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外伝『The Gardeners』(10)
 
 「秘伝花技(ヒデンハナワザ)の二・桜花(サクラバナ)」
 
 うつ伏せで地べたに叩き付けられた咲鬼の耳に、和尚の声がひどく遠く聞こえた。棍の一撃をまともに食らった影響で、神経系がイカれている証拠である。そもそも正面から攻撃を受けてうつ伏せに倒れること自体、身体の芯を真っ向から撃ち抜かれたということだ。
 (不覚……!)
 あまりの情けなさに涙も出ない。
 
 『桜花』
 
 春に咲き乱れる、その花の花弁は五枚。
 五連撃。
 咲鬼が使った『花水木』の四連撃を、ご丁寧に全弾迎撃しておいて、その上から渾身の一撃を加えてきた。
 「……!!」
 腹の中に手を突っ込まれ、無造作にかき回されるような激痛。鳩尾への容赦ない打撃により、内臓や横隔膜に深刻なダメージを受けている。猛烈な嘔吐感は、単に胃の内容物が逆流しているからではない。胃が破れ、内部に出血しているのだ。
 呼吸ができない。
 だから、『ヒール』の魔法が唱えられない。ポーション類の持ち合わせもない。
 (まずい!)
 パニックを起こしかける。
 ざっ。
 うつ伏せで動けない咲鬼の真横で、草を踏む足音。
 和尚だ。
 「ふむ」
 とん、と、地面に棍を突き、
 「倒れても杖を離さぬのは、良い心がけにござるぞ?」
 誉められたが、この状況では嬉しくもなんともない。
 「!!!」
 何とか身体を起こそうとするが、呼吸ができないため酸欠で頭が白熱してくる。その上、
 「で? これでも『角』は出ませぬかの?」
 などと呑気なことを聞かれたものだからたまらない。
 (鬼……っ!!!)
 咲鬼、自分のことは差し置いて内心で絶叫する。
 呼吸はできないが、こみ上げる嘔吐感に堪えられず、地面に大量の血を吐く。
 (あ……これ、死んだ)
 咲鬼が、いっそどこか他人ごとのように思ったその瞬間、
 「ヒール」
 和尚がやっとヒールを贈ってくれた。とはいえこの和尚のヒール、典型的な『気付け型』だからたまらない。
 「んぎゃっ……!」
 腹の激痛こそ収まったが、代わりに内臓がでんぐり返りそうなほどの回復衝撃(ヒールショック)が、咲鬼の全身をもみくちゃにする。
 ブドウ畑の隅にある井戸から汲んだ水を、桶ごとぶっかけられてようやく復活した咲鬼だったが、さすがにしばらく口もきけない有り様。
 一方、和尚はそんな咲鬼の様子に一切構わず、
 「いかがでしたかな、『桜花』の味は?」
 などと、にこやかに尋ねてきた。
 さすがの咲鬼も、その笑顔に一瞬ぞっとするのを止められない。これはもう『厳しい』とか『優しい』とかいう甘っちょろい次元ではない。武術を学び、伝える武芸者として、この人物は余りにも純粋すぎた。
 「『三段掌』の三連撃を重ねて五連撃。ゆえに『桜花』。本来なら3と3で六連撃となるはずでござったが……」
 その技で死にかけていた少女に、いかにも楽しそうに技を説くところなど、ある意味どこか狂っていると言ってもいい。
 「同時三段、試したところがコレでござった」
 ひょい、と自分の法衣の裾をまくる。
 「う……?!」
 咲鬼がたまらずうめき声を上げる。
 男の生足など、元々あまり美的な代物ではない上に、その脹脛から膝にかけて、凄まじい傷跡が刻まれているとなればなおさらだ。例えるならスイカ割りで見事に砕かれたスイカを無理やり接着したが、結局接着しきれなかった跡、とでも言おうか。
 「色々と鍛えてみてもござったが、どうも人体の耐えられる域を超えておるようでしてな」
 わっはっは、と、傷を叩きながら笑う。
 咲鬼はもちろん、笑えない。この武術狂いの和尚にとって、自分の身体をぶち壊すことすら娯楽の一つに過ぎないのか。
 「ま、まずは『桜花』、覚えて頂きましょうかの。咲鬼様ならば『ダブルアタック』の同時起動で2+2、そこに足すことの1でござる」
 「……はあ」
 咲鬼はもう、ため息しか出ない。
 和尚は簡単に言うが、そんな単純なものでないことは明白だ。自分が望んだこととはいえ、こうなるともう、修行を許可するフリをして、一条家の殿様に『売られた』んじゃないかと疑いたくもなる。
 「ささ、お立ちなされ」
 にこやかに促す和尚に、
 「あの、和尚様」
 「何でござろう?」
 咲鬼は観念した様子で、
 「『今日は帰れぬ』と、泉屋に一筆入れてから。で、よろしゅうございますか?」
 「無論にござる。では一度、寺に戻り申そうか」
 ぽん、と棍を肩に担ぐと、畦道を歩き出す。
 重厚の上にも重厚を重ねた武人でありながら、しかしその様子は実に飄々として、いっそ『軽み』さえ感じさせる。そういうところは、兄弟子である一条鉄とそっくりだ。
 だが咲鬼にとって、この『軽み』こそが恐ろしい。
 
