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第十六話「The heart of Ymir」(46)

 ばあっ!

 

 猛烈な閃光が飛行船『マグフォード』を照らし、そびえ立つ空中都市の壁面に再び巨大な影を投影する。

 ホムンクルス・ギガンテス『ジギタリス』が爆発した。その巨体を張り付かせていた飛空戦艦『セロ』もろとも自爆したのだ。

 自らの体内に蓄えた魔力を爆発的に放出するスキル『生体爆破(バイオエクスプロージョン)』。ホムンクルス4種のうち、不定形種バニルミルトが持つ攻撃スキルのひとつ。

 ……というのは、実は嘘だ。

 いや、嘘と断言するには語弊があるかもしれない。誤魔化し、または欺瞞といったほうが正確だろうか。

 この自爆スキルはそもそも、本来は敵を攻撃するためのものではなかった。

 ホムンクルスが開発された当時、バニルミルトは強力な戦闘力を持つ反面、不定形ゆえか不安定で暴走も多かった。具体的には飼い主の指示を無視して暴れたり、挙げ句の果てに飼い主自身を攻撃したりと事故が絶えなかったのだ。こうなると、もうホムンクルスを元の細胞に戻して収納する『安息』の指示にも従わない。

 『人食いバニル』

 そんな汚名まで着せられた、そんな不遇の時代があった。

 ゆえにバニルミルトには、いざという時に飼い主の意志で自爆させる、いうなれば生体式の安全装置が組み込まれることとなった。

 これが『生体爆破(バイオエクスプロージョン)』の正体だ。

 それはアルケミストの技術が進歩し、バニルミルトが暴走する心配がなくなった後も残され、やがてホムンクルスが危機に陥った時の最後の切り札、と理解されるようになった。

 ホムンクルス研究の、一つの最先端をゆくグラリスNo7・盲目のG7クリエイターにとって、自身の最高傑作に対してそれを使うことは、さぞかし複雑な思いがあっただろう。

 「ごめんなさい、『ジギタリス』」

 母細胞となって試験管に戻ったホムンクルスに、G7は改めて謝罪の言葉をかける。

 だが彼女をしても、しんみりしている暇はなかった。

 「爆風が来る、気をつけて」

 グラリスNo1・神眼のG1スナイパーが警告するまでもなく、グラリスたちには次の事態を予測している。

 爆発と閃光、そして爆風。

 『マグフォード』に乗船して以来、もう日常茶飯事となったルーティン。

 

 がつん!!

 

 船体を真下からぶん殴られるような、暴力的な爆発が襲う。

 「うわ!?」

 誰ともない叫び。

 『マグフォード』の船体が、台風のど真ん中に放り込まれた木の葉のように前後、左右にぐるん、ぐるんと旋回する。至近距離からの爆風をまともに食らった。G1の風読みも間に合わず、たとえ間に合ったとしてもそれに対応する操船など、今の『マグフォード』にはどのみち不可能だ。

 

 ばん! ばつん!!

 

 気嚢と船体をつなぐ構造材がいくつか、負荷に絶えきれず折れ、あるいは片側が外れてぶら下がる。

 

 ぎし、ぎしぃっ!!

 

 残った構造材に余計な負荷がかかり、不気味な音をたてる。

 「G5!」

 指揮官たるグラリスNo3・月神のG3プロフェッサーが確認するが、

 「とっくに限界だよ。見りゃわかんだろ」

 グラリスNo5・美熟女のG5ホワイトスミスの返答は実に粗雑なものだ。実際、彼女はもう修理を放棄し、甲板に宙づりの身体を翻弄されながら、しぶとくタバコを吹かすのみ。

