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第十六話「The heart of Ymir」(15)

 「大統領の資格など、最初からない男なんだよ、無代君」

 口中にたまった血の塊を吐き出すような、それは告白だった。

 無代はそれに答えず、むしろ朗らかに立ち上がると、

 「お酒のお代わりをご用意いたしましょう」

 そう言うと、大統領のもとを離れる。

 (……さて、どうしたもんかな)

 考えながら、大統領とは反目したままのハート財団が陣取る一角へ戻ろうとした、その無代を呼び止める者がある。

 カプラ社の公安部員、エスナ・リーベルトだ。

 「カールが……彼がなにを言ったかは知らないけれど、彼に責任はないわ」

 紫の髪をなびかせた若く美しい諜報員は、まっすぐに無代を見つめて切り出した。

 「と、申されますと?」

 無代が聞き返すと、

 「彼は、本当は戦うつもりだった。シュバルツバルドの民を守るために」

 あの時、飛空戦艦『セロ』からの降伏勧告を受け入れた大統領は、さらにこちらから条件を追加している。

 『自分を処刑するがいい。その代わりに国民の安全と権利を保障しろ』

 このヒゲで小太りの大統領は、自分の命と引き換えにして、国と国民を守ろうとしたのだ。もちろん、成功する見込みがないのは承知の上。。

 『あの冷酷なブロイス・キーンが、そんな条件を飲むはずもない。なんとか隙を見て刺し違える。そこまではやってみるつもりだ』

 大統領は側近たちにそう告げると、彼らに避難を促した。刺し違えるといっても、大統領自身にはろくな武力を持たず、爆弾の類も無力化されるだろう。だから、

 『ステッキの中に枝を仕込んでおいて、目の前で折ってやる』

 そう宣言したものだ。

 ちなみに『枝』とは、小さな枯れ木の枝に似たアイテム。正体は濃厚な魔素の塊で、これを破壊すると内包された魔素が解放され、その場所に魔物を召喚することができる。種類によってはボス級のモンスターさえ召喚可能で、これを街中で使用することを『枝テロ』などと称し、どの国でも禁止事項だ。

 もちろん使った本人も危険で、即座にその場を離れる移動技術か、もしくは戦闘・防御の技術を持っていない限り、死は免れない。まさに自爆だ。

 だが側近たちと、そしてエスナが彼を止めた。

 『カール、貴方は王でも英雄でもない、大統領よ。生きて、政治を行いなさい』

 それでも抵抗する大統領を、最後には魔法で強制的に眠らせ、わずかに残った大統領親衛隊の護衛をつけ、大統領府の地下へと脱出させたのだ。

 「だから彼は国を、国民を裏切ってはいない。彼を生かしたのは、私たちの意思」  

 そう語るエスナ、無表情を装ってはいるが、瞳の上に極薄の、必死の涙が被さっているのを隠せていない。

 「大統領閣下のことが、お好きなのでございますね」

 「……っ!」

 無表情が一発で崩れ、頬が真っ赤に染め上がる。無代ごときにバレるようでは、優秀な諜報員をして失態もいいところだろう。

 「よろしいではございませんか。結果として犠牲は出なかった。大統領閣下ご自身も含めて」

 無代がにっこりと笑う。

 「そしてこれからも、誰の犠牲も出さねばよい。それでこちらの勝ちでございましょう」

 「簡単に言うわね」

 「簡単とは申しておりません」

 エスナが照れ隠しで皮肉るのを、無代がいなす。

 「やるべきことは一つ、シンプルな話だ、と申し上げたまで」

 にやりと笑って一礼し、空のグラスを乗せた盆を片手に、雪の上を歩き出す。

 ハート財団の『陣地』に帰ってみると、彼らは今や戦車整備の真っ最中だった。分厚い装甲板をあちこち外して内部を点検したり、ボロ布で古い油を拭き取って、新たな油を追加する。

 よく見ればボロ布、無代が着ていたツナギだ。もはや服としての再利用は不可能だっただけに、最後に役に立ったのは本望というべきか。

 「おう、無代」

 キャタピラーを点検していたイナバが声をかけてきた。若い職人が一通り整備した駆帯の最中チェック中だったようだ。一方で、車内のシステム調整を手伝っていたらしい架綯が、心配そうに顔を出すのも見える。

 「ご苦労様でございます、イナバ様。大統領閣下より、おすそ分けに感謝しますと」

 無代も丁寧に頭を下げる。

 「ふん」

 イナバは鼻をひとつ。

 「……一応、確認のつもりで申し上げますが」

 無代は笑顔を崩さない。といって相手に媚びるではなく、逆に相手を見下す傲慢さもない。かつて初対面だった翠嶺さえ認めたほど、堂々と、しかも力強い表情。

 「現状、『マグフォード』が帰ってくるまで、シュバルツバルドの危機に対応しうる戦力は二つ。ハート財団の皆様と大統領閣下の勢力のみ。ここは手を結ぶのが上策と存じますが」

 「野郎がなにを言ったかは知らねえが、俺たちは野郎を許さねえ。それに変わりはねえよ」

 「左様でございますか……致し方ございませんね」

 あえて説得しようとせず、態度も表情も変えない無代に、イナバは逆に聞く。

 「で、アンタはどうする?」

 「どうする、と申されますと?」

 「俺たちにつくか、野郎につくか」

 イナバが鋭い目で見つめてくる。

 「そのことでございましたら、どちらにもつかぬ、と申し上げましょう」

 迷わず、無代はそう答える。

 「どちらにもつかねえ、だと?!」

 イナバが目をむく。

 「まさか一人で戦う、ってんじゃあるまいな」

 「ひ、一人じゃないですっ!!」

 架綯だ。

 戦車の上から、転げ落ちんばかりの勢いで無代のそばへすっ飛んでくると、その腕にしがみつく。

 「僕……『俺』も無代さんと行きます! ユミルの心臓を、翠嶺先生を助ける!」

 これで涙目でなければ架綯、一人前だ。無代はあえて架綯に構わず、

 「若先生は若先生。手前は手前。これは手前の仕事でございますので」

 「『仕事』、と言ったか?」

 イナバの視線と、無代のそれがぶつかりあう。

 「申し上げました。『マグフォード』が帰るまで、若先生とユミルの心臓をお守りし、翠嶺先生をお迎えに上がる。これは手前が一人、請け負った『仕事』でございます」

 「誰から!」

 イナバが叫ぶ。

 「その仕事とやらを、どこの誰から請け負ったと言うんだ、アンタは!」

 「……」

 その時の無代の姿が、架綯という少年の記憶にずっと焼きつくことになる。そして彼自身のその後を決定づけたといっても過言ではない。

 架綯が、イナバが、ハート財団の人々が見つめる中、無代は黙ったまま片手を上げて指差した。

 その指先は真上を。

 

 天を。

 

 『無代の天下奉公』、『天に雇われた男』、後にそう呼び習わされた彼の一生を象徴する、それは一幕であった。

 

 つづく

 

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中の人 | 第十六話「The heart of Ymir」 | 12:34 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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