 『根の限り戦って、死ぬときは『ぽん』と死ぬ。戦人(イクサビト)とは、そうでなくては』

 常々そう唱える和尚、自分の命さえ軽く扱う本物の戦人、いや『戦狂(イクサグルイ)』の姿が、そこにはあった。
 「で、咲鬼殿?」
 とっとと先を歩きながら、振り向きもせずに和尚。
 「はい?」
 あわてて後を追いながら咲鬼。
 「『人体では耐えられぬ』……ならば、でござるよ?」
 和尚が、いっそ無邪気といっていい表情で咲鬼を振り返る。
 もう嫌な予感しかしない。
 「では『鬼』ならば、さて、いかがであろうかなあ?」
 「……」
 案の定、だ。
 
 瑞花の街・泉屋に咲鬼からの手紙が届いたのは、もう夕暮れも近い頃だった。
 「お奉行様〜。『四郎正宗(シロウマサムネ)』が戻りましたよう〜」
 女中の『みいや』が中庭へ連れて現れたのは、そろそろ人の腰ほどにも育った兎型のモンスター『ルナティック』。片目が傷で潰れた貌は厳ついが、一方で一条家の家紋『透かし三つ巴』の入った真っ赤な前掛けを着けているのが実に可愛く、アンバランスといえばアンバランスだ。
 このルナティック、戦場で傷ついていたのを一条家の長女・綾が、連れ帰ったもので(本編第四話『I Bot』参照)、世話をするうちに咲鬼に懐き、今や立派な『舎弟』と化した上に、一条家から『瑞波四郎政宗(ミズハシロウマサムネ)』の名までもらっている。
 一条家の家紋入りの前掛けは、ぐるりと背中にも布が回っていて、そこにも大きく家紋が入っており、ただのモンスターと見られて狩られることのないよう、目印となるべく下賜されたものだ。
 これは余談だが、一条家に関わる動物たちに『瑞波姓』を与えるこの仕来りを『瑞波獣組(ミズハケモノグミ)』という。
 このルナティックは『四郎』であるから、現在の第四位。
 最高位の組頭(クミガシラ)に与えられる『太郎(タロウ)』を持つのは、もちろん綾姫の騎鳥『炎丸(ホムラマル)』で、その正式名は『瑞波太郎炎丸(ミズハタロウホムラマル)』という。
 ちなみに雌だと『姫』であり、現在『瑞波次郎(ミズハジロウ)』、『瑞波三姫(ミズハミツヒメ)』の名を持つ動物が存在するのだが、今は伏せさせていただく。 
 「ふむ、咲鬼様は今夜もお帰りにならぬそうだ」
 その正宗が運んできた手紙を、座敷の縁側で読むのは泉屋桐十郎。読者の皆様もご存知、瑞花の街の元町奉行・笠垣桐十郎その人である。
 今は不在の無代に代わり、ここ『泉屋』をオーナーとしてシメている、これも瑞波指折りの『戦人』であり、居合用に鍛ち直された『無反り村正』の神速こそ知る人ぞ知る。
 職業はロードナイト。通称は『桐十』。
 「なんとまあ、絞られておられますこと」
 座敷の中に座ったまま、そう言ってコロコロと笑う年かさの女教授は『泉水(センスイ)』。
 実はこの女性、ここ『泉屋』の創業者であり、本来の持ち主でもあったのだが、そこには次のような事情がある。
 無代が店を買い取る遥か以前、この泉水が創業し、軌道に乗せた泉屋は大いに繁盛していた。が、彼女には、一人でルーンミッドガッツ大陸に渡ったまま行方しれずとなった妹がいた。
 『妹を探してくる』
 彼女は信頼していた番頭にそう告げ、大陸へと旅立った。
 それから数年、なんとか無事に妹との再会を果たして帰国してみたら、店の様子がおかしい。

