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外伝『The Gardeners』(27)

 「鬼が、来るぞぉー!!」

 厳忽寺の境内。
 咲鬼と閃鬼の決闘場を囲む篝火の、その奥の闇から、御庭番・ひまわりの姿が浮かび上がった。いつもの『ひまわり頭』、側にはいつものように、かいねの姿があるが、声を出せない彼女は声に合わせ、両手の扇子をあおっている。
 「鬼が、来るぞぉー!!」
 一二音がいる。寺の境内をはばかって、今は愛鳥『竜胆』の背から降りての徒歩だ。その竜胆は、主の声に合わせて翼を大きく羽ばたかせる。
 「鬼が、来るぞぉー!!」
 みいやがいる。咲鬼の危機を感知し、無表情にジタバタ大暴れするさやかを、後ろから軽々と羽交い締めにしながら、高らかに声を上げている。
 「鬼が、来るぞぉー!!」
 泉屋の店主・桐十が、元店主の泉水が、泉屋の店員たちが、闇の中から続々と姿を表し、咲鬼に声を贈り届ける。
 店に対する忍者の攻撃を退けた後、即座にワープポータルを使って寺に駆け付けたのだろう。愛刀『無反り村正』を携えた桐十、巨大な本を小脇に抱えた泉水はもちろん、全員が『喧嘩支度』だ。
 「手出し無用ぞ、御庭番の衆」
 でくらん和尚がクギを刺す。が、
 「うるせぇ!! 手前ぇこそ黙ってろ、このクソ坊主!!! 」
 瑞波武術総伝授を務めるこの武僧に対し、ひまわりが怒鳴り返した。
 「言われなくたって手なんざ出さねえ! だけど万が一、咲鬼様に何かあってみやがれ!!」
 怒鳴るついでに、眉を逆さに立ててにらみつける。
 「そこのアサクロ野郎は当然、手前ぇもタダじゃおかねえから覚悟しとけ、クソ坊主!!」
 罵倒の相手に右手の中指を立てるのは、最近ルーンミッドガッツ大陸から伝わったばかりの、流行りの仕草だ。
 「無代親方が留守なのに感謝しやがれ! もし親方がいらっしゃってみろ、手前ぇなんざとっくに三枚おろしで、一夜干しのあぶり焼きだぞこの野郎!!」
 キレのいい啖呵に、さすがのでくらん和尚が微かに目を剥く。さすがに酒のツマミにされる覚えはない。そこへ加えて、
 「然り」
 元町奉行にして泉屋店主・泉屋桐十郎が、重く声を重ねる。
 「無代親方の留守中、咲鬼様にもしものことあらば、もはや申し訳のしようもない。我ら御庭番、残らずここで死ぬ覚悟」
 脅しではない。瑞波の先君・一条銀に見出され、町奉行という要職まで務めた男が、脅しやすかしを言うはずもない。事実、彼らはここで死ぬつもりだ。
 「だがその時は、御坊にも我らの『八つ当たり』を受けていただく。よろしくお覚悟めされよ」
 「おお、怖いのう」
 でくらん和尚が苦笑する。言葉の割にさして怖そうでもないのは、ひまわりや桐十の言葉が、実は彼に向けられたものではないからだ。でくらん和尚をして、ただダシに使われただけである。
 「咲鬼様は御坊の玩具にあらず。我らの御仲間にござる」
 その言葉は、咲鬼に向けられたものだ。強敵と相対しなから、己の中の鬼を恐れる、小さな鬼に向けられたものだ。
 この戦はもう咲鬼のもので、彼らが手を出すことはできない。だが咲鬼は決して一人ではない。

 我ら、運命(さだめ)を共にせん。

 高らかに、そう宣言しているのだ。
 「……!」
 咲鬼に、その言葉達は届いた。
 今、咲鬼の状態は最悪だ。脇腹の傷は癒やしたが、出血で猛烈な脱水状態にある。身体強化の魔法も、あと少しで切れるだろう。それでなくても閃鬼のスピードに対応できていないものが、その土台すらあとわずかで崩壊する。
 でくらん和尚が予測した通り、咲鬼は負け、そして死ぬ。蘇生の魔法があるといっても、心臓や脳といった重要器官を破壊された場合、蘇生可能な時間はわずかしかなく、それを過ぎればどうやっても生き返ることはない。まして相手は人殺しの専門職・アサシンクロス、超強力の毒を使い、魔法を持ってしても蘇生できないレベルまで肉体を破壊する手段もある。
 そして、でくらん和尚が何よりも危惧するのは、たとえ身体が生き返っても、心が生き返らない、そのことだ。自分自身を恐れて戦えない、そんな『戦人(イクサビト)』が生きる術などない。
 運良くこの戦で生き延びたとしても次の、あるいはその次の戦で死ぬだろう。
 その咲鬼に、御庭番たちの言葉は届いた。
 そして。
 「……なぜ」
 驚いたことに、最初に言葉を発したのは咲鬼ではなかった。

