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第十五話 Crescent scythe(19)
 「アルナベルツ教国の乗っ取り。その陰謀が進んでいる」
 少女教皇は、老神将の骸を前に語り始めた。
 「教国を乗っ取るために、一番手っ取り早いのは何か、わかるかや?」
 「……」
 少女教皇の問いに、一同からの答えはない。問うた本人も期待してはいない。なぜなら、その答えはあまりに明白。
 「妾を乗っ取ることじゃ」
 ため息のような告白。
 「『乗っ取る』?」
 静が、ここにきてようやく問いを発した。
 「そう、妾自身を乗っ取ってしまうのじゃ。外つ国の外法で、『BOT』という……?」
 「うあ……」
 今度こそ、マリンを除く一同から、ひどく濁ったため息。少女教皇は怪訝な顔。
 「知っておるのか?」
 「知りたくもなかったけどねー」
 静は苦い顔。だが少女教皇は警戒。
 「それは敵としてか、それとも……?」
 その問いには静、決然として、
 「真っ向から敵!」
 言わずもがなの宣言。
 「『BOT』なんて外道の技も、それを利用する連中も、一人残らずアタシらの敵だ」
 ぎらり、と手の大鎌が光る。ここまで戦い抜いてきた静の怒り、そして嫌悪は本物だ。
 そして、それを感じ取れない少女教皇ではない。
 「良し」
 細かい事情は置いて、今はそれだけでよい。
 「とはいえ、気付くのが遅すぎた」
 少女教皇が唇を噛む。
 「誰が、どこで手を引いているかは分からぬが、人の魂を入れ替える技術によって、すでに教皇庁の神官の相当数が『別人』に変えられている。もうほとんど、誰も信用できぬ」
 だから、あのニルエン大神官は、この少女教皇をマリンに委ねた。
 といっても、別に信用したからではない。この研究バカの外国人が一番、敵の手が及んでいない可能性が高かった、それだけだ。あと、わずかの可能性ながら放浪の賢者・翠嶺の保護が間に合うかもしれない、という期待もあった。

 教皇さえ無事なら、国家は再建できる。

 女大神官の考えはそれだ。
 だが老神将ヴァツラフ・ヴォーコルフはそう考えなかった。彼は考えた。
 乗っ取られる前に、いや、すでに乗っ取られている可能性も否定できない以上、殺す。そして自ら『教皇殺し』の汚名を着て、死ぬ。
 しかるのちに新たな教皇を、いや『真の』教皇を擁立する。

 教皇さえいれば、国家は再建できる。
 
 他所から見れば、どっちもどっちという話だ。あるいは目糞鼻糞、という話かもしれない。
 だが結果、老神将は死んだ。
 「……って、なーんか釈然としねー」
 アルナベルツの老神将、その死を眼前にして、複雑なつぶやきを漏らしたのはアサシンクロス・うきだった。
 「この爺ちゃん結局、良いモンだったん? それとも悪るモンだったん?」
 うきが首をひねる。
 「教皇タンを殺そうとしたけど、結局、自由にしてやろうとしたんでしょ? 教国の縛りからさ。んで、どっちみち責任とって死ぬつもりだったんでしょ? どうなん、それ?」
 ひとつの戦いの結末に、あえて疑問を呈するうきに、その戦いの主導者であった少女は、
 「良いか悪いかで言えば、そうじゃな、良い漢であったよ」
 肯定で応えた。
 「妾が小さい頃は、毎日のように抱っこされて庭を散歩してくれた。暗殺者の手から、身を呈して守ってくれたこともある。フレイヤ教の教えとアルナベルツの国を守る神将として、その忠義に一片の疑いもなかった」
 少女教皇の言葉には、慈しみさえ感じられる。
 「自分の家の金蔵の中身と、女のケツにしか興味のないクソ神官どもに比べたら、よっぽどマシな漢であったよ」
 「き、教皇タンは『ケツ』とか言わない!」
 なぜか耳をふさぐうき。
 「ん? 知らんのか? アルナベルツの女神官、あのローブの下が『全裸』という決まりなのは、まくり上げればいつでも……」
 「ええっ……?!」
 少女教皇以外、全員が目を剥く。
 「嘘じゃ。ちゃんと下着を着ておるわ」
 「ふぉ……っ!?」
 衝撃の連続に、さしも強者ぞろいの静たちの膝が抜けそうになるのへ、
 「よし、ウケた……初めて」
 少女教皇が小さくガッツポーズ。
 「許せ。いっぺんやってみたかったのじゃ」
 にた、と真っ白な歯を見せられて、
 「くっそ……怒れねえ……っ!」
 うきが何かと戦っている。
 「とはいえ、この爺が妾の両親を殺した、それも動かせぬ事実じゃ。いまさら恨みはせぬが」
 老神将の骸を見つめる少女教皇の瞳が深く曇る。
 「だからといって許しもせぬ。未来永劫な」
 「それでいいと思うよ」
 静だ。
 巨大ポリン・マスターリングの上に座った少女教皇は、ちょうど彼女と目線が合う。静の黒曜石の瞳が、少女教皇の左右異色の瞳を真っ直ぐに見つめる。
 「武人の善悪なんか、見る者によって変わるのが当然。ある人間にとっては神でも、別な人間にとっては悪魔だったり、そんなの普通」
 「うむ」
 「だったら、自分の納得の行くように生きるだけ。そうとしか生きられない」
 そうとしか生きられない、それは一条静、彼女自身の告白でもあっただろう。
 人間社会とは、究極的には『共生』を指向するものだ。人間として生まれてきた全員が、誰も傷つけず、誰にも傷つけられないまま寿命を迎える、それを究極の理想とする。とはいえ現実、そこには犯罪があり、あるいは国家や宗教や民族による戦争が絶えず、結果として静のような暴力のスペシャリスト・武人の需要が発生するのだ。
 そうして良くも悪くも必要とされる彼女たちが、しかしどこか『異質』であることも否定できない。本来は必要のない、必要とされないことが理想とされるもの。
 『必要悪』
 そんな言葉でさえ表現される武人という存在は、人間社会の中で、最後には『仲間はずれ』となる。
 人間社会の中で、究極的には居場所のない者たちだからこそ、彼らは自分自身の存在と向き合い続けねばならない。
 たった一人で。
 「この老人は納得していた。納得して戦った。貴女のご両親を殺したことも、貴女を守ったことも、そして貴女を殺したことも」
 「静、お前に負けたことも、な」
 「当然」
 とん、と大鎌の鐺で大地を叩く静。
 「だから、その死をグダグダ語るのは無駄。弔いも、無用」
 一人の武人が、武人らしく死んだ。
 それでいい、それだけでいい。

