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外伝『The Gardeners』(2)
 娼家・汲月楼(きゅうげつろう)は、瑞波国の首都・瑞花の街で最も格式の高い、いわゆる名店である。
 瑞波の先君・一条銀が常連の店として、読者の皆様にもお馴染みであろうし、この店の遊姫で銀のご贔屓だった『佐里』の名も、同時に記憶しておられるはずだ。
 アユタヤ王家の政変で国を追われた過去を持つ、正真正銘の元姫君である佐里は、銀がこの世を去った後も変わらず、遊姫として汲月楼に籍を置き続けている。
 店に対しては一条家から、彼女を身請けするのに十分な、いやそれ以上の金が既に支払われているから、彼女さえその気ならば今すぐにでも自由になれるのだが、
 「ここにいる」
 佐里はそう言って、店から動こうとしない。
 「シロガネの、思い出があるから」
 それが理由である。
 遥か先の話をすれば、彼女はとうとう死ぬまでこの店の遊姫として、ただ一人愛した男の思い出を守り続けたという。
 そんな立場だから佐里、遊姫であっても客は取らない。店も強いて取らそうとはしない。
 まあ、もし取ったとしても、今や『神君』にまで祭り上げられた伝説の殿様・一条銀、その想い姫を指名してやろう、などという『罰当たり』が瑞波に存在するはずがないし、万一いたとしたら最後、国中から袋叩き間違いなしとなれば、結局は同じことだった。
 店にしたって佐里の存在は、もう遊姫というよりは店の『看板』、もしくは季節ごとのイベントにちょっと顔を出すだけで店の格がぐんと上がる、そんなご利益を持った『ご本尊』といった扱いである。
 ただ、佐里にも例外がある。
 瑞波、いや世界でただ一人だけ、いつでも自由に彼女の部屋に上がり、酒食を共にし、何なら泊まって行ける人間がいるのだ。
 「佐里、お酒お代わり」
 「……トモエ、飲み過ぎ。今夜はもうダメ」
 「え? そんなに飲んでないし?」
 「嘘」
 「嘘じゃない。魔法使い、嘘つかない」
 「おっきい嘘」
 「あ、『おっきい嘘』ってなんか可愛い」
 「トモエ、誤魔化そうとしてる」
 「してない。魔法使い、誤魔化さない」
 佐里を相手に、そんな漫才か何かのようなやりとりを繰り広げる女性が誰なのか、いまさら言うまでもあるまい。
 瑞波一条家の『奥方様』こと一条巴、その人である。
 「もう一杯。ね、も〜一杯だけ」
 「ダメ。飲みすぎ、身体に良くない」
 しきりに酒のお代わりをねだる巴奥様、しかし普段の凛とした佇まいと違って、今は多少、というかだいぶ『だらしない』。
 特別に仕立てた薄紫の襦袢に直接、濃い紫の打掛(かけ)を『藤重ね』に引っ掛けた、というラフにもほどがある姿も相当なものだが、上半身を脇息の上にべたーっと預け、伸びやかな肢体を畳にぐでーっと溶かした格好ともなれば、もはや他人に見せられた有様ではない。
 加えてルーンミッドガッツ王国の貴族出身、元から典型的な『金髪グラマー体型』なものだから、なかなか和服が似合わない所にこの格好だ。乱れた襟元からは豊かな双乳がこぼれんばかり、裾の方も同様に、見事な美脚が太腿まで露わになってしまう。
 「トモエ、だらしない」
 そう言って、佐里が(こちらは故郷アユタヤの意匠をあしらった、これまた特注の着物を美しく着こなしている)時々、襟やら裾やら直してはくれるが、それも長くは続かない。
 それというのも、巴と佐里の周囲には豪華な酒食が載せられた膳はもちろん、将棋盤だの碁盤だのチェス盤だの、珍しいところでは雀卓や、ダーツの的までがフリーダムに並べられていて、この美しくもだらしない客の気まぐれのまま、主人である佐里がその相手をさせられるのだ。
 しかも幸か不幸かこの2人、どの遊戯も互角、かつ相当の腕前であるためなかなか決着がつかず、結果どちらかが酔って寝てしまうまでが勝負、という有り様。
 「ほら、降参しなさい佐里。お布団が呼んでるわ」
 「トモエこそ、もう眠そう。降参したら?」
 お互いあくびをかみ殺しながら、夜が更けるまで遊戯に興じ、気づけば純白と蜜色、二つの肌を寄せ合うように眠り、朝を迎える。
 実にけしから……いや、だらしない。
 とはいえ、巴の奥方様がここまでリラックスした姿を見せることは、ホームである城の中でさえ絶無だ。
 遠くルーンミッドガッツ王国から瑞波に嫁ぎ、一子をもうけながらも夫を失い、同じく妻を失った先夫の弟と再婚するという数奇な運命。
 今は瑞波の現君主である夫・鉄を完璧にサポートし、同時に城内、さらには瑞波の国内にまで睨みを利かせる、そんな彼女を畏れ、敬わない家臣・領民は一人もいない。
 いっそ他国にさえ、
 