 「なぜ、笑っている?」

 閃鬼だ。
 数知れぬ鬼の血でその手を染めてきた『鬼殺しの鬼』が、到底ありえない物を見たような、ひどく狼狽した顔で、鬼が問うていた。
 「……なぜ」
 殺意の塊のようであった刃すら、だらりと下げられてしまう。
 確かに、咲鬼は笑っていた。
 絶体絶命、たとえ脱したとしても未来はない、そんな状況にありながら、咲鬼の口元には隠し切れない笑みがあった。
 だって仕方がない。本当に可笑しかったのだ。
 鬼が来るぞ、と、昔話の台詞を使い、果てはあの豪傑・でくらん和尚さえダシに使って、自分を仲間だと言ってくれた人々。共にある、と言ってくれた人々。
 その不器用極まりない姿が、可笑しくて仕方がなかった。

 幸せで仕方がなかった。

 なぜ? ナゼもクソもない。
 幸せなら、笑って当然ではないか。
 答える代わりにもう一度、今度は満面の笑みで閃鬼を見返してやる。
 「……なぜ!?」
 今度こそ、明らかに閃鬼が怯んだ。あと一撃、咲鬼に入れれば勝負はつく。そんな局面で、閃鬼は明らかに怯んでいた。
 そこには理由がある。
 閃鬼は、善鬼や咲鬼と同じく、鬼の里で生まれた。そして同じように、里を抜けて『はぐれ鬼』になった。
 善鬼はルーンミッドガッツ王国の秘密組織『ウロボロス』に派遣され、その大物である『四の魔女』マグダレーナ・フォン・ラウムの権力を背景に里を抜け、今の立場を築いた。
 咲鬼は彼女の母が、自らの命と引き換えに里から逃がしてくれた。そして瑞波・一条家の助けで追手を振り切り、ここにいる。
 鬼の里を抜けることは重罪だ。たとえ逃げても地の果てまで、命尽きるまで追われ続ける。善鬼も咲鬼も、決して見逃されたわけではない。彼らを連れ戻す、もしくは殺すために費やす被害が、その成果にとうてい見合わない、と判断されて放置されているだけだ。
 ちなみに余談だが、善鬼・咲鬼・閃鬼のほかにもう一人、この世界に『はぐれ鬼』が存在する、という。『彼女』は、外の世界の女騎士を愛して里を抜けた一人の鬼と、その女騎士との間に生まれた女鬼であり、父と母は追手に殺されたものの、幼少時にアサシンギルドに預けられ、そこで秘匿されて育った。聖戦より前から存在するという最古のギルド・アサシンギルドの秘密主義は徹底しており、たとえ鬼の里の追手でも、内部に手を延ばすことはできなかったのだ。
 その女鬼は今も、真の名前と角を隠し、この世界で行きている、という。ひょっとしてどこかの誰かと、すでに出会っているかもしれない。そう、例えば彼や、彼女が……。
 余談が過ぎた。
 では閃鬼はどうか。その話をする前に、読者にお断りをしておく。
 ここからの話は、あまり気持ちのいい話ではない。苦手な方は、読まなくても不都合はない。