 いつか、自分が死ぬ番が来ても。
 
 「……聞いてくれ、静」
 そんな静を前に、少女教皇は、くっ、と眉を固くして言った。
 「妾はな、ずっと考えていたのだ。アルナベルツ建国の、あの神話を」
 荒野に追放され、日々の生活にも困窮する民衆は『神はどこにある?』と問うた。それに対して、指導者たちは『ここにある』と左右異色眼の赤子を示し、それが初代の教皇となった。
 「だがな、それが間違いだったと、妾は思う。間違いの始まりだったと思うのだ」
 少女教皇の言葉は、あまりに衝撃的な自己否定でもある。 
 だが静は怒らないし、もちろん笑いもせずに、
 「聞かせて、貴女の考えてきたことを」
 目を逸らさず、耳を澄ます。
 「妾は思う。最初の指導者たちは、そうすることで民を騙した。いや、『甘やかした』のだ。民の必死の問いの前に、分かりやすい答えだけを示すことで、それにすがり付かせた。そして暗に、他の選択肢を奪った」
 教皇自身による、教皇神話への痛烈な批判。皮肉にしても皮肉が過ぎる。
 「妾は思う」
 少女教皇の瞳は、静のそれを見つめながら、だがもはや静だけを見てはいない。 
 「神話の指導者たちはあの時、民の問いに対してこんな色の瞳や、こんな色の髪の毛を示すべきではなかった」
 少女教皇は否定する。
 「妾は思う。『神はどこにある?』と問う民には、きっとこう答えるべきだった」
 その時、静の唇が動いた。
 「『神はどこにある?』」
 いつか遠い日の、その原初の問いに、少女教皇は答える。

 「『自分で考えろ』」

 神も、人も、国も、命も、争いも、愛も、死も。
 自分自身で考え、納得するまで考えろ。
 「もしあの時、民にそう言ったならば、あるいはアルナベルツという国は成らなかったかもしれない。いや、成らなかっただろう」
 求心力を失った民は散り散りになり、ルーンミッドガッツとシュバルツバルト、二つの国に再び吸収され、消滅していったかもしれない。
 「だがそれでも、釈然としない理由で妾の両親が殺されることはなかった。その爺が死ぬことも、なかった」
 自分で考えず、国に、神に、教皇にすがり付くだけの人々が、そうさせてしまったかつての指導者たちが、巡り巡ってこの少女教皇の運命を狂わせた。
 悪と呼ぶなら、その巡りこそ『悪』。
 「今の妾なら、そう言うだろう。そして、あるいは怒った民に圧し殺されるかも知れぬが、悔いはすまい」
 自分で考えたことだから。
 言い終えて、ふう、と大きく息をついた、その少女教皇の体を、がば、と静が抱きしめた。
 「?!」
 「貴女と」
 目を丸くした少女教皇に、静は言った。
 「貴女と出会えて嬉しい」
 そして、二人の少女は友となった。

 つづく
 
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中の人 | 第十五話「Crescent scythe」 | 13:20 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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