 「いつバラバラんなってもおかしくねえ。覚悟はしときな」

 「んな無責任な! ぶへっ!」

 グラリスNo2・小柄なG2ハイウィザードが文句を言い、同時に甲板に叩きつけられてむせる。 

 「無責任、つったってよ、相手は戦前機械(オリジナル)だぜ? 今こうして飛んでること自体、奇跡だよ奇跡」

 その声には、いっそ満足そうな響きさえ混じる。この技師はこの技師で、自分が関わった最高の飛行機械の現状に、これまた複雑な思いを抱えているのだ。

 とっくに限界を超えてなお、あと少しの旅路を這いずるように進む。

 『マグフォード』は飛ぶ。

 「艦橋、後部のエアアンカーを使う!」

 G1が伝声管に声を吹き込むや、返事も聞かずに行動開始。

 ハーネスの伸縮機構を緩め、後部甲板へと走る。といっても風に翻弄される船の上、グラリスの大半がハーネスと甲板にしがみつくしかない状態。

 「ぐ……っ!」

 G1の身体が甲板から浮き、直後に落下。両手両足で辛うじて着地するが、次の瞬間、大きく右へと転がされる。

 「『キリエエレイソン』!」

 グラリスNo4・隻眼のG4ハイプリーストからバリア呪文。さすがこの状態でも仕事はする。周囲の仲間に、手当たり次第にバリア呪文を振りまき、怪我と見れば治癒呪文を贈る。

 「『ディボーション』!」

 甲板に垂直に固定されたままのグラリスNo9・義足のG9パラディンからG1へ、ダメージ転化のスキルが贈られる。

 「ぬうぅ!」

 仲間の支援を得て、G1が態勢を立て直す。

 「G14、G1をフォローして!」

 G3プロフェッサーが、グラリス随一の体術を誇る女忍者をうながす。瞬間、

 「イャーッ!」

 するん!

 G14がハーネスと、そして自分自身の忍者道具・カギ付きのロープを巧みに使い、G1の側へ。不慣れな人間が見たら、ほとんど瞬間移動したかのような翔術だ。

 「頼む、G14」

 長身の女スナイパーが女忍者の手を取り、そして思い切りよく自分のハーネスを外す。

 がくん!

 「イャーッ!」

 すっ飛ばされそうになるG1の身体を、G14が片手で抱え込み、空いた片手でカギ付きロープを投擲。

 がきん!

 舷側の出っ張りに引っ掛け、ぐい、と2人分の体重を支えながら移動。甲板の中央に飛び出た船内への出入り口を迂回し、後部甲板へ。

 後部エアアンカー。

 船体に固定された、ボウガン式の銛撃ち機に似たそれは、前部にあるものと全く同じ構造だ。空中戦艦『セロ』に対し、最強スキル『阿修羅覇鳳拳』を叩き込んだグラリスNo8・素足のG8チャンピオンを回収するため、G14自身が矢となって打ち出されたアレである。

 アンカーはすでにセット済み。飛行船の屈強な甲板員たちが、それこそ決死でボウガンのクランクを回し、弦を引きしぼる。

 伝声管に吹き込んだG1の声が、指示となって伝わっていたのだろう。男たちの中には、あの草鹿少年の姿もある。

 わずかな時間で、その表情はすっかり大人、いや『男』だ。

 G14に抱かれたG1が発射機に取り付く。

 がくん!

 「がっ?!」

 思わぬ揺れで、G1が顔面を強打。ここまでの道のりで、仲間の支援も切れている。

 ずる……

 ガクガクとゆれるG1の顔面を、鼻血の筋が右、左と無残に這い回る。

 「G1!」

 「大ぇ丈夫だぁ」

 G1の応えが、思わず訛る。比較的最近にグラリスとなったG14ニンジャが初めて聞くフェイヨン訛り、それも相当に山奥のものだ。治癒ポーションを渡そうとするG14を手で制する。

 引き金に手をかけ、アンカーの先を睨む。

 びゅう、びゅうと風が泣きわめく。

 揺れる、いや、いっそ回転する船の上で、何を狙うか。

 「10秒後に撃つ。キリエ急げ。……私の身体を、台にくくりつけて」

 言葉の前半は発射台に備え付けの伝声管へ、後半はG14ニンジャへ。たちまち、カギを外したロープでG1の足、そして胴体がくくられる。

 どん!

 「ぐ……!」

 台に密着した分、船体の衝撃が直接、内臓まで響く。骨まできしむ。息がつまる。

 それでもG1、ボウガンの先から目を逸らさない。

 「発射ぁ!」

 普段は言わない発射の合図。同時に、

 

 ばぁん!

