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外伝『The Gardeners』(31)
 篝火に囲まれた厳忽寺の境内、その灯りの中に、一条綾は姿を現した。
 全身を堅牢な鎧で包み、手には大薙刀。そして愛鳥・炎丸に騎乗した完全武装だ。
 単騎の戦力としては、恐らく今の世で最強、無敵。
 『鬼殺しの閃鬼』との決闘を制したばかりの咲鬼を、その両目でまっすぐに見つめながら、一直線に進んでくる。
 その進路を、だが遮る者がいる。
 「お止まり下さい、綾様」
 まずは泉屋桐十郎。居合い抜きの神速に並ぶ者なし、と言われた剣豪が、愛刀『無反り村正』を腰にして、綾の前に立つ。
 続くは泉屋の女中頭、一二音こと『フィフネ・アルフ』。もちろん愛鳥・『竜胆(リンドウ)』の背に跨った騎乗姿だ。
 泉屋を拠点とする御庭番衆、その前衛両翼が、綾と咲鬼の間に立ちはだかった。
 元は瑞波の町奉行であった泉屋桐十郎・『桐十』にとって、綾は『主君の長女』。一方、一二音にとっても綾は命の恩人であり、肝胆相照らす友人でもある。
 だが今、二人の目に迷いは見られない。
 妖刀・村正を、居合用に直刀へと打ち直した『無反り村正』、その鯉口は切られている。一二音の『鮮血喰い』も同様の臨戦態勢だ。二人の後方にはプロフェッサーの泉水が、万全の戦闘補助を敷いて控える。
 気づけば女忍者・みいや、さやかの姿も消えている。おそらくは篝火の外の闇に溶け、仕掛ける機会を狙っている。忍者の仕事に一瞬の油断もない。
 「無用。退け」
 綾の言葉は短い。貴様らに用はないから消えろ、という。だが、
 「退きませぬ」
 桐十も、一二音も微動だにしない。闇に紛れたであろうみいや、さやかも、泉水も、ひまわりも、かいねも、境内に集った御庭番の誰も、動こうとしない。
 彼や、彼女らは皆、ここで死ぬつもりだった。一条綾に歯向かって、生き残れるはずはない。
 だがそれもやむなし。
 綾が、咲鬼をどうにかするというならば、たとえ死すとも阻止する。目覚めたばかりの鬼の娘を、総掛かりで守りぬく。綾に勝てぬのは承知、咲鬼が逃げる、その時間さえ稼げればいい。
 だが、そんな悲壮な覚悟とは裏腹に、彼らの表情には緊張も何も感じられなかった。
 「暇つぶしなら、私と竜胆が相手になろう。なに、退屈はさせない」
 一二音がかける言葉も、まるで休日の午後のように気楽で、軽やかだ。
 死を覚悟した、いや『もう死んでいる戦人(イクサビト)』とは、まさにこういうものである。
 日本の武士道を説いた書物『葉隠』の中の一節『武士道といふは、死ぬ事と見付けたり』は有名である。武士の、死に対する美学を説いたものだが、その目指すところは苛烈だ。
 生きるか死ぬか、という局面では、迷わず死ぬ方を取れ、という。
 無駄死に、犬死になど考えていては死ぬ機会を逃し、それで生き延びても恥なだけ。だから、そんなことは考えず、とにかく死ぬ。
 『犬死気違い』になれ、と説く。
 狂気である。
 だが戦人とは、その狂気と暴力の果てに生きる者のことだ。いつ殺し、殺されるか分からない、そんな時間の中で、十全の生を生きる者だ。
 散歩に出るように戦い、深呼吸するように死ぬ。
 (……すごい)
 彼らの背中を見つめる咲鬼の瞳に映る、その姿はとことんまで非合理的で、そして不思議に美しかった。
 そして同時に、彼らに対する抗いがたい共感をも呼び覚ました。
 「……」
 きっ、と唇を結び、『小鬼棒』をしゅっ、とひとつ扱いて握り直す。
 彼らが死ぬというならば。