 『瑞波の魔妃』
 
 と、その名は轟き渡っていると言ってよい。
 妻として、妃として、母として、常に緊張を要求されるのが今の巴ならば、彼女が唯一、すべての責務や重圧から開放される場所こそ、この佐里の部屋であり。
 そんな巴を許し、受け止めてくれる友人こそ、亡き夫の愛妾・佐里なのである。
 多くの見えない仮面を被らねばならない巴が、自然と素顔の自分を取り戻す、そんな貴重な時間であり、場所であり、そして友。
 また、それは同時に彼女がルーンミッドガッツ王国にあった若き日、今は失われた友人・桜と過ごした夜を思い出させてくれる。 
 この、巴にとって余りにも貴重な場所を、今は亡き一条銀の『置き土産』と考えるのは、いささかうがち過ぎだろうか。しかし、愛した妻を多くの責務と重圧の中に置いて逝かねばならなかった男が、最後に彼女の『避難所』を残したとすれば、それは実に彼らしい話ではないか。
 「ほら着物、ちゃんと直してトモエ」
 「お酒。もう一杯飲めばちゃんとする」
 「駄目。着物直してから」
 「直した」
 「直ってない」
 しかしまあ、これではリラックスというより、もう駄々っ子である。
 「あの〜? 奥方様〜?!」
 巴と佐里、放っておけば延々と続きそうな女同士のじゃれあいに、さすがのひまわり女が突っ込む。
 「いいんでヤンスか?! 咲鬼様が狙われてるんでヤンスよ? よ? よ?」
 ここぞの重大情報を明かしたつもりが、どうも巴の反応が鈍いことに、肩透かしを食った格好だ。
 「大丈夫、ちゃんと聞いてるわよ、ひまわり」
 ひまわり女(名前はそのまんま『ひまわり』と言うらしい)の勢いとは正反対に、巴が気だるそうに上半身を起こすと、こぼれそうな胸元に片手を差し込む。
 す、と取り出したのは、黄金の輝きも鮮やかな小判が数枚。
 巴、それを数えもしないで、
 「はい、ご苦労様」
 ひょい、と手首を返し、傍らに控えた佐里に差し出す。佐里も心得たもので、両手に真っ白な懐紙を広げて待ち構え、しゃりりん、と音も涼やかに受け止める。
 巴とひまわり、間に佐里を介するのは、巴とひまわりの身分違いが甚だしいため、直接金品をやり取りするのをはばかってのことだ。
 と、ひまわりがいつの間にやら佐里の目の前。
 「うへへーっ、ありがたき幸せ!」
 懐紙に包まれた小判を押し頂く。
 「ありがと。また何か耳に入ったら教えて頂戴」
 言いながら巴、もうひまわりの方を見もしない。言葉の割に大してありがたがっていないのは一目瞭然だ。
 さすがにひまわりが、
 「……でも、ホントによろしいんでヤンスか? 放っといて?」
 と、首を傾げるが、
 「平気平気」
 巴はヒラヒラ、と振ったその手で膳の上のチーズをつまみ、口に放り込む。余談だが、魚の一夜干しや漬物と並んで、チーズや干し肉、ハーブを効かせたバターなど外国の食文化が豊かに反映されているところ、国際都市・瑞花の面目躍如というべきだろう。
 「咲鬼だって一条の身内なんだから、家臣ごときにナメられてちゃやってらんないわよ」
 この理屈。
 支配者を名乗るならば、被支配者に対して、まず力で劣ってはならない。世は弱肉強食、となれば、弱いヤツはそもそも身内に必要ない。
 一条家と瑞波の繁栄は行き着くところ『覇道』、すなわち強者の道。
 情だの愛だの恋だのは、勝って生き延びた者にしか語れない、いわば戯言だ。
