声が、閉まるドアの向こうから聴こえた。
 「よっしゃ。じゃあ桜、俺も仕事場に戻る。……なに、心配ねえ。銀(しろがね)の兄貴がきっと、お前ら守ってくれるからよ」
 「はい、鉄さん」
 鉄もマグダレーナに敬礼すると、部屋を去った。まあ敬礼といっても鉄のそれは、礼なんだか頭を掻いたんだか分からないような、ぞんざい極まるシロモノだったけれど。
 「……ごめんなさいね、やんちゃな娘達で。センカルさん、でしたっけ?」
 ガチガチに緊張したセンカルに、桜が優しい声をかけてくる。唯一、この母親だけはまともな感覚の持ち主らしい、と安心した次の瞬間、
 「『子供の躾は実戦で』、ってのがウチの流儀なの。ご協力に感謝します」
 ぺろ、と小さく舌を出して笑う。駄目だ、これもまともな人間ではなさそうだ。
 「桜。では始めるぞ」
 マグダレーナの言葉に、桜は小さく頷くと、ベビーベッドで寝ている静の夜具をそっと取り上げた。丁寧に畳んでベッドの柵に引っ掛ける。
 見ていたセンカルはぎょっ、とする。なぜなら取りのけられた夜具の下から黒く、細長い物体が姿を現したからだ。
 『刀』。
 アマツ風の『ツルギ』と呼ばれる武器、としかセンカルにはわからない。眠る静の右手が軽く、その柄の上に乗っているのが、可愛いというより異様だ。
 「『守り刀』。アマツの武家の風習なの」
 生まれたばかりの子供を悪い物から守る、呪術的な意味があるのだと桜が説明してくれた。
 だが、センカルは知らない。
 見るからに上等な、艶やかな黒塗りの鞘に収まったその刀に、名前があることを。
 それを何者が鍛え、何者に与え、どんな経緯をたどってここにあるのかを。
 そして、この時は誰も知らない。
 この剣がこの先、誰の手に握られ、何を斬り、何を守るのかを。
 そして誰の想いを、誰に伝えて行くのかを。
 
 『銀狼丸』。

 その刀の名をセンカルが知るのは、やはりこの16年後の事になる。
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中の人 | 第十話「Changeling」 | 10:06 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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