 自分が彼らを守るのだ。

 「死になさるか、咲鬼殿」
 気づけば、でくらん和尚が隣にいる。
 「死にます。お世話になりました、和尚様」
 迷わず応える。
 「角はしまっておけ」
 これもいつのまにか、和尚とは反対の隣に閃鬼がいて、アドバイスをくれる。
 「あまり出しっぱなしだと、鬼の性(さが)が強くなりすぎて、何もかも壊したくなる……俺のようにな」
 その表情にも、言葉にも、もはや『鬼殺し』の殺気は感じられない。それでもさすがに、御庭番の衆が目を逆立てる。
 「てめえ、いまさらシレっと先輩面しやがって……!」
 詰め寄ろうとするひまわりを、しかしでくらん和尚がやんわりと止める。
 「ま、ま。神仏の庭で、そう殺気立つものではない。争いは仏道に背く」
 どの口が言うのか、という仲裁。
 「もう勝負はついておる。この鬼の身は、拙僧が預かるゆえ、な」
 にっこり、と微笑むでくらん和尚の笑顔に、さすがの御庭番衆も引き下がる。といっても、閃鬼を許したのではない。むしろ全員の顔に浮かんだのは、

 (鬼、逃げてー!!!!)

 それだった。
 この和尚、いや『武術外道』に身を預けるということが何を意味するか、知らない瑞波人はいないのだ。
 「咲鬼様、お弁当! お茶も!!」
 「ありがとう」
 御庭番が差し出す弁当箱から、好物の稲荷を取って頬張り、水筒の茶をあおる。その間にも、血まみれの身体をもみくちゃにされる勢いで清められ、なんか肩まで揉まれてしまう。
 「角に心を預けず、制御することだ。角はあくまで、お前が生きるための道具だ」
 閃鬼の言葉に、無言でうなずく。
 「咲鬼様、身体に痛いところ、突っ張ったところはありませぬかな? 目と耳、左右の効きも確かめられよ」
 でくらん和尚の言葉に、これも無言で従い、身体をチェックする。
 なんというか、万全にもほどがある『ピット作業』だった。
 それをじっと見つめていた綾の隣から、
 「すねるな。お前には、俺がいる」
 善鬼だ。
 「すねてない」
 「そうか」
 「……笑うな。お前から潰すぞ」
 「笑ってはいない」
 いつもの馬鹿夫婦ぶりである。
 「ありがとうございました、桐十様、一二音さん」
 咲鬼の声に、前衛の二人が左右に割れる。
 小さかった鬼の娘が今、戦場に立つ。
 「よろしいのですか? 咲鬼様」
 桐十が問う。
 「遠慮は無用、加勢するぞ?」
 一二音が申し出る。
 だが、それをかき消すのは大音声。
 「瑞波国の守護職、一条瑞波守鉄(いちじょうみずはのかみくろがね)が一女・綾である!」
 びりびりと、天を裂く雷鳴にも似た綾の名乗りだった。
 だが、それは単なる自己紹介ではない。
 ここが彼女の戦場であること。
 戦の相手が咲鬼であること。
 その二つを同時に宣言する、それは名乗りだった。そしてそれは、咲鬼を一人の戦人として認める、その宣言でもあった。
 でくらん和尚の元で修行を積み、そして『鬼殺しの閃鬼』と戦った。その力と意志を、綾はずっと見守っていた。何のことはない、この完全武装も、いざとなれば咲鬼を助けるための準備だ。
 だが咲鬼は綾の助けもなく、自らの力で未来を切り開いて見せた。 