 ……とはいえ、年齢的にはまだ子供な咲鬼をつかまえてそう言い放つ辺り、巴もすっかり一条家の家風に染まったと見える。
 「いや〜、そうでヤンスかね〜?」
 だが、ひまわりは小判の包まれた懐紙を懐にしまいながら、
 「そりゃまあ、そこらの雑魚なら咲鬼様の相手にもならねえ、ってもんでヤンスが〜」
 妙な具合に首を捻り、
 「連中、どうもヤバいヤツを呼んだっぽいでヤンスよ?」
 「ヤバい?」
 その甲斐あってか、巴がやっとひまわりに目を向ける。
 「ヤバいヤツ、って誰?」
 「それ! それでヤンスよ奥方様! 実はでヤンスね!」
 ひまわりが俄然勢いを取り戻し、また畳を二、三度叩いたと見るや、
 「……」
 突然、妙な風に黙り込んだ。
 「なに?」
 巴が怪訝そうに片眉を吊り上げる。そこへひまわり、
 「……はて、あちくりとしたことが、ちょいと『ド忘れ』」
 片手の手のひらをわざとらしく喉に当て、
 「あ〜、申し訳ないでヤンス。ここ! ここまで出てるんでヤンスが〜!」
 首をひねりながら、ちらっ、ちらっ、と巴の方に視線を投げてくる。
 天下の瑞波一条家、その奥方様を相手に無礼が過ぎるというものだが、いっそここまで露骨だと、逆に腹を立てる方が無粋というものか。
 巴も、むしろ唇に軽く笑みを浮かべ、再び胸元から小判を、先ほどの倍も摘み出すと、
 「これで思い出せそう?」
 同じく佐里が構えた懐紙の上に、しゃりりん、と落とす。と、同時、
 「思い出しましてヤンス〜!」
 ひまわり、畳を両手でとん、とひと突き、正座のままずさーっ、と佐里の、いや『小判』の正面へ滑り込む。滑る途中で一回転ひねるのは余裕なのか何なのか。
 小判が包まれた懐紙を再び押し頂き、
 「恐れ入りヤンス〜!」
 もう一回、さっきと逆回転に一回ひねって滑り下がる。無作法の極みだが、これまたいっそ一周回って見事というしかない。
 「で、どこの誰?」
 改めて尋ねる巴に、ひまわりが今日一番の笑顔をにぱーっ、と咲かせ、
 「名は『小碓(オウス)』」
 「立派な名前だけど、知らないわね」
 巴が言うのも無理はない。小碓とは小碓命、アマツの神話に登場する武神の名だ。
 「と、言うのは偽名で、本当の名は……」
 ひまわりがもったいぶる。
 「本当の名は、『閃鬼』と」
 「……?!」
 その名を聞いた巴が、今度こそ上半身を跳ね起こす。
 「閃……鬼?!」
 「正真正銘の『鬼』だそうで。職業はご丁寧にアサシンクロス」
 ひまわりの声が、いつの間にか真剣なものに変わっている。
 「善鬼様や咲鬼様と同じ、鬼の里を抜けた『はぐれ鬼』。そして何より恐るべきは……」
 別人のごとく、低い声。
 「自分と同じ鬼の一族だけを狙う、『鬼を殺す鬼』だと」
 こつん。
 ひまわりの言葉を聞いていた巴が、持っていた酒盃を膳に戻す。

 「人呼んで『鬼殺しの閃鬼』。何でも、過去これに狙われて、生き延びた鬼はいない、とか」

 つづく

 
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中の人 | 外伝『The Gardeners』 | 03:09 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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