 

 巨大なアンカーが風を切って飛び出す。しゅるるるるる、と、頑丈なワイヤーが跡を追う。

 直後、猛烈な風に煽られ、さしも重量のあるアンカーがぐいん、と軌道を乱される。びぃん、びぃん、と、ワイヤーが風に鳴く。

 何を狙ったにせよ、この爆風と暴れる船の上では、まず命中はおぼつかない。

 

 カプラ教導師範部隊チーム・グラリス筆頭、G1スナイパーその人を除いては。

 

 びゅぅん!

 

 軌道を乱された、と思われたアンカーが、再びの暴風に煽られ、行き先を変える。上へ、右へ、そして、

 (もう一度、右へ振って……左)

 G1の目が、風を読み切る。

 

 がずん!!

 

 命中。空中都市の岸壁、その最上部にアンカーが突き刺さる。

 「衝撃!」

 G1が叫ぶ。直後、

 

 ぐいん! 

 

 アンカーと船体を結ぶワイヤーが一直線。暴れる船の姿勢が強引に矯正される。

 爆風による急上昇、そして『マグフォード』の船首がぴたり、浮遊岩塊の一つを目指す。

 だが代償は大きかった。

 

 ばりばりばり!!!

 

 強引な矯正に、『マグフォード』の船体が限界を超えた。正確には、気嚢と船体を繋ぐ構造材が。

 二つの気嚢だけが、『マグフォード』の船体を置き去りにして上昇しようとする。 

 「エンジンだ! エナーシャ回せ!!」

 いつ後部甲板に来たのか、G5ホワイトスミスの銅鑼声が響いた。甲板員たちが一斉に『マグフォード』の4つのエンジンに取り付き、エナーシャ・慣性機動機のクランクを回す。起動準備よし。

 「エンジン始動!」

 

 ぶぅおおおおおおおお!!!!!!

 

『マグフォード』の4つのエンジン、4つのプロペラが同時に覚醒、そして歌声を高らかに。もはや懐かしいとさえ感じる、あの風の歌。

 

 みしっ、みしぃっ!

 

 気嚢の上昇に置き去りにされそうになった船体が、プロペラの力で持ち直す。舵もなにも効かない。後ろに長く従えたワイヤーで、無理やり『まっすぐ先』を目指すのみ。

 「もう計算も何もねえ、ヤケクソだ。祈れ!!」

 G5が叫ぶ。

 「いかん、行き過ぎる……!」

 G1の絞るような声。『マグフォード』船首が目指す先、目的地としてきた空中都市の上部が見え、それがみるみる眼下に遠ざかる。

 爆風が想定外に強すぎた。もう予定の着陸は不可能だ。

 「船長!」

 『胴体着陸を試みます。可能な限り、身を守ってください』

 バークの返答は短く、冷静で、そして決断的だった。 

 「グラリス、船内へ!」

 G3からチーム・グラリスへ、ついに船内退避が命じられる。甲板に固定されたG9だけは、やむなくそのまま、全員が船内へ。

 だが。

 「……『セロ』」

 誰もが信じたくなかった。死神の名前。

 ホムンクルスの自爆をもってしても、それを葬ることはできなかった。

 巨大な船体を赤黒く、いや、もはや黒く染めた満身創痍ながらも、『マグフォード』を追い抜き、はるか高い空へ上昇。

 そして、必死にもがく『マグフォード』を嘲笑うように降下してくる。 

 『エネルギーウィング』は使えなくとも、ただ体当たりするだけでいい。もはや『マグフォード』は死に体だ。

 セミの抜け殻でも潰すように、すべてを終わりにできる。

 「くっそぁ!!」 

 誰かが叫ぶ。グラリスたちの迎撃も間に合わない。

 万事休す。

 

 ……万事休す?

 

 どんっ!!

 

 降下してくる『セロ』の船体を、何かが貫いた。

 本来ならば流体装甲に阻まれるはずが、『マグフォード』との戦いで効果を失ったため、まともに食らう羽目になったのだ。

 

 ぐらん

 

 思わぬダメージに慌てたのか、『セロ』が『マグフォード』との衝突軌道を変え、上昇する。

 だっ、とばかりに、G1が再び甲板へ飛び出し、そして彼女をして、めったに出さない大声を張り上げた。

 大空に向かい、風に乗せて。

 

 「灰雷(ハイライ)ーっ!!!」

 

 風に愛された、翼持つ女神の名を。

 

 つづく 

 

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中の人 | 第十六話「The heart of Ymir」 | 17:23 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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