 綾は、咲鬼を認めたのだ。

 咲鬼の名乗り。綾の想いを受け、これでもかと腹の底から声を絞り出す。
 「瑞波一条家筆頭御側役・善鬼が養女……」
 そこまで言った時だ。
 「『娘』と」
 静かな、しかし断固たる声が、咲鬼の名乗りをさえぎった。
 善鬼だ。
 「『養女』ではなく『善鬼が娘』と。これより、そう名乗るがいい」
 「……」
 さえぎられた咲鬼が、綾の傍らに立つ善鬼をぽかん、と見つめたまま、しばらく反応できない。そして彼女より先に、
 「くぅっ!!!!」
 感極まった、としか言いようのない唸り声に、人々の視線が集まる。
 「いい話じゃねえか、なあ巴!!」
 「左様でございますね、殿様」
 これまた、いつのまにか篝火の輪の外でシレっと観戦していた一条鉄・巴の殿様夫妻である。
 「な、なんかえらいことになってない、これ!?」
 女忍者・みいやが臨戦態勢を解いて姿を現す。さやかの方は、例によって巨大ルナティック・マサムネとその配下のウサギたちによってもふもふ拘束。笑い事に見えるけれど、さやかにとって守護すべき咲鬼の相手が、よりにもよって一条家最強の長女となれば、その破壊衝動は楽に限界を突破する。こうでもして止めておかないと、その『祟り(タタリ)』の力は瑞花の街すら焦土にしかねない。
 「善鬼が娘……!!」
 気を取り直した咲鬼があらためて名乗る。
 その言葉にどれほどの想いがこもるか、見守る全員が知っていた。
 「善鬼が娘、咲鬼っ!!」
 もう一度、噛みしめるように叫んでも、誰が彼女を笑うだろう。
 ぱきん!! 咲鬼の頭に、再び角が出現する。
 戦鬼(イクサオニ)、咲鬼が戦場へと舞い降りる。
 しかし咲鬼は構えない。じっと綾を見つめる、その視線の意味をなんと感じたか。
 「『腹の子』のことなら斟酌無用だ」
 綾が言い放つ。
 「むしろ『二対一』と心得よ」
 ぶん、と大薙刀を振るってみせる。その声、その姿に驚いたのは咲鬼ではない、周囲を埋めた御庭番達だ。
 「ええええええ!?!?!!」
 「ちょ、今なんて!??!」
 「綾様、ご懐妊?! マジかおい?!」
 「あ、相手は……」
 全員の視線が善鬼に集中。
 「お……おめでとう存じます……?」
 間の抜けた祝辞に、
 「ありがとう」
 まったく動じてない善鬼が返す。
 一同、もうどんな顔していいのやら分からない有様。
 「咲鬼様、頑張れっ!!!」
 そんなムードを、ひまわりの一声が変える。
 「そうだ、負けるなああああ!」
 「いっけーえええ!! ラスボス倒せえええ!!」
 「角出してええ!!」
 歓声が爆発する。
 あちこちで派手な魔法の花が咲き、しゃらりん♪ ごーん♪ と美しい起動音が鳴り響く。魔法の効果そのものより、発動時に副作用として発生する光や音を装飾として使う『呪囃子(マジバヤシ)』だ。

 その騒ぎの中で、しかし咲鬼は一人、静かな幻の中にいた。

 閃鬼との戦いの最中、かつてこの瑞波の国を作り上げた一人の男、その過去の幻と邂逅した。それは鬼の角が持つ、ある種の超感覚だったのか。
 では今、咲鬼の目の前に立つ、この幻は?
 逞しい身体、両肩には角。
 『鬼』だ。
 咲鬼を遥かに越す長身ながら、咲鬼には見慣れた面影を宿すその顔には、まだ若干の幼ささえ残っている。
 その少年が、咲鬼を見つめている。
 その視線の強さに、咲鬼の心が一瞬、わけもなくざわめく。
 少年の唇が動いた。
 声は聞こえない。だが、唇の動きが、その言葉を咲鬼に届けた。

 『「咲鬼姉(さきねぇ)」』

 少年の幻は、確かにそう告げて、消えた。
 先に見た幻が過去ならば、ではこの幻は。
 だが咲鬼がそれを知り、彼を、そして自分の運命を知るのは、まだ遥かに先のことになる。
 今は。
 そう今は。
 騎乗の綾が大薙刀を引っさげたまま進んでくる。
 咲鬼が小鬼棒を構える。

 今は、戦(いくさ)だ。

 「……う、ぉおおおおおお!!!!」
 咲鬼が吠える。
 出し惜しみも、駆け引きもない、最初から全力。
 秘伝花技(ヒデンハナワザ)の『終(ツイ)・『杜若(カキツバタ)』
 神速を超えた六連撃をまとい、咲鬼が襲いかかる!
 
