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第十六話「The heart of Ymir」(23)

 空の真ん中に、光の地獄が出現した。

 巨銃エクソダスジョーカーXIIIの弾丸が、飛空戦艦『セロ』に対し、ついにその威力を発揮したのだ。

 それも本来ありえない『2発同時爆発』。

 巨銃エクソダスジョーカーXIIIの弾丸を2発、片方を弓で、片方を銃で打ち出し、飛空戦艦『セロ』に撃墜される寸前に、空中で衝突させて爆発させた。

 空を吹き渡る風を読み切り、矢を数キロも先へ届ける弓術も神業なら、飛翔する矢の先端に、弾丸をピンヘッドで命中させる技量も、まさに人外だ。

 

 チーム・グラリス恐るべし

 

 聖戦時代の再現、いやそれ以上の超爆発が、シュバルツバルドの空を白熱に焼く。

 そして直後、『マグフォード』の船体を巨大な平手でぶっ叩いたような爆音が届いた。

 ばぁん!!

 もはや音というより衝撃そのもの。飛行船『マグフォード』、その特徴でもある左右2つの気嚢が、打楽器の打面のように激しく振動する。

 グラリスたちの目を閃光が焼き、爆音が鼓膜を引き裂く。

 「……!」

 かかかかーん!!!

 甲高い魔法発動音は、隻眼のG4ハイプリーストが仲間に送ったバリア魔法の発動音。

 カラカラカラ!!

 一方で、『マグフォード』の甲板に、空になった薬瓶が次々に転がる。

 グラリスNo9・義足のG9が聖騎士のスキル『ディポーション』を使い、甲板にいる仲間たちの身体ダメージを身代わりに引き受けた。

 G9が身を包む巨大鎧には、高価な回復薬剤をマシンガンのマガジンのように収納する機構が備わっており、盾を持つ指の操作一つで連続して薬剤を血管投与できる。しかも薬剤は異空間のカプラ倉庫から補充し放題、となれば、即死でさえなければ、たとえ1000回死ぬほどのダメージを負ったとしても無傷。

 甲板を転がるガラスの空き瓶は、閃光と爆風のダメージが『帳消し』になった、その証だ。

 「10秒後に爆風が来る。舵をやや右、エンジン全開で急上昇」

 神眼のG1スナイパーが伝声管を通じ、飛行船『マグフォード』の艦橋へ指示を飛ばす。

 ふぉおおおお!!

 噴射エンジンに姿を変えた双胴の気嚢が、後尾から二重、三重の円雲を率いて咆哮し、

飛行船は上昇を始める。

 グラリスを率いる神眼の弓手、その風を見る異能を疑うスタッフはもういない。

 「ベルト確認、安全姿勢」

 甲板のチーム・グラリス全員、固定ベルトを確認し、さらにぎゅっ、と握りしめる。『マグフォード』の船体角度は45度、乗っている人間には垂直にも感じるだろう。

 甲板に転がっていた薬の空き瓶が、澄んだ音を立てながら、群れをなして後方へ転がっていく。

 「来るよ」

 G1スナイパーのつぶやきと同時。

 ばつん!!!

 爆風が届いた。

 今度こそ、飛行船『マグフォード』の気嚢が、ほとんど破れんばかりに波打ち、内側の構造材がぎしぃいいい、と、嫌な音を立てる。

 「大丈夫、これ?!」

 「ぶっちゃけ、わからん」

 甲板に飛び出した非常用の椅子にくくりつけられたG2ハイウィザードの叫びに、むしろのんびり答えたのはグラリスNo5、愛煙家で美熟女のG5ホワイトスミスだ。『マグフォード』の設計・建造にも深く関わっている女技術者は、G2の隣の席でくわえタバコ。

 「こんな状況、テストもしてないしなぁ……」

 G5の言葉が切れる。

 前方からの爆風を土手っ腹で受けた『マグフォード』が、さらに上昇角度を増した。今や船体角度は垂直、乗っている人間には、いっそ逆さまに感じる。

 しゃら、ららら

 甲板の後部に溜まっていた薬瓶たちが、とうとう甲板から放り出され、空中へと消えていく。

 「うわ、わわわ!!!」

 G2が叫ぶのは、いっそ正直者だ。他のグラリスでさえ、大空の真ん中でアクロバットなど初体験。いくら肝が座っているといっても限度がある。

 例外はグラリスNo13、死神のG13アサシンクロス。彼女だけは固定ベルト1本を軽く握ったまま、甲板に片膝をついた『待機姿勢』で平然としている。この生来の暗殺者が相手では、物理法則さえ避けて通るらしい。