 閃鬼が生まれた鬼の里は、聖戦時代から続く『鬼の血』を伝える一族が暮らす。
 かつて聖戦の時代、魔界から溢れ出した魔物に脅かされた人間は、多くが魔族の手の届かない山中に逃げ込んだ。『鬼の里』の先祖もそれだ。
 ある時、村の娘の一人が病気の母のため、境界を超えて魔物のエリアへ入り込み、そこで魔物に襲われた。奇跡的に生還した娘は、しかし身ごもっており、やがて一人の男子を産んだ。
 男子は身体に角があった。『初めの一鬼』だ。
 娘と男子は村人に忌まれ、村外れの境界近くに暮らした。一鬼は腕力・魔力に優れた働き者だったが、村人の目は変わらなかった。
 だが、それが一変する出来事が起きた。
 増えすぎた魔物がエリアを越え、村へ侵入しようとした。もっとも、境界だのエリアだの、間が勝手に決めた区別を、魔物が順守する義理もない。
 それを防いだのが一鬼だった。
 彼は母を守るため戦い、結果として村を守った。そして魔物のリーダーと一騎打ちの末、相打ちとなって死んだ。
 村人は掌を返して一鬼を讃え、同時に考えた。
 『もっと鬼がいれば、魔物も怖くない』
 そして、暗い時代が始まった。
 かつてこちらの世界に、海馬の伝説を元にした風習があったことは知られている。年頃の牝馬を海岸繋いでおくと、夜のうちに海馬が現れて牝馬を襲う。すると牝馬は海馬の血を引く強力な仔馬を生む、というものだ。ヨーロッパ周辺に始まり、果ては江戸時代の日本でも行われた記録がある。無人島に馬を放ち、海馬の子を取るというものだ。
 鬼の里の先祖は、それを馬ではなく『人』で実行した。
 年頃の女を無理やり魔物のエリアに連れて行き、官能的に着飾らせて拘束する。魔物に襲わせ、『鬼の子』を得ようというのだ。
 多くの女が死んだ。千とも、二千ともいう。
 そして7人、いや七匹の『鬼の子』が残った。すべての鬼の始祖、『大本(オオモト)の七鬼』。『二鬼』から『八鬼』までの数字で呼ばれた、人間扱いされない鬼の誕生だった。
 彼らと彼らの子孫の力で、里は繁栄した。魔物を押し返して版図を広げ、また傭兵として聖戦を戦って殊勲を上げた。彼らは『鬼の血』を独占し、ルーンミッドガッツ大陸に隠然たる力を築く。
 だが聖戦終結から既に千年、その血は薄まり、鬼の出生率は激減した。魔物の数も激減し、新たな鬼を得る試みも全て失敗した。
 ただ例外的に、『女の鬼』は必ず『鬼の子』を生む。だから女の鬼の一生は、それは悲惨なものになる。
 閃鬼は、咲鬼の前に存在した女鬼・玲鬼(レイキ)の子だ。彼女の、最後の子供だった。
 といって、母の記憶はない。
 いや、ある。あるのだが、それは決して『母としての記憶』ではなかった。なぜなら鬼の子は生まれてすぐ母から離され、乳母の乳と手で育てられる。そして幼少時から武術を修め、少年時代から既に戦場へと駆り出される。
 閃鬼もそうだ。しかも、稀な速度を持つ優秀な鬼として、年端も行かぬ頃から重宝され、多くの戦場に出向いた。当時最強と歌われた善鬼を、いずれ超えるとさえ言われた。
 ところで、鬼の里に生まれた鬼には、戦う以外にもう一つの役目がある。
 『鬼の子を作ること』だ。
 ぶっちゃければ、『女を犯す』ことである。
 鬼の里には、里の内外から集められた年頃の娘が集められ、精通を見た男子は全員、毎日のように彼女らと交わった。鬼の数を維持することは、何よりも最優先事項だったのだ。
 将来を嘱望された閃鬼にも、最初の相手として美しい里の少女があてがわれた。だが、戦いしか知らない少年鬼は、何をどうしていいのやら分からず、失意のうちに最初の夜を終える。
 大人の鬼たちは、彼を笑った。いや、最初から笑うのが目的だったかもしれない。
 『だらしねえ、手本を見せてやる』
 彼らは閃鬼の目の前で、閃鬼の相手をするはずだった少女を犯した。壊れるまで。
 『お前もやってみろ』
 呆然と声も出ない閃鬼を、彼らは里外れの小さな小屋に連れて行った。
 その薄暗い小屋の中には、一人の『老婆』がいた。
 『お前の母ちゃんだぜ』
 その老婆が『玲鬼』だった。当時、既に70歳を超えていたはずだ。60代で閃鬼を産み、その後も犯され続けたが、妊娠はしなかったという。
 『息子の初物なら孕むかもしれねえ、やってみな』
 大人の鬼たちは笑いながら、無理やりに閃鬼を押さえつけ、玲鬼の上に乗せた。
 彼女は何も反応しない。初潮を迎えた少女時代から、一度もこの小屋から出たこともなく、ただ鬼の子を生まされ続けた彼女の心は、とっくの昔に壊れ果てていたのだ。
 これが、この最低最悪の記憶が、閃鬼が持つ唯一の『母の記憶』だった。

 もうこれ以上の描写はやめよう。
 読み飛ばした方は、ここから読んでいただければよい。

 鬼の里で起きたこの出来事で、閃鬼は『壊れた』。三日三晩のあいだ吐き続け、二度と女を抱くことができなくなった。
 『こんなことがあってはいけない。二度とあってはいけない』
 ずっとそう念じ続けた彼は、鬼にしては珍しいほど純粋で、そして正しい鬼だった。
 それゆえに、間違った。
 『鬼を滅ぼし、自分も死ぬ』
 間違った結論を出してしまった。
 聖戦時代の悲劇に始まり、悲劇しか産んでこなかった鬼の里も、鬼も、『滅ぶべし』と、そう信じた。
 そして彼は里を抜け、『はぐれ鬼』となった。
 『鬼殺しの閃鬼』の誕生だった。
 追手がくれば殺し、鬼が雇われたと聞けば殺した。まず里の外の鬼を殺し去り、最後は鬼の里も滅ぼす。同じ『はぐれ鬼』の善鬼も狙ったが、単独では瑞波国の凄まじい警備を突破できない。
 だから今回、八ツ谷の忍びを与えられたのは千載一遇の機会だった。いや、そうでなくても、たとえ一人でも彼は来ただろう。
 そこに『女の鬼』がいると知っては。
 すべての悲劇を生む、その源がいると知っては。
 鬼が起こす悲劇を止める、そのために生き、そのために殺してきた彼には。
 だから、だからこそ閃鬼は咲鬼に問うたのだ。問うしかなかったのだ。
 
 「『女の鬼』が、なぜ笑えるのだ?!」
 
 つづく

 
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中の人 | 外伝『The Gardeners』 | 13:09 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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