 そして。

 「……」
 ぽかり、と咲鬼が目を開けた。
 夜空。いや、そこはもう星の数をすっかり減らし、微かな紫色に染まっている。
 もう夜明けが近いのだ。
 厳忽寺の境内。篝火はすべて燃え尽き、そして無人。
 ひとり咲鬼だけが、仰向けに地面にひっくり返ったまま。
 角も消えている。
 「……負けた」
 ぽつり、とつぶやく。
 何とか数発は攻撃を通した記憶はあるけれど、綾にはまるでダメージを与えられなかった。逆に、骨まで砕けるような攻撃を、その数十倍も喰らいまくった。そしてどうやら最後は気を失い、こうして放り出されたらしかった。
 右手に、小鬼棒の感触。
 気を失っても、最後まで得物を離さなかったのはせめてもの意地か。
 綾を相手に、そりゃ勝てないことは分かっていた。それでも意地は示せた。
 精一杯、やった。
 ひっくり返ったまま、小鬼棒を空に掲げる。だが。
 「……?!」
 棒は、もう棒ではなかった。
 コンパクトにアレンジされた先端の飾りは砕け落ち、棒自体も真ん中と、手元で変な方向に曲がっている。本来、木で出来た『催眠術師の杖』が曲がることはないが、瑞波の武器職人の手によって金属で強化されたため、木の部分が砕けても、まだ形を保っている。さながら、出来の悪い現代アートのような有様だった。
 そして、もはや武器としては二度と使えまい。
 この時、まだ『小鬼棒』という名はない。初代・小鬼棒は、こうして名もないまま、短い一生を終えたのだ。
 
 咲鬼と共に歩んだ、あまりにも短く、しかし激しい一生を。
 
 「……っ!!」
 ぐしゃっ、と、咲鬼の顔が崩れた。
 ぼろぼろぼろぼろ、と、両目から涙があふれる。
 「……ちくしょお」
 小鬼棒を握った腕で涙を拭うけれど、それは後から後から溢れ出て、止まらない。
 「ちくしょお!! ちくしょおおおおお!!!!!!」
 咲鬼は、とうとう叫んだ。
 涙も、声も、もはや止まらないし、止める気もなかった。
 『負けたが、意地を示せた』? 『精一杯やった』?
 ふざけるな。
 ふざけるな。
 負けた。
 自分は負けたのだ。これでもかというほど、『こてんぱん』に負けたのだ。
 「悔しい!!」
 口に出して、余計に悔しくなった。
 相手が地上最強だろうがなんだろうが、全力でぶつかって、そして砕け散るほどに負けた。加えて、どうせ手加減されたのだ。そうでなければ、こうして五体満足で生きていられるはずがない。
 「……ああ!!」
 涙に濡れた顔が真赤になる。
 「あああああ!!!!」
 言葉にならない。
 「ああああああ!!!! あああああああ!!!!!!!」
 思い切り口を開け、空に向かって叫ぶ。
 ばきん、と角が出現する。
 あちこち痛む身体を無理やり叩き起こし、仁王立ちになって、また叫ぶ。
 「見てろよお!!!!」
 ぶん!! と、壊れ果てた小鬼棒を天にかざす。
 「今に、見てろよおおおおお!!!!!!!」
 全身全霊、それに角まで加えて、咲鬼は叫んだ。
 こうして小さな鬼の娘は、子供であることをやめた。

 そして『青春』。
 そのまっただ中へと走り出したのである。

 おわり
 
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中の人 | 外伝『The Gardeners』 | 13:14 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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