 「舵、3度右……4度左」

 垂直の甲板にへばりついたまま、G1スナイパーが伝声管へ細かく指示。この爆風の中、わずかでも風読みと操船を誤れば、船体は一瞬でバラバラだろう。

 「む……!」

 甲板に棒立ちでワイヤー固定されているG9パラディンの鎧が、一瞬、宙へ浮く。両手でワイヤーを握って再び固定。

 「ぶ……っ!」

 G2ハイウィザードが、これでもかと身につけた魔法強化アクセサリーの一部が、頭上で暴れた挙句に顔面を直撃。

 「あいやー!?」

 小柄なG15ソウルリンカー、たすき掛けのハーネスがずれて、身体がすっぽ抜けそうだ。そこへ、

 「ほっ♪」

 どこからか気の抜けた声と同時に、空中からナイフが出現。G15のハーネスとカプラ服をまとめて貫き、甲板に縫い付ける。グラリスNo12、不可視のG12チェイサーも健在のようだ。

 一方で、椅子に座ったままバンザイポーズできゃーきゃー笑っているのはG6ジプシー。彼女にかかっては、この状況も絶叫アトラクションと大差ない。

 いや、ひょっとして命の危機とか、そういうものに対する反応が『壊れている』のではないか。

 「長生きしないよ、アンタ!!」

  G2の嫌味に、

 「……もとより、でやんす」

 一瞬、笑顔を消して応えたG6の心中や。だが即座、

 「バーカ、せっかく生きてんだから、長生きしてクソババアになんのよ!」

 言い返すG2こそ。

 「……さすが、でやんす♪」

 心からの笑みで返したG6ジプシーである。それをよそに、

 「で、やったの?! あいつ、やっつけたの?!」

 堂々とフラグを立てるG2に、全員が苦笑。

 爆風による大嵐が吹き抜け、『マグフォード』の船体が水平に戻る。

 「……寒みっ!」

 G5ホワイトスミスが大柄な身体を震わせ、鍛治師のスキルを発動して身体を温める。

 飛行船が爆風に乗っかる形で、一気に高度を上げたせいで、甲板上の気温が激変した。

 低温、低気圧、そして低酸素。

 その中でもG1スナイパー、素早く甲板の先に陣取り、その神眼を凝らす。

 「いる。ステルスを解いてる」

 一部を除き、グラリスの大半が椅子やベルトの拘束を解き、甲板から首を出す。

 「あそこだ」

 G1スナイパーが指差すまでもない。

 さっきの大爆発で雲が飛び散った空は晴れ。はるか高空に上った『マグフォード』からは、シュバルツバルドの辺境に広がる赤茶けた大地がくっきりと見下ろせる。

 その中空に、敵はいた。

 葉巻型、銀色の船体。飛空戦艦「セロ」。

 その後部から展開される攻防一体の『エネルギーウイング』は本来、13枚の『ルシファー』。

 だが。

 「8枚。減らしたぞ」

 G1スナイパーが宣言する。

 「翠嶺師が分析した通りですね」

 指揮官を務めるG3プロフェッサー。翠嶺が、巨銃エクソダスジョーカーXIIIと共に残した資料を、彼女はそれこそ穴があくほど読み込んだ。

 「パワーソースを一元化しているから、想定外のダメージを受けると、船体の保持にパワーを取られるようです」

 彼女らが至近距離で引き起こした大爆発、その威力を相殺するために、パワーを消費せざるをえなくなった。具体的には、セロの表面を覆う『流体装甲(リキッドアーマー)』、それを構成するナノマシン群にパワーを供給し、船体へのダメージを受け止めた。

 結果『エネルギーウイング』に回すパワーが不足しているのだ。

 「おし、いけるさ」

 G11ガンスリンガーが、巨銃をぽん、と叩く。

 「見てろ、ここで沈めちゃる」

 

 

 つづく

 

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中の人 | 第十六話「The heart of Ymir」 | 13:44 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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