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第十五話 Crescent scythe(28)
 「とっとと『交代』しようじゃないか。そのために来たのだろう? 『妹』よ」
 少女教皇と瓜二つの容貌をした少年は、明るく、そして冷たく言った。
 「……ぅ」
 言われた少女教皇は、しかし答えない。答えられない。巨大な氷の竜に背中を痛打されたダメージが大きい。背中に背負った銀狼丸が防具となったおかげで傷こそ追わなかったが、身体の内部、内臓まで衝撃が及び、呼吸すらできない有様。少女教皇、いくら心は冒険者気取りでも、教皇庁の階段の昇り降りぐらいしかしたことのない身体で、これは当然の結果といえた。
 「あっちゃん、『ヒール』!」
 静にうながされるまでもなく、速水から少女教皇へと治癒魔法・ヒールが贈られる。
 「っ……はぁ!」
 やっと呼吸が戻る。
 「す……まぬ、静。預かった刀が……」
 「そんなのいいから!! 息して息!」
 少女教皇の身体を支えながら、静が怒鳴る。そりゃあ刀は大事だが、アルナベルツ教国唯一の現人神、その命と比べろと言われて迷う話ではない。その鍛え手たる叔父も、また本来の持ち主である無代ならばなおさら、
 『アルナベルツの教皇猊下が危急の折、その玉体を御守り奉った』
 果てに折れた、と言えば納得。
 いや、それどころか望外の大手柄と喜んでくれるに違いなかった。
 「大丈夫、折れてない折れてない」
 うきが、今や鞘も柄も砕けて裸となった銀狼丸の刀身を、自らのマフラーで布巻きにして抱き上げる。氷の洞窟の極寒、素手で刀身に触れれば汗が張り付き、一瞬で凍傷だ。
 「で、どうする静ちゃん?」
 うきが静に訊ねる。
 「あいつ、殺しとく?」
 言葉の軽さに比して、なんの感情も読み取れない無表情を張り付かせた貌は、このアサシンが割と本気でキレている証拠だ。
 「駄目」
 拒否で返した静が、少女教皇の身体をそっと、優しく速水に預け、
 「アタシが殺る」
 すっくとばかりに立ち上がる。
 「ありがとフール、プルーフ」
 巨龍と少年、その脅威に対して一同の前に立ちはだかり、守護を務めてくれたフールに声をかける。少女教皇への奇襲を防げなかったことに、この無痛の貴騎士が『痛み』を感じている、それを察してのことだ。
 フールとプルーフ、貴騎士とその愛鳥が無言で先陣を譲る。
 新たに立つは一条静。では、その表情は?
 瑞波一条家家訓、いや『喧嘩訓』に曰く、事に及んで怒る・キレるは雑魚三下のなせること。

 『本気の喧嘩をする時ゃあ、笑うんだ』

 流星の大鎌『片菫』を携え、『喧嘩相手』に向かうその表情は、まさしく『笑顔』。天の戦神(イクサガミ)さえ魅了する。
 喧嘩の相手がどこの、何者かは知らぬ。
 なぜ少女教皇を害したか、事情も知らぬ。
 ただ、みすみす『主君』が害されるのを防げなかったこと、それも神将ヴァツラフ・ヴォーコルフの奇襲に一度不覚を取り、これで二度目であること。
 もしこれが瑞波一条家麾下の武士であったなら、いちいち『切腹モノ』か、下手をすれば『斬首モノ』の不始末である。
 ちなみに『切腹』と『斬首』、どちらも不始末の末に死ぬことという点では同じだが、実は武士の世界でこの二つは天と地ほどの差がある。
 『切腹』は武士として責任を取り、自ら死ぬことによって名誉は守られる。だが『斬首』は罪人として罰を受けて殺されることになり、こうなれば名誉もへったくれもない。
 切腹して死んだ武士ならば、家を子に継がせることで一族を守ることもできるが、斬首にあった武士は武士の名誉・身分も取り上げられるため家も一族も取り潰し。家族、子孫はたちまち飢え、住むところもなく漂白する羽目になる。
 恥辱。
 今、静の頭の中を占領しているのもそれだ。
 
 (……恥をかかされた!)
 
 まさにそのことだ。
 誤解があっては困るが、静にとっては自分自身に対する侮辱や蔑視など大したことはない。武家の姫に生まれた以上、例えば家が戦に負ければ男は殺され先祖の墓は壊され、女は裸にされて陵辱を受ける、という結果はむしろ当然の有様である。
 ただ武を持って立ち、刀槍の道に生きる者として倒すべき者を倒せず、守るべき者を守れない。
 『御役目』を果たせない。
 それこそが『恥』だ。
 裸に剥かれようが泥を食おうが役目を果たす。それでなくて、なぜ百姓・町人のように働きもせず、日々の飯が食えるか。神将ヴァツラフ・ヴォーコルフすら、そうして死んでみせたではないか。
 これを恥辱と言わずして。
 「聖槌の衆は猊下を御守り奉れ」
 守るべき御方、その人から賜った天降りの大槍を手に。
 「あっちゃん、来い!」
 叫ぶなり、槍の鐺を足元の氷の床へ、叩きつける勢いで突き立て、その反動で身体を宙へと浮かせる。
 そこへ。

 飄!

 滑り込んだは風の魔獣。氷の洞窟、その氷の白色すらあざむく純白の有翼獅子・グリフォン。
 「ふ……っ!」
 静の身体が、大鎌を後に引いて宙を舞い、有翼獅子の背へと降り立つ。
 ただし、騎乗にあらず。
 ぶん、と振った大鎌を肩に担いだ静は、その両脚を前後にさばき、軽く腰を落とした『立ち構え』。
 『取替え児』エンペラーと戦った時とは違い、もはや鐙の代わりとする紐もない。となれば有翼獅子の裸の背に跨るしかなく、それでは満足に戦えない。
 エンペラー戦の際にも説明したが、騎士を筆頭とする騎乗の戦士は、騎乗動物の背中に『座っている『のでは『ない』。
 そこには必ず『鞍』と『鐙』があり、鞍で身体を支え、鐙に足を踏ん張っている。『立つ』こともできる。この状態でのみ刀を振るい、槍で刺し、弓を射ることができる。
 もしそうではなく、鞍も鐙も使わず騎乗動物の背中にただ跨っているだけなら、例えば剣を振ったところでせいぜい肩から先、まちがって素人であったならば、それこそ肘から先を振り回す程度の遊戯しかできまい。
 さすがの静も、それではまともに戦えない。だが鞍も、鐙もない。
 (なら、最初から立っちゃえばいい)
 そう考えるのが一条静だ。
 飄!
 風の魔獣を足下に従え、左右異色の大刃を担いだ女戦士が宙を舞う。いかに氷の洞窟が巨大で、ここがその最大の大広間とはいえ、騎鳥ペコペコを超える体躯の巨獣と、その上に立つ人間が自在に飛び回れるほど広くはない。
 だが静と速水、一人と一匹のコンビは洞窟にも、もちろん敵にもぶつかることなく、壁に立ち、天井に張り付き、床を蹴りながらの立体機動を展開する。
 
 氷の巨龍を従えた少年。
 有翼の獅子を狩る戦乙女。

 それはまさに、遠く聖戦時代の光景の再現であった。


 つづく
 
JUGEMテーマ:Ragnarok
 
中の人 | 第十五話「Crescent scythe」 | 12:15 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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