 『わたくしが泉屋の主、無代でございますが?』
 『いえ、私も主なのですが?』
 『は?』
 『え?』

 という、実にトンチンカンなやりとりが、泉水と無代の間で取り交わされた。
 それというのも、実は泉水が留守の間に、店を任せた番頭が博打に狂って膨大な借金を作り、本人は失踪、店は人手に渡って競売にかけられてしまっていた。
 そこを買い取り、面倒なので看板そのままで営業を始めたのが無代、というわけだ。
 『なんとまあ』
 泉水も、怒るよりなにより呆然。これでは早速、今夜寝る場所のアテすらない。
 『困りましたな』
 無代も頭を掻くしかない。
 店を手に入れた手続きそのものは正当だから、泉水にしても文句の付けようがないのだが、だからといって無碍にできる無代でもない。
 『泉水さん、よかったら一緒にやりませんか?』
 いきなり、そう持ちかけた。
 『もうしばらくしたら、俺は店を留守にします。長く帰ってこられないかもしれない。貴女がいてくれれば、店も安心だ』
 そう言って、泉水が申し出を受けるや否や、店の差配を任せてしまった。店をオーナーとして預かるのは桐十であっても、元武士である彼に料理屋の差配はできないから、これは無代にとっても『渡りに船』である。
 とはいえ、いきなり初対面の相手をそこまで信用してしまう、その辺はいかにも無代、と言えようか。
 その『人を見る目』こそ、彼の本当の特殊能力かもしれなかった。
 ともあれ、無代が不在の泉屋はこうして、桐十と泉水の二頭体制で運営されることになった。
 『料理屋』としての差配は泉水。
 そして『御庭番』を差配するのが桐十。
 偶然とはいえ、なんとも適材適所な配置が出来上がっている。
 「まあ、あの和尚なら間違いはありますまい」
 桐十が、咲鬼の手紙を丁寧に畳むと、座敷に戻って文箱に入れる。
 顔には苦笑い。
 『間違いはない』、と言っても、咲鬼がどんなひどい目にあっているかは容易に想像がつく。それでなくても、咲鬼が店に下宿して和尚の下に通うようになってからというもの、日一日と顔つき、身体つきが変わっていくのを目の当たりにしている。
 (無代が帰る頃には、もう誰だか分からなくなっているのではないか)
 そんな風にさえ思うほどだ。
 「では、寺へ食事を届けさせましょう。みいや、『びしゃ』に伝えてください。しっかり精のつくものを、と」
 「承知しましたー!」
 返事が聞こえた時には、もう中庭に女中の姿はない。
 代わりに中庭と店を隔てる生け垣の木の葉が数枚、はらりと散ったのを見ると、大人の背よりも高い生け垣を飛び越えていったと見える。
 「……さて、話の続きだが」
 みいやの離れ業も、桐十にとっては日常茶飯事なのか、完全スルー。
 座敷に戻り、泉水と並んで上座に座ると、下座にはひまわり、そしてかいねの姿がある。
 「首尾はどうであった、ひまわり?」
 「それが聞いておくんなましよ、お奉行様!」
 頬をぷっくりと膨らませ、見るからに不満気なひまわりが、例によってばんばんと畳を叩く。一方、隣のかいねは知らん顔。彼女は踊り以外に興味がない。
 「その様子だと、儲け損なったか?」
 「ご明察でヤンス」
 ぶっすー、と愚痴るひまわりだが、別に彼女、金の亡者というわけではない。
 「奥方様からのお金で、皆、何とか年は越せるでヤンスが……今年こそ餅の一つも付けてやりたかったのに」
 そう悔しがる。
 無代がひまわりに与えた役割は、泉屋に関わる人間や、引退して客が取れない遊姫達の面倒を見ることだ。かいねの師匠のように、芸を教えて生きられる人間はまだいいが、冷たい長屋でただ朽ちるのを待つだけの者も少なくない。
 そういう人々に、何とかして細々とでも仕事を回し、金を回すのが彼女の仕事であり、その運営資金の多くが、こうした一条家からの情報料や活動費をやり繰りして捻出される。
 当然、一条家の面々もそれは心得ていて、だからこそこの二人が冒頭で一条家の妃・巴からさんざん金を引っ張り出しても文句は付かないし、その直後に御側役筆頭・善鬼の元へ駆けつけて『二重取り』を狙っても叱られない。
 ひまわりとかいね、二人が息せき切って善鬼の屋敷に辿り着き、面会を申し込むと、すぐに善鬼の下に通されるのもいつものことだ。
 だが、ひまわりが仕入れたばかりの情報を披露しようと、さわりを口にした瞬間、筆頭御側役・善鬼は、表情も変えずにあっさりと言った。

 「そのことなら、既に承知しておるぞ」

 つづく
 
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中の人 | 外伝『The Gardeners』 | 11:28 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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